カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

もゆる ホオ

2019-04-20 | ホリ タツオ
 もゆる ホオ

 ホリ タツオ

 ワタシ は 17 に なった。 そして チュウガッコウ から コウトウ ガッコウ へ はいった ばかり の ジブン で あった。
 ワタシ の リョウシン は、 ワタシ が カレラ の モト で あんまり シンケイシツ に そだつ こと を おそれて、 ワタシ を そこ の キシュクシャ に いれた。 そういう カンキョウ の ヘンカ は、 ワタシ の セイカク に いちじるしい エイキョウ を あたえず には おかなかった。 それ に よって、 ワタシ の ショウネンジ から の ダッピ は、 きみわるい まで に うながされつつ あった。
 キシュクシャ は、 あたかも ハチノス の よう に、 イクツ も の ちいさい ヘヤ に わかれて いた。 そして その ヒトツヒトツ の ヘヤ には、 それぞれ 10 ニン あまり の セイト ら が イッショクタ に いきて いた。 それに ヘヤ とは いう ものの、 ナカ には ただ、 アナ-だらけ の、 おおきな ツクエ が フタツ ミッツ おいて ある きり だった。 そして その ツクエ の ウエ には ダレ の もの とも つかず、 シロスジ の はいった セイボウ とか、 ジショ とか、 ノートブック とか、 インク ツボ とか、 タバコ の フクロ とか、 それら の もの が ごっちゃ に なって つまれて あった。 そんな もの の ナカ で、 ある モノ は ドイツ-ゴ の ベンキョウ を して いたり、 ある モノ は アシ の こわれかかった フルイス に あぶなっかしそう に ウマノリ に なって タバコ ばかり ふかして いた。 ワタシ は カレラ の ナカ で いちばん ちいさかった。 ワタシ は カレラ から ナカマハズレ に されない よう に、 くるしげ に タバコ を ふかし、 まだ ヒゲ の はえて いない ホオ に こわごわ カミソリ を あてたり した。
 2 カイ の シンシツ は へんに くさかった。 その よごれた シタギルイ の ニオイ は ワタシ を むかつかせた。 ワタシ が ねむる と、 その ニオイ は ワタシ の ユメ の ナカ に まで はいって きて、 まだ ゲンジツ では ワタシ の みしらない カンカク を、 その ユメ に あたえた。 ワタシ は しかし、 その ニオイ にも だんだん なれて いった。
 こうして ワタシ の ダッピ は すでに ヨウイ されつつ あった。 そして ただ サイゴ の イチゲキ だけ が のこされて いた……

 ある ヒ の ヒルヤスミ に、 ワタシ は ヒトリ で ぶらぶら と、 ショクブツ ジッケンシツ の ミナミガワ に ある、 ひっそり した カダン の ナカ を あるいて いた。 その うち に、 ワタシ は ふと アシ を とめた。 そこ の イチグウ に むらがりながら さいて いる、 ワタシ の ナマエ を しらない マッシロ な ハナ から、 カフン マミレ に なって、 1 ピキ の ミツバチ の とびたつ の を みつけた の だ。 そこで、 その ミツバチ が その アシ に くっついて いる カフン の カタマリ を、 コンド は どの ハナ へ もって いく か、 みて いて やろう と おもった の で ある。 しかし、 そいつ は どの ハナ にも なかなか とまりそう も なかった。 そして あたかも それら の ハナ の どれ を えらんだら いい か と まよって いる よう にも みえた。 ……その シュンカン だった。 ワタシ は それら の みしらない ハナ が イッセイ に、 その ミツバチ を ジブン の ところ へ さそおう と して、 なんだか メイメイ の メシベ を ミョウ な シタイ に くねらせる の を みとめた よう な キ が した。
 ……その うち に、 とうとう その ミツバチ は ある ハナ を えらんで、 それ に ぶらさがる よう に して とまった。 その カフン マミレ の アシ で その ちいさな チュウトウ に しがみつきながら、 やがて その ミツバチ は それ から も とびたって いった。 ワタシ は それ を みる と、 なんだか キュウ に コドモ の よう な ザンコク な キモチ に なって、 イマ ジュセイ を おわった ばかり の、 その ハナ を いきなり むしりとった。 そして じいっと、 ホカ の ハナ の カフン を あびて いる、 その チュウトウ に みいって いた が、 シマイ には ワタシ は それ を ワタシ の テ で モミクチャ に して しまった。 それから ワタシ は なおも、 サマザマ な もえる よう な クレナイ や ムラサキ の ハナ の さいて いる カダン の ナカ を ぶらついて いた。 その とき、 その カダン に T ジ-ケイ を なして めんして いる ショクブツ ジッケンシツ の ナカ から、 ガラスド-ゴシ に ワタシ の ナマエ を よぶ モノ が あった。 みる と、 それ は ウオズミ と いう ジョウキュウセイ で あった。
「きて みたまえ。 ケンビキョウ を みせて やろう……」
 その ウオズミ と いう ジョウキュウセイ は、 ワタシ の バイ も ある よう な オオオトコ で、 エンバンナゲ の センシュ を して いた。 グラウンド に でて いる とき の カレ は、 その コロ ワタシタチ の アイダ に リュウコウ して いた ギリシャ チョウコク の ドイツ-セイ の エハガキ の ヒトツ の、 「ディスカスヴェルフェル」 と いう の に すこし にて いた。 そして それ が カキュウセイ たち に カレ を グウゾウカ させて いた。 が、 カレ は ダレ に むかって も、 いつも ヒト を バカ に した よう な ヒョウジョウ を うかべて いた。 ワタシ は そういう カレ の キ に いりたい と おもった。 ワタシ は その ショクブツ ジッケンシツ の ナカ へ はいって いった。
 そこ には ウオズミ ヒトリ しか いなかった。 カレ は けぶかい テ で、 ブキヨウ そう に ナニ か の プレパラート を つくって いた。 そして ときどき ツァイス の ケンビキョウ で それ を のぞいて いた。 それから それ を ワタシ にも のぞかせた。 ワタシ は それ を みる ため には、 カラダ を エビ の よう に おりまげて いなければ ならなかった。
「みえる か?」
「ええ……」
 ワタシ は そういう ぎごちない シセイ を つづけながら、 しかし もう イッポウ の、 ケンビキョウ を みて いない メ で もって、 そっと ウオズミ の ドウサ を うかがって いた。 すこし マエ から ワタシ は カレ の カオ が イヨウ に ヘンカ しだした の に きづいて いた。 そこ の ジッケンシツ の ナカ の あかるい コウセン の せい か、 それとも カレ が イツモ の カメン を ぬいで いる せい か、 カレ の ホオ の ニク は ミョウ に たるんで いて、 その メ は マッカ に ジュウケツ して いた。 そして クチモト には たえず ショウジョ の よう な よわよわしい ビショウ を ちらつかせて いた。 ワタシ は なんとはなし に、 イマ の さっき みた ばかり の 1 ピキ の ミツバチ と みしらない マッシロ な ハナ の こと を おもいだした。 カレ の あつい コキュウ が ワタシ の ホオ に かかって きた……
 ワタシ は ついと ケンビキョウ から カオ を あげた。
「もう、 ボク……」 と ウデドケイ を みながら、 ワタシ は くちごもる よう に いった。
「キョウシツ へ いかなくっちゃ……」
「そう か」
 いつのまにか ウオズミ は コウミョウ に あたらしい カメン を つけて いた。 そして いくぶん あおく なって いる ワタシ の カオ を みおろしながら、 カレ は ヘイゼイ の、 ヒト を バカ に した よう な ヒョウジョウ を うかべて いた。

     ⁂

 5 ガツ に なって から、 ワタシタチ の ヘヤ に サイグサ と いう ワタシ の ドウキュウセイ が ホカ から テンシツ して きた。 カレ は ワタシ より ヒトツ だけ トシウエ だった。 カレ が ジョウキュウセイ たち から ショウネン-シ されて いた こと は かなり ユウメイ だった。 カレ は やせた、 ジョウミャク の すいて みえる よう な うつくしい ヒフ の ショウネン だった。 まだ バライロ の ホオ の ショユウシャ、 ワタシ は カレ の そういう ヒンケツセイ の ウツクシサ を うらやんだ。 ワタシ は キョウシツ で、 しばしば、 キョウカショ の カゲ から、 カレ の ほっそり した クビ を ぬすみみて いる よう な こと さえ あった。
 ヨル、 サイグサ は ダレ より も サキ に、 2 カイ の シンシツ へ いった。
 シンシツ は マイヨ、 キテイ の シュウミン ジカン の 10 ジ に ならなければ デントウ が つかなかった。 それだのに カレ は 9 ジ-ゴロ から シンシツ へ いって しまう の だった。 ワタシ は そんな ヤミ の ナカ で ねむって いる カレ の ネガオ を、 いろんな ふう に ゆめみた。
 しかし ワタシ は シュウカン から 12 ジ-ゴロ に ならなければ シンシツ へは ゆかなかった。
 ある ヨ、 ワタシ は ノド が いたかった。 ワタシ は すこし ネツ が ある よう に おもった。 ワタシ は サイグサ が シンシツ へ いって から まもなく、 セイヨウ ロウソク を テ に して カイダン を のぼって いった。 そして なんの キ なし に ジブン の シンシツ の ドア を あけた。 その ナカ は マックラ だった が、 ワタシ の テ に して いた ロウソク が、 とつぜん、 おおきな トリ の よう な カッコウ を した イヨウ な カゲ を、 その テンジョウ に なげた。 それ は カクトウ か なんか して いる よう に、 ブキミ に、 ゆれうごいて いた。 ワタシ の シンゾウ は どきどき した。 ……が、 それ は イッシュンカン に すぎなかった。 ワタシ が その テンジョウ に みいだした ゲンエイ は、 ただ ロウソク の ヒカリ の キマグレ な ドウヨウ の せい らしかった。 なぜなら、 ワタシ の ロウソク の ヒカリ が それほど ゆれなく なった ジブン には、 ただ、 サイグサ が カベギワ の ネドコ に ねて いる ホカ、 その マクラモト に、 もう ヒトリ の おおきな オトコ が、 マント を かぶった まま、 むっつり と フキゲン そう に すわって いる の を みた きり で あった から……
「ダレ だ?」 と その マント を かぶった オトコ が ワタシ の ほう を ふりむいた。
 ワタシ は あわてて ワタシ の ロウソク を けした。 それ が ウオズミ らしい の を みとめた から だった。 ワタシ は いつか の ショクブツ ジッケンシツ の とき から、 カレ が ワタシ を にくんで いる に ちがいない と しんじて いた。 ワタシ は だまった まま、 サイグサ の トナリ の、 ジブン の うすよごれた フトン の ナカ に もぐりこんだ。
 サイグサ も サッキ から だまって いる らしかった。
 ワタシ の わるい ノド を しめつける よう な スウフン-カン が すぎた。 その ウオズミ らしい オトコ は とうとう たちあがった。 そして なにも いわず に クラガリ の ナカ で あらあらしい オト を たてながら、 シンシツ を でて いった。 その アシオト が とおのく と、 ワタシ は サイグサ に、
「ボク は ノド が いたい ん だ……」 と すこし グアイ が わるそう に いった。
「ネツ は ない の?」 カレ が きいた。
「すこし ある らしい ん だ」
「どれ、 みせたまえ……」
 そう いいながら サイグサ は ジブン の フトン から すこし カラダ を のりだして、 ワタシ の ずきずき する コメカミ の ウエ に カレ の つめたい テ を あてがった。 ワタシ は イキ を つめて いた。 それから カレ は ワタシ の テクビ を にぎった。 ワタシ の ミャク を みる の に して は、 それ は すこし へんてこ な ニギリカタ だった。 それだのに ワタシ は、 ジブン の ミャクハク の キュウ に たかく なった の を カレ に きづかれ は しまい か と、 それ ばかり シンパイ して いた……
 ヨクジツ、 ワタシ は イチニチジュウ ネドコ の ナカ に もぐりながら、 これから も マイバン はやく シンシツ へ こられる ため、 ワタシ の ノド の イタミ が いつまでも なおらなければ いい と さえ おもって いた。

 スウジツ-ゴ、 ユウガタ から ワタシ の ノド が また いたみだした。 ワタシ は わざと セキ を しながら、 サイグサ の すぐ アト から シンシツ に いった。 しかし、 カレ の トコ は カラッポ だった。 どこ へ いって しまった の か、 カレ は なかなか かえって こなかった。
 1 ジカン ばかり すぎた。 ワタシ は ヒトリ で くるしがって いた。 ワタシ は ジブン の ノド が ひどく わるい よう に おもい、 ひょっと したら ジブン は この ビョウキ で しんで しまう かも しれない なぞ と かんがえたり して いた。
 カレ は やっと かえって きた。 ワタシ は サッキ から ジブン の マクラモト に ロウソク を ツケパナシ に して おいた。 その ヒカリ が、 フク を ぬごう と して ミモダエ して いる カレ の スガタ を、 テンジョウ に ブキミ に うつした。 ワタシ は いつか の バン の マボロシ を おもいうかべた。 ワタシ は カレ に イマ まで どこ へ いって いた の か と きいた。 カレ は ねむれそう も なかった から グラウンド を ヒトリ で サンポ して きた の だ と こたえた。 それ は いかにも うそらしい イイカタ だった。 が、 ワタシ は なんにも いわず に いた。
「ロウソク は つけて おく の かい?」 カレ が きいた。
「どっち でも いい よ」
「じゃ、 けす よ……」
 そう いいながら、 カレ は ワタシ の マクラモト の ロウソク を けす ため に、 カレ の カオ を ワタシ の カオ に ちかづけて きた。 ワタシ は、 その ながい マツゲ の カゲ が ロウソク の ヒカリ で ちらちら して いる カレ の ホオ を、 じっと みあげて いた。 ワタシ の ヒ の よう に ほてった ホオ には、 それ が こうごうしい くらい つめたそう に かんぜられた。

 ワタシ と サイグサ との カンケイ は、 いつしか ユウジョウ の ゲンカイ を こえだした よう に みえた。 しかし そのよう に サイグサ が ワタシ に ちかづいて くる に つれ、 その イッポウ では、 ウオズミ が ますます キシュクセイ たち に たいして ランボウ に なり、 ときどき グラウンド に でて は、 ヒトリ で キョウジン の よう に エンバンナゲ を して いる の が、 みかけられる よう に なった。
 その うち に ガッキ シケン が ちかづいて きた。 キシュクセイ たち は その ジュンビ を しだした。 ウオズミ が その シケン を マエ に して、 キシュクシャ から スガタ を けして しまった こと を ワタシタチ は しった。 しかし ワタシタチ は、 それ に ついて は クチ を つぐんで いた。

     ⁂

 ナツヤスミ に なった。
 ワタシ は サイグサ と 1 シュウカン ばかり の ヨテイ で、 ある ハントウ へ リョコウ しよう と して いた。
 ある どんより と くもった ゴゼン、 ワタシタチ は まるで リョウシン を だまして イタズラ か なんか しよう と して いる コドモ ら の よう に、 いくぶん インキ に なりながら、 シュッパツ した。
 ワタシタチ は その ハントウ の ある エキ で おり、 そこ から 1 リ ばかり カイガン に そうた ミチ を あるいた ノチ、 ノコギリ の よう な カタチ を した ヤマ に いだかれた、 ある ちいさな ギョソン に トウチャク した。 ヤドヤ は ものがなしかった。 くらく なる と、 どこ から とも なく カイソウ の カオリ が して きた。 コオンナ が ランプ を もって はいって きた。 ワタシ は その うすぐらい ランプ の ヒカリ で、 ネドコ へ はいろう と して シャツ を ぬいで いる、 サイグサ の ハダカ に なった セナカ に、 ヒトトコロ だけ セボネ が ミョウ な グアイ に トッキ して いる の を みつけた。 ワタシ は なんだか それ が いじって みたく なった。 そして ワタシ は そこ の ところ へ ユビ を つけながら、
「これ は ナン だい?」 と きいて みた。
「それ かい……」 カレ は すこし カオ を あからめながら いった。 「それ は セキツイ カリエス の アト なん だ」
「ちょっと いじらせない?」
 そう いって、 ワタシ は カレ を ハダカ に させた まま、 その セボネ の ヘン な トッキ を、 ゾウゲ でも いじる よう に、 ナンド も なでて みた。 カレ は メ を つぶりながら、 なんだか くすぐったそう に して いた。

 ヨクジツ も また どんより と くもって いた。 それでも ワタシタチ は シュッパツ した。 そして ふたたび カイガン に そうた コイシ の おおい ミチ を あるきだした。 イクツ か ちいさい ムラ を とおりすぎた。 だが、 ショウゴ-ゴロ、 それら の ムラ の ヒトツ に ちかづこう と した ジブン に なる と、 いまにも アメ が ふって きそう な くらい ソラアイ に なった。 それに ワタシタチ は もう あるきつかれ、 たがいに すこし フキゲン に なって いた。 ワタシタチ は その ムラ へ はいったら、 イツゴロ ノリアイ バシャ が その ムラ を とおる か を、 たずねて みよう と おもって いた。
 その ムラ へ はいろう と する ところ に、 ヒトツ の ちいさな イタバシ が かかって いた。 そして その イタバシ の ウエ には、 5~6 ニン の ムラ の ムスメ たち が、 メイメイ に ビク を さげながら、 たった まま で、 ナニ か しゃべって いた。 ワタシタチ が ちかづく の を みる と、 カノジョ たち は しゃべる の を やめた。 そして ワタシタチ の ほう を めずらしそう に みつめて いた。 ワタシ は それら の ショウジョ たち の ナカ から、 ヒトリ の メツキ の うつくしい ショウジョ を えらびだす と、 その ショウジョ ばかり じっと みつめた。 カノジョ は ショウジョ たち の ナカ では いちばん トシウエ らしかった。 そして カノジョ は ワタシ が いくら ブサホウ に みつめて も、 ヘイキ で ワタシ に みられる が まま に なって いた。 そんな バアイ に あらゆる ワカモノ が する で あろう よう に、 ワタシ は みじかい ジカン の うち に できる だけ ジブン を つよく その ショウジョ に インショウ させよう と して、 サマザマ な ドウサ を クフウ した。 そして ワタシ は カノジョ と ヒトコト でも いい から ナニ か コトバ を かわしたい と おもいながら、 しかし それ も できず に、 カノジョ の ソバ を はなれよう と して いた。 その とき とつぜん、 サイグサ が アユミ を ゆるめた。 そして カレ は その ショウジョ の ほう へ ずかずか と ちかづいて いった。 ワタシ も おもわず たちどまりながら、 カレ が ワタシ に サキマワリ して その ショウジョ に バシャ の こと を たずねよう と して いる らしい の を みとめた。
 ワタシ は そういう カレ の キビン な コウイ に よって その ショウジョ の ココロ に カレ の ほう が ワタシ より も いっそう つよく インショウ され は すまい か と きづかった。 そこで ワタシ も また、 その ショウジョ に ちかづいて ゆきながら、 カレ が シツモン して いる アイダ、 カノジョ の ビク の ナカ を のぞいて いた。
 ショウジョ は すこしも はにかまず に カレ に こたえて いた。 カノジョ の コエ は、 カノジョ の うつくしい メツキ を うらぎる よう な、 ミョウ に しゃがれた コエ だった。 が、 その コエガワリ の して いる らしい ショウジョ の コエ は、 かえって ワタシ を フシギ に ミワク した。
 コンド は ワタシ が シツモン する バン だった。 ワタシ は サッキ から のぞきこんで いた ビク を ゆびさしながら、 おずおず と、 その ちいさな サカナ は なんと いう サカナ か と たずねた。
「ふふふ……」
 ショウジョ は さも おかしくって たまらない よう に わらった。 それ に つれて、 ホカ の ショウジョ たち も どっと わらった。 よほど ワタシ の トイカタ が おかしかった もの と みえる。 ワタシ は おもわず カオ を あからめた。 その とき ワタシ は、 サイグサ の カオ にも、 ちらり と イジワル そう な ビショウ の うかんだ の を みとめた。
 ワタシ は とつぜん、 カレ に イッシュ の テキイ の よう な もの を かんじだした。

 ワタシタチ は だまりあって、 その ムラハズレ に ある と いう ノリアイ バシャ の ハッチャクジョ へ むかった。 そこ へ ついて から も バシャ は なかなか こなかった。 その うち に アメ が ふって きた。
 すいて いた バシャ の ナカ でも、 ワタシタチ は ほとんど ムゴン だった。 そして たがいに アイテ を フキゲン に させあって いた。 ユウガタ、 やっと キリ の よう な アメ の ナカ を、 ヤドヤ の ある と いう ある カイガンマチ に ついた。 そこ の ヤドヤ も ゼンジツ の うすぎたない ヤドヤ に にて いた。 おなじ よう な カイソウ の かすか な カオリ、 おなじ よう な ランプ の ホノアカリ が、 わずか に ワタシタチ の ナカ に ゼンヤ の ワタシタチ を よみがえらせた。 ワタシタチ は ようやく うちとけだした。 ワタシタチ は ワタシタチ の フキゲン を、 タビサキ で アクテンコウ ばかり を キ に して いる せい に しよう と した。 そして シマイ に ワタシ は、 アス キシャ の でる マチ まで バシャ で イッチョクセン に いって、 ひとまず トウキョウ に かえろう では ない か と いいだした。 カレ も しかたなさそう に それ に ドウイ した。
 その ヨル は つかれて いた ので、 ワタシタチ は すぐに ねいった。 ……アケガタ ちかく、 ワタシ は ふと メ を さました。 サイグサ は ワタシ の ほう に セナカ を むけて ねむって いた。 ワタシ は ネマキ の ウエ から その セボネ の ちいさな トッキ を たしかめる と、 サクヤ の よう に それ を そっと なでて みた。 ワタシ は そんな こと を しながら、 ふと キノウ ハシ の ウエ で みかけた、 ビク を さげた ショウジョ の うつくしい メツキ を おもいうかべた。 その イヨウ な コエ は まだ ワタシ の ミミ に ついて いた。 サイグサ が かすか に ハギシリ を した。 ワタシ は それ を ききながら、 また うとうと と ねむりだした……
 ヨクジツ も アメ が ふって いた。 それ は キノウ より いっそう キリ に にて いた。 それ が ワタシタチ に リョコウ を チュウシ する こと を イヤオウ なく ケッシン させた。
 アメ の ナカ を さわがしい ヒビキ を たてて はしって ゆく ノリアイ バシャ の ナカ で、 それから ワタシタチ の のりこんだ サントウ キャクシャ の コンザツ の ナカ で、 ワタシタチ は できる だけ アイテ を くるしめまい と ドリョク しあって いた。 それ は もはや アイ の キュウシフ だ。 そして ワタシ は なぜかしら サイグサ には もう これっきり あえぬ よう に かんじて いた。 カレ は ナンド も ワタシ の テ を にぎった。 ワタシ は ワタシ の テ を カレ の ジユウ に させて いた。 しかし ワタシ の ミミ は、 ときどき、 どこ から とも なく、 ちぎれちぎれ に なって とんで くる、 レイ の ショウジョ の イヨウ な コエ ばかり きいて いた。
 ワカレ の とき は もっとも かなしかった。 ワタシ は、 ジブン の イエ へ かえる には その ほう が ベンリ な コウガイ デンシャ に のりかえる ため に、 ある トチュウ の エキ で キシャ から おりた。 ワタシ は コンザツ した プラットフォーム の ウエ を あるきだしながら、 ナンド も ふりかえって キシャ の ナカ に いる カレ の ほう を みた。 カレ は アメ で ぐっしょり ぬれた ガラスマド に カオ を くっつけて、 ワタシ の ほう を よく みよう と しながら、 かえって ジブン の コキュウ で その ガラス を しろく くもらせ、 そして ますます ワタシ の ほう を みえなく させて いた。

     ⁂

 8 ガツ に なる と、 ワタシ は ワタシ の チチ と イッショ に シンシュウ の ある コハン へ リョコウ した。 そして ワタシ は ソノゴ、 サイグサ には あわなかった。 カレ は しばしば、 その コハン に タイザイチュウ の ワタシ に、 まるで ラヴ レター の よう な テガミ を よこした。 しかし ワタシ は だんだん それ に ヘンジ を ださなく なった。 すでに ショウジョ ら の イヨウ な コエ が ワタシ の アイ を かえて いた。 ワタシ は カレ の サイキン の テガミ に よって カレ が ビョウキ に なった こと を しった。 セキツイ カリエス が サイハツ した らしかった。 が、 それ にも ワタシ は ついに テガミ を ださず に しまった。
 アキ の シンガッキ に なった。 コハン から かえって くる と、 ワタシ は ふたたび キシュクシャ に うつった。 しかし そこ では スベテ が かわって いた。 サイグサ は どこ か の カイガン へ テンチ して いた。 ウオズミ は もはや ワタシ を クウキ を みる よう に しか みなかった。 ……フユ に なった。 ある ウスゴオリ の はって いる アサ、 ワタシ は コウナイ の ケイジバン に サイグサ の シ が ほうじられて ある の を みいだした。 ワタシ は それ を ミチ の ヒト でも ある か の よう に、 ぼんやり と みつめて いた。

     ⁂

 それから スウネン が すぎた。
 その スウネン の アイダ に ワタシ は ときどき その キシュクシャ の こと を おもいだした。 そして ワタシ は そこ に、 ワタシ の ショウネンジ の うつくしい ヒフ を、 ちょうど カンボク の エダ に ひっかかって いる ヘビ の トウメイ な カワ の よう に、 オシゲ も なく ぬいで きた よう な キ が して ならなかった。 ――そして その スウネン の アイダ に、 ワタシ は まあ なんと オオク の イヨウ な コエ を した ショウジョ ら に であった こと か! が、 それら の ショウジョ ら は ヒトリ と して ワタシ を くるしめない モノ は なく、 それに ワタシ は カノジョ ら の ため に くるしむ こと を あまり にも あいして いた ので、 その ため に ワタシ は とうとう トリカエシ の つかない ダゲキ を うけた。
 ワタシ は はげしい カッケツゴ、 かつて ワタシ の チチ と リョコウ した こと の ある おおきな コハン に ちかい、 ある コウゲン の サナトリウム に いれられた。 イシャ は ワタシ を ハイケッカク だ と シンダン した。 が、 そんな こと は どうでも いい。 ただ バラ が ほろり と その ハナビラ を おとす よう に、 ワタシ も また、 ワタシ の バライロ の ホオ を エイキュウ に うしなった まで の こと だ。
 ワタシ の いれられた その サナトリウム の 「シラカバ」 と いう ビョウトウ には、 ワタシ の ホカ には ヒトリ の 15~16 の ショウネン しか シュウヨウ されて いなかった。
 その ショウネン は セキツイ カリエス カンジャ だった が、 もう すっかり カイフクキ に あって、 マイニチ スウ-ジカン ずつ ヴェランダ に でて は、 せっせと ニッコウヨク を やって いた。 ワタシ が ワタシ の ベッド に ネタキリ で おきられない こと を しる と、 その ショウネン は ときどき ワタシ の ビョウシツ に ミマイ に くる よう に なった。 ある とき、 ワタシ は その ショウネン の ヒ に くろく やけた、 そして クチビル だけ が ほのか に あかい イロ を して いる ホソオモテ の カオ の シタ から、 しんだ サイグサ の カオ が スカシ の よう に あらわれて いる の に キ が ついた。 その とき から、 ワタシ は なるべく その ショウネン の カオ を みない よう に した。
 ある アサ、 ワタシ は ふと ベッド から おきあがって、 こわごわ ヒトリ で、 マドギワ まで あるいて いって みたい キ に なった。 それほど それ は キモチ の いい アサ だった。 ワタシ は その とき ジブン の ビョウシツ の マド から、 ムコウ の ヴェランダ に、 その ショウネン が サルマタ も はかず に スッパダカ に なって ニッコウヨク を して いる の を みつけた。 カレ は すこし マエコゴミ に なりながら、 ジブン の カラダ の ある ブブン を じっと みいって いた。 カレ は ダレ にも みられて いない と しんじて いる らしかった。 ワタシ の シンゾウ は はげしく うった。 そして それ を もっと よく みよう と して、 キンガン の ワタシ が メ を ほそく して みる と、 カレ の マックロ な セナカ にも、 サイグサ の と おなじ よう な トクユウ な トッキ の ある らしい の が、 ワタシ の メ に はいった。
 ワタシ は フイ に メマイ を かんじながら、 やっと の こと で ベッド まで かえり、 そして その ウエ へ ウツブセ に なった。

 ショウネン は スウジツ-ゴ、 カレ が ワタシ に あたえた おおきな ダゲキ に ついて は すこしも キ が つかず に、 タイイン した。

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