カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ヨダカ の ホシ

2013-06-21 | ミヤザワ ケンジ
 ヨダカ の ホシ

 ミヤザワ ケンジ

 ヨダカ は、 じつに みにくい トリ です。
 カオ は、 ところどころ、 ミソ を つけた よう に マダラ で、 クチバシ は、 ひらたくて、 ミミ まで さけて います。
 アシ は、 まるで よぼよぼ で、 1 ケン とも あるけません。
 ホカ の トリ は、 もう、 ヨダカ の カオ を みた だけ でも、 いや に なって しまう と いう グアイ でした。
 たとえば、 ヒバリ も、 あまり うつくしい トリ では ありません が、 ヨダカ より は、 ずっと ウエ だ と おもって いました ので、 ユウガタ など、 ヨダカ に あう と、 さもさも いや そう に、 しんねり と メ を つぶりながら、 クビ を ソッポ へ むける の でした。 もっと ちいさな オシャベリ の トリ など は、 いつでも ヨダカ の マッコウ から ワルクチ を しました。
「へん。 また でて きた ね。 まあ、 あの ザマ を ごらん。 ホントウ に、 トリ の ナカマ の ツラヨゴシ だよ」
「ね、 まあ、 あの クチ の おおきい こと さ。 きっと、 カエル の シンルイ か ナニ か なん だよ」
 こんな チョウシ です。 おお、 ヨダカ で ない タダ の タカ ならば、 こんな ナマハンカ の ちいさい トリ は、 もう ナマエ を きいた だけ でも、 ぶるぶる ふるえて、 カオイロ を かえて、 カラダ を ちぢめて、 コノハ の カゲ に でも かくれた でしょう。 ところが ヨダカ は、 ホントウ は タカ の キョウダイ でも シンルイ でも ありません でした。 かえって、 ヨダカ は、 あの うつくしい カワセミ や、 トリ の ナカ の ホウセキ の よう な ハチスズメ の ニイサン でした。 ハチスズメ は ハナ の ミツ を たべ、 カワセミ は オサカナ を たべ、 ヨダカ は ハムシ を とって たべる の でした。 それに ヨダカ には、 するどい ツメ も するどい クチバシ も ありません でした から、 どんな に よわい トリ でも、 ヨダカ を こわがる はず は なかった の です。
 それなら、 タカ と いう ナ の ついた こと は フシギ な よう です が、 これ は、 ヒトツ は ヨダカ の ハネ が むやみ に つよくて、 カゼ を きって かける とき など は、 まるで タカ の よう に みえた こと と、 も ヒトツ は ナキゴエ が するどくて、 やはり どこ か タカ に にて いた ため です。 もちろん、 タカ は、 これ を ヒジョウ に キ に かけて、 いやがって いました。 それ です から、 ヨダカ の カオ さえ みる と、 カタ を いからせて、 はやく ナマエ を あらためろ、 ナマエ を あらためろ と、 いう の でした。
 ある ユウガタ、 とうとう、 タカ が ヨダカ の ウチ へ やって まいりました。
「おい、 いる かい。 まだ オマエ は ナマエ を かえない の か。 ずいぶん オマエ も ハジシラズ だな。 オマエ と オレ では、 よっぽど ジンカク が ちがう ん だよ。 たとえば オレ は、 あおい ソラ を どこ まで でも とんで いく。 オマエ は、 くもって うすぐらい ヒ か、 ヨル で なくちゃ、 でて こない。 それから、 オレ の クチバシ や ツメ を みろ。 そして、 よく オマエ の と くらべて みる が いい」
「タカ さん。 それ は あんまり ムリ です。 ワタシ の ナマエ は ワタシ が カッテ に つけた の では ありません。 カミサマ から くださった の です」
「いいや。 オレ の ナ なら、 カミサマ から もらった の だ と いって も よかろう が、 オマエ の は、 いわば、 オレ と ヨル と、 リョウホウ から かりて ある ん だ。 さあ かえせ」
「タカ さん。 それ は ムリ です」
「ムリ じゃ ない。 オレ が いい ナ を おしえて やろう。 イチゾウ と いう ん だ。 イチゾウ と な。 いい ナ だろう。 そこで、 ナマエ を かえる には、 カイメイ の ヒロウ と いう もの を しない と いけない。 いい か。 それ は な、 クビ へ イチゾウ と かいた フダ を ぶらさげて、 ワタシ は イライ イチゾウ と もうします と、 コウジョウ を いって、 ミンナ の ところ を オジギ して まわる の だ」
「そんな こと は とても できません」
「いいや。 できる。 そう しろ。 もし アサッテ の アサ まで に、 オマエ が そう しなかったら、 もう すぐ、 つかみころす ぞ。 つかみころして しまう から、 そう おもえ。 オレ は アサッテ の アサ はやく、 トリ の ウチ を 1 ケン ずつ まわって、 オマエ が きた か どう か を きいて あるく。 1 ケン でも こなかった と いう ウチ が あったら、 もう キサマ も その とき が オシマイ だぞ」
「だって それ は あんまり ムリ じゃ ありません か。 そんな こと を する くらい なら、 ワタシ は もう しんだ ほう が まし です。 イマ すぐ ころして ください」
「まあ、 よく、 アト で かんがえて ごらん。 イチゾウ なんて そんな に わるい ナ じゃ ない よ」 タカ は おおきな ハネ を いっぱい に ひろげて、 ジブン の ス の ほう へ とんで かえって いきました。
 ヨダカ は、 じっと メ を つぶって かんがえました。
(いったい ボク は、 なぜ こう ミンナ に いやがられる の だろう。 ボク の カオ は、 ミソ を つけた よう で、 クチ は さけてる から なあ。 それだって、 ボク は イマ まで、 なんにも わるい こと を した こと が ない。 アカンボウ の メジロ が ス から おちて いた とき は、 たすけて ス へ つれて いって やった。 そしたら メジロ は、 アカンボウ を まるで ヌスビト から でも とりかえす よう に ボク から ひきはなした ん だなあ。 それから ひどく ボク を わらったっけ。 それに ああ、 コンド は イチゾウ だ なんて、 クビ へ フダ を かける なんて、 つらい ハナシ だなあ。)
 アタリ は、 もう うすくらく なって いました。 ヨダカ は ス から とびだしました。 クモ が いじわるく ひかって、 ひくく たれて います。 ヨダカ は まるで クモ と スレスレ に なって、 オト なく ソラ を とびまわりました。
 それから にわか に ヨダカ は クチ を おおきく ひらいて、 ハネ を マッスグ に はって、 まるで ヤ の よう に ソラ を よこぎりました。 ちいさな ハムシ が イクヒキ も イクヒキ も その ノド に はいりました。
 カラダ が ツチ に つく か つかない うち に、 ヨダカ は ひらり と また ソラ へ はねあがりました。 もう クモ は ネズミイロ に なり、 ムコウ の ヤマ には ヤマヤケ の ヒ が マッカ です。
 ヨダカ が おもいきって とぶ とき は、 ソラ が まるで フタツ に きれた よう に おもわれます。 1 ピキ の カブトムシ が、 ヨダカ の ノド に はいって、 ひどく もがきました。 ヨダカ は すぐ それ を のみこみました が、 その とき なんだか セナカ が ぞっと した よう に おもいました。
 クモ は もう まっくろく、 ヒガシ の ほう だけ ヤマヤケ の ヒ が あかく うつって、 おそろしい よう です。 ヨダカ は ムネ が つかえた よう に おもいながら、 また ソラ へ のぼりました。
 また 1 ピキ の カブトムシ が、 ヨダカ の ノド に、 はいりました。 そして まるで ヨダカ の ノド を ひっかいて ばたばた しました。 ヨダカ は それ を ムリ に のみこんで しまいました が、 その とき、 キュウ に ムネ が どきっと して、 ヨダカ は オオゴエ を あげて なきだしました。 なきながら ぐるぐる ぐるぐる ソラ を めぐった の です。
(ああ、 カブトムシ や、 タクサン の ハムシ が、 マイバン ボク に ころされる。 そして その ただ ヒトツ の ボク が コンド は タカ に ころされる。 それ が こんな に つらい の だ。 ああ、 つらい、 つらい。 ボク は もう ムシ を たべない で うえて しのう。 いや その マエ に もう タカ が ボク を ころす だろう。 いや、 その マエ に、 ボク は トオク の トオク の ソラ の ムコウ に いって しまおう。)
 ヤマヤケ の ヒ は、 だんだん ミズ の よう に ながれて ひろがり、 クモ も あかく もえて いる よう です。
 ヨダカ は マッスグ に、 オトウト の カワセミ の ところ へ とんで いきました。 きれい な カワセミ も、 ちょうど おきて トオク の ヤマカジ を みて いた ところ でした。 そして ヨダカ の おりて きた の を みて いいました。
「ニイサン。 こんばんわ。 ナニ か キュウ の ゴヨウ です か」
「いいや、 ボク は コンド とおい ところ へ いく から ね、 その マエ ちょっと オマエ に あい に きた よ」
「ニイサン。 いっちゃ いけません よ。 ハチスズメ も あんな トオク に いる ん です し、 ボク ヒトリボッチ に なって しまう じゃ ありません か」
「それ は ね。 どうも しかたない の だ。 もう キョウ は なにも いわない で くれ。 そして オマエ も ね、 どうしても とらなければ ならない とき の ホカ は いたずらに オサカナ を とったり しない よう に して くれ。 ね、 さよなら」
「ニイサン。 どうした ん です。 まあ もう ちょっと おまちなさい」
「いや、 いつまで いて も おんなじ だ。 ハチスズメ へ、 アト で よろしく いって やって くれ。 さよなら。 もう あわない よ。 さよなら」
 ヨダカ は なきながら ジブン の オウチ へ かえって まいりました。 みじかい ナツ の ヨ は もう あけかかって いました。
 シダ の ハ は、 ヨアケ の キリ を すって、 あおく つめたく ゆれました。 ヨダカ は たかく きし きし きし と なきました。 そして ス の ナカ を きちんと かたづけ、 きれい に カラダジュウ の ハネ や ケ を そろえて、 また ス から とびだしました。
 キリ が はれて、 オヒサマ が ちょうど ヒガシ から のぼりました。 ヨダカ は ぐらぐら する ほど まぶしい の を こらえて、 ヤ の よう に、 そっち へ とんで いきました。
「オヒサン、 オヒサン。 どうぞ ワタシ を アナタ の ところ へ つれてって ください。 やけて しんで も かまいません。 ワタシ の よう な みにくい カラダ でも やける とき には ちいさな ヒカリ を だす でしょう。 どうか ワタシ を つれてって ください」
 いって も いって も、 オヒサマ は ちかく なりません でした。 かえって だんだん ちいさく とおく なりながら オヒサマ が いいました。
「オマエ は ヨダカ だな。 なるほど、 ずいぶん つらかろう。 コンヤ ソラ を とんで、 ホシ に そう たのんで ごらん。 オマエ は ヒル の トリ では ない の だ から な」
 ヨダカ は オジギ を ヒトツ した と おもいました が、 キュウ に ぐらぐら して とうとう ノハラ の クサ の ウエ に おちて しまいました。 そして まるで ユメ を みて いる よう でした。 カラダ が ずうっと アカ や キ の ホシ の アイダ を のぼって いったり、 どこまでも カゼ に とばされたり、 また タカ が きて カラダ を つかんだり した よう でした。
 つめたい もの が にわか に カオ に おちました。 ヨダカ は メ を ひらきました。 1 ポン の わかい ススキ の ハ から ツユ が したたった の でした。 もう すっかり ヨル に なって、 ソラ は あおぐろく、 イチメン の ホシ が またたいて いました。 ヨダカ は ソラ へ とびあがりました。 コンヤ も ヤマヤケ の ヒ は マッカ です。 ヨダカ は その ヒ の かすか な テリ と、 つめたい ホシアカリ の ナカ を とびめぐりました。 それから もう イッペン とびめぐりました。 そして おもいきって ニシ の ソラ の あの うつくしい オリオン の ホシ の ほう に、 マッスグ に とびながら さけびました。
「オホシサン。 ニシ の あおじろい オホシサン。 どうか ワタシ を アナタ の ところ へ つれてって ください。 やけて しんで も かまいません」
 オリオン は いさましい ウタ を つづけながら ヨダカ など は てんで アイテ に しません でした。 ヨダカ は なきそう に なって、 よろよろ と おちて、 それから やっと ふみとまって、 もう イッペン とびめぐりました。 それから、 ミナミ の オオイヌ-ザ の ほう へ マッスグ に とびながら さけびました。
「オホシサン。 ミナミ の あおい オホシサン。 どうか ワタシ を アナタ の ところ へ つれてって ください。 やけて しんで も かまいません」
 オオイヌ は アオ や ムラサキ や キ や うつくしく せわしく またたきながら いいました。
「バカ を いうな。 オマエ なんか いったい どんな もの だい。 たかが トリ じゃ ない か。 オマエ の ハネ で ここ まで くる には、 オクネン チョウネン オクチョウネン だ」 そして また ベツ の ほう を むきました。
 ヨダカ は がっかり して、 よろよろ おちて、 それから また 2 ヘン とびめぐりました。 それから また おもいきって キタ の オオグマボシ の ほう へ マッスグ に とびながら さけびました。
「キタ の あおい オホシサマ、 アナタ の ところ へ どうか ワタシ を つれてって ください」
 オオグマボシ は しずか に いいました。
「ヨケイ な こと を かんがえる もの では ない。 すこし アタマ を ひやして きなさい。 そういう とき は、 ヒョウザン の ういて いる ウミ の ナカ へ とびこむ か、 チカク に ウミ が なかったら、 コオリ を うかべた コップ の ミズ の ナカ へ とびこむ の が イットウ だ」
 ヨダカ は がっかり して、 よろよろ おちて、 それから また、 4 ヘン ソラ を めぐりました。 そして もう イチド、 ヒガシ から イマ のぼった アマノガワ の ムコウギシ の ワシ の ホシ に さけびました。
「ヒガシ の しろい オホシサマ、 どうか ワタシ を アナタ の ところ へ つれてって ください。 やけて しんで も かまいません」
 ワシ は オオフウ に いいました。
「いいや、 とても とても、 ハナシ にも なんにも ならん。 ホシ に なる には、 それ ソウオウ の ミブン で なくちゃ いかん。 また よほど カネ も いる の だ」
 ヨダカ は もう すっかり チカラ を おとして しまって、 ハネ を とじて、 チ に おちて いきました。 そして もう 1 シャク で ジメン に その よわい アシ が つく と いう とき、 ヨダカ は にわか に ノロシ の よう に ソラ へ とびあがりました。 ソラ の ナカホド へ きて、 ヨダカ は まるで ワシ が クマ を おそう とき する よう に、 ぶるっと カラダ を ゆすって ケ を さかだてました。
 それから きし きし きし きし きしっ と たかく たかく さけびました。 その コエ は まるで タカ でした。 ノハラ や ハヤシ に ねむって いた ホカ の トリ は、 みんな メ を さまして、 ぶるぶる ふるえながら、 いぶかしそう に ホシゾラ を みあげました。
 ヨダカ は、 どこまでも、 どこまでも、 マッスグ に ソラ へ のぼって いきました。 もう ヤマヤケ の ヒ は タバコ の スイガラ の くらい に しか みえません。 ヨダカ は のぼって のぼって いきました。
 サムサ に イキ は ムネ に しろく こおりました。 クウキ が うすく なった ため に、 ハネ を それ は それ は せわしく うごかさなければ なりません でした。
 それだのに、 ホシ の オオキサ は、 サッキ と すこしも かわりません。 つく イキ は フイゴ の よう です。 サムサ や シモ が まるで ケン の よう に ヨダカ を さしました。 ヨダカ は ハネ が すっかり しびれて しまいました。 そして なみだぐんだ メ を あげて もう イッペン ソラ を みました。 そう です。 これ が ヨダカ の サイゴ でした。 もう ヨダカ は おちて いる の か、 のぼって いる の か、 サカサ に なって いる の か、 ウエ を むいて いる の か も、 わかりません でした。 ただ ココロモチ は やすらか に、 その チ の ついた おおきな クチバシ は、 ヨコ に まがって は いました が、 たしか に すこし わらって おりました。
 それから しばらく たって ヨダカ は はっきり マナコ を ひらきました。 そして ジブン の カラダ が イマ リン の ヒ の よう な あおい うつくしい ヒカリ に なって、 しずか に もえて いる の を みました。
 すぐ トナリ は、 カシオピア-ザ でした。 アマノガワ の あおじろい ヒカリ が、 すぐ ウシロ に なって いました。
 そして ヨダカ の ホシ は もえつづけました。 いつまでも いつまでも もえつづけました。
 イマ でも まだ もえて います。

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