カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ヨウネン ジダイ 2

2014-08-23 | ムロウ サイセイ
 5

 9 サイ の フユ、 チチ が しんだ。
 アサ から ふりつもった はげしい ユキ は、 もう ワタシ が かけつけた コロ は シャクヨ に たっして いた。 チチ の カラダ は シラギヌ の ヌノ で おおわれて いた。 その ウエ に リッパ な ヒトコシ が どっしり と アクマヨケ に のせられて あった。 チチ は ロウスイ で 2~3 ニチ の ガショウ で ねむる よう に いった。
 オソウシキ の ヒ は、 やはり ユキ が ちらちら ふって いた。 ハハ と イッショ に だかれる よう に クルマ に のった。 トチュウ ユキ が タイヘン で、 ギョウレツ が おくれがち で あった。
 ワタシ は それから は ヒジョウ な インキ な ヒ を おくって いた。 チチ の あいして いた シロ と いう イヌ が、 いつも ワタシ の ソバ へ ふらふら やって きた。 ケナミ の つやつやしい ジュンパク な イヌ で あった。
 ある ヒ、 ワタシ は ジッカ へ ゆく と ごたごた して いて、 オオゼイ の ヒト が でたり はいったり して いた。 ハハ は ワタシ に オトウサン の オトウト さん が エッチュウ から きた の だ と いって いた。 4~5 ニチ する と ハハ が いなく なって、 みしらない ヒト ばかり いた。 ハハ は おいだされた の で あった。
 ハハ は ワタシ にも ワカレ の コトバ も いう ヒマ も なかった の か、 それきり ワタシ は あえなかった。 ハハ は チチ の コマヅカイ だった ので、 チチ の オトウト が おいだした こと が わかった。 ワタシ は あの ひろい ニワ や ハタケ を ニド と みる こと が できなかった。 いつも チャノマ で ナガヒバチ で むかいあって はなした ジョウヒン な おとなしい ハハ は どこ へ いった の だろう。 ワタシ は ハハ にも アネ にも だまって いた。 ハハ は その こと を クチ へも ださなかった。 ワタシ は ヒマ さえ あれば、 シロ を つれて マチ を あるいて いた。
「シロ! こい」
 チチ が なくなって から、 ねむる ところ も ない この あわれ な イキモノ は、 ナンピト より も ワタシ を すいて いた らしかった。 ワタシ は この イキモノ と イッショ に いる と、 なにかしら チチ や ハハ に ついて、 ひきつづいた カンジョウ や、 コトバ の ハシバシ を かんじえられる の で あった。 ワタシ は どこ か で ハハ に あい は せぬ か と、 ちいさい ココロ を いためながら、 ある とき は ずっと トオク の マチ まで あるきまわる の で あった。 ハハ と おなじい トシゴロ の オンナ に あう と、 ワタシ は はしって いって カオ を のぞきこむ の で あった。 ワタシ の この むなしい ドリョク は いつも はたされなかった。
 アネ は よく ワタシ の この ココロモチ を しって いた。 アネ は もう ヨメ には ゆかなかった。 いつも カジ の ヒマヒマ には ヘヤ に いて しずか に ハリシゴト で ヒ を くらして いた。 そして ワタシ が ひっそり と オクニワ へ いれて おいた シロ に、 ゴハン を やったり して くれた。 シロ は もう ワタシ の イエ を はなれなかった。 ワタシ は よく ニワ へ でて シロ と すわって、 ふかい カンガエゴト を して いたり して いた。 ワタシ は だんだん こどもらしく ない、 むっちり と した、 だまった コドモ に なった。
 シロ の こと で よく ハハ から コゴト が でた。
「そんな イヌ なぞ どう する の。 あっち い はなして いらっしゃい」 と よく いわれた もの だ。
 ワタシ は、 わざと はなし に ゆく よう に みせて カワラ へ など いって あそんで いた。
「シロ! いけ」
 けしかける と シロ は タイガイ の イヌ を まかした。 ワタシ は そうして ジカン を つぶして かえって きて、
「はなして きました」 と ホウコク して おいた。
 その とき は もう シロ は オクニワ に はいって まるまる と ねて いた。 ハハ は こまって いた が、 ワタシ が ああした ウソ を つく こと を しらなかった。 シマイ には、 デイリ の ダイク に たのんで ハハ は はなさせた が、 やっぱり かえって きた。 そんな とき、 ワタシ は うれしかった。
「ミチ を わすれない で かえって こい。 きっと こい」
 ワタシ は ダイク が もって ゆく とき に、 ココロ の ナカ で つぶやく の で あった。
 アネ は、
「あんな に なついた ん だ から おいて やったら どう でしょう」 と ハハ に いったり した。
「でも オサト の イヌ だし、 なんだか キミ が わるくて ね」 と いって いた。 そして ワタシ には、
「あんまり シロ シロ って かわいがる から ウチ から ソト へ いかない ん だよ」 と、 コゴト を いって いた。
 けれども ワタシ は シロ を あいして いた。
 ある さむい ユキ の バンガタ の こと で あった。 ワタシ は だんだん くれしずんで ユキ が あおく なって みえる モン の マエ で、 いつまでも やむ こと の ない キタグニ の ながい コウセツキ を ココロ で いといながら、 あの なんとも いわれない さびしい オト と いう オト の はたと やんだ しずか な マチ を、 さむげ に コシ を まげて ちぢんだ よう に ゆく オウライ の ヒト を ながめて いた。 キンザイ の ヒト で あろう。 ミナ いそがしげ に、 しかも オト の ない ユキミチ を ゆく の を えも いわれず さびしく みおくって いた。 どの ヒト を みて も やせて さむげ で あった。
 ワタシ は ふと キ が つく と、 シロ が ぐったり うなだれて、 しかも ミミ から センケツ を しろい ケナミ の アタリ に、 いたいたしく ながしながら かえって くる の を みた。 ワタシ は かっと なった。
「シロ! ダレ に やられた の だ」
 ワタシ は この あわれ な ドウブツ に ほとんど ソウゾウ する こと の できない ほど の ふかい アイ を かんじた。 そして この ミミ を かんだ アイテ の イヌ に むくいなければ ならなかった。
「シロ! いけ。 どこ で やられた の だ」
 ワタシ は シロ と ともに むやみ に コウフン して、 シロ の きた ほう の ミチ を はしった。 シロ は たかく ほえて ワタシ より サキ に はしった。
 シロ は ウラマチ の ある イエ の モン の ところ で、 キュウ に うなりだした。 モン の ナカ から クロシロ の ハンテン の ある おおきな イヌ が とびだした。 シロ は ワタシ と いう カセイ に ゲンキ-づけられた ため に、 いきなり とびついた。 けれども シロ は ちいさかった ため に アオムケ に くみしかれた。 シロ は ヒメイ を あげた。 ワタシ は もう ガマン が できなかった。 いきなり ゲタ を ぬぐ と ユキ の ナカ を スアシ に なって、 ウエ に のりかかって いる シロ の テキ を めちゃくちゃ に ひっぱたいた。 テキ は ヒメイ を あげた。 シロ は その スキ に おきあがって カンゼン に テキ を くみしいて かみついた。
「シロ。 しっかり やれ。 ボク が ついて いる」
 ワタシ は ツメタサ も しらない で ユキ の ウエ を とんとん ふんだ。 シロ は かった。
 そこ へ モン の ナカ から ワタシ とは 2 キュウ ウエ の ショウネン が でて きた。 そして コンド は ジブン の イヌ に けしかけた。
「ナマイキ いうな。 キサマ の イヌ より ボク の ヤツ は つよい ん だ」
 ワタシ は カレ の マエ へ とびかかる よう に すすんだ。
「そんな きたない イヌ が つよい もん か」
 カレ は マッサオ に なって いった。
「イヌ より キミ の ほう が あぶない よ。 ウチ へ はいって いた ほう が いい よ」
「ちいさな くせ に ナマイキ を いうな」
「もう イチド いえ」
 こう ワタシ は いって おいて、 いきなり トクイ の クミウチ を やった。 ワタシ は カレ の セ を リョウテ で しっかり だいて、 くるり と、 コシ に かけて ユキ の ウエ に なげつけた。 そして ワタシ は ウマノリ に なって ジブン で どれだけ なぐった か おぼえない ほど なぐった。 ワタシ は ケンカ は はやかった。 そして ヒジョウ な ビンカツ な、 イナズマ の よう に やって しまう の が トクイ で あった。
 ワタシ は ゲタ を はいて シロ と かえりかけた。 やっと おきあがった カレ は、 「おぼえて いろ」 と いった。 ワタシ は レイショウ して かえった。 ワタシ は それから ミチ で シロ を なでて やった。 そして 「まけたら かえるな」 と いって きかせた。
 ある ヒ、 ガッコウ から の カエリミチ の こと で あった。 ウラマチ の ヘイ の ところ に ジョウキュウセイ らしい ワタシ とは おおきい ショウネン が 3 ニン かたまって、 ワタシ の ほう を むいて ささやきあって いた。 キ が つく と、 コノアイダ の イヌ の ケンカ の とき の ジョウキュウセイ が まじって いた。 ワタシ は チョッカクテキ に マチブセ を くって いる こと を しった。 ワタシ は すぐ カバン の カワヒモ を といて、 サキ の ほう を かたく むすんだ。 ワタシ の ヨウイ は、 カレラ の マエ に まで あるいて ゆく うち に ととのって いた。
 レイ の ショウネン は いきなり ワタシ の マエ に たちふさがった。
「コノアイダ の こと を おぼえて いる か!」
 カレ は イッポ マエ へ すすんだ。
「おぼえて いる。 それ が どうした の だ。 シカエシ を する キ か」
 カレ は いきなり とびつこう と した。 ワタシ の ふった カワヒモ は ひゅう と カゼ を きって、 カレ の コウノウ を たたいた。 カレ は ふらふら と した。 その とき まで だまって いた カレ の トモダチ が ミギ と ヒダリ と から とびつこう と した。 ワタシ は また カワヒモ を ならした。 その スキ に ワタシ は アシ を けりあげられた。 ヒザザラ が しびれた。 ワタシ は たおれた。 そして ワタシ は めちゃくちゃ に たたかれた。 ワタシ は カレラ が さった アト で メマイ が して、 やっと イエ へ かえった。 しかし ヨクジツ は もう ゲンキ に なって いた。
 ガッコウ の ベンジョ で キノウ の ナカマ の ヒトリ に あった。 ワタシ は コエ をも かけず に その ジョウキュウセイ を ウシロ から はりつけて おいて、 シックイ の ウエ へ なげとばした。
 カエリ に レイ の ジョウキュウセイ が 5~6 ケン サキ へ ゆく の を よびとめる と カレ は にげだした。 ワタシ は すぐさま テゴロ な コイシ を ひろった。 ツブテ は カレ の クルブシ に あたった。 カレ は たおれた。 ワタシ は カレ を その サキ の ヒ の よう に なぐった。 タクサン の ガクユウ ら は ワタシラ を とりまいて いた が、 ダレ も テダシ を しなかった。 それほど ワタシ は ミナ から ケイエン されて いた。 ワタシ は カレ を シリメ に かけて さった。
 ワタシ は しかし そういう ケンカ を した ヒ は さびしかった。 かって アイテ を ひどい メ に あわせれば あわす ほど ワタシ は ジブン の ナカ の ランボウ な ショウブン を コウカイ した。 して は ならない と かんがえて いて も、 いつも ガイブ から ワタシ の キケンセイ が さそいだされる ごと に、 ワタシ は テイコウ しがたい ジブン の ショウブン の ため に、 いつも さびしい コウカイ の ココロ に なる の で あった。
 ワタシ の そうした ランザツ な、 たえず フクシュウシン に もえた ねづよい イチメン は、 オオク の ガクユウ から キケン-がられて いた のみ ならず、 ヒジョウ に おそれられて いた ので、 したしい トモダチ とて は なかった。 ワタシ は ヒトリ で いる とき、 ガイブ から ワタシ を うごかす もの の いない とき、 ワタシ は よわい カンジョウテキ な ショウネン に なって、 いつも アネ に まつわりついて いた。
「オマエ が まあ ケンカ なんか して つよい の。 おかしい わね」
 アネ は、 よく キンジョ の ショウネン ら の オヤモト から、 ワタシ に ひどい メ に あった クジョウ を もちこまれた とき に、 わらって しんじなかった。 アネ の マエ では、 やさしい アネ の セイジョウ の ハンシャ サヨウ の よう に おとなしく、 むしろ ナキムシ の ほう で あった。 ワタシ が ガクユウ から ヒトリ はなれて カエリミチ を いそぐ とき は、 いつも アネ の カオ や コトバ を もとめながら イエ に つく の で あった。 アネ なし に ワタシ の ショウネン と して の セイカツ は つづけられなかった かも しれない。

 6

 ウシロ の サイカワ は ミズ の うつくしい、 トウキョウ の スミダガワ ほど の ハバ の ある カワ で あった。 ワタシ は よく カワラ へ でて いって、 アユツリ など を した もの で あった。 マイトシ 6 ガツ の ワカバ が やや クラミ を おび、 ヤマヤマ の スガタ が クサキ の ハンモ する に したがって どことなく ぼうぼう と して ふくれて くる コロ、 チカク の ソンラク から キュウリウリ の やって くる コロ には、 ちいさな セ や、 ジャリ で ひたした セガシラ に、 セナカ に くろい ホクロ の ある サアユ が のぼって きた。
 サアユ は あの アキ の カリ の よう に ただしく、 かわいげ な ギョウレツ を つくって のぼって くる の が レイ に なって いた。 わずか な ヒトゴエ が ミズ の ウエ に おちて も、 この ビンカン な ヒョウカン な サカナ は、 ハナ の ちる よう に レツ を みだす の で あった。
 ワタシ は この クニ の ショウネン が ミナ やる よう に、 ちいさな ビク を コシ に むすんで、 イクホン も むすびつけた ケバリ を ジョウリュウ から カリュウ へ と、 たえまなく ながしたり して いた。 アユ は よく つれた。 ちいさな やつ が かかって は サオ の センタン が シンケイテキ に ぴりぴり ふるえた。 その フルエ が テサキ まで つたわる と、 コンド は あまり の ヨロコバシサ に ココロ が おどる の で あった。
 セ は たえず ざあざあー と ながれて、 うつくしい セナミ の タカマリ を ワタシタチ ツリビト の メ に そそがす。 そこ へ ケバリ を ながす と、 あの ちいさい やつ が スイメン に まで とびあがって、 ケバリ に むれる の で あった。 ことに ヒノクレ に なる と よく つれた。 ミズ の ウエ が くれのこった ソラ の アカリ に やっと みわける こと の できる コロ、 ワタシ は ほとんど ビク を いっぱい に する まで、 よく つりあげる の で あった。
 カワ に ついて ワタシ は ヒトツ の ハナシ を もって いた。
 それ は ワタシ が ツリ を し に でた ヒ は、 アメツヅキ の アゲク ゾウスイ した アト で あった。 あの ゾウスイ の とき に よく みる よう に、 ジョウリュウ から ながされた オブツ が いっぱい ジャカゴ に かかって いた。 ワタシ は そこ で 1 タイ の ジゾウ を みつけた。 それ は 1 シャク ほど も ある、 かなり おもい イシ の あおく ミズゴケ の はえた ジゾウソン で あった。 ワタシ は それ を ニワ に はこんだ。 そして アンズ の キ の カゲ に、 よく マチハズレ の ロボウ で みる よう な コイシ の ダイザ を こしらえて その ウエ に チンザ させた。
 ワタシ は その ダイザ の マワリ に イロイロ な クサバナ を うえたり、 ハナヅツ を つくったり、 ニワ の カジツ を そなえたり した。 マイツキ 20 ヨッカ の サイジツ を アネ から おしえられて から、 その ヒ は、 ジブン の コヅカイ から イロイロ な クモツ を かって きて そなえて いた。
「まあ オマエ は シンジンカ ね」
 アネ も また あかい キレ で コロモ を ぬって、 ジゾウ の カタ に まきつけたり、 ちいさな ズキン を つくったり して、 イシ の アタマ に かぶせたり した。 ワタシ は いつも この ひろって きた ジゾウサン に、 イロイロ な こと を して あげる と いう こと が、 けっして わるい こと で ない こと を しって いた。 ことに、 ジゾウサン は イシ の ハシ に されて も ニンゲン を すくう もの だ と いう こと をも しって いた。 ワタシ は この ヘイボン な、 イシコロ ドウヨウ な もの の ナカ に、 なにかしら うたがう こと の できない シュウキョウテキ カンカク が ソンザイ して いる よう に しんじて いた。
「きっと いい こと が ある わ。 オマエ の よう に シンセツ に して あげる と ね」
 アネ は マイニチ の よう に ハナ を かえたり、 ソウジ を したり して いる ワタシ を ほめて くれて いた。 ワタシ は うれしかった。 こうした キ の カゲ に、 ジブン の ジユウ に つくりあげた ちいさな ジイン が、 だんだん に ヒ を へる に したがって、 コヤガケ が できたり、 ちいさな チョウチン が さげられたり する の は、 なんとも いえない、 ただ それ は いい ココロモチ で あった。 なにかしら ジブン の ショウガイ を として むくいられて くる よう な、 ある ヨゲンテキ なる もの を かんじる の で あった。 ワタシ は マイアサ、 センメン して しまう と レイハイ し に いった。 ときとすると、 アグラ を かいた オヒザ の ところ に おおきな ヨツユ が しっとり と タマ を つづけて いたり して いた。 その ツギ に アネ が いつも つつましげ に オマイリ を し に きた。
 ことに ヨル は シンゲン な キ が した。 コノハ の ササヤキ や、 ソラ の ホシ の ヒカリ など の イッサイ を とりまとめた カンカク が、 ちょくせつ ジゾウサン を スウハイ する ワタシ の ココロ を きわめて たかく ゲンシュク に した。 ワタシ は そこ で、 おおきく なったら えらい ヒト に なる よう に ネットウ する の で あった。
 フシギ な こと は、 この ジゾウサン を タイセツ に して から は、 よく アリ など が ジゾウサン の カラダ を はって いる の を みる と、 これまで とは ベツヨウ な とくに ジゾウサン の イシ を ついで いる よう な もの に さえ おもわれた。 カタツムリ に して も やっぱり この シンブツ の キ を うけて いる よう に かんじた。 ワタシ は だんだん ジゾウサン の フキン に ソンザイ する コンチュウ を ころす こと を しなく なった。 それ が だんだん ちょうじて ガイロ でも イキモノ を ふむ こと が なく、 ムエキ に セイメイ を とらなく なって いた。
「オマエ くらい ヘン な ヒト は ない。 しかし オマエ は ベツ な ところ が ある ヒト だ」
 ハハ も ワタシ の シゴト に サンセイ して いた。
「しばらく なら ダレ でも やる もの だ が、 あの コ の よう に ネッシン に する コ は ない」
 ワタシ は それら の サンタン に かかわらず、 ときとして は こんな に して これ が ナニ に なる とか、 イマ すぐ ジブン に むくいられる とか いう こと を かんがえなかった。 ワタシ は この ちいさな ジイン の コンリュウ に、 イロイロ な ウツワモノ の まして ゆく ところ に、 ジブン の ココロ が だんだん はなれない こと を しって いた。 ことに ワタシ が カワ から ひろって きた こと が、 ハハ など が すぐ ダイク を よんで リッパ な オドウ を たてたら と いいだす ごと に、 ひどく ハンタイ させた。 いまさら ハハ の チカラ を かりなく とも、 ワタシ は ワタシ イッコ の チカラ で これ を まつりたい と おもって いた。 ワタシ は ワタシ の シンブツ と して これ を ニワ の イチグウ に おきたかった。 タレビト の ユビ の ふれる の をも このまなかった。
 リンカ に アメヤ が あった。 そこ の ヨネ ちゃん と いう コ は ニワ が なかった。 ワタシ は その ショウネン を よく ニワ へ いれて あそんだ。 ワタシ は この トモダチ と カワラ から イシ を はこんだり、 スナ を もちこんだり した。 ワタシ は だんだん オオジカケ に たてて いった。 ヒトツ の もの が ふえれば、 もっと ベツ な シンセイ な もの が ほしく なって きた。 ワタシ は マチ へ でて サンポウ や ウツワモノ や ハナヅツ や ショクダイ を あがなって きた。
 アネ は マイニチ ゴハン の オクモツ を した。 ワタシ は ながい ニワ の シキイシ を つたわりながら、 アサ の すずしい キ の カゲ に しろい ユゲ の あがる オクマイ を ささげて きて くれる の を みる と、 ワタシ は なみだぐみたい ほど うれしく こうごうしく さえ かんじた。
「ネエサン。 ありがとう」
 ワタシ は あつく カンシャ した。 ワタシ の イロイロ な シゴト を みて いる アネ は、 いつも きよい うつくしい メ を して いた。 「ネエサン の メ は なんて ケサ は きれい なん だろう」 と ココロ で かんじながら、 ワタシ は ハナ を かえたり して いた。
 ワタシ は ますます ひどく ヒトリボッチ に なった。 ガッコウ へ いって いて も、 ミンナ が バカ の よう に なって みえた。 「アイツラ は ワタシ の よう な シゴト を して いない。 シンコウ を しらない」 と、 ミンナ とは トクベツ な セカイ に もっと ベツヨウ な クウキ を すって いる モノ の よう に おもって いた。 センセイ を ソンケイ する ココロ には もとより なって いなかった。 あの ひどい ショウガイ わすれる こと の できない メ に あって から の ワタシ は、 いつも れいぜん と した コウマン の ウチ に、 タエマ も ない ニンニク に しいたげられた あの ヒ を メノマエ に して、 ココロ を くだいて ベンキョウ して いた。 ワタシ が セイジン した ノチ に ワタシ が うけた より も スウバイ な おおきい クルシミ を カレラ に あたえて やろう。 カレラ の ゲンザイ とは もっと ウエ に くらいした スベテ の テン に ユウエツ した ショウリシャ に なって みかえして やろう と かんがえて いた。
 ワタシ は あの イジ の わるい ガクユウ ら は、 もはや ワタシ の モンダイ では なくなって いた。 ぜんぜん、 あの ケンカ や コゼリアイ が ばかばかしい のみ ならず、 その アイテ を して いる こと が もはや ワタシ に フユカイ で あった。
 メイジ 33 ネン の ナツ、 ワタシ は 11 サイ に なって いた。

 7

 ワタシ の ハハ が チチ の シゴ、 なぜ あわただしい ツイホウ の ため に ユクエ フメイ に なった の か。 しかも ダレヒトリ と して その ユクエ を しる モノ が なかった の か と いう こと は、 ワタシ には 3 ネン-ゴ には もう わかって いた。 あの エッチュウ から こして きた チチ の オトウト なる ヒト が、 ワタシ の ハハ が たんに コマヅカイ で あった と いう リユウ から、 ほとんど 1 マイ の キモノ も モチモノ も あたえず に ツイホウ して しまった の で あった。 この みじめ な ココロ で どうして ワタシ に あう こと が できたろう か。 カノジョ は もはや サイアイ の ワタシ にも あわない で、 しかも タレビト にも しらさず に、 しかも その セイシ さえ も わからなかった の で ある。
 ワタシ は ハハ を もとめた。 ワタシ が あの ちいさな ジイン コンリュウ の ジッコウ や ケッシン や シゴト の ヒマヒマ には、 いつも ユクエ の しれない ハハ の ため に、 「どうか コウフク で ケンコウ で いらっしゃいます よう に」 と いのった の で あった。 この ゼンセカイ に とって は ヤド の なかった あの かなしい ハハ の キノウ に くらべて かわりはてた スガタ は、 どんな に くるしかった だろう と、 ワタシ は じっと ソラ を みつめて は ないて いた。 ワタシ が もっと セイジン して ゼンセカイ を ムコウ に まわして も、 ワタシ の ハハ の カナシミ クルシミ を とむらう ため には、 ワタシ は ミ を コ に して も かまわない と さえ おもって いた。 ワタシ は ハハ を おいだした と いう チチ の オトウト らしい ヒト に ウラマチ で あった とき、 ワタシ は イッシュ の キョウキテキ な ふかい エンコン の ため に おどりかかろう と さえ おもった の で あった。 ワタシ が あの とき、 その オトウト の ヒト を ころそう と さえ ニチヤ クウソウ した こと は、 けっして ウソ では なかった。 ワタシ は ただ カレ を にらんだ。 その ナカ に ワタシ は スベテ の フクザツ な カンジョウ の ゲキド に よって、 のろわる べく あたいせられた ゲヒ な ニンゲン を ゾウオ した。
 ワタシ が あの いたみやすい メ を して、 どんな に ハハ の ヨウボウ を えがいて それ と かたる こと と クウソウ する こと を タノシミ に して いた か! ワタシ は ヒト の ない ニワ や マチナカ で、 コゴエ で ハハ の ナ を よぶ こと さえ あった。 しかも エイキュウ に あう こと の できない ハハ の ナ を――。
 ワタシ は 「そう だ。 ニンゲン は けっして フタリ の ハハ を もつ リユウ は ない」 と かんがえて いた。 そんな とき、 ゲンザイ の ハハ を いまいましく つめたく にくんだ。 ワタシ は イッポウ には すまない と おもいながら、 それら の シネン に りょうされる とき、 ワタシ は リユウ なく ハハ に つめたい ヒトミ を かわした の で あった。
「ネエサン。 ボク の ハハ は――」
 ワタシ は ときどき いった もの だ。 アネ は オモイヤリ の ふかい メ で、 そんな とき、 いつも する よう に ワタシ を やさしく だきながら、
「どこ か で シアワセ に なって いらっしゃいます よ。 そんな こと を これから いわない で ちょうだい」 と いって くれた。
「どこ なん だ」
 ワタシ は すぐに はげしく コウフン した。 ナニモノ にも たえがたい ゲキド は、 ハハ の こと に なる と もっとも シンライ して いた アネ に まで およんだ。
「そんな こわい カオ を して は いや」
「ボク の カオ は こわい ん だ」
 ワタシ は アネ から はなれた。 こんな とき は、 アネ でも ワタシ の ココロ を しって くれない よう に、 なまぬるい カンジ の モト に イカリ を かんじた。 もう ネエサン なんぞ は いて も いなくて も、 また、 あいして くれて も くれなくて も いい と さえ おもって いた。 セカイジュウ が ワタシ を フコウ に する よう に おもって、 ワタシ は ますます ふかく おこる の で あった。
「ネエサン に ボク の ココロ が わかる もの か」
 ワタシ は すぐ オモテ へ かけだす の で あった。 たった ヒトリ の トモ で ある もの から はなれて、 ヒトリ ウラマチ や アキチ など を あるいて いた ワタシ には、 キ や その ミドリ も ジンカ も ベツ な もの に おもわれた。 なにもかも つめたく かなしかった。
 そんな とき は、 なんにも いわない シロ が ついて きた。 そして カレ が みな わかって いる よう な かなしい カオ を して いた。 ――ワタシ は ハハ と あの ひろい ニワ へ でて チャツミ を したり、 ニワ で チチ と 3 ニン で オカシ を たべたり した こと が おもいだされた。 ショカ の カゼ は いつも ワカバ の ニオイ を まぜて ふいて いた。 ワタシ は ちいさな カオ を かしげる よう に して、 チチ と ハハ の カオ を ハンブン ずつ に ながめて いた。 ヘダタリ の ない スベテ の シンミツサ が ワタシタチ オヤコ の ウエ に あった。 そんな とき、 シロ も ソバ の クサ の ナカ に ねむって いた。
「オマエ は いったい セイジン して ナニ に なる か」
 チチ は よく エガオ で たずねた。
 ワタシ は だまって にこにこ して いた。
「さあ、 この コ は かんがえる こと が ジョウズ だ から きっと センセイ に でも なる かも しれない。 ――ね。 オマエ そう おもわない かい」 と ハハ は いった。
「ボク ナニ に なる か わからない ん だ。 ナニ か こう えらい ヒト に なりたい なあ」
 ワタシ は ホントウ に ナニ に なって いい か わからなかった。
「そう だ。 ともかくも えらい ニンゲン に なれ。 その ココロガケ が いちばん いい ん だ」
「そう ね。 それ が いい」 と ハハ も いった。
 ワタシ も モクテキ の ない ばくぜん と した イシ の モト に、 ともかくも 「えらい ヒト」 に なりたい と おもって いた。 しかし グンジン の きらい だった ワタシ は、 それ イガイ に えらい ヒト に なりたい と おもって いた。
「さあ。 もうすこし で つんで しまえる ん だ から、 やって しまおう」
「ええ」
 こうして チチ と ハハ とは チャバタケ の ナカ へ、 あの うつくしい かんばしい ワカメ を つみ に いった。 ワタシ は ヒトリ で キ の カゲ に シロ と ふざけて いた――。
 ワタシ は この ヘイワ な ココロ を イマ あるきながら かんじた。 そして、 イマ スベテ が なくなって いた。 ワタシ は なにもかも なくなって いた。 ワタシ は ゲンキ-づいて サキ を はしって ゆく シロ を かなしそう に みた。 「あれ だけ が いきて いる。 あれ が みな しって いる」 と おもった。 「あれ が もし ハナシ が できたら、 よく ワタシ を なぐさめて くれる に ちがいない」 と おもった。
 ワタシ は まわりあるいて コウガイ の ジケイイン の マエ に でた。 そこ には、 オヤ の ない コ が タクサン に あつまって いた。 ちょうど、 ウチ の シゴト の とき らしく、 ヒトリ の カントク に つれられて、 マッチ の ボウ を ヨシズ に ならべて ニッコウ に ほして いた。 ワタシ と おなじ トシゴロ の ショウネン ら は、 ミナ キソク ただしい てなれた ハコビカタ を して、 ヒトツカミ ずつ ス の ウエ に ボウ を ならべて いた。 ボウ の サキ には ヤクヒン が くろく ぬられて あった。
 ワタシ は しずか に ながめて いた。 ミナ ケッショク が わるくて あおい むくんだ よう な カオ を して いた。 「ワタシ と おなじい オヤ の ない ショウネン だ。 ワタシ も ああして はたらかなければ ならなかった の だ。 ワタシ に ああいう こと が できる だろう か」 と かんがえた。 あの つめたそう な カントク の カオ が ワタシ には フカイ で あった。 そして、 この インナイ から におうて くる イッシュ の ハキケ を もよおす シュウキ は たまらない ほど、 ワタシ の ムネ を むかむか させた。 「ワタシ が ここ へ きて も ダメ だ。 ワタシ は ツイホウ される に きまって いる」 そして ワタシ の ゆく ところ は やはり イマ の カテイ より ホカ には ない の だ。
 この あわれ な ショウネン の ナカ に メ の おおきな あおい カオ を した、 しかし どこ か に ヒン の ある うつくしい カオ が メ に ついた。 ワタシ は なにごころなく この ショウネン に ひきつけられた。 ワタシ は じっと みつめた。 カレ も じっと みて いた。 ワタシ は カレ の なやんで いる の が わかる よう な キ が した。 よわい けれど たえず さびしそう に おおきく みはる クセ の ある メ、 ワタシ は この ショウネン と あそんで なぐさめて やりたい キ が した。 きっと この ショウネン は ワタシ と あそぶ こと を よろこぶ に ちがいない と おもった。 あの メ の ヒカリ は イマ ワタシ を もとめて いる の だ。 ワタシ と ハナシ する こと に あこがれて いる の だ。 ワタシ は メ で ビショウ した。 カレ も マッチ を ならべながら ビショウ した。 ワタシ の ビショウ が レイショウ に とられ は すまい か と フアン に おもった が、 カレ は、 そう わるく は とらなかった の が うれしかった。

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