カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ミツ の アワレ 2

2020-07-07 | ムロウ サイセイ
 2、 オバサマ たち

「イシ の ウエ に コドモ たち が あつまって あそんで いる わよ、 あれ、 くずれたら、 シタジキ に なっちまう わ」
「そりゃ こまる ね、 そんな に たかく つみあげて いった の か」
「ウエ へ ウエ へ と つみあげた もん だ から、 いっとう ウエ の ほう から、 ジメン を みて いる と、 メマイ が して くる くらい たかい わ」
「キミ いって、 コドモ を おろして しまえ」
「ええ、 そう いって くる わ。 あの、 ミナサン、 その イシ の ウエ で あそんじゃ ダメ、 あぶない わよ、 くずれて シタ に なったら、 しんじまう、 オリコウサン だ から ベツ の ところ に いって あそんで ちょうだい、 ほら、 ね、 キュウ には おりられない でしょう、 さあ、 アタイ が ダッコ して あげる から、 あっち に いって」
「ミナ、 いった か」
「いった わ、 アタイ の カオ を フシギ そう に みて いて、 あの ヒト ダレ だい、 あんな ヒト、 あの ウチ で みた こと が ない じゃ ない か、 と いって いた わ」
「キミ は ハデ な カオ を して いる から な」
「オジサマ、 また きた わよ、 こわい オトナリ の ジヌシ さん が きた わ、 きっと、 ハナレ が オトナリ の ジショ に ヤネ を つんだして いる の を、 コンド は なんとか しなきゃ ね」
「ハナレ を 1 シャク くらい、 がりがり けずりとる ん だね」
「コンド は イシ の ヘイ だ から、 フツウ の バアイ と ちがう わよ、 どう なさる」
「ダイク を よんで キョウカイ ぎりぎり に けずりとる ん だ。 で ない と サイバンザタ に なる し、 ホウリツ では ハバ 1 シャク の 15 ケン ブン の、 つまり その 30 ネン-カン の ジダイ も はらわなければ ならなく なる、 やはり ハナレ を こわす こと に なる ん だ」
「かわいそう な オジサマ ね、 でも、 やむ を えない わね」
「やむ を えない ね。 しかし カタガワ の デキバエ は、 なかなか いい じゃ ない か。 やっと コンド こそ ショウガイ の カキネ が できた わけ だ」
「オジサマ、 ここ へ いらっしゃい、 イシベイ の ウエ に こしかけて いる と、 ずっと マチ の かなた まで みえて きて、 いい キモチ だ わよ」
「たかき に のぼる と いう こと は、 いい ね。 イシベイ を つくって おいて よかった」
「アタイ ね、 オジサマ が オハナレ を おこわし に なる か、 そのまま つっぱねる か どう か と、 じっと みて いた わ」
「このまえ、 そう だな 5 ネン くらい マエ だ、 オトナリ の オジサン が きて ね、 アナタ も メイヨ の ある カタ だ から、 イマ すぐ とは もうしません が、 ヘイ を つくりかえる よう な こと が あったら、 ジショ は かえして ください と、 そう いわれて いた ん だ、 ジショ と いったって、 わずか 1 シャク に たりない ノキサキ だけ が オトナリ に とびだして いた ん だ がね、 そこで オトナリ では、 ゴジツ の ため に 1 マイ の カキツケ を くれ と いって ね、 オジサン は カキツケ を かいて わたして おいた ん だよ」
「どう、 おかき に なった」
「ヒツヨウ の ジキ には ハナレ を とりこわして も、 ジショ の デッパリ を ひっこめます と かいた ね」
「その ジキ が きて しまった のね、 コンド は イシ の ヘイ だ から ながい アイダ こわれない から、 ノキサキ を ひっこめた のね、 だから、 オハナレ の オトコノマ が まがっちゃった」
「だから すなお に こわして アマオチ も、 オトナリ に おちない よう に した ん だ」
「ジショ と いう もの は、 ユウウツ な サカイ を もって いる もの ね」
「ニンゲン は ムカシ から クニ と クニ の アイダ でも、 その ため に センソウ も して きた ん だし、 コジン の アイダ でも、 がみがみ かみあった もん だよ、 だから、 オジサン は ジショ と いう もの は、 ヒトツボ も もって いない、 この ウチ も シャクチ だし カルイザワ の ジショ も かりて いる」
「カルイザワ に イチド つれて いって よ、 キシャ の ナカ でも、 おとなしく して います から つれてって」
「ドビン に ミズ を いれて、 キミ を つれて いく か」
「エキエキ で ミズ を かえて くださらなきゃ ダメ。 ミズ が レッシャ で ユレドオシ だ から、 アタイ、 ふらふら に なっちゃって、 とても くたびれて しまう のよ」
「ヤマ の ミズ は キミ には どう か」
「ヤマ の ミズ に ひたる と、 アタイ の カラダ は もえあがって くる し、 ヒトミ は いっそう きらきら に なる わ。 アタイ、 オジサマ と マイニチ ヤマノボリ を する わ。 ね、 かんがえて も たのしい じゃ ない の。 サカナ は キ を こえ ヤマ に のぼる と、 ダレ か も いった じゃ ない? アタイ、 せいぜい うつくしい メ を して みせ、 オジサマ を とろり と させて あげる わ」
「キミ は ニンゲン に ばけられない か」
「マイニチ ばけて いる じゃ ない の、 これ より バケヨウ が ない じゃ ない の」
「もっと うつくしい オンナ に なって、 みせて ほしい ん だ」
「オジサマ は どうして、 そんな に ネンジュウ オンナ オンナ って、 オンナ が おすき なの」
「オンナ の きらい な オトコ なんて もの は、 セカイ に ヒトリ も い は しない よ、 オンナ が きらい だ と いう オトコ に あった こと が ない」
「だって オジサマ の よう な、 オトシ に なって も、 まだ、 そんな に オンナ が すき だ なんて いう の は、 すこし イジョウ じゃ ない かしら」
「ニンゲン は 70 に なって も、 いきて いる アイダ、 セイヨク も、 カンカク も ホウフ に ある もん なん だよ、 それ を ショウジキ に いいあらわす か、 かくして いる か の チガイ が ある だけ だ、 もっとも、 セイキ と いう もの は つかわない と、 シマイ には、 ツカイモノ に ならない ヒゲキ に でっくわす けれど、 だから いきたかったら、 つかわなければ ならない ん だ、 ナニ より それ が おそろしい ん だ、 オジサン も ね、 70 くらい の ジジイ を ショウネン の ジブン に みて いて、 あんな ヤツ、 もう ハンブン くたばって やがる と、 けとばして やりたい よう な キ に なって みて いた がね、 それ が さ、 70 に なって みる と ニンゲン の ミズミズシサ に いたって は、 まるで おどろいて ジブン を みなおす くらい に なって いる ん だ」
「セイキ なんて いや な こと、 ヘイキ で おっしゃる わね。 そんな こと は、 クチ に なさらない ほう が リッパ なの よ」
「シンゾウ も セイキ も おなじ くらい ダイジ なん だ。 なにも はずかしい こと なんか ない さ、 そりゃ、 オジサン だって セイキ と いう もの には、 こいつ が なくなって しまえば、 どんな に さわやか に なる かも しれない と、 ひそか に かんがえた こと も あった けれど ね、 やはり あった ほう が いい し、 ある こと は、 どこ か で ナニゴト か が おこなえる ノゾミ が ある と いう もん だ」
「そんな こと オオゴエ で おっしゃって は、 アタイ が あかく なって しまう じゃ ない の。 ニンゲン の タシナミ の ナカ でも、 いっとう つつしんで そっと して おく べき こと なの よ、 クチ に す べき こと じゃ ない わ」
「そりゃ そっと して おきたい ん だよ、 けれども イッペン くらい は 70 の ニンゲン だって 100 サイ の ニンゲン だって、 いきて みゃくうって いる こと を しりたい ん だよ」
「じゃ、 オジサマ は わかい ヒト と、 まだ ねて みたい の、 そういう キカイ が あったら なんでも なさいます?」
「する さ」
「あきれた」
「だから キミ と つきあって いる じゃ ない か。 オジサン が ボクシ や キョウイン の マネ を して いたら、 いきる こと に ソン を する。 そりゃ きれい に いきる ため にも、 したい こと は する ん だ。 キミ は イマ、 オジサン の フトモモ の ウエ に のって いる でしょう、 そして ときどき そっと ヨコ に なって ひかった オナカ を みせびらかして いる だろう、 それでいて ジブン で はずかしい と おもった こと が ない の」
「ちっとも はずかしい こと なんか、 ない わよ、 アタイ、 オジサマ が シンセツ に して くださる から、 あまえられる だけ あまえて みたい のよ、 ガンジツ の アサ の ギュウニュウ の よう に、 あまい の を あじわって いたい の」
「それ みたまえ、 チンピラ の キミ だって、 ジブン の つくった ところ に、 とろけよう と して いる ん じゃ ない か。 なにも わかり も しない キミ が、 こすりつけたり かみついたり して いて も、 それ で ちっとも はずかしい キ が しない の は、 キミ が ラク な こと を ラク に たのしんで いる から なん だ」
「あら、 そう なる かしら。 だったら、 はずかしく なる わね」
「コウフン して カラダジュウ ぴかぴか じゃ ない か。 これ で オジサン の サッキ から いった こと わかった だろう」
「わかった わ。 ごめん ね、 なんだか アタイ、 ふだん かんがえて いる こと かくして いた のね」
「ジッサイ に おこのうて いながら ね」
「ツジツマ が あわなかった わね」
「つまり トシ を とる と、 ホンモノ だけ に なって いきかえって いる ところ が ある ん だよ」
「だから わかい ヒト が いい の」
「こちら が ショウネン に なって いる から、 けっきょく、 わかい の が よく なる」
「けど ね、 オジイチャン が わかい ヒト を すく と いう の は、 ちょっと、 いやあ ね。 みぐるしい わ」
「ちっとも シュウアク じゃ ない、 アタリマエ の こと なん だ」
「だから、 アタイ の よう な わかい ん じゃ なくて は、 ダメ だ と いう の」
「キミ より わかい ヒト は いない ね、 たった 3 サイ だ から ね。 3 サイ の キミ が 70 サイ の オジサン と、 ウデ を くんで ヤマノボリ する なんて、 セカイ に フタツ と ない チンフウケイ だね。 キミ は キマリ の わるい オモイ を しない か」
「アタイ は ホントウ は、 オサカナ でしょう。 だから ちっとも はずかしく ない わ。 オジサマ は ホカ の カタ に おあい に なったら、 きっと オコマリ でしょう に」
「なるべく かくれて あるきたい な、 みつけられたって かまい は しない けど、 オジサン の いきる ツキヒ が アト に つまって たくさん ない ん だ もの、 だから セケン なんて かまって いられない ん だ。 わらおう と する ヤツ に わらって もらい、 ゆるして くれる モノ には ゆるして もらう だけ なん だよ。 キミ は きらい かも しれない けど、 その テン で じつに ずうずうしく オオデ を ふって あるける ん だよ、 セケン で テ を たたいて バカ アツカイ に したって ヘイキ な もん だ。 いきる の に ナニ を ミナサン に エンリョ する ヒツヨウ が ある もん か」
「オジサマ は とても ずぶとい こと ばかり、 はっと する こと を ぬけぬけ と おっしゃる。 そう か と おもう と、 アタイ の オシリ を ふいて くださる し……」
「だって キミ の ウンコ は ハンブン でて、 ハンブン オシリ に くっついて いて、 いつも くるしそう で みて いられない から、 ふいて やる ん だよ、 どう、 ラク に なった だろう」
「ええ、 ありがとう、 アタイ ね、 いつでも、 ヒケツ する クセ が ある のよ」
「ビジン と いう もの は、 たいがい、 ヒケツ する もの らしい ん だよ、 かたくて ね」
「あら、 じゃ、 ビジン で なかったら、 ヒケツ しない こと」
「しない ね、 ビジン は ウンコ まで ビジン だ から ね」
「では、 どんな、 ウンコ する の」
「かたい かんかん の それ は タマ みたい で、 けっして くずれて なんか いない やつ だ」
「くずれて いて は うつくしく ない わね、 なんだか わかって きた わよ」
「キメ の こまかい ヒト は ね、 イブクロ でも ナイゾウ の ナカ でも、 なんでも かんでも、 キメ が おなじ よう に こまかい ん だよ、 ウンコ も したがって そう なる ん だ」
「オジサマ、 うかがいます が、 アタイ ビジン なの、 どう なの おしえて」
「キミ は ビジン だ とも、 キミ の マワリ に いつも 10 ニン くらい の コドモ が、 うやうや して キミ を あきる こと も しらない で ながめて いる」
「どの コ も オカネ を もって いない で、 ながめて いる だけ ね。 かわいそう ね、 コドモ は オカネ を もって は いけない の」
「コドモ は ホカ の こと に オカネ を みんな つかって しまって、 サイゴ に キンギョヤ の マエ を とおって、 しまった、 あんな に オカネ は つかう ん じゃ なかった と、 かなしげ に キンギョ を ながめて いる だけ なん だよ。 いつも いつも そう なん だよ」
「わかった わ、 で、 ミンナ ヒカン して ぼうぜん と たって いる だけ なの ね。 キンギョ は かえない し、 みれば みる ほど うつくしい、 だから、 サッキ から 1 ジカン も たって ながめて いる、 ……オジサマ、 キンギョ を 1 ピキ ずつ でも いい から、 コドモ たち に かって あげて よ」
「うむ、 ほら、 オカネ だ、 キミ が かって ミンナ に わけて やる が いい」
「ありがとう。 コドモ の カオ ったら かなしそう で みて いられない わ。 あら、 あの キンギョヤ さん は、 じっと サッキ から フシギ そう に アタイ の カオ を みて いる、……」
「どこ か に ミオボエ が ある らしい ん だな」
「アタイ も あの カオ だけ は わすれる こと が できない わ。 マイニチ あの カオ ばかり みて いて、 そだって きた ん だ もん、 イマ アタイ、 オジサマ の ホッペ を ひっぱたいて も、 おこらないで よ」
「どうして そんな こと を する」
「アタイ が えらく なった ショウコ を、 キンギョヤ さん の メ に みせて やる のよ、 きっと おどろく でしょう」
「じゃ、 ひっぱたいて も いい よ」
「ごめん よ、 びっしり と ゆく わよ、 いたく ない こと、」
「ちっとも、」
「キンギョヤ さん たら あきれちゃって、 こっち を きょとん と した メ で みて、 クチ を あけた まんま コトバ も でない ふう ね」
「ホカ の モノ には オンナ に みえ、 キンギョヤ には キンギョ に みえる キミ が フシギ なん だろう」
「その キンギョ が オカネ を もって ね、 キンギョ を かい に いく と いう こと は うれしい オハナシ じゃ ない の、 ほら ね、 コドモ たち が ミンナ こっち を むいて、 キンギョ を すくいだしはじめた じゃ ない の。 ボウヤ、 おおきい の を あげる わよ、 オバチャン が オカネ はらう から、 シンパイ しない で、 どんどん、 すくいあげて いい のよ」
「オバチャン、 10 ニン も いる ん だぜ」
「ナンジュウニン いたって いい わよ、 オバチャン は、 キョウ は、 オカネ は うんと もって いる ん だ」
「そんなら、 ショウコ に オカネ を みせて よ、 オバチャン」
「これだけ みんな かって あげる わ。 ある だけ タライ の キンギョ を すくいだして もって おかえり に なる が いい わ。 ほしけりゃ キンギョヤ の オジイチャン も うって も いい わよ、 ふふ、 ……こんにちわ おひさしく、 オジイチャマ」
「おう、 3 サイ-ッコ、 あれ が オメエ の ダンナ かい、 うまく やった な、 ヨボヨボ は すぐ カタ が つく から、 しこたま もらっとく が いい ぜ」
「ナニ いってん の、 ダンナ じゃ なくて センセイ だわ、 しめころしたって しぬ カタ じゃ ない わよ、 シンゾウ には テツクズ が いっぱい つまって いらっしゃる から、 アンタ なんぞ の テ に おえ は しない」
「それ じゃ キカンシャ じゃ ねえ か」
「キュウシキ の キカンシャ な もん だ から、 シンリン でも ヤマ でも、 かみたおして はしって ゆく わよ」
「オメエ は いったい、 あの カタ の ナン なん だ、 わかった、 オメカケサン だな」
「アタイ、 あの カタ の これ なの よ、 オメカケサン なんか じゃ ない わ、 も イッペン、 ホッペ たたいて みせて あげる わ、 ね、 ちっとも、 おおこり に ならない でしょう、 アタイ の いう こと なんだって きいて くれる のよ、 いまに オイケ と ウロ を つくって くださる オヤクソク なの、 オジイチャマ、 オカネ が ほしかったら、 コンド くる とき に うんと キンギョ もって いらっしゃい、 オイケ に はなす ん だ から、 どれだけ いたって たりる こと は ない わ」
「オメエ は えらい キンギョ に、 いつのまに ハヤガワリ した ん だ」
「アイテ-シダイ で どんな に でも、 かわれば かわる こと が できる もの よ、 たしょう バカ でも ね」
「いつでも キョウダイ に むかって ベソ かいて いた から な、 オキャク は つかない し カラダ は よわい し ね。 だが、 3 サイ-ッコ、 コンダ あてた な、 あの ジジイ、 したたか な カオ を して いる が、 ショウバイ は いったい ナン だ」
「しらない」
「しらない こと ある もん か、 こそっと オラ に だけ いえ よ」
「しらない ったら しらない わよ、 しって いたって キンギョヤ さん なんか に、 あの ヒト の こと いう もん です か」
「いえない ショウバイ なら ドロボウ か、 カタリ の タグイ だろう、 だが、 ドロボウ が イシベイ の ナカ に すむ こと は、 ねえ から な。 ひょっと する と ズメンヒキ かな。 なんとか いって くれ よ」
「しらない、 アタイ、 あの カタ の こと いわない って オヤクソク が して あん だ から、 いくら、 オジイチャマ だって いえない わ、 ダレ に だって いう もん か。 おうい、 オジサマ、 そろそろ オデカケ の オジカン よ、 はやく オヒゲ を そって オユ に はいって、 ゴヨウイ なさらなければ、 ジカン に おくれたら タイヘン な こと に なる わよ」
「ユウウツ だな、 コウエン と いう もの は もう ミッカ マエ から、 ショクヨク が なくなって しまう し、 ムネ は すっぱく なる し、 ゲンキ まで なくなる、……」
「だって コノアイダ から おかき に なって いた ゲンコウ を ほどよく、 ジカン を おおき に なって ロウドク なされば いい のよ、 さあ、 オヒゲ を おそり に なって」
「キミ は きて は ダメ だよ」
「だって アタイ が いなかったら、 オジサマ は びくびく して コウエン できない じゃ ない の。 アタイ、 ウシロ に かくれて いて、 オシリ を つねって おあげ する わ」
「だから オセッカイ は やめて くれ と いう ん だ。 ヒトリ なら どもりながら でも しゃべれる が、 キミ が いる と キ が ちる ん だ、 たのむ、 キョウ は こない で くれ」
「なんて ヒソウ な オカオ なさる わね、 じゃ、 いかない わよ」
「おこるな よ、 オジサン は ヒトリ だ と、 さばさば して なんでも オシャベリ が できる ん だ」
「じゃ、 まいりません、 アンシン して いって いらっしゃい。 カイダン は すべる から キ を つけて ね。 それから、 パイプ を わすれない で もって かえって いらっしゃい」
「じゃ いって くる」
「テーブル の ウエ に コップ と ミズ を たのんで おかなくちゃ ね。 オハナシ に つまったら、 オヒヤ を あがる が いい わ。 たすかる わよ」
「キンギョ じゃ あるまい し、 ミズ なんか いらない よ、 ミズ ばかり のんで コウダン したら どう なる ん だ。 ミズ を のみ に エンダン に たつ よう な もの だ」
「それなら、 なお ハクシュ カッサイ だわ、 コップ の ミズ を のんで、 それきり で コウダン する エンゼツ も あって いい じゃ ない の」
「あ、 こまった」
「クルマ が きた わよ、 あら、 うつくしい フジン キシャ が オムカエ なの よ。 ぴちぴち して いて、 クルマ と おなじ イロ の クツ はいて いらっしゃる」
「キョウ は ビジン も メ に はいらない」
「なんて カオ なさる の、 ほら、 オボウシ よ」
「じゃ、 いって くる、 こない で くれ よ」
「じゃ、 いって らっしゃい。 オジサマ、 カオ、 もう イッペン みせて、 それ で いい わ、 もう ゲンキ が でて きて、 カクゴ を した オカオイロ に なって いる わ」

「あの、 おみうけ した ところ、 どこ か、 オカラダ が おわるい ん じゃ ございません か」
「は、 すこし なんだか キュウ に」
「たいへん オイキ が くるしそう です が、 オミズ でも、 おあがり に なりましたら?」
「ミズ なんか アナタ、 ここ では とても」
「オミズ なら アタイ、 いいえ、 ワタクシ、 もって います から、 スイトウ の クチ から じかに おあがり くださいまし、 さあ、 どうぞ」
「まあ、 これ は、 おそれいります」
「どうぞ、 ぐっと、……」
「は、」
「もっと めしあがって、 あ、 オラク に なって、 オカオ の イロ が でて きました わ。 ほら ね、 イキヅカイ が ちゃんと、 ヘイキン して きた じゃ ございません か」
「は、 どきどき する の が とまって まいりました。 なんとも、 オレイ の モウシヨウ も ございません」
「もう、 ちょっと めしあがれ」
「あ、 おいしい。 もう、 おさすり くださらなくて も、 ケッコウ で ございます。 どうぞ、 オテ を おろして くださいまし」
「オイキ の くるしい アイダ、 オセナカ が こわばって いました けれど、 あ、 そう、 ワタクシ も オミズ いただいて おきましょう。 オロウカ に でて おやすみ に なったら? カミヤマ さん の コウエン も おわりました し」
「では、 ゴメイワク ツイデ に、 ゴイッショ に して いただきます」
「この クッション には、 ヨリカカリ が あって よ ございます」
「もう すっかり ラク に なりました。 ワタクシ シンゾウ が わるい もの です から、 カイジョウ に まいって から も キ を つけて いた ん です けれど、 フイ に、 マエ の ほう が くらく なって しまいまして」
「アナタ が うつむいて いらっしって も、 オイキ の はあはあ いう の が きこえて くる ん です もの、 おどろいちゃって どう しよう か と、 ヒトリ で、 うろたえて しまった ん です」
「あの、 ヘン な こと おきき する よう です けれど、 どうして オミズ を あんな に たくさん おもち に、 なって いらっしった ん でしょう か」
「ええ、 すこし ワケ が ございまして、……」
「あら、 ごめん あそばせ、 シツレイ な こと もうしあげまして、 アナタ が そんな に おわかい のに ゴヨウジン-ぶかい と、 つい そう おもった もの です から」
「ワタクシ は いつも オミズ が ほしい ショウブン な もの です から、 スイトウ を はなした こと が、 まだ イチド も ございません」
「オイド の ミズ で ございます ね」
「よく ゴゾンジ で いらっしゃいます こと。 それ より キョウ は ドナタ の ゴコウエン を おきき に いらっしった ん です か、 まだ、 ゴコウエン が ある はず なん です が」
「ワタクシ カミヤマ さん の ゴコウエン を おきき して、 もう かえろう と シタク しかかって いて、 つい、 メマイ が した もの です から」
「カミヤマ さん を ゴゾンジ で いらっしゃいます か」
「カミヤマ さん に カキモノ を みて いただいた こと が ある ん です。 15 ネン も マエ の こと です が、 めった に ゴコウエン なぞ なさらない カタ な もの です から、 オメ に かかりたくて も キカイ が なかった の です が、 シンブン で オナマエ を みて キョウ は はやく から まいって いた の が、 カラダ に さわった の かも しれません」
「まあ、 オジサマ と 15 ネン も マエ に、 おあい に なって いらっしった ん です か」
「オジサマ って おっしゃる と、 それ は カミヤマ さん の こと です か、 スイトウ に カミヤマ と かいて あった もの です から、 はっと した の です が、 カミヤマ さん の ゴシンセキ の カタ なん です か」
「ええ、 シンセキ の、 そう ね、 マゴ の よう な モノ なん です けれど、 オミノマワリ の こと も みて おあげ して いる モノ です、 どう いったら うまく ワタクシ の タチバ が いいあらわせる か、 いいにくい ん です けど」
「でも、 オジサマ って および に なって いらっしゃいます から、 きっと、 おなじ オウチ に いらっしゃる ん でしょう」
「え、 キョウ の ゴコウエン は きき に きちゃ いけない って、 きびしく もうしつけられて いた ん です けれど、 ウチ に いる の が たまんなくて まいりました の、 アタイ が いなくて は、 カミヤマ は なにも できない ん です もの」
「まあ、 アタイ って おかわいらしい こと を おっしゃる」
「もう、 いっちゃった から いう けど、 アタイ、 オジサマ が シツゲン したり なんか しない か と、 びくびく して きいて いました。 そしたら うまく おしゃべり に なれて ほっと しちゃった の。 そしたら コンド は、 アナタ の オカラダ が わるく なって、 それ が カイジョウ ソウダチ に なったら オジサマ が かわいそう だ から、 オミズ を さしあげた のよ、 アタイ、 あんな に あわてた こと が ない ん です もの」
「アナタ は オイクツ に オナリ なの」
「アタイ、 イクツ かしら、 イクツ だ と いったら テキトウ なの か わかんない けれど、 17 くらい に なる でしょう か」
「それで カミヤマ さん は アナタ を おかわいがり に なって いらっしゃる ん です か、 たとえば、 オミヤゲ とか、 オカイモノ とか、 ゴハン も、 ゴイッショ に あがって いらっしゃいます か」
「いいえ、 ゴハン は ベツ です けれど、 アタイ の たべる もの は、 フツウ の ヒト とは ちがいます もの」
「どういう ふう に、 おちがい に なる ん です か」
「そんな こと ちょっと カンタン には いえない わ、 オショクジ は ちがって います けれど、 ヨル も ゴイッショ に ねる こと も ある し、……」
「まあ、 ゴイッショ に おやすみ に なる ん です か、 そんな こと を アナタ は ヘイキ で おっしゃいます けれど、 ゴイッショ と いう こと は、 ヒトツ の オトコ で カミヤマ さん と おやすみ に なる こと なの よ、 カンチガイ を して いらっしゃる ん じゃ ない、……」
「いいえ、 ヒトツ の オトコ なの よ、 アタイ、 オジサマ の ムネ や、 オセナカ の ウエ に のって あそぶ こと も ある し、……」
「あそぶ ん ですって」
「ええ、 くすぐったり とんだり はねたり する わ、 オジサマ は メ を つぶって いらっしゃいます だけ だ けど、 アタイ、 その オメメ を ムリ に あけたり、 それから オメメ の ウエ に カラダ を すえて いたり して います と、 オジサマ は、 とても、 メ が ひえて およろこび に なります」
「あら、 そんな こと まで おっしゃって、 アナタ は ダイタン で ムジャキ で イマ まで アナタ みたい な カタ に、 ワタクシ おあい した こと イチド も ない わ、 も イチド おきき したい ん です けれど、 あまり シツレイ な こと で ワタクシ ジシン うかがう こと も、 はずかしい くらい なん です けれど」
「どんな こと かしら、 なんでも おこたえ できる わ、 アタイ、 オバサマ も すき に なっちゃった、 ダレ でも すき に なって こまる ん です けれど」
「オバサマ と いって くださる と、 うれしく なる わ、 あのね、 おおこり に ならない で きいてて ね、 アナタ は カミヤマ さん と カンケイ が おあり に なる の、 ヨル も ゴイッショ だ と おっしゃる し、……」
「カンケイ って どんな こと です か、 アタイ、 カンケイ と いう こと はじめて きいた わ」
「オジサマ は アナタ と おやすみ に なって から、 どんな こと を なさいます の、 こんな ふう に モノ を いう の、 ごめんなさい ね、 だって、 こう いう より トイカタ が ない ん です もの、 たとえば アナタ を おだき に なったり なさいます?」
「いいえ、 アオムキ に ねて いらっしゃる だけ なの、 だいて いただいた こと ない わ、 ただ、 アタイ の ほう で ふざける だけ なの」
「だって そんな こと ある はず ない と おもう ん です けれど、 まあ、 アナタ って カタ、 オンナ でも ない みたい に、 ちっとも はずかしがらない で、 なんでも フツウ の こと の よう に おっしゃる わね、 つよく だいたら つぶれて しまう なんて、」
「つぶれて しまう わ、 アタイ、 ちいちゃい ん です もの」
「そんな に おおきく なって いらっしゃる じゃ ない の、 オッパイ も オタナ みたい だし、 ウデ も まんまるくて アブラ で つめたい し、 ケッショク も いい し、 それ で オジサマ が なにも なさらない ん です か」
「アタイ、 オジサマ の コモリウタ かも しれない わ、 ふう と きて、 ふう と ふかれて いく だけ なん です もの。 でも、 オジサマ は たんと たのしい こと を しって いながら、 アタイ に、 して くださらない こと に なる わね、 ずるい わ、 アタイ、 オジサマ に いって やる わ、 たのしい こと を ヌキ に しちゃ いや だ って」
「そんな こと おっしゃって は ダメ、 イマ まで-どおり の オジサマ で タクサン じゃ ない ん です か。 ワタクシ つまらない こと を おはなし しました けれど」
「アタイ、 これ イジョウ たのしい こと ある はず ない と、 いつも そう おもって いた ん です もの」
「ワタクシ ね、 さっき いただいた オミズ を あんな に たくさん もって いらっしゃる ワケ が、 おきき したい ん です けれど、 どう かんがえて みて も わからない の」
「あれ は いえない、」
「なぜ おわらい に なります、 だって スイトウ に いっぱい オミズ を もって コウエンカイ に いらっしゃる ワケ は、 とても わからない わ。 ダレ に でも わかりっこ ない わ」
「そう ね、 オバサマ には とても、 わかりっこ ない わ、 ダレ も わかる ヒト ない わ、 ダレ にも しられたく ない アタイ の ヒミツ なん だ もん、 オバサマ にも いう こと できない のよ、 アタイ の オクチ に テ を かけて はかそう と なすって も、 がん と して いわない わ、 オジサマ だけ が その ワケ しって いらっしゃいます けれど」
「カミヤマ さん は なんと おっしゃって いらっしゃる の」
「いつも オミズ を わすれるな と おっしゃる わ、 アタイ の なにもかも、 みんな しって いらっしゃる ん だ もの」
「オカラダ に イリヨウ なん です か」
「そう なの、 ミズ が なくなる と、 アタイ の メ が みえなく なる かも しれない ん です もの。 それ より か、 いったい、 オバサマ は なぜ 15 ネン も オジサマ に、 おあい に ならなかった の、 アタイ、 その ワケ が ききたい ん です。 オバサマ、 その ワケ を くわしく おはなし して ちょうだい、 オバサマ の カオ は うつくしい けれど あまり に しろっぽい し、 オセナカ だって さっき さすった とき に かんじた ん だ けど、 まるで、 オサカナ みたい に ひえきって いた わ」
「ワタクシ あの とき、 ずっと チ の ひいて ゆく グアイ が、 すぐ わかって いた ぐらい です もの、 ひえる の アタリマエ の こと だわ」
「いいえ、 その こと を おきき して いる の じゃ ない わ。 なぜ、 オジサマ に おあい に ならなかった か と いう こと なの よ、 ね、 それ を おはなし して」
「アナタ に オミズ が イリヨウ で その ワケ が おっしゃれない よう に、 ワタクシ が おあい できなかった こと も、 イマ すぐに は おはなし できない わ、」
「それ も ヒミツ なの ね、」
「ええ、 そう よ、 ヒミツ なの よ」
「オバサマ は アタイ を おすき」
「え、 もう、 キョウ カイジョウ に はいる と、 すぐ アナタ の オソバ に すわる よう に、 アタマ が フイ に しらせた の」
「アタマ が しらせた?」
「そう よ、 あの ちいさい オカタ の ところ に いけ、 そして おあい しろ と いわれた わ」
「ドナタ に、 ドナタ が そう いった の」
「アタマ が そう つくりあげた のよ、 その とき、 アナタ も トビラ の ほう に ちらと メ を むけて、 ちゃんと しって いらっした ふう じゃ ない の」
「アタイ、 あの トビラ から ダレ か が くる はず だ と、 カイジョウ に はいる と、 すぐ、 ずっと、 おもいつづけて いた わ、 イッペン も あった こと の ない ヒト だ が、 あえば すぐ うちとけて オハナシ の できる カタ で、 おはなし しなければ ならない こと が たくさん たまって いる カタ だ と そう おもって いた の。 だから、 オセキ を とって おすわり に なれる よう に して いた のよ」
「アナタ は うれしそう に にこにこ してた わね」
「アタイ、 オジサマ が バカ を いわない か と、 それ が おかしくて。 アナタ は どうして ゴコウエンチュウ うつむいて ばかり いらっしった の。 まるで きいて いらっしゃらない ふう だった わ」
「オカオ を みる の が はずかしかった し、 みられまい と ケンメイ に うつむいて いた の、 そして ついに イチド も みなかった わ」
「なぜ、 オカオ を おみせ に ならなかった ん です」
「あの カタ には おあい できない ワケ が あります のよ」
「どうして」
「どうしても、」
「アタイ、 オジサマ に アナタ に オメ に かかった って、 キョウ かえったら おはなし する わ、 まあ、 そんな に オカオ の イロ を かえちゃって。 おはなし する の が わるい ん です か」
「アナタ に なにも いって くださるな と いったって、 とても、 だまって は いらっしゃらない わね、 けれど、 オジサマ は ワタクシ に アナタ が あった と おっしゃって も、 そんな バカ な こと が ある もの か と、 しんじて くださらない わよ」
「なぜ かしら、 だって こうして おあい して いる のに? オバサマ、 オテテ だして、 こんな に しっかり にぎって いる のに、 ウソ なんか じゃ ない でしょう、 オバサマ、 キス しましょう」
「まあ、 アナタ って なんて コドモ さん なん でしょう、 でも、 キス する こと しって いる わね」
「オジサマ と いつも して いる ん だ もの、 アタイ、 の、 つめたい でしょう」
「ええ、 とても」
「あら、 あら、 オバサマ、 ミナサン が でて きた わ、 コウエン が おわっちゃった のよ、 アタイ、 こうして は いられない わよ、 オバサマ、 イッショ に オジサマ の ところ に いきましょう。 きっと びっくり なさる わよ、 あら、 そんな オカオ を おかえ に なって いったい どこ に いらっしゃる の」
「ワタクシ、 これ で シツレイ します」
「ね、 オジサマ に おあい に なって よ、 アタイ、 うまく とりなして おあげ する から、 イッショ に いらっしゃい」
「もし ワタクシ の こと おっしゃる よう だったら、 わすれない で います と、 そう おっしゃって ね、 オシアワセ の よう に って ね」
「オバサマ、 いっちゃ ダメ よ、 ダメ よ、 いっちゃ」
「では、 おわかれ する わ、 オリコウサン」
「オバサマ、 オテテ だして」
「そうして いられない ん です よ、 では、 アナタ、 オジサマ を よく みて あげて ね」
「よく して あげる わ、 いっちゃ いけない と いう のに」
「じゃ ね」
「オバサマ、 オバサマ」
「…………」
「あ、 いっちゃった、 せっかく、 ダイジ な オトモダチ が できた のに いっちゃったい、 オバサマ の バカ、 もどって きて、 オバサマ、……」

「オジサマ、 アタイ よ。 おどろいた でしょう、 ちゃんと きて いた のよ」
「びっくり する じゃ ない か、 チンピラ、 どうして きた ん だ」
「ここ あけて よ、 ずっと、 ゴコウエン を きいて いた のよ、 とんでもない こと、 おっしゃる か と おもって シンパイ しちゃった。 ここ、 あけて よ」
「おはいり、 あんな に きちゃ いけない って いって いた のに、 こまった ヤツ だ」
「だって オウチ に ヒトリ で いる の が、 ムネ が やきもき して、 とても、 たまんなかった もん、 ゴコウエン よく きこえた わよ」
「でも、 よく、 ヒトリ で クルマ を みつけて のった ね」
「かけずりまわって やっと みつけた のよ、 この クルマ シンブンシャ の でしょう」
「おくって くれる ん だ、 ウチ まで」
「アタイ、 あかい ハタ の たって いる クルマ に のる の はじめて だわ、 とても、 いさましい わね」
「ミズ を もって いる ね、 スイトウ なんか さげて ヨウジン-ぶかくて いい」
「オジサマ、 おはなし したい こと が たくさん ある のよ、 こっち おむき に なって」
「むずかしい カオ を して ナニ を いいだす ん だね、 くたびれて いる から、 しばらく、 なにも いわない で くれ」
「タイヘン な こと が あった のよ、 くたびれた では すまない わよ、 キョウ ね、 アタイ の ヨコ に すわって いる カタ が いて ね、 カオイロ が あおじろい ん だ か しろい ん だ か わからない くらい、 チチ の よう な イロ を して いる カタ が いらっしった の、 うつむいて コウエン を きいて いらっしゃる のよ、 オジサマ に カオ を みられ は しない か と、 それ ばかり キ に して いる よう な カタ なの よ」
「エンダン から は ヒト の カオ なんか、 くらくて みえ は しない よ」
「そのうち その カタ が キュウ に ひどそう に、 コキュウ コンナン みたい に なっちゃって、 アタイ、 びっくり して ミズ を あげた のよ、 そしたら おちついて、 ふう と イキ も フダン の まま に なって きた のよ」
「よく キ が ついた な、 シンゾウ が わるい ヒト らしい ね」
「よく オワカリ ね、 オジサマ は」
「ナン だ、 ヒト の カオ を じっと みつめたり なんか して、 ヘン な コ だ」
「その カタ を オロウカ の ほう に おさそい して、 やすませて おあげ した の、 もう、 オジサマ の オハナシ が すんだ アト だった から、 クッション の ウエ で ながい アイダ おはなし した わ、 ミズ の よう に オロウカ に ヒトケ が なくて、 その カタ の カオ の イロ が アタイ の ゴタイ に しみわたる ほど、 へんに つめたかった、 オジサマ、 その カタ は いったい ダレ だ と おおもい に なる、……」
「さあ、 ダレ だ かね」
「オジサマ、 いって あげましょう か」
「ミョウ な カオ を する じゃ ない か、 しって いる ヒト なら はやく いいたまえ」
「びっくり しないで よ、 タムラ ユリコ と いう カタ なの よ、 とても ハナスジ の きれい な カタ、 あら、 オジサマ の メ の ナカ が キュウ に うごく の が とまっちゃった」
「タムラ ユリコ」
「そう なの よ、 タムラ ユリコ って いう カタ なの よ、 どう、 びっくり した でしょう」
「ジブン から タムラ ユリコ と ナ を いった の、」
「アタイ が おきき した から よ、 そしたら スイトウ の ミズ を おあげ した とき に、 カミヤマ って かいて あった の を およみ に なった らしい わ、 キュウ に メ を アタイ に じっと そそいで、 こう、 おっしゃった わ。 アナタ は カミヤマ さん の ドナタ だ と おいい に なった から、 アタイ、 オジサン の こと なんでも みて あげて いる モノ だ と いったら、 オイクツ と おきき に なり、 アタイ、 17 サイ だ と おこたえ した わ。 そしたら アタイ の カオ を また じっと みなおして、 アタイ の こと が みんな わかって いる ふう だった わ、 どうか する と、 オジサマ、 あの カタ、 アタイ が オジサマ の どういう モノ だ か も、 ちゃんと わかって いる らしかった わ」
「それ は わかるまい、 いや、 わかって いる かも しれない が、 たしか に タムラ ユリコ と いった ね、 どう かんがえて も、 そんな オンナ が イマゴロ あらわれる なんて こと は、 ありえない こと だ、 ホントウ の こと を いおう か、 その タムラ ユリコ と いう オンナ は、 とうに しんで いる オンナ だ、 しんで いる ニンゲン が あらわれる こと は ゼッタイ に ない」
「まあ、 しんで いる カタ なの」
「その ナマエ の ヒト なら しんで いる、 キミ の はなした ヒト は その ヒト では ない ん だ、 こわい か、」
「こわい」
「おもいあたる こと が ナニ か ある の、 こまかく いって ごらん」
「たとえば あまり に おきれい で、 なにもかも しって いらっしって、 そらとぼけて いらっしゃる ふう だった わ、 アタイ、 しじゅう、 ぞくぞく うれしい よう な かなしい みたい な、 それ で キミ が わるい よう な ときどき いやあ な キ が して いた わ、 しんで いる ヒト だ と いえば そんな キ も しない では ない の です が、 フシギ な こと が あった わ、」
「どんな こと なの だ」
「アタイ、 キ の せい か、 オバサマ の テ を にぎって みたくて、 きゅっと、 にぎっちゃった の、 あら、 いつのまにか アタイ、 その カタ を オバサマ と よぶ よう に なっちゃった の、 わずか の アイダ に そういう ふう に したしく なって いた のね、 その とき に ね、 オバサマ の ヒダリ の テ に ヒトツ の キズアト を みつけた の、 キンゾク の サッカショウ の よう だった ので、 これ、 どう なさいました と いったら、 すぐ テ を おかくし に なった わ、 アタイ、 そこ に ウデドケイ が フダン から はめられて いた アト が、 あかく のこって いる の を メ に いれた の」
「ウデドケイ の アト だって、」
「それ が トケイ の カタチ と クサリ の アト が、 まるで ソノママ で のこって いた のよ、 だから、 アタイ、 オトケイ キョウ は あそばさない の と いったら、 こわれて いる もの です から と おっしゃって いた わ、 コトバ が とても きれい な カタ なの ね。 その とき の オカオ の イロ ったら とても わるかった」
「その キズ と いう の は ひどく なって いた の」
「そう よ、 ザンコク に トケイ を テクビ から もぎとった シュンカン の キズアト だった らしい わ、 アタイ、 その ワケ を きこう と した けれど、 おっしゃらなかった、 きっと、 オジサマ が おとり に なった の でしょう と いう と、 カミヤマ さん じゃ ない と おっしゃった わ、 その ホカ の こと は なにも おっしゃらなかった。 まあ、 オジサマ、 なんて いや な オカオ を なさる の、 オジサマ、 オジサマ、 ふるえだしちゃった、……」
「そんな ヒト が モノ を いう はず が ない、 だが、 その トケイ の ハナシ は ホント の こと なん だ、 アケガタ に シンゾウ マヒ で たおれて から、 5 ジカン ダレ も その ヘヤ に はいった ニンゲン が いない ん だ、 ソウジフ が カギ の かかって いない ドア から なにげなく すかして みる と、 タムラ ユリコ は アオムケ に なって タタミ の ウエ で しんで いた、 その とき に まだ トケイ は うごいて いた のさ」
「だって オジサマ は なぜ そんな オカオ を なさる の、 また、 ヒタイ から アセ が にじんで きた わ、 ひょっと する と アブラ かも しれない わ」
「オジサン の おどろいた の は、 その オンナ と キミ と が ハナシ を した と いう こと に、 おどろいて いる ん だ、 キミ は その オンナ を まるで しらない くせ に、 イマ いう こと が みんな ホントウ の こと なの だ、 その ジッサイ の こと に やられて いる の だ」
「オセナカ を さすって おあげ した とき、 ナリ の たかい カタ だ と いう こと が、 セナカ の スジ の ながい こと で すぐ わかった わ」
「どういう コエ を して いた ん だ、 コエ の こと を いって ごらん」
「やわらかくて ききかえす ヒツヨウ の ない とおった コエ だった わ、 アタイ、 アナタ に オメ に かかった こと を オジサマ に、 みんな おはなし する と いう と、 おとめ して も きっと おっしゃって おしまい に なる から、 おとめ しない と おっしゃって いた わ」
「そして ナニ か コトヅテ が なかった か」
「アタイ に ね、 オジサマ を よく みて あげて と いった だけ だわ、 キョウ は 15 ネン-ぶり に オメ に かかれた と、 それきり おわかれ しちゃった。 いくら よんで みて も ふりかえり も しない で、 デグチ の ほう に おゆき に なった のよ」
「たしか に その ヒト は タムラ ユリコ と いった ん だね、 キミ が カイホウ して あげた ヒト が グウゼン に、 そんな ナマエ の ヒト だった わけ じゃ ない ね、 トケイ の こと も、 グウゼン に にた ハナシ だ と する より、 オジサン の カンガエヨウ が ない ん だ が」
「その オンナ の ヒト は オジサマ の いったい ナン なの よ。 それ から きかない と ハナシ が わからない わ」
「それ は タムラ さん の かいた もの を オジサン が よんで あげて いた ん だ、 そう だな、 5~6 ネン も マ を おいて つづけて いる うち、 とつぜん、 カキモノ の ゲンコウ を おくって こなく なった ん だ。 すると ある ヒ ケイサツ の ヒト が きて ね、 タムラ ユリコ が サクヤ キュウシ した と いって、 オジサン が ショ に レンコウ されて しらべられた ん だ、 オジサン は ウチ にも きて カオ は しって いる が、 アパート の ヘヤ なぞ には まるで イチド も いった こと が ない、 だから シイン も なにも わかって いない の だ、 ケイサツ では オジサン から の ゲンコウ を カイソウ した フウトウ から ジュウショ が わかった らしく、 そんな フウトウ まで ちゃんと とって あった そう だ」
「オジサマ は オンナ だ と オセッカイ ばかり なさる から よ、 ケイサツ から じゃ、 いやあ ね。 きっと オトケイ が なくなって いた から でしょう」
「トケイ と ホカ に ヨウフク なぞ も なくなって いた らしく、 ギュウニュウヤ さん が ハイタツ に まわった とき に、 ドア が アケハナシ だった そう だ が、 ハンニン は でなかった らしい」
「オジサマ の ケンギ は?」
「ジケン と カンケイ が ない こと は すぐ わかった さ、 だが、 その キュウシ と ドウジ に オジサン は ながい アイダ みて いた ゲンコウ の ナイヨウ から、 タムラ さん と いう ヒトリ の オンナ が、 ヤク にも たたない ゲンコウ を かきながら しんだ と いう こと が、 ショウセツ-フウ な ジョウケイ で アタマ に のこった の だ」
「ゲンコウ は オジョウズ だった の」
「フツウ の ヒト と かわった ところ は ない、 むしろ つたない ほう だった かも しれない ね、 ただ、 とびきった 2~3 ギョウ くらい の おもしろい ところ が トコロドコロ に あった くらい だ、 それ は オトコ の ヒト と トモダチ に なる と、 すぐ この ヒト も だんだん に したしく なって、 いいよって こない か と、 それ が みえすいて くる こと が こわい と かいて いた こと だ、 そして その オトコ が タムラ さん に くどいて くる と、 イッペン に、 さけて しまう と いう ミョウ な クセ の ある ブンショウ の ヒト だった の だ」
「オジサマ も きっと、 ひきつけられて いた の でしょう」
「タムラ さん の ショウセツ が そんな ふう なので、 いつも サキ を こされて いる キ が して いた ん だよ、 あの ヒト が イマゴロ でて くる なんて こと は ない さ」
「でも、 アタイ、 ちゃんと みた ん だ もん」
「ヘン な こと が かさなる もの だね、」
「オジサマ、 どこ か で おやすみ に ならない、 ギンザ に きた わよ、 アタイ、 しおからい もの が たべたい わ」
「おりよう、 バー に いこう」
「オサケ あがれない くせ に、 よく コノゴロ バー に いらっしゃる」
「あそこ に すわって いる と ミナサン の シュキ が ただようて きて、 ホオ が あつく なって よった よう な キ が する ん だ」
「いらっしゃいませ」
「ナニ か しおからい もの を ちょうだい、 それから、 オジサマ は ナアニ」
「なんでも いい よ、 ニオイ を かぐ だけ だ から」
「あら、 キンギョ が たくさん いる わね、 ミンナ、 あたらしい ミズ を ほしがって、 かわいそう に あぶあぶ して ひどそう だわ、 あの、 この キンギョ の ミズ くさりかけて います から、 かわいそう だ から とりかえて あげて」
「マイニチ オミセ に でて くる と すぐ、 オミズ かえる ん です けれど、 キョウ は つい わすれまして」
「それから オシオ を ヒトツマミ いれて あげて」
「オシオ が いい ん です か」
「くたびれた キンギョ には ほんの ちょっぴり、 オシオ が いる のよ。 おうい、 チビ ちゃん、 オシオケ が ほしい ん でしょう、 そう、 そう なの ね。 オジサマ、 ちゃんと もう わかって いて、 ソバ に よって きた でしょう、 ナニ いって いる の か いくら オジサマ でも、 この ヒミツ は わかりっこ ない でしょう、 オネエサマ は どこ から どうして いらしった って、 そんな カッコウ が どう したら できた の と、 ミナ、 メ に いっぱい フシギ な イロ を あらわして、 いって いる のよ、 クチ を あけて マタタキ も しない で アタイ を みて いる でしょう、 アタイ も みて やる、」
「キミ、 あまり ヘン な こと いう と、 ミナ が ヘン な カオ を する よ、 ミモト を あらわれる よ」
「あ、 オミズ が きた わ、 その オミズ ここ に ちょうだい、 アタイ が いれて あげる から、 ミンナ オツム を ならべる のよ、 したした と、 ……どう、 とても、 さっぱり と いい キモチ でしょう、 したした と いう この オト たまらない わね、 ミンナ ウロコ の イロ も わるい し やせて いる のね、 かたい フ ばかり たべて いる から よ、 ほら、 おすき な オシオ よ、 それ を ぐっと のんで イブクロ が ひりついた グアイ が、 とても、 たまらない でしょう、 みて ごらん、 ほら、 ほら、 メ に ツヤ が でて きた し、 コウリン たちまち さかえて きた わ」
「イイカゲン に しない か。 あの カタ、 まるで キンギョ の ゴシンセキ みたい に ナニ か いって いらっしゃる。 よほど、 キンギョ が おすき と みえる って いって いる じゃ ない か」
「ニンゲン に アタイ の バケノカワ が わかる もん です か、 オジサマ、 ヒサシブリ で フコウ な オトモダチ の ヨウス を みて、 オジサマ が アタイ を ダイジ に して くださる こと が、 どんな シアワセ だ か わかって きた わ、 オジサマ に、 オレイ を いう わ」
「だから ね、 キンギョ と おはなし する の やめる ん だよ、 ミナサン、 ヘン な カオ を して いる じゃ ない か」
「だいじょうぶ、 チビ たち が はなれない ん です もの、 あら、 しろい カビ の よう な オデキ が できて いる コ も いる わ、 すぐ とらなくちゃ タイヘン な こと に なる、 ……すみません が オチャワン ヒトツ かして ちょうだい、 この コ を ベツ に して カビ を とらなくちゃ、 じっと して いて、 いたい の を ガマン して いる のよ、 すぐ すむ わよ、 ほら、 はげた わ、 この アト に シオ を ぬって と、 さあ、 もう あそんで も いい わよ、 アシタ は さっぱり する から」
「オジョウサマ は キンギョヤ さん みたい です ね、 ドナタ が いらっしって も、 キンギョ の こと なんか ちっとも みて くださらない のに、 ゴシンセツ に して いただいて すみません、 ミナ、 オジョウサマ の ほう を みあげて います わ、 コトバ が わかる よう な カオ を して いる ん です もの」
「ええ、 アタイ が すき だ から、 キンギョ の ほう でも わかる らしい のね、 オジサマ、 キンギョ が オジサマ の こと を アナタ の ダレ だ と たずねて いる わよ、 だから アタイ、 この ヒト は アタイ の いい ヒト だ と いって やった わ、 そしたら ミナ が うふふ、 ……って わらって いる わよ、 あの コエ、 あんな にぎやか なの きこえて、 オジサマ」
「きこえる もん か、 ミンナ キンギョ って おなじ カオ して いる じゃ ない か」
「でも、 カオ の ヒトツ ずつ が ミンナ ことなって いる わよ、 オヤコ シマイ ベツベツ な カオ を して いる わ、 よく、 くらべて みる と わかる わよ。 アタイ ね、 オネガイ が ある ん です けれど、 きっと きいて いただける わね」
「ナン なの、」
「この キンギョ いただけない かしら、 ここ に おく の かわいそう だ から つれて かえりたい の、 ミンナ フシアワセ なん だ もの、 このまま、 みて もどったら、 アタイ、 キ に なって コンヤ は とても ねむれそう も ない わ」
「ベツ の キンギョ を かって もらう こと に したら、 きっと くれる よ、 キ に なる なら かって あげよう、 ワケ の ない こと だ」
「ありがとう、 オジサマ、 5 ヒキ で 100 エン だせば いい わよ、 たんと だす ヒツヨウ ない わ、 アタイ、 ネダン みんな しってん だ から」
「では 100 エン だす こと に しよう。 そろそろ かえろう ね」
「ええ…… あら、 ダレ でしょう、 ダレ か が トビラ の アイダ から こっち を のぞいて みて いる わ。 ジョキュウ さん、 ドナタ か、 いらっしって いる らしい わよ」
「あの ヒト、 ロウケツゾメ の もの を うって いる カタ なん です。 オイリヨウ だったら、 そう いいましょう か、 イツモ は ナカ に はいって いらっしゃる ん だ けれど、 キョウ は どうした ん でしょう、 おはいり に ならない わ、……」
「あら、 ちょっと まってて オジサマ、 キョウ カイジョウ に いらっしった カタ だわ、 ちがいない わ、 ヨコガオ が オバサマ そっくり だ もの。 オバサマ、 オバサマ じゃ ない の、 あら、 トビラ から カオ を はずしちゃった、 オジサマ、 アタイ、 ちょっと おっかけて いって みる わ」
「ナニ いって いる ん だ」
「オバサマ、 タムラ の オバサマ、 アタイ よ、 ヒルマ、 オミズ を あげた アタイ よ、 ちょっと まってて、 そこ の コウジ は イキドマリ なの よ、 オジサマ も ゴイッショ で、 サッキ から オバサマ の オハナシ を して いた ところ なの よ、 ねえ、 ひきかえして ちょうだい」
「キミ、 ヒトチガイ だよ、 ロウケツゾメ なんて おかしい じゃ ない か」
「オジサマ、 オモテ に でて いらっしゃい、 ほら、 こっち を おむき に なった、 オバサマ だ、 あの カタ よ、 あの カタ なの よ、 イキドマリ な もの だ から、 まごまご して いらっしゃる。 ね、 オジサマ、 ヘイ の ところ を みる のよ、 マショウメン で すこし の マドイ も なく たって いらっしゃる じゃ ない の、 みて よ、 みて よ」
「みた、 たしか に タムラ ユリコ だ、 いくら ぼやけたって ウソ の ない カオ だ」
「オジサマ、 ナニ か おっしゃい、 オジサマ の おっしゃる の を まって いらっしゃる ふう だわ、 あ、 オクチ が すこし ずつ あいた、 おわらい に なった、 オジサマ、 コシ を かがめて ついに アイサツ なすった じゃ ない の、 オジサマ も ゴアイサツ を なさい、 はやく よ、 はやく する のよ、 わらって おあげ する のよ、 なんて オクビョウ な オジサマ な こと か、 やっと した わ。 オバサマ の うれしそう な オカオ ったら ない わ、 ふだん、 あんな オカオ で わらって いらっしった の、 すごい うつくしい カオ だな」
「キミ、 よんで みたまえ」
「オジサマ が よんで あげる のよ、 あら、 オバサマ、 そこ の レンガベイ の アナ は ぬけられない わよ、 オカラダ に キズ が つきます、 アタイ、 そこ に イマ いきます から」
「いって つかまえて くれ」
「しんだって はなさない つもり で、 オテテ に ぶらさがる わ、 オジサマ も いらっしゃい」
「うむ」
「オバサマ、 そこ の アナ は カケイシ で がじがじ して あぶない ったら。 ぬけたって ムコウガワ は ドロドロガワ なの よ、 おっこったら しんじまう」
「くぐった ね、 はやい ね」
「あ、 アナ の ソト に くぐって でちゃった、 あれ、 ミズ の オト じゃ ない、 ごぼん と いった の は?」
「そう、 ミズ の オト かな」
「オジサマ、 また アセ と アブラ が サッキ みたい に、 ヒタイ に にじみでた わよ、」
「だまって いろ、 ナニ か きこえる」
「オバサマ の コエ だ わね、 うなって いらっしゃる よう ね、 ミズ の ナカ から かしら、 それとも、……」

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