★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
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彗星の時(8)

2011年06月23日 | 短編小説「彗星の時」
「エネルギー切れか・・」
シャインはそうつぶやき、残った握りをバックパックにしまいこむと、ふくらはぎの辺りから刃渡り50センチ位の黒いつや消しのナイフを取り出した。戦鉄牛の光る目はいつの間にかひとつしか残っていなかったが、その残った目でシャインの動きを追っていた。
 シャインが黒いナイフを握ると、キーンという微かに耳障りな音が響いた。シャインは、そのまま黒いナイフの歯を光る剣が切り裂いた跡に差込み、続きを切り始めた。
 戦鉄牛は、光の剣に切られているときとは違い、残った足をバタつかせながら、光る目をぐるぐると回して抵抗しようとしていたが、やがてナイフが切れ目から火花を散らして大きく切り進むと、足の動きも止まり目の輝きも消えてしまった。
 シャインは、戦鉄牛が動かなくなったのを確認すると、楕円形の胴体の後ろの方に回りこみ、一番後ろに出ている取っ手をつかんで引っ張った。ガゴンという大きな音とともに、丸い蓋のようなものがはずれた。シャインはさらに蓋が開いた穴に手を突っ込み、中から何かを引っ張り出した。
 ズルリと出てきたのは下帯姿の人間だった。死んでいるのか、なんの抵抗もせず、シャインに引きずられるままに地面に横たえられた。頭には幾本もの線が延びた帽子のようなものを被り、手や足など体のあちこちにも線が繋がっている。
 シャインは、黒いナイフをふくらはぎのホルダーにしまいこみ、ヤーコン達に向かって言った。
「もう大丈夫だ」
 ヤーコンは、恐る恐る近づいてきた。
「そなた、戦鉄牛を一人で倒したのか。」
シャインは動かない鉄の塊を見下ろしてつぶやいた。
「戦鉄牛・・RX23タイプ万能型機甲歩兵・・」
 ヤーコンの後ろから近づいてきたケインが戦鉄牛の切り口を覗きながら言った。
「そうだ。まちがいない。これは『地の国』が掘り出した、はるか古の魔法兵器、戦鉄牛だ。デリウスの戦いの際、わずか10体で蛮族二千人を打ち破ったという圧倒的な破壊力を持つ化物のはずだ。・・それをシャイン殿、そなたがひとりで・・」
 ケインは改めてシャインの足元から頭の先まで見つめなおしたが、シャインは気にする様子もなく戦鉄牛を見下ろしていた。


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