カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ナオコ 「ニレ の イエ 2」

2020-10-08 | ホリ タツオ
 ダイ 2 ブ

 1928 ネン 9 ガツ 23 ニチ、 O ムラ にて
 この ニッキ に ふたたび ジブン が もどって くる こと が あろう など とは ワタシ は この 2~3 ネン おもって も みなかった。 キョネン の イマゴロ、 この O ムラ で ふとした こと から しばらく わすれて いた この ニッキ の こと を おもいださせられて、 なんとも いえない ザンキ の あまり に これ を やいて しまおう か と おもった こと は あった。 が、 その とき それ を やく マエ に イチド よみかえして おこう と おもって、 それ すら ためらわれて いる うち に やく キカイ さえ うしなって しまった くらい で、 よもや ジブン が それ を ふたたび とりあげて かきつづける よう な こと に なろう とは ゆめにも おもわなかった の で ある。 それ を こう やって ふたたび ジブン の キモチ に むちうつ よう に しながら かきつづけよう と する リユウ は、 これ を よんで ゆく うち に オマエ には わかって いただける の では ない か と おもう。

 モリ さん が とつぜん ペキン で おなくなり に なった の を ワタシ が シンブン で しった の は、 キョネン の 7 ガツ の アサ から いきぐるしい ほど あつかった ヒ で あった。 その ナツ に なる マエ に ユキオ は タイワン の ダイガク に フニン した ばかり の うえ、 ちょうど オマエ も その スウジツ マエ から ヒトリ で O ムラ の ヤマ の イエ に でかけて おり、 ゾウシガヤ の だだっぴろい イエ には ワタシ ヒトリ きり とりのこされて いた の だった。 その シンブン の キジ で みる と、 この 1 カネン ほとんど シナ で ばかり おくらし に なって、 サクヒン も あまり ハッピョウ せられなく なって いられた モリ さん は、 ふるい ペキン の ある ものしずか な ホテル で、 シュクア の ため に スウ-シュウカン ビョウショウ に つかれた まま、 ナニモノ か の くる の を シ の チョクゼン まで またれる よう に しながら、 むなしく サイゴ の イキ を ひきとって ゆかれた との こと だった。
 1 ネン マエ、 ナニモノ か から のがれる よう に ニホン を さられて、 シナ へ おもむかれて から も、 2~3 ド モリ さん は ワタシ の ところ にも オタヨリ を くだすった。 シナ の ホカ の ところ は あまり おすき で ない らしかった が、 トシ ゼンタイ が 「ふるい シンリン の よう な」 カンジ の する ペキン だけ は よほど オキ に いられた と みえ、 ジブン は こういう ところ で コドク な バンネン を すごしながら ダレ にも しられず に しんで ゆきたい など と ゴジョウダン の よう に おかき に なって よこされた こと も あった が、 まさか イマ が イマ こんな こと に なろう とは ワタシ には かんがえられなかった。 あるいは モリ さん は ペキン を はじめて みられて そんな こと を ワタシ に かいて およこし に なった とき から、 すでに ゴジブン の ウンメイ を みとおされて いた の かも しれなかった。……
 ワタシ は イッサク サクネン の ナツ、 O ムラ で モリ さん に おあい した きり で、 ソノゴ は ときおり ナニ か ジンセイ に つかれきった よう な、 ドウジ に そういう ゴジブン を ジチョウ せられる よう な、 いかにも いたいたしい カンジ の する オタヨリ ばかり を いただいて いた。 それ に たいして ワタシ など に あの カタ を おなぐさめ できる よう な ヘンジ など が どうして かけたろう? ことに シナ へ とつぜん シュッタツ される マエ に、 ナニ か ヒジョウ に ワタシ にも おあい に なりたがって いられた よう だった が (どうして そんな ココロ の ヨユウ が おあり に なった の かしら?)、 ワタシ は まだ サキ の こと が あって から あの カタ に さっぱり と した キモチ で おあい できない よう な キ が して、 それ は エンキョク に おことわり した。 そんな キカイ に でも もう イチド おあい して いたら、 と イマ に なって みれば いくぶん くやまれる。 が、 ちょくせつ おあい して みた ところ で、 テガミ イジョウ の こと が どうして あの カタ に むかって ワタシ に いえた だろう?……
 モリ さん の コドク な シ に ついて、 ワタシ が ともかくも そんな こと を なかば コウカイ-めいた キモチ で いろいろ かんがええられる よう に なった の は、 その アサ の シンブン を みる なり、 キュウ に ムネ を おしつけられる よう に なって、 きみわるい ほど ヒヤアセ を かいた まま、 しばらく ナガイス の ウエ に たおれて いた、 そんな とつぜん ワタシ を おびやかした ムネ の ホッサ が どうにか しずまって から で あった。
 おもえば、 それ が ワタシ の キョウシンショウ の サイショ の ケイビ な ホッサ だった の だろう が、 それまで は それ に ついて なんの ヨチョウ も なかった ので、 その とき は ただ ジブン の キョウガク の ため か と おもった。 その とき ジブン の イエ に ワタシ ヒトリ きり で あった の が かえって ワタシ には その ホッサ に たいして ムトンジャク で いさせた の だ。 ワタシ は ジョチュウ も よばず、 しばらく ヒトリ で ガマン して いて から、 やがて すぐ モトドオリ に なった。 ワタシ は その こと は ダレ にも いわなかった。……
 ナオコ、 オマエ は O ムラ で ヒトリ きり で そういう モリ さん の シ を しった とき、 どんな イジョウ な ショウドウ を うけた で あろう か。 すくなくとも この とき オマエ は オマエ ジシン の こと より か ワタシ の こと を、 ――それから ワタシ が うちのめされながら じっと それ を こらえて いる、 みる に みかねる よう な ヨウス を なかば きづかいながら、 なかば にがにがしく おもいながら ヒトリ で ソウゾウ して いたろう こと は かんがえられる。 ……が、 オマエ は それ に ついて は ぜんぜん チンモク を まもって おり、 これまで は ほんの モウシワケ の よう に かいて よこした ハガキ の タヨリ さえ その とき きり かいて よこさなく なって しまった。 ワタシ には この とき は その ほう が かえって よかった。 シゼン な よう に さえ おもえた。 あの カタ が もう おなくなり に なった うえ は、 いつかは あの カタ の こと に ついて も オマエ と ココロ を ひらいて かたりあう こと も できよう。 ――そう ワタシ は おもって、 そのうち ワタシタチ が O ムラ で でも イッショ に くらして いる うち に、 それ を かたりあう に もっとも よい ユウベ の ある こと を しんじて いた。 が、 8 ガツ の ナカバゴロ に なって たまって いた ヨウジ が かたづいた ので、 やっと の こと で O ムラ へ ゆける よう に なった ワタシ と イレチガイ に オマエ が まえもって なにも しらせず に トウキョウ へ かえって きて しまった こと を しった とき は、 さすが の ワタシ も すこし フンガイ した。 そうして ワタシタチ の フワ も もう どうにも ならない ところ まで いって いる の を その こと で オマエ に あらわ に みせつけられた よう な キ が した の だった。
 ヘイヤ の マンナカ の どこ か の エキ と エキ との アイダ で たがいに すれちがった まま、 ワタシ は オマエ と いれかわって O ムラ で ジイヤ たち を アイテ に くらす よう に なり、 オマエ も オマエ で、 ゴウジョウ そう に ヒトリ きり で セイカツ し、 それから は イチド も O ムラ へ こよう とは しなかった ので、 それなり ワタシタチ は アキ まで イッペン も カオ を あわせず に しまった。 ワタシ は その ナツ も ほとんど ヤマ の イエ に とじこもった まま で いた。 8 ガツ の アイダ は、 ムラ を あちこち と 2~3 ニン ずつ くんで サンポ を して いる ガクセイ たち の シロガスリ スガタ が ワタシ を ムラ へ でて ゆく こと を オックウ に させて いた。 9 ガツ に なって、 その ガクセイ たち が ひきあげて しまう と、 レイネン の よう に リンウ が きて、 コンド は もう でよう にも でられなかった。 ジイヤ たち も ワタシ が あんまり しょざいなさそう に して いる ので カゲ では シンパイ して いる らしかった が、 ワタシ ジシン には そう やって ビョウゴ の ヒト の よう に くらして いる の が いちばん よかった。 ワタシ は ときどき ジイヤ の ルス など に、 オマエ の ヘヤ に はいって、 オマエ が なにげなく そこ に おいて いった ホン だ とか、 そこ の マド から ながめられる カギリ の ゾウキ の 1 ポン 1 ポン の エダブリ など を みながら、 オマエ が その ナツ この ヘヤ で どういう カンガエ を もって くらして いた か を、 それら の もの から よみとろう と したり しながら、 ナニ か せつない もの で いっぱい に なって、 しらずしらず の うち に そこ で ながい ジカン を すごして いる こと が あった。……
 その うち に アメ が やっと の こと で あがって、 はじめて アキ-らしい ヒ が つづきだした。 ナンニチ も ナンニチ も こい キリ に つつまれて いた ヤマヤマ や トオク の ゾウキバヤシ が とつぜん、 ワタシタチ の メノマエ に もう なかば きばみかけた スガタ を みせだした。 ワタシ は やっぱり ナニ か ほっと し、 アサユウ、 あちこち の ハヤシ の ナカ など へ サンポ に ゆく こと が おおく なった。 よぎなく イエ に ばかり とじこもらされて いた とき は そんな しずか な ジカン を ジブン に あたえられた こと を ありがたがって いた の だった けれど、 こうして ハヤシ の ナカ を ヒトリ で あるきながら なにもかも わすれさった よう な キブン に なって いる と、 こういう ヒビ も なかなか よく、 どうして コノアイダ まで は あんな に インキ に くらして いられた の だろう と われながら フシギ に さえ おもわれて くる くらい で、 ニンゲン と いう もの は ずいぶん カッテ な もの だ と ワタシ は かんがえた。 ワタシ の このんで いった ヤマヨリ の カラマツバヤシ は、 ときおり ハヤシ の キレメ から うすあかい ホ を だした ススキ の ムコウ に アサマ の あざやか な ヤマハダ を のぞかせながら、 どこまでも マッスグ に つづいて いた。 その ハヤシ が ずっと サキ の ほう で その ムラ の ボチ の ヨコテ へ でられる よう に なって いる こと は しって いた けれど、 ある ヒ ワタシ は いい キモチ に なって あるいて いる うち に その ボチ チカク まで きて しまい、 キュウ に ハヤシ の オク で ヒトゴエ の する の に おどろいて、 あわてて そこ から ひっかえして きた。 ちょうど その ヒ は オヒガン の チュウニチ だった の だ。 ワタシ は その カエリミチ、 キュウ に ハヤシ の キレメ の ススキ の アイダ から ヒトリ の トチ の モノ-らしく ない ミナリ を した チュウネン の オンナ が でて きた の に ばったり と であった。 ムコウ でも ワタシ の よう な オンナ を みて ちょっと おどろいた らしかった が、 それ は ムラ の ホンジン の オヨウ さん だった。
「オヒガン だ もの です から、 オハカマイリ に ヒトリ で でて きた ツイデ に、 あんまり キモチ が よい ので つい いつまでも ウチ に かえらず に ふらふら して いました」 オヨウ さん は カオ を うすあかく しながら そう いって なにげなさそう な ワライカタ を した。 「こんな に のんびり と した キモチ に なれた こと は コノゴロ めった に ない こと です。……」
 オヨウ さん は ナガネン ビョウシン の ヒトリムスメ を かかえて、 ワタシ ドウヨウ、 ほとんど ガイシュツ する こと も ない らしい ので、 ここ 4~5 ネン と いう もの は ワタシタチ は ときおり オタガイ の ウワサ を ききあう くらい で、 こうして カオ を あわせた こと は ついぞ なかった の だ。 ワタシタチ は それ だ もの だ から、 なつかしそう に つい ながい タチバナシ を して、 それから ようやく の こと で わかれた。
 ワタシ は ヒトリ で イエジ に つきながら、 みちみち、 イマ わかれて きた ばかり の オヨウ さん が、 スウネン マエ に あった とき から みる と カオ など いくぶん ふけた よう だ が、 ワタシ とは ただ の イツツ チガイ とは どうしても おもわれぬ くらい、 ソブリ など が いかにも ムスメムスメ して いる の を ココロ に よみがえらせて いる うち に、 ジブン など の しって いる カギリ だけ でも ずいぶん フシアワセ な メ に ばかり あって きた らしい のに、 いくら カチキ だ とは いえ、 どうして ああ タンジュン な なにげない ヨウス を して いられる の だろう と フシギ に おもわれて ならなかった。 それ に くらべれば、 ワタシタチ は まあ どんな に ジブン の ウンメイ を カンシャ して いい の だろう。 それだのに、 しじゅう、 そう でも して いなければ キ が すまなく なって いる か の よう に、 もう どうでも いい よう な こと を いつまでも シンツウ して いる、 ――そういう ジブン たち が いかにも イヨウ に ワタシ に かんぜられて きだした。
 ハヤシ の ナカ から できらない うち に、 もう ヒ が すっかり かたむいて いた。 ワタシ は とつぜん ある ケッシン を しながら、 おもわず アシ を はやめて かえって きた。 イエ に つく と、 ワタシ は すぐ 2 カイ の ジブン の ヘヤ に あがって いって、 この テチョウ を ヨウダンス の オク から とりだして きた。 この スウジツ、 ヒ が ヤマ に はいる と キュウ に タイキ が ひえびえ と して くる ので、 いつも ワタシ が ユウガタ の サンポ から かえる まで に ジイヤ に ダンロ に ヒ を たいて おく よう に いいつけて あった が、 その ヒ に かぎって ジイヤ は ホカ の ヨウジ に おわれて、 まだ ヒ を たきつけて いなかった。 ワタシ は イマ すぐに も その テチョウ を ダンロ に なげこんで しまいたかった の だ。 が、 ワタシ は カタワラ の イス に こしかけた まま、 その テチョウ を ムゾウサ に テ に まるめて もちながら、 イッシュ いらだたしい よう な キモチ で、 ジイヤ が マキ を たきつけて いる の を みて いる ホカ は なかった。
 ジイヤ は そういう いらいら して いる ワタシ の ほう を イチド も ふりかえろう とは せず に、 だまって マキ を うごかして いた が、 この ヒト の いい タンジュン な ロウジン には ワタシ は そんな シュンカン にも フダン の ものしずか な オクサマ に しか みえて いなかったろう。 ……それから この ナツ ワタシ の くる まで ここ で ヒトリ で ホン ばかり よんで くらして いた らしい ナオコ だって ワタシ には あんな に テ の ツケヨウ の ない ムスメ に しか おもわれない のに、 この ジイヤ には やっぱり ワタシ と おなじ よう な ものしずか な ムスメ に みえて いた の だったろう。 そして こういう タンジュン な ヒトタチ の メ には、 いつも ワタシタチ は 「オシアワセ な」 ヒトタチ なの だ。 ワタシタチ が どんな に ナカ の わるい オヤコ で ある か と いう こと を いくら いって きかせて みて も この ヒトタチ には そんな こと は とうてい しんぜられない だろう。 ……その とき ふと こういう キ が ワタシ に されて きた。 じつは そういう ヒトタチ―― いわば ジュンスイ な ダイサンシャ の メ に もっとも いきいき と うつって いる だろう おそらくは シアワセ な オクサマ と して の ワタシ だけ が コノヨ に ジツザイ して いる ので、 なにかと たえず セイ の フアン に おびやかされて いる ワタシ の もう ヒトツ の スガタ は、 ワタシ が ジブン カッテ に つくりあげて いる カクウ の スガタ に すぎない の では ない か。 ……キョウ オヨウ さん を みた とき から、 ワタシ に そんな カンガエ が きざして きだして いた の だ と みえる。 オヨウ さん には オヨウ さん ジシン が どんな スガタ で かんぜられて いる か しらない。 しかし ワタシ には オヨウ さん は カチキ な ショウブン で、 ジブン の せおって いる ウンメイ なんぞ は なんでも ない と おもって いる よう な ヒト に みえる。 おそらくは ダレ の メ にも そう と みえる に ちがいない。 そんな ふう に ダレ の メ にも はっきり そう と みえる その ヒト の スガタ だけ が コノヨ に ジツザイ して いる の では ない か。 そう する と、 ワタシ だって も それ は ジンセイ ナカバ に して オット に シベツ し、 ソノゴ は たしょう さびしい ショウガイ だった が、 ともかくも フタリ の コドモ を リッパ に そだてあげた ケンジツ な カフ、 ――それ だけ が ワタシ の ホンライ の スガタ で、 その ホカ の スガタ、 ことに この テチョウ に かかれて ある よう な ワタシ の ヒゲキテキ な スガタ なんぞ は ほんの キマグレ な カショウ に しか すぎない の だ。 この テチョウ さえ なければ、 そんな ワタシ は この チジョウ から エイキュウ に スガタ を けして しまう。 そう だ、 こんな もの は ひとおもいに やいて しまう ホカ は ない。 ホントウ に イマ すぐに も やいて しまおう。……
 それ が ユウガタ の サンポ から かえって きた とき から の ワタシ の ケッシン だった の だ。 それだのに、 ワタシ は ジイヤ が そこ を たちさった アト も、 ちょっと その キカイ を うしなって しまった か の よう に、 その テチョウ を ぼんやり と テ に した まま ヒ の ナカ へ とうぜず に いた。 ワタシ には すでに ハンセイ が きて いた。 ワタシタチ の よう な オンナ は、 そう しよう と おもった シュンカン なら ジブン たち に できそう も ない こと でも しでかし、 それ を した リユウ だって アト から いくらでも かんがえだせる が、 ジブン が これから しよう と して いる こと を かんがえだしたら サイゴ、 もう スベテ の こと が ためらわれて くる。 その とき も、 ワタシ は いざ これから この テチョウ を ヒ に とうじよう と しかけた とき、 ふいと もう イチド それ を よみかえして、 それ が ながい こと ワタシ を くるしめて いた ショウタイ を ゲンザイ の このよう な さめた ココロ で たしかめて から でも おそく は あるまい と かんがえた。 しかし、 ワタシ は そう は おもった ものの、 その とき の キブン では それ を どうしても よみかえして みる キ には なれなかった。 そうして ワタシ は それ を そのまま、 マントルピース の ウエ に おいて おいた。 その ヨル の うち にも、 ふいと それ を テ に とって よんで みる よう な キ に なるまい もの でも ない と おもった から で あった。 が、 その ヨル おそく、 ワタシ は ねる とき に それ を ジブン の ヘヤ の もと あった バショ に もどして おく より ホカ は なかった。
 そんな こと が あって から 2~3 ニチ たつ か たたない うち の こと だった の だ。 ある ユウガタ、 ワタシ が イツモ の よう に サンポ を して かえって きて みる と、 いつ トウキョウ から きた の か、 オマエ が いつも ワタシ の こしかける こと に して いる イス に もたれた まま、 いましがた ぱちぱち オト を たてながら もえだした ばかり らしい ダンロ の ヒ を じっと みまもって いた の は……
 その ヨル おそく まで の オマエ との いきぐるしい タイワ は、 その ヨクアサ とつぜん ワタシ の ニクタイ に あらわれた いちじるしい ヘンカ と ともに、 ワタシ の おいかけた ココロ に とって は もっとも おおきな イタデ を あたえた の だった。 その キオク も ようやく とおのいて ワタシ の ココロ の ウチ で それ が ゼンタイ と して はっきり と みえやすい よう に なりだした、 それから ヤク 1 ネン-ゴ の コンヤ、 その おなじ ヤマ の イエ の おなじ ダンロ の マエ で、 ワタシ は こうして イチド は やいて しまおう と ケッシン しかけた この テチョウ を ふたたび ジブン の マエ に ひらいて、 コンド こそ は ワタシ の した こと の スベテ を つぐなう つもり で、 ジブン の サイゴ の ヒ の ちかづいて くる の を ひたすら まちながら、 こうして ジブン の ムキリョク な キモチ に むちうちつつ その ヒゴロ の デキゴト を つとめて アリノママ に かきはじめて いる の だ。

 オマエ は ダンロ の カタワラ に こしかけた まま、 そこ に ちかづいて いった ワタシ の ほう へは ナニ か おこった よう な おおきい マナザシ を むけた きり、 なんとも いいださなかった。 ワタシ も ワタシ で、 まるで キノウ も ワタシタチ が そうして いた よう に、 おしだまった まま、 オマエ の トナリ へ ホカ の イス を もって いって しずか に コシ を おろした。 ワタシ は なぜか オマエ の メツキ から すぐ オマエ の くるしんで いる の を かんじ、 どんな に か オマエ の ココロ の もとめて いる よう な コトバ を かけて やりたかったろう。 が、 ドウジ に、 オマエ の メツキ には ワタシ の クチ の サキ まで でかかって いる コトバ を そこ に そのまま こおらせて しまう よう な キビシサ が あった。 どうして そんな ふう に とつぜん こちら へ きた の か を ソッチョク に オマエ に とう こと さえ ワタシ には できにくかった。 オマエ も それ が ひとりでに わかる まで は なんとも いおう とは しない よう に みえた。 やっと の こと で ワタシタチ が フタコト ミコト はなしあった の は ゾウシガヤ の ヒトタチ の ウエ ぐらい で、 アト は それ が マイニチ の シュウカン でも ある か の よう に フタリ ならんで だまって タキビ を みつめて いた。
 ヒ は くれて いった。 しかし、 ワタシタチ は どちら も アカリ を つけ に たとう とは しない で、 そのまま ダンロ に むかって いた。 ソト が くらく なりだす に つれて、 オマエ の おしだまった カオ を てらして いる ホカゲ が だんだん つよく ひかりだして いた。 ときおり ホノオ の グアイ で その ヒカリ の ゆらぐ の が、 オマエ が ムヒョウジョウ な カオ を して いれば いる ほど、 オマエ の ココロ の ドウヨウ を いっそう しめす よう な キ が されて ならなかった。
 だが、 ヤマガ-らしい シッソ な ショクジ に フタリ で あいかわらず クチカズ すくなく むかった ノチ、 ワタシタチ が ふたたび ダンロ の マエ に かえって いって から だいぶ たって から だった。 ときどき メ を つぶったり して、 いかにも つかれて ねむたげ に して いた オマエ が、 とつぜん、 なんだか うわずった よう な コエ で、 しかし ジイヤ たち に きかれたく ない よう に チョウシ を ひくく しながら はなしだした。 それ は ワタシ も うすうす さっして いた よう に、 やっぱり オマエ の エンダン に ついて だった。 それまで も 2~3 ド そんな ハナシ を ホカ から たのまれて もって きた が、 いつも ワタシタチ が アイテ に ならなかった タカナワ の オマエ の オバ が、 この ナツ も また あたらしい エンダン を ワタシ の ところ に もって きた が、 ちょうど モリ さん が ペキン で おなくなり に なったり した とき だった ので、 ワタシ も おちついて その ハナシ を きいて は いられなかった。 しかし 2 ド も 3 ド も うるさく いって くる もの だ から、 シマイ には ワタシ も つい メンドウ に なって、 ナオコ の ケッコン の こと は トウニン の カンガエ に まかせる こと に して あります から、 と いって かえした。 ところが オマエ が 8 ガツ に なって ワタシ と イレカワリ に トウキョウ へ かえった の を しる と、 すぐ オマエ の ところ に ちょくせつ その エンダン を すすめ に きた らしかった。 そして その とき ワタシ が なにもかも オマエ の カンガエ の まま に させて ある と いった こと を ミョウ に タテ に とって、 オマエ が それまで どんな エンダン を もちこまれて も みんな ことわって しまう の を ワタシ まで が それ を オマエ の ワガママ の せい に して いる よう に オマエ に むかって せめた らしかった。 ワタシ が そう いった の は、 なにも そんな つもり では ない くらい な こと は、 オマエ も ショウチ して いて いい はず だった。 それだのに、 オマエ は その とき オマエ の オバ に そんな こと で つっこまれた ハラダチマギレ に、 ワタシ の なんの ワルギ も なし に いった コトバ をも オマエ への チュウショウ の よう に とった の だろう か。 すくなくとも、 イマ オマエ の ワタシ に むかって その ハナシ を して いる ハナシカタ には、 ワタシ の その コトバ をも ふくめて おこって いる らしい の が かんぜられる。……
 そんな ハナシ の チュウト から、 オマエ は キュウ に いくぶん ひきつった よう な カオ を ワタシ の ほう へ もちあげた。
「その ハナシ、 オカアサマ は いったい どう おおもい に なって?」
「さあ、 ワタシ には わからない わ。 それ は アナタ の……」 いつも オマエ の フキゲン そう な とき に いう よう な おどおど した クチョウ で そう いいさして、 ワタシ は キュウ に クチ を つぐんだ。 こんな オマエ を さける よう な タイド で ばかり は もう だんじて オマエ に たいすまい、 ワタシ は コヨイ こそ は オマエ に いいたい だけ の こと を いわせる よう に し、 ジブン も オマエ に いって おく べき こと だけ は のこらず いって おこう。 ワタシ は オマエ の どんな てきびしい コウゲキ の ヤサキ にも マトモ に たえて たって いよう と ケッシン した。 で、 ワタシ は ジブン に むちうつ よう な つよい ゴキ で いいつづけた。 「……ワタシ は ホントウ の ところ を いう と ね、 その オカタ が いくら ヒトリムスコ でも、 そう やって ハハオヤ と フタリ きり で、 いつまでも ドクシン で おとなしく くらして いらしった と いう の が キ に なる のよ。 なんだか ハナシ の ヨウス では、 ハハオヤ に まけて いる よう な キ が します わ、 その オカタ が……」
 オマエ は そう ワタシ に おもいがけず つよく でられる と、 ナニ か かんがえぶかそう に なって もえしきって いる マキ を みつめて いた。 フタリ は また しばらく だまって いた。 それから キュウ に いかにも その バ で トッサ に おもいついた よう な ふたしか な チョウシ で オマエ が いった。
「そういう おとなしすぎる くらい の ヒト の ほう が かえって よさそう ね。 ワタシ なんぞ の よう な キ ばかし つよい モノ の ケッコン の アイテ には……」
 ワタシ は オマエ が そんな こと を ホンキ で いって いる の か どう か ためす よう に オマエ の カオ を みた。 オマエ は あいかわらず ぱちぱち オト を たてて もえて いる マキ を みすえる よう に しながら、 しかも それ を みて いない よう な、 クウキョ な マナザシ で ジブン の ゼンポウ を きっと みて いた。 それ は ナニ か おもいつめて いる よう な ヨウス を オマエ に あたえて いた。 イマ オマエ の いった よう な カンガエカタ が ワタシ への イヤミ では なし に、 オマエ の ホンキ から でて いる の だ と すれば、 ワタシ は それ には ウカツ に こたえられない よう な キ が して、 すぐに は なんとも ヘンジ が せられず に いた。
 オマエ が いいたした。 「ワタシ は ジブン で ジブン の こと が よく わかって います もの」
「…………」 ワタシ は いよいよ なんと ヘンジ を したら いい か わからなく なって、 ただ じっと オマエ の ほう を みて いた。
「ワタシ、 コノゴロ こんな キ が する わ、 オトコ でも、 オンナ でも ケッコン しない で いる うち は かえって ナニ か に ソクバク されて いる よう な…… しじゅう、 もろい、 うつりやすい よう な もの、 たとえば コウフク なんて いう イリュージョン に とらわれて いる よう な…… そう では ない の かしら? しかし ケッコン して しまえば、 すくなくとも そんな はかない もの から は ジユウ に なれる よう な キ が する わ……」
 ワタシ は すぐに は そういう オマエ の あたらしい カンガエ に ついて は ゆかれなかった。 ワタシ は それ を ききながら、 オマエ が ジブン の ケッコン と いう こと を トウメン の モンダイ と して シンケン に なって かんがえて いる らしい の に ナニ より も おどろいた。 その テン は、 ワタシ は すこし ニンシキ が たりなかった。 しかし、 イマ オマエ の いった よう な ケッコン に たいする ミカタ が オマエ ジシン の ミケイケン な セイカツ から ひとりでに できて きた もの か どう か と いう こと に なる と いささか カイギテキ だった。 ――ワタシ と して は、 このまま こうして ワタシ の ソバ で オマエ が いらいら しながら くらして いたら、 たがいに キモチ を こじらせあった まま、 ジブン で ジブン が どんな ところ へ いって しまう か わからない と いった よう な、 そんな フアン な オモイ から オマエ が クルシマギレ に すがりついて いる、 セイジュク した タニン の シソウ と して しか みえない の だ…… 「そういう カンガエカタ は それ は それ と して うなずける よう だ けれど、 なにも その カンガエ の ため に オマエ の よう に ケッコン を ムキ に なって かんがえる こと は ない と おもう わ……」 ワタシ は そう ジブン の かんじた とおり の こと を いった。 「……もうすこし、 オマエ、 なんて いったら いい か、 もうすこし、 そう ね、 ノンキ に なれない こと?」
 オマエ は カオ に ハンシャ して いる ホカゲ の ナカ で、 イッシュ の フクザツ な ワライ の よう な もの を ひらめかせながら、
「オカアサマ は ケッコン なさる マエ にも ノンキ で いられた?」 と つっこんで きた。
「そう ね…… ワタシ は ずいぶん ノンキ な ほう だった ん でしょう、 なにしろ まだ 19 か そこいら だった から。 ……ガッコウ を でる と、 ウチ が ビンボウ の ため ハハ の リソウ の ヨウコウ に やらせられず に、 すぐ オヨメ に ゆかせられる よう に なった の を オオヨロコビ して いた くらい でした もの。……」
「でも、 それ は オトウサマ が いい オカタ な こと が おわかり に なって いられた から では なくって?」
 オマエ の いい オトウサマ の ハナシ が いかにも シゼン に ワタシタチ の ワダイ に のぼった こと が キュウ に ワタシ を いつ に なく オマエ の マエ で いきいき と させだした。
「ホントウ に ワタシ には もったいない くらい に いい オトウサマ でした。 ワタシ の ケッコン セイカツ が サイショ から サイゴ まで ジュンチョウ に いった の も、 ワタシ の ウン が よかった の だ など とは イチド も ワタシ に おもわせず、 そう なる の が さも アタリマエ の よう に かんがえさせた の が、 オトウサマ の セイカク でした。 ことに ワタシ が イマ でも オトウサマ に カンシャ して いる の は、 ケッコン シタテ は まだ ほんの コムスメ に すぎなかった ワタシ を、 ハジメ から どんな バアイ に でも、 イッコ の ジョセイ と して ばかり で なく、 イッコ の ニンゲン と して アイテ に して くだすった こと でした。 ワタシ は その おかげ で だんだん ニンゲン と して の ジシン が ついて きました。……」
「いい オトウサマ だった のね。……」 オマエ まで が いつ に なく ムカシ を なつかしがる よう な チョウシ に なって いった。 「ワタシ は コドモ の ジブン よく オトウサマ の ところ へ オヨメ に いきたい なあ と おもって いた もの だわ。……」
「…………」 ワタシ は おもわず いきいき した ビショウ を しながら だまって いた。 が、 こういう ムカシバナシ の でた サイ に、 もうすこし オトウサマ の いきて いらしった コロ の こと や、 おなくなり に なった アト の こと に ついて オマエ に いって おかなければ ならない こと が ある と おもった。
 が、 オマエ が そういう ワタシ の サキ を こして いった。 コンド は ナニ か ワタシ に つっかかる よう な シャガレゴエ だった。
「それでは、 オカアサマ は モリ さん の こと は どう おおもい に なって いらっしゃる の?」
「モリ さん の こと?……」 ワタシ は ちょっと イガイ な トイ に トマドイ しながら、 オマエ の ほう へ しずか に メ を もって いった。
「…………」 コンド は オマエ が だまって うなずいた。
「それ と これ とは、 オマエ、 ぜんぜん……」 ワタシ は なんとなく アイマイ な チョウシ で そう いいかけて いる うち に、 キュウ に イマ の オマエ の こだわった よう な モノ の トイカタ で、 モリ さん が ワタシタチ の フワ の ゲンイン と なった と オマエ の おもいこんで いた もの が はっきり と わかった よう な キ が した。 ずっと マエ に なくなられた オトウサマ の こと が いつまでも オマエ の ネントウ から はなれなかった の だ。 あの コロ の オマエ は ワタシ と いう もの が オマエ の かんがえて いる ハハ と いう もの から ぬけだして いって しまいそう だった ので キ が キ で なかった の だ。 それ が オマエ の オモイスゴシ で あった こと は、 イマ の オマエ なら よく わかる だろう。 けれども、 その とき は ワタシ も また ワタシ で オマエ に それ が そう で ある こと を ソッチョク に いって やれなかった、 どうして だ か そんな こと まで が ジブン の おもう よう に いえない よう に ジブツ を すこし こみいらせて ワタシ は かんがえがち で あった、 いわば ワタシ の ユイイツ の カシツ は そこ に こそ あった の だ。 イマ、 ワタシ は それ を オマエ にも、 また ワタシ ジシン にも はっきり と いいきかして おかなければ ならない と おもった。 「……いいえ、 そんな イイヨウ は もう しますまい。 それ は ホントウ に なんでも ない こと だった の が ワタシタチ に はっきり わかって きて いる の です から、 なんでも ない こと と して いいます。 モリ さん が ワタシ に おもとめ に なった の は、 ケッキョク の ところ、 トシウエ の ジョセイ と して の オハナシアイテ でした。 ワタシ なんぞ の よう な セケンシラズ の オンナ が きどらず に もうしあげた こと が かえって なんとなく ミ に しみて おかんぜられ に なった だけ なの です。 それ だけ の こと だった の が その とき は あの カタ にも わからず、 ワタシ ジシン にも わからなかった の です。 それ は タダ の ハナシアイテ は ハナシアイテ でも、 あの カタ が ワタシ に どこまでも イッコ の ジョセイ と して の アイテ を のぞまれて いた の が いけなかった の でした。 それ が ワタシ を だんだん キュウクツ に させて いった の です。……」 そう イキ も つかず に いいながら、 ワタシ は あんまり ダンロ の ヒ を マトモ に みつづけて いた ので、 メ が いたく なって きて、 それ を いいおわる と しばらく メ を とじて いた。 ふたたび それ を あけた とき は、 コンド は ワタシ は オマエ の カオ の ほう へ それ を むけながら、 「……ワタシ は ね、 ナオコ、 コノゴロ に なって やっと オンナ では なくなった のよ。 ワタシ は ずいぶん そういう トシ に なる の を まって いました。 ……ワタシ は ジブン が そういう トシ に なれて から、 もう イチド モリ さん に オメ に かかって こころおきなく オハナシ の アイテ を して、 それから サイゴ の オワカレ を したかった の です けれど……」
 オマエ は しかし おしだまって ダンロ の ヒ に むかった まま、 その カオ に ホカゲ の ユラメキ とも、 また イッシュ の ヒョウジョウ とも わかちがたい もの を うかべながら、 あいかわらず ジブン の マエ を みすえて いる きり だった。
 その チンモク の ウチ に、 イマ ワタシ が すこし ばかり うわずった よう な コエ で いった コトバ が いつまでも クウキョ に ひびいて いる よう な キ が して、 キュウ に ムネ が しめつけられる よう に なった。 ワタシ は オマエ の イマ かんがえて いる こと を なんと でも して しりたく なって、 そんな こと を きく つもり も なし に きいた。
「オマエ は モリ さん の こと を どう オカンガエ なの?」
「ワタシ?……」 オマエ は クチビル を かんだ まま、 しばらく は なんとも いいださなかった。
「……そう ね、 オカアサマ の マエ です けれど、 ワタシ は ああいう オカタ は ケイエン して おきたい わ。 それ は おかき に なる もの は おもしろい と おもって よむ けれども、 あの オカタ と おつきあい したい とは おもいません でした わ。 なんでも ゴジブン の なさりたい と おもう こと を して いい と おもって いる よう な テンサイ なんて いう もの は、 ワタシ は すこしも ジブン の ソバ に もちたい とは おもって いません わ。……」
 オマエ の そういう イチゴ イチゴ が ワタシ の ムネ を イヨウ に うった。 ワタシ は もう シヨウ が ない と いった ふう に ふたたび メ を とじた まま、 イマ こそ ワタシ との フワ が オマエ から うばった もの を はっきり と しった。 それ は ハハ と して の ワタシ では ない、 だんじて そう で ない、 それ は ジンセイ の もっとも スウコウ な もの に たいする おんならしい シンジュウ なの で ある。 ハハ と して の ワタシ は ふたたび オマエ に もどされて も、 そういう ジンセイ への シンジュウ は もう ヨウイ には かえされない の では なかろう か?……
 もう ヨル も だいぶ ふけた らしく、 コヤ の ナカ まで かなり ひえこんで きて いた。 サキ に ねかせて あった ジイヤ が もう ヒトネイリ して から、 ふと メ を さました よう で、 ダイドコロベヤ の ほう から トシヨリ-らしい セキバライ の する の が きこえだした。 ワタシタチ は それ に きづく と、 もう どちら から とも なく ダンロ に マキ を くわえる の を やめて いた が、 だんだん おとろえだした カリョク が ワタシタチ の カラダ を しらずしらず たがいに ちかよらせだして いた。 ココロ と ココロ とは いつか ジブン ジブン の おくふかく に ひきこませて しまいながら……

 その ヨル は、 もう 12 ジ を すぎて から カクジ の シンシツ に ひきあげた アト も、 ワタシ は どうにも メ が さえて、 ほとんど まんじり とも できなかった。 ワタシ は トナリ の オマエ の ヘヤ でも よどおし シンダイ の きしる の を ミミ に して いた。 それでも アケガタ、 ようやく マド の アタリ が しらんで くる の を みとめる と、 ナニ か ほっと した せい か、 ワタシ は つい うとうと と まどろんだ。 が、 それから どの くらい たった か おぼえて いない が、 ワタシ は キュウ に ナニモノ か が ジブン の カタワラ に たちはだかって いる よう な キ が して、 おもわず メ を さました。 そこ に カミ を ふりみだしながら たって いる マッシロ な スガタ が、 だんだん ネマキ の まま の オマエ に みえだした。 オマエ は ワタシ が やっと オマエ を みとめた こと に キ が つく と、 キュウ に おこった よう な キリコウジョウ で いいだした。
「……ワタシ には オカアサマ の こと は よく わかって いる のよ。 でも、 オカアサマ には、 ワタシ の こと が ちっとも わからない の。 なにひとつ だって わかって くださらない のね。 ……けれども、 これ だけ は ジジツ と して おわかり に なって おいて ちょうだい。 ワタシ、 こちら へ くる マエ に じつは オバサマ に サッキ の オハナシ の ショウダク を して きました。……」
 ユメ とも ウツツ とも つかない よう な うつろ な マナザシ で オマエ を じっと みつめて いる ワタシ の メ を、 オマエ は ナニ か せつなげ な メツキ で うけとめて いた。 ワタシ は オマエ の いって いる こと が よく わからない よう に、 そして それ を いっそう よく きこう と する か の よう に、 ほとんど ムイシキ に シンダイ の ウエ に なかば ミ を おこそう と した。
 しかし、 その とき は オマエ は もう ワタシ の ほう を ふりむき も しない で、 すばやく トビラ の ウシロ に スガタ を けして いた。
 シタ の ダイドコロ では サッキ から もう ジイヤ たち が おきて ごそごそ と なにやら モノオト を たてだして いた。 それ が ワタシ に そのまま おきて オマエ の アト を おって ゆく こと を ためらわせた。

 ワタシ は その アサ も 7 ジ に なる と、 イツモ の よう に ミダシナミ を して、 シタ に おりて いった。 ワタシ は その マエ に しばらく オマエ の シンシツ の ケハイ に ミミ を かたむけて みた が、 ヨルジュウ ときどき おもいだした よう に きしって いた シンダイ の オト も イマ は すっかり しなく なって いた。 ワタシ は オマエ が その シンダイ の ウエ で、 ねむられぬ ヨル の アト で、 かきみだれた カミ の ナカ に カオ を うずめて いる うち に、 さすが に ワカサ から ショウタイ も なく ねいって しまう と、 まもなく ヒ が カオ に いっぱい あたりだして、 ナミダ を それとなく かわかして いる…… そんな オマエ の しどけない ネスガタ さえ ソウゾウ された が、 そのまま オマエ を しずか に ねかせて おく ため、 アシオト を しのばせて シタ に おりて ゆき、 ジイヤ には ナオコ の おきて くる まで ワタシタチ の アサハン の ヨウイ を する の を まって いる よう に いいつけて おいて、 ワタシ は ヒトリ で アキ-らしい ヒ の ナナメ に さして コカゲ の いっぱい に ひろがった ニワ の ナカ へ でて いった。 ネブソク の メ には、 その コカゲ に てんてん と おちこぼれて いる ヒ の ヒカリ の グアイ が イイヨウ も なく さわやか だった。 ワタシ は もう すっかり ハ の きいろく なった ニレ の キ の シタ の ベンチ に コシ を おろして、 ケサ の ネザメ の おもたい キブン とは あまり に かけはなれた、 そういう かがやかしい ヒヨリ を ナニ か シンゾウ が どきどき する ほど うつくしく かんじながら、 かわいそう な オマエ の おきて くる の を ココロマチ に まって いた。 オマエ が ワタシ に たいする ハンコウテキ な キモチ から あまり にも ムコウミズ な こと を しよう と して いる の を だんぜん オマエ に カンシ しなければ ならない と おもった。 その ケッコン を すれば オマエ が かならず フコウ に なる と ワタシ の かんがえる リユウ は なにひとつ ない、 ただ ワタシ は そんな キ が する だけ なの だ。 ――ワタシ は オマエ の ココロ を とじて しまわせず に、 そこ の ところ を よく わかって もらう ため には、 どういう ところ から いいだしたら いい の で あろう か。 イマ から その コトバ を ヨウイ して おいたって、 それ を ヒトツヒトツ オマエ に むかって いえよう とは おもえない、 ――それ より か、 オマエ の カオ を みて から、 こちら が ジブン を すっかり なくして、 なんの ココロヨウイ も せず に オマエ に たちむかいながら、 その バ で ジブン に うかんで くる こと を そのまま いった ほう が オマエ の ココロ を うごかす こと が いえる の では ない か と かんがえた。 ……そう かんがえて から は、 ワタシ は つとめて オマエ の こと から ココロ を そらせて、 ジブン の ズジョウ の マッキイロ な ニレ の キ の ハ が さらさら と オト を たてながら たえず ワタシ の カタ の アタリ に まきちらして いる こまかい ヒ の ヒカリ を なんて キモチ が いい ん だろう と おもって いる うち に、 ジブン の シンゾウ が ナンド-メ か に はげしく しめつけられる の を かんじた。 が、 コンド は それ は すぐ やまず、 まあ これ は いったい どうした の だろう と おもいだした ほど、 ながく つづいて いた。 ワタシ は その コシカケ の セ に リョウテ を かけて やっと の こと で ジョウハンシン を ささえて いた が、 その リョウテ に キュウ に チカラ が なくなって……

 ナオコ の ツイキ

 ここ で、 ハハ の ニッキ は チュウゼツ して いる。 その ニッキ の いちばん オワリ に しるされて ある ある アキ の ヒ の ちいさな デキゴト が あって から、 ちょうど 1 カネン たって、 やはり おなじ ヤマ の イエ で、 ハハ が その ヒ の こと を ナニ を おもいたたれて か キュウ に おかきだし に なって いらっしった オリ も オリ、 サイド の キョウシンショウ の ホッサ に おそわれて そのまま おたおれ に なった。 この テチョウ は その イシキ を うしなわれた ハハ の カタワラ に、 カキカケ の まま ひらかれて あった の を ジイヤ が みつけた もの で ある。
 ハハ の キトク の シラセ に おどろいて トウキョウ から かけつけた ワタシ は、 ハハ の シゴ、 ジイヤ から わたされた テチョウ が ハハ の サイキン の ニッキ らしい の を すぐ みとめた が、 その とき は ナニ か すぐ それ を よんで みよう と いう キ には なれなかった。 ワタシ は そのまま、 それ を O ムラ の コヤ に のこして きた。 ワタシ は その スウ-カゲツ マエ に すでに ハハ の イ に はんした ケッコン を して しまって いた。 その とき は まだ ジブン の あたらしい ミチ を きりひらこう と して ドリョク して いる サイチュウ だった ので、 ヒトタビ ほうむった ジブン の カコ を ふたたび ふりかえって みる よう な こと は ワタシ には たえがたい こと だった から だ。……
 その ツギ に また O ムラ の イエ に のこして おいた もの の セイリ に ヒトリ で きた とき、 ワタシ は はじめて その ハハ の ニッキ を よんだ。 コノマエ の とき から まだ ハントシ とは たって いなかった が、 ワタシ は ハハ が きづかった よう に ジブン の ゼント の きわめて コンナン で ある の を ようやく ミ に しみて しりだして いた オリ でも あった。 ワタシ は なかば その ハハ に たいする イッシュ の ナツカシサ、 なかば ジブン に たいする カイコン から、 その テチョウ を はじめて テ に とった が、 それ を よみはじめる や いなや、 ワタシ は そこ に かかれて いる トウジ の ショウジョ に なった よう に なって、 やはり ハハ の ヒトコト ヒトコト に ちいさな ハンコウ を かんぜず には いられない ジブン を みいだした。 ワタシ は なんと して も いまだに この ニッキ の ハハ を うけいれる わけ には いかない の で ある。 ――オカアサマ、 この ニッキ の ナカ での よう に、 ワタシ が オカアサマ から にげまわって いた の は オカアサマ ジシン から なの です。 それ は オカアサマ の オココロ の ウチ に だけ ある ワタシ の なやめる スガタ から なの です。 ワタシ は そんな こと で もって イチド も そんな に くるしんだり なやんだり した こと は ございません もの。……
 ワタシ は そう ココロ の ナカ で、 おもわず ハハ に よびかけて は、 ナンベン も その テチョウ を チュウト で てばなそう と おもいながら、 やっぱり サイゴ まで よんで しまった。 よみおわって も、 それ を よみはじめた とき から ワタシ の ムネ を いっぱい に させて いた フンマン に ちかい もの は なかなか きえさる よう には みえなかった。
 しかし キ が ついて みる と、 ワタシ は この ニッキ を テ に した まま、 いつか しらずしらず の うち に、 イッサクネン の アキ の ある アサ、 ハハ が そこ に こしかけて ワタシ を まちながら サイショ の ホッサ に おそわれた、 おおきな ニレ の キ の シタ に きて いた。 イマ は まだ ハルサキ で、 その ニレ の キ は すっかり ハ を うしなって いた。 ただ その とき の マルキ の コシカケ だけ が なかば こわれながら モト の バショ に のこって いた。
 ワタシ が その なかば こわれた ハハ の コシカケ を みとめた シュンカン で あった。 この ニッキ ドクリョウゴ の イッシュ セツメイ しがたい ハハ への ドウカ、 それゆえに こそ また ドウジ に それ に たいする ほとんど ケンオ に さえ ちかい もの が、 とつぜん ワタシ の テ に して いた ニッキ を そのまま その ニレ の キ の シタ に うめる こと を ワタシ に おもいたたせた。……

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