カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

グスコー ブドリ の デンキ 1

2016-12-21 | ミヤザワ ケンジ
 グスコー ブドリ の デンキ

 ミヤザワ ケンジ

 1、 モリ

 グスコー ブドリ は、 イーハトーブ の おおきな モリ の ナカ に うまれました。 オトウサン は、 グスコー ナドリ と いう なだかい キコリ で、 どんな おおきな キ でも、 まるで アカンボウ を ねかしつける よう に わけなく きって しまう ヒト でした。
 ブドリ には ネリ と いう イモウト が あって、 フタリ は マイニチ モリ で あそびました。 ごしっごしっ と オトウサン の キ を ひく オト が、 やっと きこえる くらい な トオク へも いきました。 フタリ は そこ で キイチゴ の ミ を とって ワキミズ に つけたり、 ソラ を むいて かわるがわる ヤマバト の なく マネ を したり しました。 すると あちら でも こちら でも、 ぽう、 ぽう、 と トリ が ねむそう に なきだす の でした。
 オカアサン が、 ウチ の マエ の ちいさな ハタケ に ムギ を まいて いる とき は、 フタリ は ミチ に ムシロ を しいて すわって、 ブリキカン で ラン の ハナ を にたり しました。 すると コンド は、 もう イロイロ の トリ が、 フタリ の ぱさぱさ した アタマ の ウエ を、 まるで アイサツ する よう に なきながら ざあざあ ざあざあ とおりすぎる の でした。
 ブドリ が ガッコウ へ いく よう に なります と、 モリ は ヒル の アイダ たいへん さびしく なりました。 そのかわり ヒルスギ には、 ブドリ は ネリ と イッショ に、 モリジュウ の キ の ミキ に、 あかい ネンド や ケシズミ で、 キ の ナ を かいて あるいたり、 たかく うたったり しました。
 ホップ の ツル が、 リョウホウ から のびて、 モン の よう に なって いる シラカバ の キ には、
「カッコウドリ、 とおる べからず」 と かいたり も しました。
 そして、 ブドリ は トオ に なり、 ネリ は ナナツ に なりました。 ところが どういう ワケ です か、 その トシ は、 オヒサマ が ハル から へんに しろくて、 イツモ なら ユキ が とける と まもなく、 マッシロ な ハナ を つける コブシ の キ も まるで さかず、 5 ガツ に なって も たびたび ミゾレ が ぐしゃぐしゃ ふり、 7 ガツ の スエ に なって も いっこう に アツサ が こない ため に、 キョネン まいた ムギ も ツブ の はいらない しろい ホ しか できず、 タイテイ の クダモノ も、 ハナ が さいた だけ で おちて しまった の でした。
 そして とうとう アキ に なりました が、 やっぱり クリ の キ は あおい カラ の イガ ばかり でした し、 ミンナ で ふだん たべる いちばん タイセツ な オリザ と いう コクモツ も、 ヒトツブ も できません でした。 ノハラ では もう ひどい サワギ に なって しまいました。
 ブドリ の オトウサン も オカアサン も、 たびたび タキギ を ノハラ の ほう へ もって いったり、 フユ に なって から は ナンベン も おおきな キ を マチ へ ソリ で はこんだり した の でした が、 いつも がっかり した よう に して、 わずか の ムギ の コ など もって かえって くる の でした。 それでも どうにか その フユ は すぎて ツギ の ハル に なり、 ハタケ には タイセツ に しまって おいた タネ も まかれました が、 その トシ も また すっかり マエ の トシ の とおり でした。 そして アキ に なる と、 とうとう ホントウ の キキン に なって しまいました。 もう その コロ は ガッコウ へ くる コドモ も まるで ありません でした。 ブドリ の オトウサン も オカアサン も、 すっかり シゴト を やめて いました。 そして たびたび シンパイ そう に ソウダン して は、 かわるがわる マチ へ でて いって、 やっと すこし ばかり の キビ の ツブ など もって かえる こと も あれば、 なんにも もたず に カオイロ を わるく して かえって くる こと も ありました。 そして ミンナ は、 コナラ の ミ や、 クズ や ワラビ の ネ や、 キ の やわらか な カワ や いろんな もの を たべて、 その フユ を すごしました。 けれども ハル が きた コロ は、 オトウサン も オカアサン も、 ナニ か ひどい ビョウキ の よう でした。
 ある ヒ オトウサン は、 じっと アタマ を かかえて、 いつまでも いつまでも かんがえて いました が、 にわか に おきあがって、
「オレ は モリ へ いって あそんで くる ぞ」 と いいながら、 よろよろ ウチ を でて いきました が、 マックラ に なって も かえって きません でした。 フタリ が オカアサン に オトウサン は どう したろう と きいて も、 オカアサン は だまって フタリ の カオ を みて いる ばかり でした。
 ツギ の ヒ の バンガタ に なって、 モリ が もう くろく みえる コロ、 オカアサン は にわか に たって、 ロ に ホダ を たくさん くべて ウチジュウ すっかり あかるく しました。 それから、 ワタシ は オトウサン を さがし に いく から、 オマエタチ は ウチ に いて あの トダナ に ある コナ を フタリ で すこし ずつ たべなさい と いって、 やっぱり よろよろ ウチ を でて いきました。 フタリ が ないて アト から おって いきます と、 オカアサン は ふりむいて、
「なんたら いう こと を きかない コドモ ら だ」 と しかる よう に いいました。 そして まるで アシバヤ に、 つまずきながら モリ へ はいって しまいました。 フタリ は ナンベン も いったり きたり して、 そこら を ないて まわりました。 とうとう こらえきれなく なって、 マックラ な モリ の ナカ へ はいって、 いつか の ホップ の モン の アタリ や、 ワキミズ の ある アタリ を あちこち うろうろ あるきながら、 オカアサン を ヒトバン よびました。 モリ の キ の アイダ から は、 ホシ が ちらちら ナニ か いう よう に ひかり、 トリ は たびたび おどろいた よう に ヤミ の ナカ を とびました けれども、 どこ から も ヒト の コエ は しません でした。 とうとう フタリ は ぼんやり ウチ へ かえって ナカ へ はいります と、 まるで しんだ よう に ねむって しまいました。
 ブドリ が メ を さました の は、 その ヒ の ヒルスギ でした。 オカアサン の いった コナ の こと を おもいだして トダナ を あけて みます と、 ナカ には、 フクロ に いれた ソバコ や コナラ の ミ が まだ たくさん はいって いました。 ブドリ は ネリ を ゆりおこして フタリ で その コナ を なめ、 オトウサン たち が いた とき の よう に ロ に ヒ を たきました。
 それから、 ハツカ ばかり ぼんやり すぎましたら、 ある ヒ トグチ で、
「こんにちわ、 ダレ か いる かね」 と いう モノ が ありました。 オトウサン が かえって きた の か と おもって ブドリ が はねだして みます と、 それ は カゴ を しょった メ の するどい オトコ でした。 その オトコ は カゴ の ナカ から まるい モチ を とりだして ぽんと なげながら いいました。
「ワタシ は この チホウ の キキン を たすけ に きた モノ だ。 さあ なんでも たべなさい」 フタリ は しばらく あきれて いましたら、
「さあ たべる ん だ、 たべる ん だ」 と また いいました。 フタリ が こわごわ たべはじめます と、 オトコ は じっと みて いました が、
「オマエタチ は いい コドモ だ。 けれども いい コドモ だ と いう だけ では なんにも ならん。 ワシ と イッショ に ついて おいで。 もっとも オトコ の コ は つよい し、 ワシ も フタリ は つれて いけない。 おい オンナ の コ、 オマエ は ここ に いて も、 もう たべる もの が ない ん だ。 オジサン と イッショ に マチ へ いこう。 マイニチ パン を たべさして やる よ」
 そして ぷいっと ネリ を だきあげて、 セナカ の カゴ へ いれて、 そのまま 「おお ほいほい。 おお ほいほい」 と どなりながら、 カゼ の よう に ウチ を でて いきました。
 ネリ は オモテ で はじめて わっと なきだし、 ブドリ は、 「ドロボウ、 ドロボウ」 と なきながら さけんで おいかけました が、 オトコ は もう モリ の ヨコ を とおって ずうっと ムコウ の クサハラ を はしって いて、 そこ から ネリ の ナキゴエ が、 かすか に ふるえて きこえる だけ でした。
 ブドリ は、 ないて どなって モリ の ハズレ まで おいかけて いきました が、 とうとう つかれて ばったり たおれて しまいました。

 2、 テグス コウジョウ

 ブドリ が ふっと メ を ひらいた とき、 いきなり アタマ の ウエ で、 いやに ひらべったい コエ が しました。
「やっと メ が さめた な。 まだ オマエ は キキン の つもり かい。 おきて オレ に てつだわない か」
 みる と それ は チャイロ な キノコ シャッポ を かぶって ガイトウ に すぐ シャツ を きた オトコ で、 ナニ か ハリガネ で こさえた もの を ぶらぶら もって いる の でした。
「もう キキン は すぎた の? てつだえ って ナニ を てつだう の?」 ブドリ が ききました。
「アミカケ さ」
「ここ へ アミ を かける の?」
「かける のさ」
「アミ を かけて ナニ に する の?」
「テグス を かう のさ」
 みる と すぐ ブドリ の マエ の クリ の キ に、 フタリ の オトコ が ハシゴ を かけて のぼって いて、 イッショウ ケンメイ ナニ か アミ を なげたり、 それ を くったり して いる よう でした が、 アミ も イト も いっこう みえません でした。
「あれ で テグス が かえる の?」
「かえる のさ。 うるさい コドモ だな。 おい、 エンギ でも ない ぞ。 テグス も かえない ところ に どうして コウバ なんか たてる ん だ。 かえる とも さ。 げんに オレ ハジメ タクサン の モノ が、 それ で クラシ を たてて いる ん だ」
 ブドリ は かすれた コエ で、 やっと、 「そう です か」 と いいました。
「それに この モリ は、 すっかり オレ が かって ある ん だ から、 ここ で てつだう なら いい が、 そう でも なければ どこ か へ いって もらいたい な。 もっとも オマエ は どこ へ いったって くう もの も なかろう ぜ」
 ブドリ は なきだしそう に なりました が、 やっと こらえて いいました。
「そんなら てつだう よ。 けれども どうして アミ を かける の?」
「それ は もちろん おしえて やる。 こいつ を ね」 オトコ は テ に もった ハリガネ の カゴ の よう な もの を リョウテ で ひきのばしました。
「いい か。 こういう グアイ に やる と ハシゴ に なる ん だ」 オトコ は オオマタ に ミギテ の クリ の キ に あるいて いって、 シタ の エダ に ひっかけました。
「さあ、 コンド は オマエ が、 この アミ を もって ウエ へ のぼって いく ん だ。 さあ、 のぼって ごらん」
 オトコ は ヘン な マリ の よう な もの を ブドリ に わたしました。 ブドリ は しかたなく それ を もって ハシゴ に とりついて のぼって いきました が、 ハシゴ の ダンダン が まるで ほそくて テ や アシ に くいこんで ちぎれて しまいそう でした。
「もっと のぼる ん だ。 もっと、 もっと さ。 そしたら サッキ の マリ を なげて ごらん。 クリ の キ を こす よう に さ。 そいつ を ソラ へ なげる ん だよ。 ナン だい、 ふるえてる の かい。 イクジナシ だなあ。 なげる ん だよ。 なげる ん だよ。 そら、 なげる ん だよ」
 ブドリ は しかたなく ちからいっぱい に それ を アオゾラ に なげた と おもいましたら、 にわか に オヒサマ が マックロ に みえて サカサマ に シタ へ おちました。 そして いつか、 その オトコ に うけとめられて いた の でした。 オトコ は ブドリ を ジメン に おろしながら ぶりぶり おこりだしました。
「オマエ も イクジ の ない ヤツ だ。 なんと いう ふにゃふにゃ だ。 オレ が うけとめて やらなかったら オマエ は イマゴロ は アタマ が はじけて いたろう。 オレ は オマエ の イノチ の オンジン だぞ。 これから は、 シツレイ な こと を いって は ならん。 ところで、 さあ、 コンド は あっち の キ へ のぼれ。 もすこし たったら ゴハン も たべさせて やる よ」
 オトコ は また ブドリ へ あたらしい マリ を わたしました。 ブドリ は ハシゴ を もって ツギ の キ へ いって マリ を なげました。
「よし、 なかなか ジョウズ に なった。 さあ マリ は たくさん ある ぞ。 なまけるな。 キ も クリ の キ なら どれ でも いい ん だ」
 オトコ は ポケット から、 マリ を トオ ばかり だして ブドリ に わたす と、 すたすた ムコウ へ いって しまいました。 ブドリ は また ミッツ ばかり それ を なげました が、 どうしても イキ が はあはあ して、 カラダ が だるくて たまらなく なりました。 もう ウチ へ かえろう と おもって、 そっち へ いって みます と、 おどろいた こと には、 ウチ には いつか あかい ドカン の エントツ が ついて、 トグチ には、 「イーハトーブ テグス コウジョウ」 と いう カンバン が かかって いる の でした。 そして ナカ から タバコ を ふかしながら、 サッキ の オトコ が でて きました。
「さあ コドモ、 タベモノ を もって きて やった ぞ。 これ を たべて くらく ならない うち に もうすこし かせぐ ん だ」
「ボク は もう いや だよ。 ウチ へ かえる よ」
「ウチ って いう の は あすこ か。 あすこ は オマエ の ウチ じゃ ない。 オレ の テグス コウバ だよ。 あの ウチ も この ヘン の モリ も みんな オレ が かって ある ん だ から な」
 ブドリ は もう ヤケ に なって、 だまって その オトコ の よこした ムシパン を むしゃむしゃ たべて、 また マリ を トオ ばかり なげました。
 その バン ブドリ は、 ムカシ の ジブン の ウチ、 イマ は テグス コウジョウ に なって いる タテモノ の スミ に、 ちいさく なって ねむりました。 サッキ の オトコ は、 3~4 ニン の しらない ヒトタチ と おそく まで ロバタ で ヒ を たいて、 ナニ か のんだり しゃべったり して いました。 ツギ の アサ はやく から、 ブドリ は モリ に でて、 キノウ の よう に はたらきました。
 それから ヒトツキ ばかり たって、 モリジュウ の クリ の キ に アミ が かかって しまいます と、 テグスカイ の オトコ は、 コンド は アワ の よう な もの が いっぱい ついた イタキレ を、 どの キ にも 5~6 マイ ずつ つるさせました。 その うち に キ は メ を だして モリ は マッサオ に なりました。 すると、 キ に つるした イタキレ から、 タクサン の ちいさな あおじろい ムシ が、 イト を つたわって レツ に なって エダ へ はいあがって いきました。
 ブドリ たち は コンド は マイニチ タキギトリ を させられました。 その タキギ が、 ウチ の マワリ に コヤマ の よう に つみかさなり、 クリ の キ が あおじろい ヒモ の カタチ の ハナ を エダ イチメン に つける コロ に なります と、 あの イタ から はいあがって いった ムシ も、 ちょうど クリ の ハナ の よう な イロ と カタチ に なりました。 そして モリジュウ の クリ の ハ は、 まるで カタチ も なく その ムシ に くいあらされて しまいました。 それから まもなく ムシ は、 おおきな キイロ な マユ を、 アミノメ ごと に かけはじめました。
 すると テグスカイ の オトコ は、 キョウキ の よう に なって、 ブドリ たち を しかりとばして、 その マユ を カゴ に あつめさせました。 それ を コンド は カタッパシ から ナベ に いれて ぐらぐら にて、 テ で クルマ を まわしながら イト を とりました。 ヨル も ヒル も がらがら がらがら ミッツ の イトグルマ を まわして イト を とりました。 こうして こしらえた キイロ な イト が コヤ に ハンブン ばかり たまった コロ、 ソト に おいた マユ から は、 おおきな しろい ガ が ぽろぽろ ぽろぽろ とびだしはじめました。 テグスカイ の オトコ は、 まるで オニ みたい な カオツキ に なって、 ジブン も イッショウ ケンメイ イト を とりました し、 ノハラ の ほう から も 4 ニン ヒト を つれて きて はたらかせました。 けれども ガ の ほう は ヒマシ に おおく でる よう に なって、 シマイ には モリジュウ まるで ユキ でも とんで いる よう に なりました。
 すると ある ヒ、 6~7 ダイ の ニバシャ が きて、 イマ まで に できた イト を みんな つけて、 マチ の ほう へ かえりはじめました。 ミンナ も ヒトリ ずつ ニバシャ に ついて いきました。 いちばん シマイ の ニバシャ が たつ とき、 テグスカイ の オトコ が、 ブドリ に、
「おい、 オマエ の ライハル まで くう くらい の もの は ウチ の ナカ に おいて やる から な、 それまで ここ で モリ と コウバ の バン を して いる ん だぞ」
と いって へんに にやにや しながら、 ニバシャ に ついて さっさと いって しまいました。
 ブドリ は ぼんやり アト へ のこりました。 ウチ の ナカ は まるで きたなくて アラシ の アト の よう でした し、 モリ は あれはてて ヤマカジ に でも あった よう でした。 ブドリ が ツギ の ヒ、 ウチ の ナカ や マワリ を かたづけはじめましたら、 テグスカイ の オトコ が いつも すわって いた ところ から ふるい ボール-ガミ の ハコ を みつけました。 ナカ には 10 サツ ばかり の ホン が ぎっしり はいって おりました。 ひらいて みる と、 テグス の エ や キカイ の ズ が たくさん ある、 まるで よめない ホン も ありました し、 イロイロ な キ や クサ の ズ と ナマエ の かいて ある もの も ありました。
 ブドリ は イッショウ ケンメイ その ホン の マネ を して ジ を かいたり、 ズ を うつしたり して その フユ を くらしました。
 ハル に なります と、 また あの オトコ が 6~7 ニン の あたらしい テシタ を つれて、 たいへん リッパ な ナリ を して やって きました。 そして ツギ の ヒ から すっかり キョネン の よう な シゴト が はじまりました。
 そして アミ は みんな かかり、 キイロ な イタ も つるされ、 ムシ は エダ に はいのぼり、 ブドリ たち は また、 タキギ-ヅクリ に かかる コロ に なりました。 ある アサ、 ブドリ たち が タキギ を つくって いましたら、 にわか に ぐらぐらっ と ジシン が はじまりました。 それから ずうっと トオク で どーん と いう オト が しました。
 しばらく たつ と ヒ が へんに くらく なり、 こまか な ハイ が ばさばさ ばさばさ ふって きて、 モリ は イチメン に マッシロ に なりました。 ブドリ たち が あきれて キ の シタ に しゃがんで いましたら、 テグスカイ の オトコ が たいへん あわてて やって きました。
「おい、 ミンナ、 もう ダメ だぞ。 フンカ だ。 フンカ が はじまった ん だ。 テグス は みんな ハイ を かぶって しんで しまった。 ミンナ はやく ひきあげて くれ。 おい、 ブドリ。 オマエ ここ に いたかったら いて も いい が、 コンド は タベモノ は おいて やらない ぞ。 それに ここ に いて も あぶない から な、 オマエ も ノハラ へ でて ナニ か かせぐ ほう が いい ぜ」
 そう いった か と おもう と、 もう どんどん はしって いって しまいました。 ブドリ が コウジョウ へ いって みた とき は、 もう ダレ も おりません でした。 そこで ブドリ は、 しょんぼり と ミンナ の アシアト の ついた しろい ハイ を ふんで ノハラ の ほう へ でて いきました。

 3、 ヌマバタケ

 ブドリ は、 いっぱい に ハイ を かぶった モリ の アイダ を、 マチ の ほう へ ハンニチ あるきつづけました。 ハイ は カゼ の ふく たび に キ から ばさばさ おちて、 まるで ケムリ か フブキ の よう でした。 けれども それ は ノハラ へ ちかづく ほど、 だんだん あさく すくなく なって、 ついには キ も ミドリ に みえ、 ミチ の アシアト も みえない くらい に なりました。
 とうとう モリ を できった とき、 ブドリ は おもわず メ を みはりました。 ノハラ の メノマエ から、 トオク の マッシロ な クモ まで、 うつくしい モモイロ と ミドリ と ハイイロ の カード で できて いる よう でした。 ソバ へ よって みる と、 その モモイロ なの には、 イチメン に セイ の ひくい ハナ が さいて いて、 ミツバチ が いそがしく ハナ から ハナ を わたって あるいて いました し、 ミドリイロ なの には ちいさな ホ を だして クサ が ぎっしり はえ、 ハイイロ なの は あさい ドロ の ヌマ でした。 そして どれ も、 ひくい ハバ の せまい ドテ で くぎられ、 ヒト は ウマ を つかって それ を ほりおこしたり かきまわしたり して はたらいて いました。
 ブドリ が その アイダ を、 しばらく あるいて いきます と、 ミチ の マンナカ に フタリ の ヒト が、 オオゴエ で ナニ か ケンカ でも する よう に いいあって いました。 ミギガワ の ほう の ヒゲ の あかい ヒト が いいました。
「なんでも かんでも、 オレ は ヤマシ-ばる と きめた」
 すると も ヒトリ の しろい カサ を かぶった、 セイ の たかい オジイサン が いいました。
「やめろ って いったら やめる もん だ。 そんな に コヤシ うんと いれて、 ワラ は とれる ったって、 ミ は ヒトツブ も とれる もん で ない」
「うんにゃ、 オレ の ミコミ では、 コトシ は イマ まで の 3 ネン ブン あつい に ソウイ ない。 1 ネン で 3 ネン ブン とって みせる」
「やめろ。 やめろ。 やめろ ったら」
「うんにゃ、 やめない。 ハナ は みんな うずめて しまった から、 コンド は マメタマ を 60 マイ いれて、 それから トリ の カエシ、 100 ダン いれる ん だ。 いそがし ったら なんの、 こう いそがしく なれば、 ササゲ の ツル でも いい から テツダイ に たのみたい もん だ」
 ブドリ は おもわず ちかよって オジギ を しました。
「そんなら ボク を つかって くれません か」
 すると フタリ は、 ぎょっと した よう に カオ を あげて、 アゴ に テ を あてて しばらく ブドリ を みて いました が、 アカヒゲ が にわか に わらいだしました。
「よしよし。 オマエ に ウマ の サセトリ を たのむ から な。 すぐ オレ に ついて いく ん だ。 それでは まず、 のる か そる か、 アキ まで みてて くれ。 さあ いこう。 ホント に、 ササゲ の ツル でも いい から たのみたい とき で な」 アカヒゲ は、 ブドリ と オジイサン に かわるがわる いいながら、 さっさと サキ に たって あるきました。 アト では オジイサン が、
「トシヨリ の いう こと きかない で、 いまに なく ん だな」 と つぶやきながら、 しばらく こっち を みおくって いる ヨウス でした。
 それから ブドリ は、 マイニチ マイニチ ヌマバタケ へ はいって ウマ を つかって ドロ を かきまわしました。 1 ニチ ごと に モモイロ の カード も ミドリ の カード も だんだん つぶされて、 ドロヌマ に かわる の でした。 ウマ は たびたび ぴしゃっと ドロミズ を はねあげて、 ミンナ の カオ へ うちつけました。 ヒトツ の ヌマバタケ が すめば すぐ ツギ の ヌマバタケ へ はいる の でした。 イチニチ が とても ながくて、 シマイ には あるいて いる の か どう か わからなく なったり、 ドロ が アメ の よう な、 ミズ が スープ の よう な キ が したり する の でした。 カゼ が ナンベン も ふいて きて、 チカク の ドロミズ に サカナ の ウロコ の よう な ナミ を たて、 トオク の ミズ を ブリキイロ に して いきました。 ソラ では、 マイニチ あまく すっぱい よう な クモ が、 ゆっくり ゆっくり ながれて いて、 それ が じつに うらやましそう に みえました。
 こうして ハツカ ばかり たちます と、 やっと ヌマバタケ は すっかり どろどろ に なりました。 ツギ の アサ から シュジン は まるで キ が たって、 あちこち から あつまって きた ヒトタチ と イッショ に、 その ヌマバタケ に ミドリイロ の ヤリ の よう な オリザ の ナエ を イチメン うえました。 それ が トオカ ばかり で すむ と、 コンド は ブドリ たち を つれて、 イマ まで てつだって もらった ヒトタチ の ウチ へ マイニチ はたらき に でかけました。 それ も やっと ヒトマワリ すむ と、 コンド は また ジブン の ヌマバタケ へ もどって きて、 マイニチ マイニチ クサトリ を はじめました。 ブドリ の シュジン の ナエ は おおきく なって まるで くろい くらい なのに、 トナリ の ヌマバタケ は ぼんやり した うすい ミドリイロ でした から、 トオク から みて も、 フタリ の ヌマバタケ は はっきり サカイ まで みわかりました。 ナノカ ばかり で クサトリ が すむ と また ホカ へ テツダイ に いきました。
 ところが ある アサ、 シュジン は ブドリ を つれて、 ジブン の ヌマバタケ を とおりながら、 にわか に 「あっ」 と さけんで ボウダチ に なって しまいました。 みる と クチビル の イロ まで ミズイロ に なって、 ぼんやり マッスグ を みつめて いる の です。
「ビョウキ が でた ん だ」 シュジン が やっと いいました。
「アタマ でも いたい ん です か」 ブドリ は ききました。
「オレ で ない よ。 オリザ よ。 それ」 シュジン は マエ の オリザ の カブ を ゆびさしました。 ブドリ は しゃがんで しらべて みます と、 なるほど どの ハ にも、 イマ まで みた こと の ない あかい テンテン が ついて いました。 シュジン は だまって しおしお と ヌマバタケ を ヒトマワリ しました が、 ウチ へ かえりはじめました。 ブドリ も シンパイ して ついて いきます と、 シュジン は だまって キレ を ミズ で しぼって、 アタマ に のせる と、 そのまま イタノマ に ねて しまいました。 すると まもなく、 シュジン の オカミサン が オモテ から かけこんで きました。
「オリザ へ ビョウキ が でた と いう の は ホントウ かい」
「ああ、 もう ダメ だよ」
「どうにか ならない の かい」
「ダメ だろう。 すっかり 5 ネン マエ の とおり だ」
「だから、 アタシ は アンタ に ヤマシ を やめろ と いった ん じゃ ない か。 オジイサン も あんな に とめた ん じゃ ない か」 オカミサン は おろおろ なきはじめました。 すると シュジン が にわか に ゲンキ に なって むっくり おきあがりました。
「よし。 イーハトーブ の ノハラ で、 ユビオリ かぞえられる オオビャクショウ の オレ が、 こんな こと で まいる か。 よし。 ライネン こそ やる ぞ。 ブドリ、 オマエ オレ の ウチ へ きて から、 まだ ヒトバン も ねたい くらい ねた こと が ない な。 さあ、 イツカ でも トオカ でも いい から、 ぐう と いう くらい ねて しまえ。 オレ は その アト で、 あすこ の ヌマバタケ で おもしろい テヅマ を やって みせる から な。 そのかわり コトシ の フユ は、 ウチジュウ ソバ ばかり くう ん だぞ。 オマエ ソバ は すき だろう が」 それから シュジン は さっさと ボウシ を かぶって ソト へ でて いって しまいました。
 ブドリ は シュジン に いわれた とおり ナヤ へ はいって ねむろう と おもいました が、 なんだか やっぱり ヌマバタケ が ク に なって しかたない ので、 また のろのろ そっち へ いって みました。 すると いつ きて いた の か、 シュジン が たった ヒトリ ウデグミ を して ドテ に たって おりました。 みる と ヌマバタケ には ミズ が いっぱい で、 オリザ の カブ は ハ を やっと だして いる だけ、 ウエ には ぎらぎら セキユ が うかんで いる の でした。 シュジン が いいました。
「イマ オレ この ビョウキ を むしころして みる とこ だ」
「セキユ で ビョウキ の タネ が しぬ ん です か」 と ブドリ が ききます と、 シュジン は、
「アタマ から セキユ に つけられたら ヒト だって しぬ だ」 と いいながら、 ほう と イキ を すって クビ を ちぢめました。 その とき、 ミズシモ の ヌマバタケ の モチヌシ が、 カタ を いからして イキ を きって かけて きて、 おおきな コエ で どなりました。
「なんだって アブラ など ミズ へ いれる ん だ。 みんな ながれて きて、 オレ の ほう へ はいってる ぞ」
 シュジン は、 ヤケクソ に おちついて こたえました。
「なんだって アブラ など ミズ へ いれる ったって、 オリザ へ ビョウキ ついた から、 アブラ など ミズ へ いれる の だ」
「なんだって そんなら オレ の ほう へ ながす ん だ」
「なんだって そんなら オマエ の ほう へ ながす ったって、 ミズ は ながれる から アブラ も ついて ながれる の だ」
「そんなら なんだって オレ の ほう へ ミズ こない よう に ミナクチ とめない ん だ」
「なんだって オマエ の ほう へ ミズ いかない よう に ミナクチ とめない か ったって、 あすこ は オレ の ミナクチ で ない から ミズ とめない の だ」
 トナリ の オトコ は、 かんかん おこって しまって もう モノ も いえず、 いきなり がぶがぶ ミズ へ はいって、 ジブン の ミナクチ に ドロ を つみあげはじめました。 シュジン は にやり と わらいました。
「あの オトコ むずかしい オトコ で な。 こっち で ミズ を とめる と、 とめた と いって おこる から わざと ムコウ に とめさせた の だ。 あすこ さえ とめれば、 コンヤジュウ に ミズ は すっかり クサ の アタマ まで かかる から な。 さあ かえろう」 シュジン は サキ に たって すたすた ウチ へ あるきはじめました。
 ツギ の アサ ブドリ は また シュジン と ヌマバタケ へ いって みました。 シュジン は ミズ の ナカ から ハ を 1 マイ とって しきり に しらべて いました が、 やっぱり うかない カオ でした。 その ツギ の ヒ も そう でした。 その ツギ の ヒ も そう でした。 その ツギ の ヒ も そう でした。 その ツギ の アサ、 とうとう シュジン は ケッシン した よう に いいました。
「さあ ブドリ、 いよいよ ここ へ ソバマキ だぞ。 オマエ あすこ へ いって、 トナリ の ミナクチ こわして こい」
 ブドリ は いわれた とおり こわして きました。 セキユ の はいった ミズ は、 おそろしい イキオイ で トナリ の タ へ ながれて いきます。 きっと また おこって くる な と おもって います と、 ヒルゴロ レイ の トナリ の モチヌシ が、 おおきな カマ を もって やって きました。
「やあ、 なんだって ヒト の タ へ セキユ ながす ん だ」
 シュジン が また、 ハラ の ソコ から コエ を だして こたえました。
「セキユ ながれれば なんだって わるい ん だ」
「オリザ みんな しぬ で ない か」
「オリザ みんな しぬ か、 オリザ みんな しなない か、 まず オレ の ヌマバタケ の オリザ みな よ。 キョウ で ヨッカ アタマ から セキユ かぶせた ん だ。 それでも ちゃんと この とおり で ない か。 あかく なった の は ビョウキ の ため で、 イキオイ の いい の は セキユ の ため なん だ。 オマエ の ところ など、 セキユ が ただ オリザ の アシ を とおる だけ で ない か。 かえって いい かも しれない ん だ」
「セキユ コヤシ に なる の か」 ムコウ の オトコ は すこし カオイロ を やわらげました。
「セキユ コヤシ に なる か、 セキユ コヤシ に ならない か しらない が、 とにかく セキユ は アブラ で ない か」
「それ は セキユ は アブラ だな」 オトコ は すっかり キゲン を なおして わらいました。 ミズ は どんどん ひき、 オリザ の カブ は みるみる ネモト まで でて きました。 すっかり あかい マダラ が できて やけた よう に なって います。
「さあ オレ の ところ では もう オリザ-ガリ を やる ぞ」
 シュジン は わらいながら いって、 それから ブドリ と イッショ に、 カタッパシ から オリザ の カブ を かり、 アト へ すぐ ソバ を まいて ツチ を かけて あるきました。 そして その トシ は ホントウ に シュジン の いった とおり、 ブドリ の ウチ では ソバ ばかり たべました。 ツギ の ハル に なります と シュジン が いいました。
「ブドリ、 コトシ は ヌマバタケ は キョネン より は 3 ブン の 1 へった から な、 シゴト は よほど ラク だ。 そのかわり オマエ は、 オレ の しんだ ムスコ の よんだ ホン を これから イッショウ ケンメイ ベンキョウ して、 イマ まで オレ を ヤマシ だ と いって わらった ヤツラ を、 あっ と いわせる よう な リッパ な オリザ を つくる クフウ を して くれ」
 そして、 イロイロ な ホン を ヒトヤマ ブドリ に わたしました。 ブドリ は シゴト の ヒマ に カタッパシ から それ を よみました。 ことに その ナカ の、 クーボー と いう ヒト の モノ の カンガエカタ を おしえた ホン は おもしろかった ので ナンベン も よみました。 また その ヒト が、 イーハトーブ の シ で 1 カゲツ の ガッコウ を やって いる の を しって、 たいへん いって ならいたい と おもったり しました。
 そして はやくも その ナツ、 ブドリ は おおきな テガラ を たてました。 それ は キョネン と おなじ コロ、 また オリザ に ビョウキ が できかかった の を、 ブドリ が キ の ハイ と シオ を つかって くいとめた の でした。 そして 8 ガツ の ナカバ に なる と、 オリザ の カブ は みんな そろって ホ を だし、 その ホ の ヒトエダ ごと に ちいさな しろい ハナ が さき、 ハナ は だんだん ミズイロ の モミ に かわって、 カゼ に ゆらゆら ナミ を たてる よう に なりました。 シュジン は もう トクイ の ゼッチョウ でした。 くる ヒト ごと に、
「なんの オレ も、 オリザ の ヤマシ で 4 ネン しくじった けれども、 コトシ は イチド に 4 ネン-マエ とれる。 これ も また なかなか いい もん だ」 など と いって ジマン する の でした。
 ところが その ツギ の トシ は そう は いきません でした。 ウエツケ の コロ から さっぱり アメ が ふらなかった ため に、 スイロ は かわいて しまい、 ヌマ には ヒビ が はいって、 アキ の トリイレ は やっと フユジュウ たべる くらい でした。 ライネン こそ と おもって いました が、 ツギ の トシ も また おなじ よう な ヒデリ でした。 それから も ライネン こそ ライネン こそ と おもいながら、 ブドリ の シュジン は、 だんだん コヤシ を いれる こと が できなく なり、 ウマ も うり、 ヌマバタケ も だんだん うって しまった の でした。
 ある アキ の ヒ、 シュジン は ブドリ に つらそう に いいました。
「ブドリ、 オレ も モト は イーハトーブ の オオビャクショウ だった し、 ずいぶん かせいで も きた の だ が、 たびたび の サムサ と カンバツ の ため に、 イマ では ヌマバタケ も ムカシ の 3 ブン の 1 に なって しまった し、 ライネン は もう いれる コヤシ も ない の だ。 オレ だけ で ない、 ライネン コヤシ を かって いれれる ヒト ったら もう イーハトーブ にも ナンニン も ない だろう。 こういう アンバイ では、 いつ に なって オマエ に はたらいて もらった レイ を する と いう アテ も ない。 オマエ も わかい ハタラキザカリ を、 オレ の とこ で くらして しまって は あんまり キノドク だ から、 すまない が どうか これ を もって、 どこ へ でも いって いい ウン を みつけて くれ」
 そして シュジン は、 ヒトフクロ の オカネ と あたらしい コン で そめた アサ の フク と アカガワ の クツ と を ブドリ に くれました。 ブドリ は イマ まで の シゴト の ひどかった こと も わすれて しまって、 もう なんにも いらない から、 ここ で はたらいて いたい とも おもいました が、 かんがえて みる と、 いて も やっぱり シゴト も そんな に ない ので、 シュジン に ナンベン も ナンベン も レイ を いって、 6 ネン の アイダ はたらいた ヌマバタケ と シュジン に わかれて、 テイシャバ を さして あるきだしました。

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