モノ・語り

現代のクラフトの作り手と作品を主役とするライフストーリーを綴ります。

麻生三郎の‟奥行き”表現論

2019年09月03日 | 「‶見ること″の優位」

「現実を対立物としてそのななめのおくゆきの事実をとらえる。平面はその認識のかたちであるので、そのななめのおくゆきの内容によって平面のなかみがきます。それがレアリズムだ。レアリズムはななめのおくゆきのみとめかたそのなかみの追及の方向をはっきりもっている。そのはっきりした意識によってななめのかたちを追求しようとしている考え方がレアリズムだ。それは結果的には具象になるが、あるいは抽象性を多くもつこともあり得る。ななめのこと、平面をななめに切るかたちに対する認識をいうのだ。」

上記の文章は、麻生三郎(1913-2000)という油絵画家が書いたエッセーからの引用です。
このエッセー(「これまでとこれからのこと」)は1979年に東京都美術館で開催された「麻生三郎展」の図録に掲載されたものです。
そして、麻生さんのエッセーをまとめた『絵そして人、時』というタイトルの単行本(現在、絶版)で読むことができます。

麻生三郎は東京の築地辺りの生まれで、生粋の江戸っ子といえるでしょう。
10代から画家を目指し、青年期(戦前)には豊島区の芸術村(池袋モンパルナスと通称されていた)にアトリエを構え、
瞹光や松本俊介他、戦後の日本現代絵画の中枢をなした早々たるアーチストたちと親交を深めていました。
イタリアに留学して、『イタリア紀行』という本も遺しています。



『絵そして人、時』は私にとっては観照と創作をめぐってのバイブルのようなものです。
どのページを開いても、絵画(平面表現)についての示唆に富んだ言葉に出会います。
日本の近・現代絵画が追求し試行錯誤してきた事柄の総体が、この本の中に注ぎ込まれている、と私は見なしています。
その意味では、『絵そして人、時』の中で展開される言説は、日本近・現代絵画の到達点を示していると言っても過言ではないと思います。
(そして実作者としても、日本の戦後平面表現の最も深い場所へと至った作家の一人であると評価できます。)

冒頭の引用文は、“絵画の真実”の世界を切り開いたセザンヌ以降の現代絵画の、“奥行き表現”(そして“平面”の創作)をめぐっての知見の、現時点での最深部のものであると私は思っています。



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