カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ミツ の アワレ 4

2020-06-05 | ムロウ サイセイ
 4、 イクツ も ある ハシ

「コノゴロ、 オバサマ は ちっとも、 おあるき に ならなく なった わね」
「たって あるく の が タイギ らしい。 ヒザ ばかり で あるいて いる」
「アタイ ね、 ユウベ かんがえて みた ん だ けれど、 ヒザブクロ を つくって ヒザ に あてたら、 どう か と おもう の、 で ない と ながい アイダ には、 ヒザ の カワ が すりむけて しまう わよ」
「ヒザブクロ を つけて も いい ん だ けれど、 よく、 ほら、 マチ なんか に アシナエ の コジキ が いる だろう、 あの ヒトタチ が ね、 ヒザ の アタマ に フクロ を はめて いる の を おもいだして いや なん だ。 ボロヌノ の あつぽったい やつ を くっつけて いる の を みる と かなしく なる」
「アタイ も、 そい を かんがえて みて、 たまんなかった。 あるけなく なって から ナンネン に おなり に なる の」
「そう ね、 19 ネン に なる かな」
「19 ネン-メ に オバサマ の オヘヤ が やっと、 できた わけ なの ね」
「ハシ の ウエ には いつでも コジキ が クソ の よう に すわって いて、 アシ も コシ も たたない ん だ。 ボク は マイニチ ウチ で みる よう な コウケイ が、 ハシ の ウエ に ある よう な キ が して とおりすぎる ん だ が、 それ も、 イナカ に ある ハシ なぞ では なくて、 トウキョウ の マンナカ で みる ハシ なん だ、 たとえば ムカシ の スキヤバシ と いう ハシ は たまらなかった」
「あそこ に、 オコモサン が いた の」
「オテンキ さえ よければ、 きっと いた、 ある ヒ は オトコ、 ある ヒ は オンナ と いう ふう に、 どれ も アシ の きかない ヒトタチ が いた ん だ、 そして コノゴロ は ハシ は ない が、 とおる たび に メ に ハシ が みえて きて ボク が あそこ に すわり、 また、 ボク の ツマ も、 ボク と コウタイ に あそこ に でて いる よう な キ が して、 あの ハシ が あそこ を とおる たび に みえて くる、 そして シンバシ の ほう に ユウグモ が ぎらついて、 マチ は くれかけて いて も、 ハシ の ウエ だけ が あかるく ういて みえて いる」
「オジサマ ったら、 そんな ふう に ネンジュウ ショウセツ ばかり アタマ ん ナカ で かいて いらっしゃる のね。 だって オバサマ が ハシ の ウエ に おすわり に なる なんて こと、 ありえない こと じゃ ない の」
「ニンゲン は ダレ だって あそこ に イチド は、 すわって みる アタマ の ムキ が ある。 そう で なかったら、 シアワセ と いう もの を みとめる こと が できない わけ だ。 ボク も あそこ に いつだって すわって みる カクゴ は ある。 センソウチュウ は ミンナ あそこ に すわって いた よう な もん だ」
「じゃ、 アタイ は ゲスイ に ながされて ゆく のね」
「キミ は ゲスイ の オハグロドブ で あぶあぶ して いる し、 ボク は ハシ の ウエ で 1 セン くれ と いう ふう に、 イチニチ どなって いる よう な もん だ」
「オジサマ は シアワセ-すぎる と、 ゼイタク したく なって、 オコモサン の マネ まで したく なる のね。 いや な クセ ね」
「それ を マッコウ から いえる と いう こと も、 ふてぶてしくて いい じゃ ない か」
「ハシ と いう もの は わたれば わたる ほど、 サキ には、 もっと ながい の が ある よう な キ が する わね。 けど、 ハシ は みじかい ほど かなしくて、 2~3 ポ あるく と、 すぐ ハシ で なくなる ハシ ほど、 たまらない もの ない わね、 アタイ の イケ の ハシ だって ミズ の ナカ から みあげて いる と、 テン まで とどいて いる よう だ けど、 サキ が もう ない わよ」
「マッチ-バコ フタツ つないだ よう な ハシ」
「その ハシ の シタ を いばって とおる たび に、 ハシ は しろっぽく ながたらしく、 わずか に ニッコウ を さえぎった ところ では、 コノゴロ とても さむく なって きた わ、 ミズ は ちぢんで、 チリメンジワ が よって くらい もの、 アタイ、 どう しよう か と マイニチ くよくよ して いる ん だ けど、 オジサマ だって わかって くれない もの」
「エンガワ に キミ を いれる、 ヨウイ が ちゃんと して ある」
「そう でも して くださらなかったら、 コノママ だ と ミズ は かたい し おもく なる ばかり よ」
「オジサン の オヒザ に おいで」
「ええ、 あら、 もう ダイク さん が のぼりはじめた わね。 アタイ ね、 ダイク さん て、 イタ や しかくい キ で ジ を かいて いる ヒト だ と おもう わ。 トコ と いう ジ を かいて いる うち に トコノマ が できあがる し、 ハシラ と いう ジ を かく ため に ハシラ は とうに たって しまう し、 ダイク さん だって ジカキ と おなじ だ わね」
「カミ の よう に カンタン に キ を おりたたんで、 つかって いる ヒト なん だ」
「キョウ は オニカイ の ほう の オシゴト ね。 クギブクロ を さげ、 そこ に カナヅチ を いれ、 そして ノコギリ を コシ に はさんで いて ヨウイ が いい わね。 どこ でも アシ が さわれば ヤネ の ウエ まで も、 のぼって いける のね、 オジサマ は のぼれない でしょう」
「のぼる にも、 メ が まわって のぼれない」
「いい キミ ね。 アタイ は キノウ クギバコ に あった いっとう こまかい クギ を、 1 ポン ぬすんで やった。 みて いる と ぴかぴか ひかって いて、 むしょうに ほしく なって くる ん です もの」
「ナン に する の、 クギ なぞ ぬすんで」
「なんにも しない けど、 ただ、 ほしい だけ なの、 ただ ほしい と だけ おもう こと ある でしょう。 あれ なの よ」
「クギ と いう もの は ミョウ に ほしく なる もん だね」
「アタイ ね、 あんな に タクサン の ザイモク が どこ で どう つかわれる か わからない けど、 もう、 どこ か に マイニチ つかわれて いて、 いくらも のこって いない の に おどろいちゃった。 イエ を たてる と いう こと は こまかい ザイモク が いっぱい いる のね。 そして どこ に どの ザイモク が いる か と いう こと を ちゃんと、 いちいち こまかい ハメカタ も ダイク さん は しって いる のね。 1 ポン ぬすんで やろう と ケントウ を つけて おいた ほそい キ も、 いつのまにか、 つかって いた わ、 ぬすまなくて よかった」
「すぐ わかって しまう よ、 どんな ちいさい キ でも、 みんな アタマ に おぼえて いる から ね」
「オジサマ、 あれ、 メダカ が イケ から とびだしちゃった、 あぶない、 あぶない、 チンピラ の くせ に イキオイ あまって とびだす ヤツ が ある もの か、 ほら ね、 ひどかった でしょう、 メ を シロクロ させて いる わ」
「ミズ を いれすぎた かな」
「オイケ の キシ まで、 オミズ を ぴったり いれて ある から なの よ、 それ では、 ちょっと はねて みたく なる のね、 オジサマ が わるい ん だ」
「コノゴロ メダカ の カズ が だいぶ、 へって きた よう だ、 ひょっと する と」
「そんな に アタイ の カオ を、 みないで よ、 そんな に たべて ばかり い は しない わよ、 うたぐりぶかく みつめて いらっしゃる」
「100 ピキ も いた のに、 もう、 ばらばら と しか いない じゃ ない か、 ソウケイ、 50 ピキ も いない」
「アタイ、 たべ は しない もの。 とても、 にがい アジ が して いて、 アタマ なぞ メダカ の くせ に カンカン ボウズ で かたい のよ、 たべられ は しない、 ふふ、 でも ね、 ナイショ だ けど よわって いる の、 いただく こと ある わ」
「にがい の が おいしい ん だろう」
「うん、 カンゾウ が にがくて ね、 とても、 わすられない オイシサ だわ」
「そこで 1 ピキ ずつ のみこんだ わけ だね、 イキエ だ と、 ウンコ の イロ も ニオイ も ちがって くる ん だ」
「だんだん クスリグイ を して おかなければ、 サムサ で カラダ が もたなく なる のよ、 あれ たべた アト、 カラダジュウ が もえ、 メ なんか すぐ きらきら して きて、 なんでも はっきり みえて くる ん だ もの、 オジサマ、 おこらないで ね、 ときどき、 いただかして よ」
「かわいそう に なあ」
「だって オジサマ は、 でかい、 ウシ まで たべて おしまい に なる でしょう、 ウシ は もうもう なきながら マイニチ トサツバ に、 なんにも しらない で ひかれて いく ん だ もの、 メダカ なんか と ケタチガイ だわ、 モウモウ は、 ころされて も、 まだ、 ころされた こと を しらない で いる かも わからない、 きっと、 モウモウ は、 いつでも、 ムカシ の ムカシ から ナニ か の マチガイ で ころされて いる と しか かんがえて い や しない」
「モウモウ も かわいそう だ が、 メダカ も かわいそう だ」
「では、 ノンキ に、 ぶらり ぶらり と あるいて いる ブタ は どう」
「あれ も ね、 なんとも いえない、 みじめ な もん だ」
「これから は、 モウモウ も たべない し、 ブウブウ も たべない よう に しましょう ね、 せめて、 オジサマ だけ でも、 その キ に なって いらっしったら、 ウシ も ブタ も、 よく きいて みない と わかんない けど、 うかぶ セ が ある よう な キ が する わ」
「うむ」
「とうとう コトシ は アタイ、 コドモ を うもう と ねがいながら、 うむ マ が なかった。 ね、 なんとか して オジサマ の コ を うんで みたい わね、 アタイ なら うんだって いい でしょう、 ただ、 どう したら うめる か、 おしえて いただかなくちゃ、 ぼんやり して いて は うめない わ」
「はは、 キミ は タイヘン な こと を かんがえだした ね。 そんな ちいさい カラダ を して いて、 ボク の コ が うめる もの か どう か、 かんがえて みて ごらん」
「それ が ね、 アタイ は キンギョ だ から ヨソ の キンギョ の コ は うめる ん だ けれど、 オジサマ の コ と して そだてれば いい のよ、 オジサマ は ね、 マイニチ おおきく なった アタイ の オナカ を、 なでたり こすったり して くださる のよ、 そのうち、 アタイ イッショウ ケンメイ オジサマ の コ だ と いう こと を、 ココロ で きめて しまう のよ、 オジサマ の カオ に よく にます よう に、 マイニチ おいのり する わよ」
「そして ボク の よう な デコボコヅラ の キンギョ の コ に ばけて うまれたら、 キミ は どう する」
「オジサマ の コ なら、 にて いる に きまって いる、 ニンゲン の カオ を した チンムルイ の キンギョ で ござい と、 ふれこんだら ヨクバリ の キンギョヤ の オジイチャン が ね、 いきせききって かい に くる かも わからない わ」
「そしたら キミ は うる キ か」
「うる もん です か、 ダイジ に、 ダイジ に して そだてる わ、 ミジンコ たべさせて そだてる わ」
「ミミズ の ミジンコ くう の は、 いや だ」
「じゃ シオタラ は どう」
「シオタラ の ほう が いい ね」
「キンギョ の コ って の は、 そりゃ アズキ くらい の チイササ で、 そりゃ、 かわいい わよ、 まるで これ が オサカナ とは おもえない チイササ で、 オ も ヒレ も アタマ も あって およぐ の。 で ね、 ナマエ を つけなくちゃ」
「そう か、 キンタロウ と でも、 つけます か」
「もっと リッパ な ナマエ で なくちゃ いや、 カネヒコ とか なんとか いう どうどう たる ナマエ の こと よ」
「ゆっくり かんがえて おこう」
「では、 アタイ、 いそいで コウビ して まいります、 いい コ を はらむ よう イチニチジュウ いのって いて ちょうだい」
「あ、」
「あかい の が いい ん でしょう。 キンギョ は あかい の に かぎる わよ。 くろい の は いんきくさい から、 レイ に よって もえて いる たくましい ヤツ を 1 ピキ、 つかまえる わ」
「しくじるな」
「しくじる もん です か、 ホノオ の よう な ヤツ と、 ユウヤケ の ナカ で もえて とりくんで くる わよ」

「オジサマ、 みて よ、 キ だの イタ だの、 ヒトツ も なくなっちゃった」
「うむ」
「どんな ちいさい イタギレ も、 みんな、 つかった のね、 オボエ を して あった もの を みんな オボエ の ある ところ に、 はめこんで しまって いる わ。 ダイク さん は ダイク さん と いう いきた キカイ なの ね」
「こまかい こと では、 フジヅル と いう もの が みんな ミギマキ だ と いう こと まで、 しって いる ん だ」
「じゃ マメ だの、 そいから クサ の ツル だの は、 みんな ミギマキ に なって いる の」
「ヒダリマキ は ない らしい ん だ。 キ の こと では ハカセ みたい な ヒトタチ だ」
「オジサマ、 オニカイ に あがって みましょう」
「あがろう」
「アタイ、 イマ まで に、 オニカイ に ヒマ さえ あれば あがって いた のよ、 カイダン を 1 ダン ずつ あがる の が おもしろい の と、 それに オニカイ の タタミ の ウエ に ぺたっと すわって いる と、 ダレ も しらない とおい ところ に きた よう な キ が して いて、 ヒミツ を かんじて いた わ、 オジサマ だって アタイ が オニカイ に いた こと は、 ちっとも、 しらなかった でしょう」
「しらなかった」
「オニワ の ケシキ が ずっと みわたせる し、 その ケシキ が おおきく ふくらがって、 ひろがって みえて くる のよ、 けど、 オバサマ は オニカイ には あがれない わね」
「あがって も おりる こと が できない ん だ」
「アタイ ね、 オニカイ に いる と、 とびおりたり、 つたって ヒサシ から ブランコ して おりて みたく なる」
「ボク も ハシラヅタイ に、 つるつる と フイ に おりて みたい キ が する」
「それに 2 カイ と いう もの は、 かなしい ところ なの ね、 シタ とは セカイ が ちがう し、 シタ の こと が みえない じゃ ない の」
「それ は シタ の ヒト は どんな に あせって も、 2 カイ の こと が みえない と おなじ モドカシサ なん だ、 シタ と ウエ と で ニンゲン が すわりあって いて も、 この フタリ は ハナレバナレ に なって いる ん だ」
「キ が とおく なる よう な、 むずかしい オハナシ なの ね」
「その うち に 2 カイ の ヒト が いなく なれば、 それきり で あわず-ジマイ に なる、 ツギ に また ベツ の ヒト が きて 2 カイ に すんで も、 レイ に よって あわなければ どこ の ダレ だ か も、 わからない こと に なる ん だ」
「2 カイ の ヒト は ソラ ばかり みて いる が、 シタ の ヒト は オヘヤ に いて も、 ソラ は みる こと が できない と おっしゃる ん でしょう」
「そう だよ、 シタ と ウエ では おおきな チガイ だ」
「なんだか オハナシ が わからなく なって きた じゃ ない の、 オニカイ の ヒト は どうして シタ の ヒト と、 おはなし しない の でしょう」
「2 カイ に いる から なん だ」
「シタ の ヒト は シタ に いる から なん でしょう か」
「そう だよ、 いくら いって も おなじ こと なん だ、 モンダイ は ウエ と シタ の こと なん だよ。 キミ なら、 ちょろちょろ と およいで シタ まで いく が、 ニンゲン は そう は カンタン に ゆかない」
「よしましょう、 こんな、 めんどうくさい あちこち まわって いる よう な オハナシ は、 いくら いって も おなじ こと なん だ もの」
「おなじ こと じゃ ない よ、 おおきな チガイ だ」
「まだ いって いらっしゃる。 それ より、 もっと びっくり する よう な オハナシ して あげましょう か、 ユウベ ね、 オジサマ の オショサイ から かえって、 また、 この オニカイ に あがろう と、 カイダン から あがって いって フスマ を あけます と ね、 ソト の アカリ が さして いる ナカ に ダレ か ヒト が いる じゃ ない の、 すわってて、 なんにも しない で、 ぽかん と ヒザ の ウエ に テ を のせて いる の、 アタイ、 フスマ を ホソメ に あけて みる と、 ふっと、 その ヒト が ゆっくり と こっち に カオ を おむけ に なった」
「キミ は いつでも、 そんな ハナシ ばかり みつけて いる ん だね、 ボク よか よほど ヘン な ところ を タクサン に もって いる。 その ヒト は いったい ダレ だ と いう の、 そんな ヒト なんか ちっとも ボク には めずらしく ない、 ボク には いろんな オンナ でも、 ヒト でも、 いつでも ふらふら でっくわして いる ん だ」
「では、 ハナシ する の やめる わ、 コンヤ も くる かも しれない から、 そっと ここ に きて いて みよう かしら」
「さあ、 ヒ が くれた から、 おりよう」
「え、 カイダン で スレチガイ に あがって くる ヒト が いる かも しれない わ。 しかし オジサマ には みえ は しない わよ、 ニンゲン の ショウキ には ね」
「バカ を いうな よ」
「キ を つけて ね、 すべる わよ」
「うん、 ダレ も あがって こない じゃ ない か」
「オジサマ に、 それ が わかる もん です か。 ほら、 イマ、 オジサマ は クサメ を なすった、 ぞっと オサムケ が した の でしょう、 ほら、 ほら、 なんだか、 すうと しちゃった」
「ナニ を みて いる ん だ」
「オニカイ に ダレ か が あがった よう な キ が する もん です から、 オジサマ、 ショウジ は しめて いらしった わね」
「うん、 だが、 わすれた かも しれない」
「オジサマ」
「ナン だ、 オナカ なんか なでて」
「あのね、 どうやら、 アカンボウ が できた らしい わよ、 オナカ の ナカ は タマゴ で いっぱい だわ、 これ ミナ、 オジサマ の コドモ なの ね」
「そんな オボエ は ない よ、 キミ が ヨソ から しいれて きた ん じゃ ない か」
「それ は そう だ けれど、 オヤクソク では、 オジサマ の コ と いう こと に なって いる はず なの よ、 ナマエ も つけて くだすった じゃ ない の」
「そう だ、 ボク の コ かも しれない」
「そこで マイニチ マイバン なでて いただいて、 アイジョウ を こまやか に そそいで いただく と、 そっくり、 オジサマ の アカンボウ に かわって ゆく わよ」
「どんな キンギョ と コウビ した ん だ」
「メ の でかい、 ブチ の ボウシ を かむって いる コ、 その キンギョ は いった わよ、 キュウ に、 どうして この さむい のに アカンボウ が ほしい ん だ と。 だから、 アタイ、 いって やった わ、 ある ニンゲン が ほしがって いる から うむ ん だ と、 その ニンゲン は アタイ を かわいがって いる けど、 キンギョ とは なんにも できない から、 ヨソ の キンギョ の コ でも いい から と いう こと に なった のよ、 だから、 アンタ は チチオヤ の ケンリ なんか ない わ、 と いって おいて やった」
「ソイツ、 おこったろう」
「おこって とびついて きた から、 ぶんなぐって やった、 けど、 つよくて こんな に オッポ くわれちゃった」
「いたむ か、 さけた ね」
「だから オジサマ の ツバ で、 コンヤ ついで いただきたい わ、 スジ が ある から、 そこ に うまく ツバ を ぬって ぺとぺと に して、 つげば、 わけなく つげる のよ」
「セメダイン では ダメ か」
「あら、 おかしい、 セメダイン で ついだら、 アタイ の カラダ-ごと、 オ も ヒレ も、 みんな くっついて しまう じゃ ない の、 セメダイン は ドク なの よ、 オジサマ の ツバ に かぎる わ。 イマ から だって つげる わ、 オヨナベ に ね。 オメガネ もって きましょう か」
「ロウガンキョウ で ない と、 こまかい オッポ の スジ は わからない」
「はい、 オメガネ」
「これ は はなはだ コンナン な シゴト だ、 ぺとついて いて、 まるで つまむ こと は できない じゃ ない か。 もっと、 ひろげる ん だ」
「はずかしい わ、 そこ、 ひろげろ なんて おっしゃる と、 こまる わ」
「ナニ が はずかしい ん だ、 そんな おおきい トシ を して さ」
「だって、……」
「ナニ が だって なん だ、 そんな に、 すぼめて いて は、 ユビサキ に つまめない じゃ ない か」
「オジサマ」
「ナン だ あかい カオ を して」
「そこ に ナニ が ある か、 ゴゾンジ ない のね」
「ナニ って ナニ さ?」
「そこ は ね、 あのね、 そこ は アタイダチ の ね」
「キミタチ の」
「あの ほら、 あの ところ なの よ、 なんて わからない カタ なん だろう」
「あ、 そう か、 わかった、 それ は シツレイ、 しかし なにも はずかしい こと が ない じゃ ない か、 ミンナ が もって いる もの なん だし、 ボク には ちっとも、 カンカク が ない ん だ」
「へえ、 フシギ ね、 ニンゲン には キンギョ の あれ を みて も、 ちっとも、 カンカク が しょうじない の、 いや ね、 まるで ツンボ みたい だ わね、 アタイダチ が あんな に タイセツ に して まもって いる もの が、 わからない なんて、 へえ、 まるで ウソ みたい ね、 オジサマ は ウソ を ついて いらっしゃる ん でしょう。 シンゾウ を どきどき させて いる くせ に、 わざと ヘイキ を よそおうて いる のね」
「うむ、 そう いう の も もっとも だ が、 キミダチ の アイダ だけ で はずかしい こと に なって いて も、 ボクラ には なんでも ない もの なん だよ」
「ニンゲン ドウシ なら、 はずかしい の」
「そりゃ ニンゲン ドウシ なら タイヘン な こと なん だよ、 オイシャ で なかったら、 そんな ところ は みられ は しない」
「わかんない な、 ニンゲン ドウシ の アイダ で はずかしがって いる もの が、 キンギョ の もの を みて も、 なんでも ない なんて こと、 アタイ には ぜんぜん わかんない な」
「キンギョ は ちいちゃい だろう、 だから、 はずかしい ところ だ か なんだか、 わかりっこ ない ん だ」
「オウマ は どう なの」
「おおきすぎて おかしい くらい さ」
「じゃ ニンゲン ドウシ で なかったら、 いっさい、 はずかしい ところ も、 はずかしい と いう カンカク が ない と おっしゃる のね」
「ニンゲン イガイ の ドウブツ は ニンゲン に とって は、 ちっとも、 カンジ が ふれて こない ん だ、 まして キンギョ なんか まるで そんな もの が ある か ない か も、 ダレ も ムカシ から かんがえて みた こと も ない ん だ」
「シツレイ ね、 ニンゲン って あんまり ズウタイ が おおきすぎる わよ、 どうにも ならない くらい おおきすぎる わ、 キンギョ の よう に ちいさく ならない かしら」
「ならない ね」
「でも、 オジサマ と キス は して いる じゃ ない の」
「キミ が ムリ に キス する ん だ、 キス だ か なんだか わかった もの じゃ ない」
「じゃ、 ながい アイダ、 アタイ を だまして いた のね、 オジサマ は」
「だまして なんか いる もの か、 まあ カタバカリ の キス だった ん だね。 じゃ、 そろそろ、 オッポ の ツギハリ を やろう。 もっと、 オッポ を ひろげる ん だ」
「ナニ よ、 そんな オオゴエ で、 ひろげろ なんて おっしゃる と ダレ か に きかれて しまう じゃ ない の」
「じゃ、 そっと ひろげる ん だよ」
「これ で いい、」
「もっと さ、 そんな ところ みない から、 ひろげて」
「はずかしい な、 これ が ニンゲン に わかんない なんて、 ニンゲン にも バカ が たくさん いる もん だな、 これ で いい、……」
「うん、 じっと して いる ん だ」
「のぞいたり なんか しちゃ、 いや よ。 アタイ、 メ を つぶって いる わよ」
「メ を つぶって おいで」
「オジサマ は ニンゲン の、 みた こと が ある の」
「しらない よ そんな こと」
「じゃ ホカ の キンギョ の、 みた こと ある」
「ない」
「オウマ は」
「ない」
「クジラ と いう もの が いる でしょう、 あの クジラ の、 みた こと おあり に なる」
「クジラ の あれ なんて ばかばかしい」
「ニンゲン が ホカ の ドウブツ に ジョウアイ を かんじない なんて、 いくら かんがえて も、 ホントウ と おもえない くらい ヘン だな」
「キミ は たとえば フナ とか メダカ とか を どう おもう、 メダカ は ちいさすぎる し、 フナ は イロ が くろくて いや だろう」
「いや よ、 あんな クロンボウ」
「それじゃ ボクラ と おなじ じゃ ない か」
「そう かな、 メダカ は チンチクリン で まにあわない し」
「キンギョ は キンギョ ドウシ で なくちゃ、 なんにも でき は しない よ」
「そう いえば そう ね」
「うまく オ が つげた らしい よ」
「メ を あけて いい」
「いい よ、 オ を はって みたまえ」
「ありがとう、 ぴんと はって きて およげる よう に なった わ。 オジサマ は そうとう オジョウズ なの ね、 どうやら、 あちこち の ブチ の キンギョ を だまして あるいて いる ん じゃ ない? オ の アツカイカタ も てなれて いらっしゃる し、 ふふ、 そいから あの、……」

「あ、 つかまえた、 タムラ の オバサマ、 キョウ は はなしません よ、 キョウ で ミッカ も いらっしって いる ん じゃ ない? アタイ、 ちゃんと ジカン まで しって いる ん だ もの。 キノウ も 5 ジ だった わ」
「ええ、 5 ジ だった わね、 5 ジ と いう ジカン には フタスジ の ミチ が ある のよ、 ヒトツ は ヒルマ の アカリ の のこって いる ミチ の スジ、 も ヒトツ は、 オユウガタ の はじまる ミチ の スジ。 それ が ずっと ムコウ の ほう まで つづいて いる のね」
「その アイダ を みきわめて いらっしゃる ん でしょう、 きっと、 ダレ にも みられない よう に、 でも、 アタイ には、 それ が みえて くる ん です もの」
「アナタ の メ には とても かなわない わ。 イシ の ヘイ の ウエ に いらっしゃる の が、 トオク から は、 あかい タマ に なって いて みえて いる」
「クグリド から おはいり に なって よ、 オジサマ も いらっしゃいます。 タイクツ して ぼうっと して いる わよ、 いつでも オユウショク マエ に なんだか、 ぼうっと して キミ の わるい くらい だまりこくって いる わよ、 ユリコ オバサマ の くる こと を しって いる の かしら と おもう こと が ある わ。 しって いて だまって いる の かしら?」
「ちっとも、 ゴゾンジ が ない のよ、 オユウガタ って いう の は、 ダレ でも だまって いたい ジカン なの よ」
「キノウ も オバサマ の ハナシ を した けれど、 ふん と いった きり アト には なんにも、 いわず-ジマイ よ。 だから、 アタイ、 オナカ が すいて いる ん だ と カンチガイ した ん です けれど、 あまり おあがり に ならなかった わ」
「ほほ、 オナカ が すいた なんて おもしろい こと おっしゃる わね」
「まあ、 オバサマ、 ヘン に おわらい に なっちゃ いや。 どうして そんな コエ で おわらい に なる の」
「べつに ワタクシ ヘン な コエ で なんか、 トクベツ に、 わらわない ん です けれど、……」
「だって サムケ が して くる わよ。 さあ、 おはいり に なって」
「キョウ は いけない の、 オツカイ の カエリ な もの です から、 すぐ もどらなきゃ ならない のよ」
「ダレ の オツカイ なの よ、 ごまかしたって ダメ」
「まだ オカイモノ が ある ん です から、 それ から かたづけなくちゃ」
「じゃ、 アタイ も イッショ に オトモ する わ。 はなれない で ついて ゆく わよ」
「いらっしゃい、 アナタ の おすき な もの、 なんでも かって あげる わ」
「オバサマ、 じゃ キンギョヤ に よって ちょうだい、 ウチ の キンギョ に たべさせる エサ を かって いただきたい の」
「フユ なのに、 キンギョヤ の オミセ なんか ある かしら」
「いえ、 キンギョ の トンヤ の オジイチャン の ウチ に ゆけば、 いつだって ある のよ」
「トンヤ は どこ に ある の」
「アタイ、 ちゃんと それ を しって いる、 マーケット の ウラナガヤ の 2 ケン-メ で、 オバアチャン が フルワタ の ウチナオシ を して いる ん だ から、 ワタ ウチナオシ の カンバン を みて ゆけば すぐ わかる わ、 オジイチャン は そこ に フユゴシ の キンギョ と イッショ に くらして いる の。 エビ を ひいて ヌカ を まぜた エサ を イチニチ つくって いる わ」
「いった こと ある ん です か」
「ええ」
「まあ、 はずかしそう に カオ を かくそう と、 なさる わね」
「いや よ、 そんな に カオ ばかり みちゃ。 アタイ、 あんまり たびたび エサ を かい に ゆく もん だ から、 オジイチャン と ナカヨシ に なっちゃった ん です」
「そお、 あそこ の ユカ の ひくい オウチ でしょう、 フルワタ ウチナオシ、 フトン ぬいます って、 カンバン でて いる ところ でしょう」
「ええ、 オバサマ だまってて ね、 アタイ、 オジイチャン と おはなし します から」
「はい、 はい」
「オジイチャン、 こんにちわ、 キョウ は フユゴシ の エサ を かい に きた のよ、 もう すっかり おひき に なった の」
「おう、 3 ネン-ゴ、 どうしたい、 キョウ は べらぼう に うつくしい オンナ と イッショ だなあ、 オメエ も、 えらく おおきく なって ベッピン に なった もん だ、 もう オメエ も ライネン は 4 ネン-ゴ だ、 4 ネン-ゴ は ばける と いう ぜ」
「もっと コゴエ で おはなし する もの よ、 あの カタ に きこえる じゃ ない の、 キョウ は うんと エサ を シコミ に きた のよ、 オカネ は あの オバサマ が みんな はらって くださる」
「オメエ は いつでも カネモチ と イッショ で いい なあ、 うんと、 かって くれ、 フユバ は メダカ 1 ピキ だって うれ は しない ん だ」
「じゃ 10 パコ ほど いただく わ」
「おいおい、 3 ネン-ゴ、 10 パコ で いくら に なる と おもう ん だ、 1200 エン も する ん だぜ」
「いい わよ けちけち しないで よ、 タムラ の オバサマ が みな はらって くださる わ、 それに、 キンギョモ を どっさり つつんで ね、 ホカ に、 コトシ の タベオサメ に、 ミミズ の ミジンコ を カンヅメ の アキカン に いっぱい いれて ちょうだい、 ひさしく いただかない から、 どんな に おいしい でしょう」
「オメエ は ミジンコ が すき だった な、 これ は オマケ に しとく よ、 けど なあ、 3 ネン-ゴ、 オメエ の よう な シアワセ な キンギョ は、 この トシ に なる まで いまだ イチド も みた こと が ない、 ながい アイダ この ショウバイ を して いる けれど、 ビョウキ も しない で いつも オメカシ して あるいて いる の は、 まあ オメエ くらい な もん だ」
「うつくしからざれば ヒト、 サカナ を あいせず だ わよ」
「ときに オメエ、 これ じゃ ねえ か」
「ええ、 オナカ が おおきい のよ、 タマゴ が ぎっちり つまって いる。 オナカ が ぴかぴか して ひかって いる でしょう」
「どう だい、 オレ の ウチ で うんで は くれまい か、 オメエ の コ なら、 きっと、 シアワセ の いい コ が うまれる に きまって いる」
「ダメ、 ダメ、 センヤクズミ なの よ」
「どうして さ」
「コドモ を ほしがって いる ニンゲン が いる のよ、 だから、 フユゾラ だ けど、 うむ こと に した のよ」
「ニンゲン が かい」
「うん、 アタイ を ダイジ に して くれる ヒト が いる の」
「よほど の キンギョズキ な ヤツ なん だな、 じゃ、 フユ の アイダ は カラダ に キ を つけて な、 ライネン の ハル また おもいだしたら きて くれ」
「オジイチャン も オトシ だ から、 ツエ でも ついて キ を つけて ね、 あまり ショウチュウ を おあがり に なる と、 オナカ が やけて くる わよ」
「うん、 わかった」
「さよなら、 アタイ の ソダテ の、 フタリ と ない ダイジ な オジイチャン よ」
「タマゴ から そだてた イキ の よい、 オバケ の 3 ネン-ゴ よ」
「あの キンギョヤ の オジイチャン は、 とても、 いい オヒト でしょう」
「いい カタ ね、 アナタ の ナン に あたる ヒト なの」
「そう ね、 シンセキ みたい な ヒト かしら」
「だって シンセキ って ヘン ね、 タダ の キンギョヤ さん なん でしょう、 なんの カンケイ の ない カタ なん でしょう」
「ええ、 それ は そう なの よ、 けど、 こんな オハナシ よしましょう、 それ より オカエリ に ちょっと よって、 オジサマ に おあい に なって ちょうだい、 で なかったら、 せっかく いらっしった のに つまんない じゃ ない の」
「けど、 これから、 オカイモノ を しなきゃ ならない の」
「じゃ、 オカイモノ を サキ に なすったら どう」
「ええ、 そう ね」
「ナニ を おかい に なる ん です か」
「オヤサイ なん だ けれど」
「そこ の オミセ に はいりましょう。 ユリネ の タマ が ある し、 ホウレンソウ は いらない ん です か」
「モヤシ が いい わ、 それから ホソネギ を すこし に きいろい ミカン」
「あら、 いや だ、 モヤシ を おかい に なる の、 しろっぽくて うじうじ して いて いや ね。 それに ホソネギ って、 イト みたい で キミ が わるい わ。 オバサマ は ヘン な もの ばかり おかい に なる のね」
「アナタ は ナニ が いる の」
「アタイ は と、 そう ね、 ソウメン に しよう かしら」
「ソウメン て ながくて、 へんに くもって いて きらい だわ」
「フユ、 たべる もの の ない とき に、 たべます のよ」
「カミヤマ さん も おあがり に なる ん です か」
「オジサマ は ながぼそい もの は なんでも だいきらい、 ソウメン でも ヘビ でも、 きらい だわ」
「ヘビ でも、」
「ええ、 フユ は ヘビ が いなく なる から、 いい わね。 ああ、 も きちゃった。 ちょっと まってて、 オジサマ が いる か どう か みる から」
「あぶない じゃ ない の、 ヘイ に のぼったり なんか して? まるで オトコ みたい な カタ ね」
「いる いる、 また、 イツモ みたい に ぽかん と して いる、 きっと オナカ が すいて いる のよ、 すいて いる とき には、 いつも、 きっと あんな カオ を して いる」
「じゃ、 ワタクシ これ で シツレイ する わ」
「ナニ おっしゃる のよ、 おはいり に なる ヤクソク じゃ ない の、 キョウ は かえし は しない から、 いくらでも ダダ を こねる が いい わ」
「これから かえって オショクジ の シタク も しなければ ならない し、 オセンタク の トリイレ も わすれて いた のよ」
「オショクジ の シタク って、 ダレ の シタク を なさる のよ、 オバサマ は、 オヒトリ で くらして いる ん でしょう」
「ええ、 ワタクシ の ショクジ の こと なの よ」
「だったら、 オジサマ と ヒサシブリ で ゴイッショ に オショクジ なさる が いい わ」
「その ホカ にも ヨウジ が あります」
「なにも ゴヨウジ なんか、 ある もん です か」
「オセンタクモノ の トリイレ が ある のよ」
「センタクモノ なんか おかえり に なって から でも いい わ、 さあ、 はいりましょう」
「ホント に キョウ は ダメ なの よ、 いそぐ ヨウジ が いっぱい たまって いる ん です もの」
「オバサマ の バカ」
「なんですて」
「バカ だわ、 おあい したくて マエ を ぶらぶら して いる くせ に、 いざ と なる と、 びくびく して さけて いる じゃ ない の。 そんな に いや だったら、 ハジメ っから こない ほう が いい のよ」
「まあ、 ひどい」
「いつだって あらわれる と、 すぐ にげだして しまう くせ に、 なんの ため に あらわれる のよ、 そんな の もう ふるい わよ」
「だって ゴモン の マエ に、 ひとりでに でて きて しまう ん だ もの」
「ウソ おっしゃい、 ジブン で 5 ジ と いう ジカン まで はかって きながら、 オセンタクモノ の トリイレ も、 なにも ない もん だ、 イッショ に キョウ は オウチ に はいる ん です よ、 で なきゃ、 テ に かみついて やる わよ」
「こわい わね、 なんと おっしゃって も、 ワタクシ かえる わよ」
「かえす もん です か」
「テ、 いたい わ、 なんて チカラ が ある ん でしょう」
「かみついたら、 もっと いたい わよ」
「じゃ ね、 ワタクシ カオ を なおします、 だから、 アナタ の クチベニ と、 クリーム を かして くださらない、 オイケ の ソバ で ちょっと ケショウ を なおす わ」
「その アイダ に ずらかる おつもり なん でしょう」
「ずらかる なんて クチ が わるい わ、 そんな ヒト の わるい こと は しません、 カキ の キ の シタ で じっと まって いる わよ、 オシロイ も もって きて ちょうだい」
「ええ、 だけど シンパイ だ、 オバサマ、 オカネ の はいって いる ハンドバッグ を おあずかり する わ、 ずらからない ショウコ に ね」
「はい、 ハンドバッグ」
「じゃ、 すぐ いそいで とって くる わ、 ホント どこ にも いかないで ね、 オジサマ に そう いっとく から、 キョウ はじめて オショクジ する と いった わね、 アタイ、 うれしい わ、 オジサマ も きっと、 ほくほく なさる わ」
「これ も、 ついでに、 オリョウリ して ね」
「ユリネ、 いただく わ、 モヤシ は いや よ。 じゃ、 すぐ もどる わ。 オバサマ、 もう、 シロツバキ が さいて いる から おきり に なって いい わよ、 とても いい ニオイ だ から、 まって いる アイダ に かいで いらっしゃい」
「ありがとう」
「くらい から ガイトウ つけて おく わ」

「オジサマ ただいま」
「どこ に いって いた ん だ、 ケショウ ドウグ なんか もって イマジブン どこ に いく ん だ」
「いい ヒト が きて いて、 オジサマ に おあい する ため に カオ を なおす と おっしゃって いらっしゃる のよ、 だから、 オケショウ ドウグ を もって ゆく ん です」
「いい ヒト って ダレ なん だ」
「あてて みて よ、 あたる かな、」
「じらさない で いって ごらん」
「タムラ ユリコ」
「イマジブン に、 どうして キミ は あの ヒト に あった の だ」
「オウチ の マエ で おあい して、 イッショ に カイモノ を して これから イッショ に オジサマ と、 オショクジ の オヤクソク した のよ」
「うむ」
「いやに レイタン な カオツキ ね、 ゴイッショ に おあがり に なる ん でしょう」
「ヤクソク なら シカタ が ない が、 イマゴロ どうして うろついて いる ん だろう。 すぐ にげだす くせ に」
「キョウ は だいじょうぶ、 ハンドバッグ あずかっちゃった、 どこ にも いかない で まって いる ショウコ なの よ」
「みせて みたまえ、」
「ふるい カタ だ わね、 20 ネン も、 もっと イゼン の リュウコウ らしい のね、 サゲヒモ が ついて ない し、 クチガネ が みんな さびついて いる。 こんな コフウ な バッグ さげる の きまりわるく ない かしら」
「ナカ を あけて ごらん」
「ヒトサマ の もの を あける の わるい じゃ ない の、 オジサマ-らしく ない こと おっしゃる わね」
「まあ ちょっと あけて みたまえ」
「あかない わ、 さびついて いる のよ、 ええ、 ぎゅっと ねじって みる わ、 やっと あいた けど、 ハンカチ と バス の カイスウケン と、 それに コウスイ の ビン が はいって いる きり よ」
「バス の カイスウケン が ある の、 ふうむ」
「どこ か に おつとめ に なって いらっしった のね」
「さあ、 どう かな」
「どうして カイスウケン なんか、 いる ん でしょう か」
「よく みたまえ、 この カイスウケン は センゼン も ずっと マエ の、 アイイロ の ヒョウシ じゃ ない か、 あと 3 マイ きり しか ない。 こんな もの いまどき ツウヨウ する もん かね」
「あきれた」
「クワセモノ だよ、 キミ が カッテ に つくりあげた オハナシ なん だ。 およし、 こんな こと を たくらんで オジサン を こまらせる の は およし」
「だって アタイ、 じっさい、 タムラ さん の テ を うんと にぎって みた もの、 コウエンカイ の とき より か、 ずっと ふとって いた わ」
「ニワ で まって いる の」
「そんな ヤクソク なの よ、 キョウ は マチガイ は ない のよ、 アタイ、 だまされる の いや だ から、 さっき ね、 テ を いたい ほど にぎった とき に カミノケ を 2~3 ボン かみきって やった わ、 ほら ね、 これ、 ホンモノ の カミ なん でしょう」
「カミ だね」
「でも、 ニンゲン の カミ に マチガイ ない でしょう、 ツヤ と いい、 ウエーヴ の かかって いる グアイ と いい、……」
「ウエーヴ が かかって いる な、 しかし ふるい アト だね、」
「オジサマ でて みましょう よ、 おむかえ して おあげ したら およろこび に なる わ、 ゴモン の キワ に いらっしゃる ん です」
「いや、 ボク は ここ に いる よ」
「ちょっと くらい でたって いい じゃ ない の、 イジワル いわない で、 さあ、 どっこいしょ と、 たつ のよ、 どっこいしょ と、……」
「ボク は サムケ が して いる から でない よ、 キミ、 いって つれて きて くれたまえ」
「でたく ない ん です か」
「うん、 でたく ない」
「こんな に おたのみ して みて も、 ダメ なの」
「キ が おもい ん だ」
「レイコク ムジョウ な カタ ね」
「レイコク でも なんでも いい よ」
「オジサマ の バカ、 バカヤロ」
「バカ、 だ と」
「バカ だ わよ、 わずか に ニワ にも でて やらない なんて、 そんな ひどい シウチ が ある もん か、 フツカ も ミッカ も トオク から かよって いる ヒト に さ、 ちょっと くらい、 でて あげて も いい じゃ ない の」
「なんと でも いいたまえ、 キミ が どなったって ヘ でも ない」
「じゃ ホンモノ の ニンゲン で ない と いいたい ん でしょう、 だから、 あう ヒツヨウ は ない と いう のね」
「よく そこ に キ が ついた ね、 あれ は ホンモノ の オンナ では ない ん だ、 キミ が キンギョヤ に いく トチュウ で タムラ ユリコ の こと を、 かんがえながら あるいて、 とうとう、 ホンモノ に つくりあげて しまった の だ」
「じゃ、 いつか マチ の フクロコウジ の イキドマリ で みた とき も、 アタイ の せい だ と、 おっしゃる の」
「あの とき は ボク と キミ と が ハンブン ずつ つくりあわせて みて いた の だ、 だから、 すぐ ユクエ フメイ に なって しまった。 ニンゲン は アタマ の ナカ で つくりだした オンナ と つれだって いる バアイ さえ ある。 しんだ オンナ と ねた と いう ニンゲン さえ いる ん だ」
「それ は ユメ なの よ」
「ユメ の ナカ で オトコ と あった オンナ で、 はらんだ レイ は タクサン に ある ん だ」
「オジサマ の バカ も ムゲン な バカ に なりかかって いる わね、 ゴショウ だ から ニワ に だけ でも でて みて ちょうだい」
「しつこい デメキン だ」
「デメキン とは ナン です。 アタイ が デメキン なら オジサマ は ナン だい、 しにぞこなった フラフラ オジイチャン じゃ ない の、 アタイ、 いって あんな シニゾコナイ なんか に あわない で、 かえって いただく よう に いう わよ」
「ついでに、 もう こない で くれ と いって くれ」
「あいたい くせ に それ を たえて、 いらいら して いて それ が ホンシン だ と いう の、 あいたくて も とびだせ も しない くせ して いて、 イクジナシ ね、 ウソツキ なの ね、 リョウホウ で おなじ こと を いって いる ん だ、 オバサマ は オバサマ で にげまわって いる し、 こっち は こっち で ニゲ を うつ なんて、 そろって ニンゲン なんて ウソ の ツキアイ を して いる よう な もん だ。 ニンゲン なんて うまれて から しぬ まで、 ウソ の ツキアイ を して いる よう な もん だ」
「しんで いて も、 まだ ウソ を ついて いる かも しれない さ。 ウソ ほど おもしろい もの は ない、」
「じゃ、 カッテ に ウソ を ついて いらっしゃい。 アタイ、 オジサマ って もっと オンナ の ココロ が わかる カタ だ と おもって いたら、 ちっとも、 わかって いない カタ なの ね、 こまかい こと なんか まるで わかって いない、……」
「オンナ の ココロ が わかる もの か、 わからない から ショウセツ を かいたり エイガ を つくったり して いる ん だ、 だが、 ぎりぎり まで いって も やはり わかって いない、 わかる こと は オキマリ の モンク で それ を つみかさねて いる だけ なん だ」
「もう そんな オハナシ、 ききたく ない わ、 いつでも おなじ こと ばかり おっしゃって いる、 よく あかない で いえる わね」
「いった こと を いつも くりかえして いって は、 ニンゲン は いきて いる ん だ」
「あら、 ダレ か が アタイ を よんで いる ん じゃ ない かしら、 だまって いて、 ほら ね、 きこえる でしょう、 オバサマ が よんで いる のよ、 オジサマ には あの オコエ が きこえない の」
「ダレ の コエ も して は いない じゃ ない か、 キンギョ の ソラミミ と いう やつ だよ」
「いいえ、 すぐ モン の ワキ に いらっしゃる ん だ けれど、 それにしては とおい コエ だ わね、 ほら、 また、 きれい な コエ で よんで いる」
「キミ は すっかり ナニ か に まきこまれて いる ね、 すこし ヘン に なって いる」
「オバサマ、 イマ いく わよ、 すぐ、 いく わよ、 オバサマ」
「そんな オオゴエ を だす と、 ウチ の ヒト が ミンナ びっくり する じゃ ない か」
「ほら、 おこたえ に なった わ、 はやく、 いらっしゃい って ね、 あの コエ が きこえない なんて オジサマ こそ、 そろそろ オミミ が とおく なって いる ショウコ だわ」
「キミ に きこえて いて ボク に きこえない バアイ だって ある。 とにかく、 そんな オンナ なんか は もう モン の マエ にも ニワ の ナカ にも、 まって い は しない よ」
「ハクジョウ な オジサマ と ちがう わよ、 ちゃんと まって いらっしゃる から、 オヤクソク だ もん」
「はやく いって みたまえ」
「はやく いこう が おそく いこう が、 アタイ の カッテ だわ、 オジサマ なんか、 いや な ヤツ には、 もう、 かまって いらない」
「いよいよ、 ふくれて きた ね」
「アシタ から なにも ゴヨウジ きいて あげない から、 カクゴ して いらっしゃい。 いばったって ろく な ショウセツ ヒトツ かけない くせ に、 ふん だ」

「あら、 オバサマ が いない、 オバサマ、 どこ なの よ、 まあ、 そんな ところ に かがんで いらっしったら、 わかんない じゃ ない の」
「アナタ オヒトリ?」
「オジサマ は でて こない のよ、 オバサマ が きっと おかえり に なって いる と、 おもって いる のよ」
「ワタクシ も イマ、 かえろう と して いる ところ なん です、 いろいろ ありがとう、 じゃ、 もう かえらして いただく わ」
「だって そんな、 ……オジサマ は おあい したい くせ に、 わざと、 れいぜん と して いらっしゃる のよ、 アタイ、 ケンカ しちゃった、 アシタ から は イッサイ ガッサイ ゴヨウジ して やらない って ね」
「こまる わ、 ワタクシ の ため に そんな こと いったり して」
「なんだか ホントウ は おあい する の が こわい らしい のよ、 タバコ を もって いる ユビサキ の フルエ を みせまい と して、 テ を うごかして ごまかして いた わよ」
「どうして でしょう」
「ときに オバサマ、 ミギ の テ を ちょっと みせて」
「ナン なの」
「まあ、 まだ ウデドケイ を ねじとった アト が のこって いる わね、 この キズアト どうして ながい アイダ なおらない の でしょう、 これ、 オジサマ の シワザ じゃ ない わね」
「ちがう わよ、 ホカ の ベツ の ヒト、」
「いったい ダレ なの、 オトケイ ぬすんだ ヤツ」
「それ は いえません けど、 しって いる ヒト なん です」
「きっと、 イゼン オバサマ に オトケイ を かって くれた ヒト でしょう、 その ヒト が たずねて きた とき に、 オバサマ は とうに しんで いた。 そして その オトコ が デキゴコロ だ か なんだか わかんない けど、 ちからいっぱい に テクビ から トケイ を もぎとって にげだした のね、 オバサマ の しんだ こと なんぞ、 どうでも よろしかった のね、 ただ、 トケイ が キュウ に ほしく なった のね」
「アナタ は タンテイ みたい な カタ、 その オトコ が ワタクシ の シニガオ も みない で、 その アシ で ベツ の オンナ の ところ に いって かねて ヤクソク して おいた トケイ だ と いって、 それ を やった のよ、 オンナ は うれしがり オトコ は いい こと を した と おもった の でしょう」
「その オトコ って オバサマ の、 いい ヒト だった の」
「まあ ね、 ひきずられながら も、 いや でも、 そう ならなければ ならない バアイ が、 ワタクシ にも あった ん です もの」
「オジサマ は、 その カタ の こと を しって いらしった?」
「ゴゾンジ なかった わ」
「オバサマ は その ヒト の こと を かくして、 いわなかった の でしょう、 オジサマ に いや な オモイ を させたく なかった のね」
「いえ、 ワタクシ の こと は なにも おはなし した こと が ない し、 オタズネ も なさらなかった…… ただ、 いつも みられて いる よう な キ が して いた けれど、 また いつも なにも ムカンシン の ゴヨウス でも あった わ」
「その トケイ を ぬすんだ カタ、 にくらしい と おおもい に なる?」
「それほど でも ない けど、 オトコ と いう もの は ミンナ そう なの よ」
「じゃ イマゴロ、 どこ か の オンナ の テクビ に オトケイ が はめられて いる のね、 いや ね、 シニン の テクビ から もぎとった トケイ を はめて いる なんて、 その オンナ の ヒト、 オバサマ ゴゾンジ?」
「イッショ に はたらいて いた こと が あった から、 しって いる わ、 セイシツ の いい ヒト なの よ、 だから だまされやすくて、 だまされる の が うれしかった の でしょう、 そういう オンナ だって たくさん いる のよ、 セケン には」
「だまされて いながら それ が うれしい こと に なる の かしら、 アタイ には それ が よく わからない」
「だまされる と いう こと は、 キ の つかない アイダ は オトコ に こびて いる みたい な もの よ、 キ が つく と、 がたっと どこ か に つきおとされた キ が して しまう ん です」
「オバサマ も つきおとされた のね」
「ええ、 では、 もう くらく なった から、 そろそろ いきましょう、 もう これ で ニド と オメ に かかる こと も ない でしょう から、 アナタ も さむい フユジュウ キ を つけて ね」
「も イチド オジサマ を よんで みる わ、 アタイ の よぶ の を まって いる かも しれない」
「よばない で ちょうだい、 ね、 よばないで」
「ちょっと まってて よ、 ちょっと、 ほんの ちょっと まって」
「では、 また」
「オジサマ、 オバサマ が かえる から、 すぐ、 いらっしって よ、 オジサマ」
「そんな おおきな コエ を なさる と、 キンジョ の オウチ に きこえる じゃ ない の、 および に なる と ワタクシ アシ が すくんで きて、 キュウ に、 あるけなく なる ん です もの」
「ナニ して いる ん でしょう、 まだ、 ナニ か に こだわって じっと して いる のよ、 でて みたくて ならない くせ に、 いつも ああ なん だ、 ナニ を して いる ん だろう、 ね、 トケイ みて いて ね、 あと 5 フン-カン まって、 5 フン たったら いらしって も いい わ、 おがむ から」
「ええ、 では 5 フン、 でも、 でて いらっしゃらない でしょう、 こんな ワタクシ に おあい に なる わけ が ない もの」
「イマ でて いらっしゃる わ、 きっと。 あ、 5 フン たっちゃった」
「じゃ、 ワタクシ、……」
「いい わ、 おかえり に なって も いい わ。 その ミチ マッスグ だ と バス の テイリュウジョウ が みえます。 あ、 それから オバサマ の オモチ の カイスウケン は センソウ マエ の アイイロ ケン なの よ、 あんな もの、 おつかい に なれない から オキ を つけて ね」
「ぞんじて います」
「そお、 じゃ、 どうして ハンドバッグ に はいって いた ん です」
「どうして はいって いた の か、 ワタクシ にも、 よく わからない わ。 でも、 それ は そっと して おきたかった のよ」
「そちら は ハンタイ の ミチ だ わよ、 そこ には もう ジンカ が ない、 さびれた ウラドオリ だ もの、」
「ええ、」
「あら、 そこ は ヤケアト に なって いて、 ガイトウ も ついて ない のよ、 ミチジュン おしえて おあげ します から まって いて、 ミズタマリ ばかり で とても あるけ は しない わ」
「ええ」
「まって いて ちょうだい、 イジワル ね、 キュウ に そんな ハヤアシ に なっちゃって、 ほら、 みなさい、 あぶない わよ、 ミズタマリ に はまっちゃった じゃ ない か、 ちょっと たちどまって よ、 ヒトハシリ オウチ に いって、 カイチュウ デントウ もって きます から」
「…………」
「まって と いって いる じゃ ない の。 きこえない の かしら、 ふりむき も しない で いっちゃった」
「…………」
「オバサマ、 タムラ の オバサマ。 あたたかく なったら、 また、 きっと、 いらっしゃい。 ハル に なって も、 アタイ は しなない で いる から、 5 ジ に なったら あらわれて いらっしゃい、 きっと、 いらっしゃい」

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