ゆっくりかえろう

散歩と料理

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2011-08-27 | フィクション

  気絶して引っ張り込まれたパソコンの中から 出るのも簡単だった
 ネイビーさん(前世人間 今世 餓鬼)が私の背中を画面の方へ
 押し付けてくれたら あっさり押し出された

 私の肉体が現世にあるから すんなり戻れるらしい
 ネイビーさんの方は 実態が現世にはないので出てくるのが難しく
 手だけ出して 人を引っ張りこむくらいがせいぜいらしい

 
 朝から中学の悪友 僧侶をしている結導に連絡すると
 今日は一日中空いているということで 昼から彼の自宅(寺)で 会う約束をした
 昔からあのお寺にはよく遊びにいったので話しやすい

 今日は休日だし やることもなかったので 好都合だ
 
 永い付き合いなのに 彼とあの世の話をするのは初めてだ
 暗い本堂で話をした

 当たり障りなく 知りたい事を聞いたが
 やっぱりちんぷんかんぷんなのはかわらない
 宗教は苦手だ
 躊躇したが 思い切って切り出してみた

 「ちょっとこれを見てくれないか」
 俺は携帯電話を取り出すと 動く餓鬼を見せる
 「ほほう よく出来てるな、まるで本物みたいだな」

 結導が携帯画面を覗き込むと 蒼黒い手がニュッと飛び出して
 結導の鼻をつるりとなでた・・・

 「うわっ」
 彼は尻餅をつき 俺がやったように 尻を引きずってどんどん後ずさりした
 「うわっ うわっ うわっ うわー」
 どうやら腰がぬけたらしい
 「なんだっ これはっ!お前は何を持ってきたんだっ?!」


 「驚かしてすまん このの中に住んでいるのは 本物の餓鬼だ」
 「・・・・・・・・・・・・・」結導の息が整うまでしばらく待った

 結導にいきさつを説明するには時間がかかったが さすが仏教系の大学を出て
 家業を継いだだけあって 俺の話を理解し信じてくれた

 「話はわかったが お前は餓鬼にとり憑かれるているのだぞ」
 「そんな  この餓鬼はそんなに悪い奴じゃないぞ」

 「餓鬼にいい悪いはない だいいちお前に何が出来る」
 「・・・・」

 「俺は無力だ 今の僧侶は形だけ知識や作法はあるが
  誰も餓鬼道なんて信じちゃいない」
 「そんな・・・」
 「僧侶という職業人なんだよ」
  あてにしていた彼からの言葉だけに 落胆は大きかった

 「うちの本山にも 餓鬼を鎮めることができるものがいるとは思えない」
 「そうなのか?」
 俺は目の前が真っ暗になった

 「一番いいと思われるのは その携帯の中の鬼に何がして欲しいか
 おまえ自身が もっとよく聞いてくることだ」

 「聞いたその話を知らせてくれ、危険かどうか俺が判断しよう」
 やはり俺がどうにかしなきゃならないのか
 「わしとお前は古くからの遊び友達だ 見捨てはしない」
 
 さすが幼友達だ 胸がジンとなった

 「ところで なぜ俺は餓鬼に気に入られたんだろう」
 彼は真顔になった
 「それは お前が餓鬼をひきつける何かがあるからだろう」

 「牛丼屋の一件を思い出してみろ」

 あの日のことは思い出すだけで気持ちが悪い

 なにやら 周りが答えをみんな知っていて 俺だけが判らず
 ずっと手が挙げられなかった あの日の数学の授業を思い出した

 答えを教えて欲しいとは言わないが せめて俺を見て
 笑わないでくれ 俺のどこがいけないのだ?



 携帯の中のネイビーさんは 何が言いたいのだろう