鴨着く島

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「再開発」より首都分散

2024-01-27 09:36:25 | 日本の時事風景

2日前だったか、NHKの「解体キングダム」という番組を見た。

今回のは、東京都心のあの象徴的な「日本橋」に覆いかぶさるような首都高速道路の立体部分を解体しようという内容だった。

日本橋は下を流れる日本橋川に架かり、この橋の袂から旧東海道が始まるという東京(江戸)のシンボル的な存在なのだが、東京オリンピックの少し前の頃から首都高速道路の建設が進められ、東海道(国道1号線)を改変せずに通そうということで、高架道路が日本橋川の上空に造られた――という。

当時、なぜ日本橋界隈の景観を台無しにするような高架道路を造ったのかという「景観論争」はそれなりにあったのだろうが、多くの人は高度成長につながる必要悪程度にしか考えていなかったように思う。

あれから60年近く経ち高架道路を支える橋脚や高架道路そのものに経年劣化が見られることと、多分、インバウンドの外国人旅行者の眼に由緒ある日本橋のすっきりとした姿を見せたい、という需要が後押しして、今度の「解体」につながったのだろう。

たしかに解体の仕方は十分に見応えがあった。

私は水中にもぐって円柱形の橋脚を切断して行く様子よりも、日本橋の上空に架かる高架道路(インターの出入り口)を切断し、それを川に浮かべた巨大な「台船」に乗せて行く作業の方に興味を持った。

その作業は川面の干満、要するに東京湾の干満をうまく利用して、干潮時に切断した道路の真下に台船を入れ、満潮時に台船の上に切断した数百トンの道路が乗っかり、再び台船を真下から徐々に引き離していく。

台船の上にバランスよく乗せないと、台船自体が傾いてしまうため、なかなか微妙な数センチ単位の曲芸のような作業であった。

このあとこの高架道路と円柱形の橋脚がどのように最終処分されるのか、また費用はどのくらいかかるのかなどの情報はなかったが、撤去後にこの高架部分の代替建造はどうするのかについては「約20年かけて、日本橋川の下に地下トンネル道路を走らせる」そうだ。

この情報は耳を疑うものだった。なるほど地下に通せば日本橋とその界隈の景観はすっきりしたものになり、交通事情は改善され、日本人は無論、外国人旅行者の眼に喜ばれるに違いない。

けれども問題は建設期間だ。約20年を想定しているという。

これには危惧を感じざるを得ない。何しろ東京を必ず襲うであろう大震災が、首都直下型はじめ相模湾トラフ型、東南海トラフ型と目白押しで、今後30年の内にそのどれかが起きる可能性は70%だと公報されているではないか。

建設途中でそれらかそれらに準じた震災が発生する可能性は言うまでもなく大である。そうなったらいったいだれが責任を取るのだろうか。

昨年末に墓参を兼ねて東京に行ったが、都心ではあちこちに工事用の巨大クレーンが立っていたのを見た。「再開発」だという。

1995年の阪神淡路大震災の前なら一種誇らしかった景観だが、今の私には危険な賭け事のようにしか見えない。

東京における新たな建設はいったんストップして「首都分散」に傾注したほうが日本の未来のためだと思うのだ。

民間ではコロナ禍の下「リモートワーク」が進み、地方都市に居ても業務に支障がない分野が多くなったのは一極集中を避けるための一つの改善だが、本社丸ごとという企業が増えなければ始まらない。

もっと必要なのは官公庁の分散だが、今のところ文化庁が京都に移転しただけだ。

第2の首都として大阪が受け入れ先として期待されるのだが、例の「府市あわせ」という語呂が良くなかったのか、大阪府と大阪市の合併をめぐる2度の直接住民投票では、2回とも僅差で「府市あわせ」は否定された。(三度目の正直だ。もう一度住民投票をやってくれまいか。)

明治維新後に大久保利通などは大阪を首都にしようと考えたのだが、明治天皇の東京行幸(江戸城入城)によって徳川氏の専制体制を完膚なきまでに終わらせようという維新閣僚の声が上回り、今日まで続く東京一極集中が始まった。

国権の最高機関である国会も行政府もすべて揃っている東京だが、もう分散への取り組みを加速して行かなければなるまい。

「解体キングダム」が今度解体するのは東京一極集中だろう。

 

 


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