カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

わらわれた コ

2014-01-20 | ヨコミツ リイチ
 わらわれた コ

 ヨコミツ リイチ

 キチ を どのよう な ニンゲン に したてる か と いう こと に ついて、 キチ の イエ では バンサン-ゴ マイヨ の よう に ロンギ せられた。 また その ハナシ が はじまった。 キチ は ウシ に やる ゾウスイ を たきながら、 ヒトリ シバ の キレメ から ぶくぶく でる アワ を おもしろそう に ながめて いた。
「やはり キチ を オオサカ へ やる ほう が いい。 15 ネン も シンポウ した なら、 ノレン が わけて もらえる し、 そう すりゃ あそこ だ から すぐに カネ も もうかる し」
 そう チチオヤ が いう の に ハハオヤ は こう いった。
「オオサカ は ミズ が わるい と いう から ダメ ダメ。 いくら オカネ を もうけて も、 はやく しんだら なにも ならない」
「ヒャクショウ を させば いい、 ヒャクショウ を」
 と アニ は いった。
「キチ は シュコウ が コウ だ から シガラキ へ オチャワン-ヅクリ に やる と いい のよ。 あの ショクニン さん ほど いい オカネモウケ を する ヒト は ない って いう し」
 そう クチ を いれた の は ませた アネ で ある。
「そう だ、 それ も いい な」
 と チチオヤ は いった。
 ハハオヤ だけ は いつまでも だまって いた。
 キチ は ナガシ の くらい タナ の ウエ に ひかって いる ガラス の サカビン が メ に つく と、 ニワ へ おりて いった。 そして ビン の クチ へ ジブン の クチ を つけて、 あおむいて たって いる と、 まもなく ヒトナガレ の サケ の シズク が シタ の ウエ で ひろがった。 キチ は クチ を ならして もう イチド おなじ こと を やって みた。 コンド は ダメ だった。 で、 ビン の クチ へ ハナ を つけた。
「またっ」 と ハハオヤ は キチ を にらんだ。
 キチ は 「へへへ」 と わらって ソデグチ で ハナ と クチ と を なでた。
「キチ を サカヤ の コゾウ に やる と いい わ」
 アネ が そう いう と、 チチ と アニ は おおきな コエ で わらった。
 その ヨル で ある。 キチ は マックラ な ハテシ の ない ノ の ナカ で、 クチ が ミミ まで さけた おおきな カオ に わらわれた。 その カオ は どこ か ショウガツ に みた シシマイ の シシ の カオ に にて いる ところ も あった が、 キチ を みて わらう とき の ホオ の ニク や ことに ハナ の フクラハギ まで が、 ヒト の よう に びくびく と うごいて いた。 キチ は ヒッシ に にげよう と する のに アシ が どちら へ でも おれまがって、 ただ アセ が ながれる ばかり で けっきょく カラダ は モト の ミチ の ウエ から うごいて いなかった。 けれども その おおきな カオ は、 だんだん キチ の ほう へ ちかよって くる の は くる が、 さて キチ を どう しよう とも せず、 いつまで たって も ただ にやり にやり と わらって いた。 ナニ を わらって いる の か キチ にも わからなかった。 が とにかく カレ を バカ に した よう な エガオ で あった。
 ヨクアサ、 フトン の ウエ に すわって うすぐらい カベ を みつめて いた キチ は、 サクヤ ユメ の ナカ で にげよう と して もがいた とき の アセ を、 まだ かいて いた。
 その ヒ、 キチ は ガッコウ で 3 ド キョウシ に しかられた。
 サイショ は サンジュツ の ジカン で、 カブンスウ を タイブンスウ に なおした ブンシ の カズ を きかれた とき に だまって いる と、
「そうれ みよ。 オマエ は サッキ から マド ばかり ながめて いた の だ」 と キョウシ に にらまれた。
 2 ド-メ の とき は シュウジ の ジカン で ある。 その とき の キチ の ソウシ の ウエ には、 ジ が 1 ジ も みあたらない で、 ミヤ の マエ の コマイヌ の カオ にも にて いれば、 また ニンゲン の カオ にも につかわしい ミッツ の カオ が かいて あった。 その どの カオ も、 ワライ を うかばせよう と ほねおった おおきな クチ の キョクセン が、 イクド も かきなおされて ある ため に、 まっくろく なって いた。
 3 ド-メ の とき は ガッコウ の ひける とき で、 ミナ の ガクドウ が ツツミ を しあげて レイ を して から でよう と する と、 キョウシ は キチ を よびとめた。 そして、 もう イチド レイ を しなおせ と しかった。
 イエ へ はしりかえる と すぐ キチ は、 キョウダイ の ヒキダシ から アブラガミ に つつんだ カミソリ を とりだして ヒトメ に つかない コヤ の ナカ で それ を といだ。 とぎおわる と ノキ へ まわって、 つみあげて ある ワリキ を ながめて いた。 それから また ニワ へ はいって、 モチツキ-ヨウ の キネ を なでて みた。 が、 また ぶらぶら ナガシモト まで もどって くる と マナイタ を うらがえして みた が キュウ に カレ は イドバタ の ハネツルベ の シタ へ かけだした。
「これ は うまい ぞ、 うまい ぞ」
 そう いいながら キチ は ツルベ の シリ の オモリ に しばりつけられた ケヤキ の マルタ を とりはずして、 そのかわり イシ を しばりつけた。
 しばらく して キチ は、 その マルタ を 3~4 スン も アツミ の ある はばひろい チョウホウケイ の もの に して から、 それ と イッショ に エンピツ と カミソリ と を もって ヤネウラ へ のぼって いった。
 ツギ の ヒ も また その ツギ の ヒ も、 そして それから ずっと キチ は マイニチ おなじ こと を した。
 ヒトツキ も たつ と 4 ガツ が きて、 キチ は ガッコウ を ソツギョウ した。
 しかし、 すこし カオイロ の あおく なった カレ は、 まだ カミソリ を といで は ヤネウラ へ かよいつづけた。 そして その アイダ も ときどき イエ の モノラ は バンメシ の アト の ハナシ の ツイデ に キチ の ショクギョウ を えらびあった。 が、 ハナシ は いっこう に まとまらなかった。
 ある ヒ、 ヒルゲ を おえる と オヤ は アゴ を なでながら カミソリ を とりだした。 キチ は ユ を のんで いた。
「ダレ だ、 この カミソリ を ぼろぼろ に した の は」
 チチオヤ は カミソリ の ハ を すかして みて から、 カミ の ハシ を フタツ に おって きって みた。 が、 すこし ひっかかった。 チチ の カオ は けわしく なった。
「ダレ だ、 この カミソリ を ぼろぼろ に した の は」
 チチ は カタソデ を まくって ウデ を なめる と カミソリ を そこ へ あてて みて、
「いかん」 と いった。
 キチ は のみかけた ユ を しばらく クチ へ ためて だまって いた。
「キチ が このあいだ といで いました よ」 と アネ は いった。
「キチ、 オマエ どうした」
 やはり キチ は だまって ユ を ごくり と ノド へ おとしこんだ。
「うむ、 どうした?」
 キチ が いつまでも だまって いる と、
「ははあ わかった。 キチ は ヤネウラ へ ばかり あがって いた から、 ナニ か して いた に きまってる」
 と アネ は いって ニワ へ おりた。
「いや だい」 と キチ は するどく さけんだ。
「いよいよ あやしい」
 アネ は ハリ の ハシ に つりさがって いる ハシゴ を のぼりかけた。 すると キチ は ハダシ の まま ニワ へ とびおりて ハシゴ を シタ から ゆすぶりだした。
「こわい よう、 これ、 キチ ってば」
 カタ を ちぢめて いる アネ は ちょっと だまる と、 クチ を とがらせて ツバ を はきかける マネ を した。
「キチッ!」 と チチオヤ は しかった。
 しばらく して ヤネウラ の オク の ほう で、
「まあ こんな ところ に メン が こしらえて ある わ」
 と いう アネ の コエ が した。
 キチ は アネ が メン を もって おりて くる の を まちかまえて いて とびかかった。 アネ は キチ を つきのけて すばやく メン を チチ に わたした。 チチ は それ を たかく ささげる よう に して しばらく だまって ながめて いた が、
「こりゃ よく できとる な」
 また ちょっと だまって、
「うむ、 こりゃ よく できとる」
 と いって から アタマ を ヒダリ へ かたむけかえた。
 メン は チチオヤ を みおろして バカ に した よう な カオ で にやり と わらって いた。
 その ヨル、 ナンド で チチオヤ と ハハオヤ とは ねながら ソウダン した。
「キチ を ゲタヤ に さそう」
 サイショ に そう チチオヤ が いいだした。 ハハオヤ は ただ だまって きいて いた。
「ドウロ に むいた コヤ の カベ を とって、 そこ で ミセ を ださそう、 それに ムラ には ゲタヤ が 1 ケン も ない し」
 ここ まで チチオヤ が いう と、 イマ まで シンパイ そう に だまって いた ハハオヤ は、
「それ が いい。 あの コ は カラダ が よわい から トオク へ やりたく ない」 と いった。
 まもなく キチ は ゲタヤ に なった。
 キチ の つくった メン は、 ソノゴ、 カレ の ミセ の カモイ の ウエ で たえず わらって いた。 むろん ナニ を わらって いる の か ダレ も しらなかった。
 キチ は 25 ネン メン の シタ で ゲタ を いじりつづけて ビンボウ した。 むろん、 チチ も ハハ も なくなって いた。
 ある ヒ、 キチ は ヒサシブリ で その メン を あおいで みた。 すると メン は、 カモイ の ウエ から バカ に した よう な カオ を して にやり と わらった。 キチ は ハラ が たった。 ツギ に かなしく なった。 が、 また ハラ が たって きた。
「キサマ の おかげ で オレ は ゲタヤ に なった の だ!」
 キチ は メン を ひきずりおろす と、 ナタ を ふるって その バ で メン を フタツ に わった。 しばらく して、 カレ は もちなれた ゲタ の ダイギ を ながめる よう に、 われた メン を テ に とって ながめて いた。 が、 ふと なんだか それ で リッパ な ゲタ が できそう な キ が して きた。 すると まもなく、 キチ の カオ は モト の よう に マンゾク そう に ぼんやり と やわらぎだした。

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