モノ・語り

現代のクラフトの作り手と作品を主役とするライフストーリーを綴ります。

石内 都の「ひろしま」

2008年12月16日 | アートの工芸的見方



「かたち21のHP]






写真は石内都という写真家の最新作品集『ひろしま』からコピーさせてもらいました。
広島の原爆記念館に収蔵されている被爆者の遺品を撮影したものです。
『ひろしま』はこのような衣類の遺品の写真集です。

広島に原爆が落とされたのは1945年。その当時に広島市の人たちが着ていた衣服ですね。
花柄のワンピースとか、縞のドレスとか、透きとおったものとか、
フリルの付いたものとかいろいろあります。
戦中にも結構華やかに着こんでいたんだということがわかります。

今、東京の目黒区立美術館で石内さんの展覧会をやっていて、
最新作の「ひろしま」の作品も展示されています。
今月3日に石内さんと社会学者の上野千鶴子さんの公開対談が行われましたが、
上野さんは戦時中の広島の女性たちがこんなにおしゃれを愉しんでいたとは思わなかったと言い、
石内さんは衣服としてのクオリティーも高いものだ、と言ってました。

昨年(2007年)の1月に原爆記念館を初めて訪れるまで
「広島」には関心を持っていなかったという石内さんが、
これらの遺品を目にして、写真家としてその世界にのめり込んでいくのです。







アートとしてのこれらの写真作品を見ての感想はいろいろありますが、
私の知人はこんなことを言ってました。
「もし現代に同じような悲惨な事態が起こって、衣服が遺されたとしても、
「未来の石内さん」が同じようにその遺品の写真を撮ろうと思うだろうか」というものです。

「ひろしま」という写真集を実現させたのは、
戦中の広島の女性たちが着ていた日常着のクオリティの高さであり、
それを愉しんでいた人々の心の豊かさであり、
そしてそのことを見透した石内さんの目と、それを写真の世界に仕上げていく写真家としての力量です。
『ひろしま』は単に過去の出来事を改めて記録したというだけでなく、
それによって「現代」という時代を照射するはたらきも獲得しました。
それは石内都の写真がある普遍性に達したということだと私には思えました。






「石内 都展 ひろしま/ヨコスカ」は明年1月11日まで 詳細は目黒区立美術館HP

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