月と歩いた。

月の満ち欠けのように、毎日ぼちぼちと歩く私。
明日はもう少し、先へ。

岡山旅行1日目 倉敷

2021-11-23 | 
現存12天守の城めぐりも、あとは備中松山城だけ(夫は弘前城も)ということで、20日~22日まで夫と岡山に行っていた。
今回はキャンプではなく、ホテル泊の旅行。
いつもキャンプをしていると、寝床を作る、薪を割る、火をおこす、水を汲む、料理する、片づけるなど、とにかく労働で忙しいのだが、旅行は楽だ。2泊3日、ひたすら遊びまくった。

1日目は倉敷へ。
途中、播磨のサービスエリアで牡蠣が200gも入った素麺を食べた。
さすが牡蠣の産地!すごく美味しかった。



倉敷では、当然、大原美術館へ。
夫と一緒に行くのは2回目、私自身は3回目だが、ここは何度行ってもいい。
児島虎次郎が素晴らしかった。
「朝顔」の光と少女の美しさに見惚れる。
本館を出て、「何がよかった?」と夫に聞くと、夫も同じだった。夫は「朝顔」の小さな額を買っていた。

私は絵心があまりないので、実は楽しみなのはいつも「本館」より「工芸館」。
夫も私の影響で民藝の知識がつき、「濱田庄司いいよね」「寛次郎の作品は家にあるとちょっと落ち着かないかも」「河井家の釉薬やなぁ」などと言いながら陶芸作品を一つひとつじっくり見る。
いい作品を見ていると、私の中に風が吹く。
とても心地の良い風だ。
エミリー(モンゴメリ作品の)の言うところの「ひらめき」にも似ているかもしれない。
美しいものはいつも私を潤してくれる。

その後、美観地区をうろうろと歩いた。







途中で倉敷民藝館にも立ち寄った。



展示だけでなく、マーケットのようなイベントをしていたので物色していたら、掘り出し物を発見。
ちょうど「これくらいの大きさ、深さのお皿が欲しかった」と思っていたので、すぐに手に取った。
2000円でも安いのに、なんと1000円に値下げされていたので、もちろんお買い上げ。

それから創業50年の老舗喫茶店「珈琲館」に入り、ネルドリップで淹れてくれるおいしいコーヒーを飲んだ。
静かで穏やかで、いい時間だった。





車を駐車場に停め、一度ホテルにチェックインしに行き、すぐにまた街へ。
夜はおいしい料理と地酒をたのしんだ。

つき出し3品


ブリのお造り


穴子煮


地蛸の天ぷら


しかし、2軒目の店がややこしかった!
入るとすぐに愛想のない店主が「料理に時間かかるけど、いいですか?」と言う。まだ時間も早かったし、少々待つのはいいと思い、「かまいません」と言うと、「こちらへ」と案内された。
それがなんと、広めの個室で、すでに4人グループが入って盛り上がっている!
その横に入るように言われたのだが、私たちが入ると一瞬場がヘンな空気になった(そりゃそうだ)。
「すみません…」と頭を下げながら入り、居心地の悪い席に座る。
でも、メニューを見るとやっぱり美味しそう!私が選んだ店なので、味は間違いないはずだ。
2軒目なので、2~3品に絞ろうと、夫と「あれと、これと頼もうか」とワクワクしながら決めていると、さっきの店主がつき出しを持って登場。
日本酒の銘柄はメニューに書いていなかったので、「日本酒おすすめを1合」と頼むと、岡山地酒の「多賀治」を持って来てくれた。
つき出しは子持ち昆布。おいしいし、お酒もおいしい。
ただ、「料理の注文を…」と言おうとすると、「まだつき出しがあるんで」と言う。
そうか、最初に言っていたように忙しくて料理がなかなか出せないから、つき出しでしばらく飲んで待っていて、ということなんだなと解釈し、注文は待った。

しばらくすると、「つき出しです」と、2品目が来た。モズク酢だ。これもおいしい。
隣のグループとの間に、仕切りも引いてくれた。それで少しくつろいで、しばしモズク酢と日本酒を楽しむ。
しかし、2軒目でお腹がそんなにすいていなかったのに、つき出しで2品。
「とりあえず、焼き魚でも頼もうか」と二人で話し合い、お酒もなくなったので呼び出しベルを押した。

しばらくすると店主が来たので「あの、注文を…」と言うと、「まだつき出しがあるんで」と言う。
え?まだあるの?!
「はぁ…」という感じで、とりあえず「じゃあ、日本酒また1合お願いします」と頼んだ。

その後、3品目のつき出しがやってきた。魚の南蛮漬けだ。
また美味しいんやろうなと思いながら口にしたら、やっぱり旨い。私が自分で作るのと同じタイプの南蛮漬けで、酸っぱくなくて、出汁が効いている。
そのうえ、日本酒は「田酒」の純米大吟醸だ。
なんでもないように持ってきたけど、滅多にお目にかかれないし、もし東京で飲んだら1合いくらするかわからん……

「1合で3000円とかいくんちゃうん?」
「いや、おすすめやのに、それはないやろ」
など二人で言い合いながら飲んでみると、ヤバイ、うまい。さすが、田酒!!

おいしいよ、つき出しもお酒もすべてがおいしいよ。
でも、うちらまだ1品も好きなものを注文してへんねん!!

これでつき出しも終わったし、さすがに注文してもいいやろと思い、また呼び出しベルを鳴らしたら、店主が来た。
夫が「あの、注文を…」とまたいうと、今度は「ああ、そしたら刺身でもいきますか」と言う。
私はもう堪忍袋の緒が切れて、「いやだ、刺身はさっき食べたから!塩焼きで!」と強く言うと、店主が「塩焼きですか。うちは炭で焼くんで、15分くらいかかりますけどいいですか」と言う。
もう何でもいいから食べたい物を食べさせてくれ!と思い、「いいです!」と言うと、わかりましたと出ていった。

それから、待てど暮らせど、塩焼きは出てこない。
30分経ってようやく店主が来たと思ったら「今日は炭がなかなか火がつかないのでもう少しかかります」とのこと。
は~?
炭くらいオープン前におこしとけや!!

結局、45分くらい経って、太刀魚の塩焼きがやってきた。(塩焼きというだけで、魚の種類も聞かされていなかった)
「お待たせしました」もなく、「太刀魚です」の説明もない。愛想笑いもない。
でも、もうね、何がいやって、そんな店主の態度ではなく、おいしさが見てわかること。絶対おいしいやん!!
こんなに待たされて、勝手なことされて、腹が立つのに、出すもの出すもの全部おいしいって何よ!!

箸で身をほぐすと、ふっくら。
口に運ぶと、焼き加減も絶妙。うまい。
そして、田酒の純米大吟醸。

憤りと恍惚感という逆の感情が入り交じり、精神が崩壊しそうだった。

食べ終わり、本当はまだ食べたい気持ちはあったが、もうあの店主には付き合いきれないと思い、夫と「出ようか」と話す。
呼び出しベルを鳴らしたらやってきて、「次はあんきも…」と言う。
ちゃうねん、ほんま、ちゃうねん。
あんたの店、メニューちゃんとあるやんか。めっちゃ細かく書いてあって、値段ものせてるやん?
こっちはあれこれ食べたいなぁっていっぱい話し合って、もう口がそうなってるねん。
それやのに、つき出し3品。
まあ、それは店のやり方なんやったら仕方ない。でも、最初にそう説明してくれたらいいやん?
それに、せめて料理はこっちに選ばせてや。メニューあるんやから。
何よりも炭焼きにこだわるんやったら、オープン前におこしといてや。

そう言いたい気持ちをぐっとこらえていると、夫が「お勘定。すみません、今日は2軒目なんで」と言ってくれた。
さっさと荷物を持ってレジに行くと「2軒目でしたか」と店主。
人の良い夫は「そうなんです。でも塩焼きめっちゃおいしかったです!」なんて愛想をふりまいている。
すると店主は「うちは炭でしか焼かないので」と偉そうに言う。
いやいや、そうじゃなくて、「お待たせしてしまってすみません」やろが。

ただ、料金は安かった。5000円。
なるほど、店主のさじ加減で料金も決めるタイプの店ね、と思う。全部「おすすめ」だから。
田酒が安くてホッとした。それだけは良心的だった。
でも、日本酒2合と太刀魚の塩焼きしか頼んでないけどね。あとはつき出し3品。

店を出て、夫と「なんや、あの店!」と言い合う。
しかし、2人とも一致しているのは「なんでうまいねん!」ということ。
これでまずければ、変な店に入ったなぁということで落ち着くのだが、心のどこかで「もう少し食べたかった」と思っているのだ。

ヘンな不完全燃焼。
こうして、倉敷の夜は暮れていった。