山間の街の小さな薬師堂


















     広島県の中央部、山に囲まれた戸河内(現安芸太田町)に願福寺薬師堂がある。
     ある夏の日、行った。郵便局で聞いても知らないという。小さな街の曲がりくねっ
     た道を歩きながら、やっと一人のおばあさんにお会いした。
     「ええ、薬師さんじゃけどのー・・。みんな知らんかいのー・・」
     道と家とに挟まれた狭い敷地に薬師堂はあった。
     願福寺は、鎌倉時代から室町時代にかけては、禅宗の大寺院であったという。
     江戸時代以降衰退し、今は薬師堂のみが残されている。広島県重文指定。
     お参りする。方三間の宝形造り、小さいが立派なお堂である。禅宗様の木鼻、
     出三斗の花の手挟み(写真4)、緩い湾曲を持つ垂木など、かっての大寺の面影
     を伝えるものか。内部の後陣には、薬師如来、日光・月光菩薩、十二神将などが
     祀られる。
     このお堂の屋根、以前どこかの写真で見た時は瓦葺きであった。この銅板葺き
     と思われる屋根は宝珠とその台座を含め最近の改修によるもの。それが本来の
     形に近いものなのか、私にはわからないが、そのスマートさとその下の木組みの
     重厚さとの違和感を拭うことはできない。
     お堂の扉に、花瓶と花が添えられている。この薬師さんを敬い、愛する地元の
     人々の心を感じるように思った。
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