角岡伸彦氏著 新潮社 こういった本は それなりの地方の出版社から出るのが通例ですが この本は大手出版社です。 以前読んだ食肉の現場の本は地方出版社のもので、マニアックで拒否反応が人によっては出るかもしれないものでした。 このテーマは、関西人は顔を背ける内容かもしれないけれど、現代は昔とは違います。 ディープな話題も明るく話せるようになりました。 素晴らしい事です。 作者は食肉の歴史や地方事情を詳しく調べ、果ては外国にまで行って調査し食べまくります。 またそれ以上に資料調査も抜かりなくかなりの労作です。それに何より文章が面白いです。
朝ドラマ ごちそうさんに登場した料理のレシピブック。フードコーディネーターさんはさぞかし大変だっただろうなぁと感じましたが 反面楽しんで作られたのではないかと想像しました。レシピを見れば番組が思い出されます。東京の料理大阪の料理 ネガティブにならず お互いの良いところを上手く紹介していてとても良いレシピブックです。番組オリジナルのハモニカを作ってみたくなりました。またケチャップライスを赤なすご飯と書いているところなど事実に忠実だしお洒落な言い回しに感心しました。
仁木英之氏著 人気シリーズ、 回を重ねる毎に お気楽仙人談から 王弁君中心の活劇ものに変貌を遂げてゆきます。
王弁君はとうとう夢にまで見た 憧れの先生と交わりを交わします。
なのに王弁君はいざとなったら先生の誘いを断ろうとします。
私は爆笑しました。面白すぎます。
理由はムードがないとか気が乗らないとか。
実はこれは人助けで 交わらないといけないのですが、仙人との交わりは 人間のやるようなことではなく、精神的な交流なのです。
王弁君はドルマさんのトラブルに巻き込まれ 無力な自分を思い知りますが、そんな王弁君が仙人より 殺し屋より 王より強い事が物語を通じて語られます。
王弁君なら思いやりと情熱で 悪い道士を撃破してしまいそうです。
宮部みゆき氏著 元警察犬 現在引退の身のマサ(イヌ)を主人公にした一人称の推理小説。
着眼点がユニークで 犬の目から見たらこうであろうという独白が狂言回しになっています。
お話は明るく題材が暗い話でも すっきり読めます。この本は二冊目ということで順序が逆になりましたが 一冊目パーフェクトブルーを読まねばならなくなりました。
新人の頃の作品らしく やや慣れない部分があるように思いましたが、初々しくもあります。
表題作と最後の作品を較べると 随分の成長があるように思いました。(生意気ですいません)ここまでが感想です。
ここからは寝言と思って下さい。推理小説は私、苦手でして宮部みゆきさんですから喜んで読みましたが、かなり遅読で苦労しました。
謎解きがメインでは退屈で堪らないです。
でもうさぎの出てくるじゅん子さんのお話は読後感が良かったです。
少し人情話になっていました。
宮部さんはこうでなくっちゃね。
仁木英之氏著 人気シリーズ僕僕先生のお話の 始まりのその又始まり。
エピソード1の物語。
ここにはまだ王弁君は生まれていません。
僕僕先生さえ弱っちい ただ料理が得意なだけの新米仙人です。
後の話に出て来る 耕父とか燭陰とか天馬の戎宣など お馴染みの引退仙人の現役の頃。
僕僕先生の生い立ちと 成長が語られます。
お話はまるでスターウォーズのようです。
新しいそして古い物語の始まり。
時代を遡っているのです。
かなり面白いです。
お話は天地開闢の頃 地上を司る二人の神様の意地の張り合いから 神々を巻き込んだ いがみ合いを描きます。
でもまだ戦争まではいきません。
キーポイントは一人の神様が作りだした人間です。
すえずえ
畠中恵氏著 人気シリーズしゃばけの続編 これまでになく 先々の事を考えさせる一編
栄吉の未来 寛朝の未来 若旦那の母上の未来 妖手代達の覚悟 妖達の将来 皆さん腹を括って将来を展望します。
妖達は家を持たせてもらい、人に化けて生きてゆく道を選び始めます。
ひょんな事から 若旦那の許嫁が決まります。
みんなこのままじゃいられないと悟り始めます。
段々賢いあやかしが 表に出始め お気楽なメンバーは目立たなくなります。
今回は猫又のおしろや噺家のバクが出番を増やします。
かなり波乱万丈な展開なのに 少しも不安はありません。
そこがこのシリーズの良いところです。
ラフカディオ ハーン著 上田和夫訳
ご存知第二大戦以前の日本在住で古き日本を深く愛し紹介した外国人作家の日本語訳
内容は日本の古典に材をとった怪談 伝奇 エッセイなど。
これほど深く日本を理解し愛した外国人はいないでしょう。
伝奇などはなるべく元の話をいじらず、ありのままの形を残す精神が見えて この人の学者肌が感じられます。
お馴染みの耳なし芳一やむじななど オリジナルの素晴らしさに触れて感動します。
その姿勢には戦争前のおかしくなり始めた日本を嘆き 古きよき日本を残そうと奮闘するハーンの姿が浮かびます。
これは時代に立ち向かい 世相を嘆く 反戦作品でもあるのです。
私達の知らない日本の歴史がそこにあります。
お文の影
宮部みゆき氏著 人気短編のアソート。
宮部みゆきさんの三島屋変調…シリーズの外伝。ぼんくらの政五郎親分とおでこのコンビなど 本編から少し外れたお話です。
そこには宮部ワールドらしく、子どもたちに対する優しい眼差しが描かれています。
彼女の作品は現代劇でも同じテーマで描かれているものが見られ心温まります。
いわばスリラーにかたちを借りた人情劇なのです。
香月日輪氏著 長く続いたシリーズの最終巻 人気シリーズをうまく纏めました。
出だしは楽しくて マンネリから脱したかのようです。
本の半分から退屈してきて 事件の後始末になるか と思いきや、楽しく終了したのは良かったです。
辛口で言わせてもらうなら 全体のストーリーは楽しく読めますが、脇役が綺麗事過ぎて生きた人の事とは思えない(ファンの方ご免なさい)
脇役が理想的人物だらけ、そしてそれを取り巻く人達がひたすら誉める構図は見ていて座りがよくないです。(個人の感想です)
白馬の王子様なんて現実にはどこにも居ないのです(読者が求めているのかな)せっかく面白いストーリーを自慰で魅力を削いでしまうのは如何なものかなと思います。
とはいえ 長い間夢を見せてくれた作者様には感謝します。
ファンの皆様 暴言をいってごめんなさい。妖怪アパートは一巻目が一番好きです。
私の希望は 外伝として 一癖もふた癖もある妖怪アパートの皆さんのお話を書いて欲しいです。
外伝だけで幾つもお話が出来そうです。
特に画家さん 詩人さん まりこさんのお話が聞きたいです。
いわさきちひろ著
絵本画家いわさきちひろ本人の絵とエッセイ
作者自身じゃないと書けないものが ここにあります。
彼女は泥だらけの子供が描けないと言いますが その代わり誰にも描けない ちひろの世界が有ります。
それはいつも子供を見ている母の絵で とても真似ることが出来ない素晴らしい世界が広がっています。
津原泰水氏著 氏の作品は読めば読むほど難解です。
最初読んだものが楽しくて楽だったので読みあさると やがて難解な作品に突き当たります。
でもこれは分かり易い方、私としては 芦屋家の崩壊とかたまさか堂物語とかが好きです。
この人の作品は分かり易いものと難解なものを足して二で割ると 安部公房風味かな?
仁木英介氏著 シリーズ三作目 天下の平和は又しても乱されます。それとは知らず お馴染みの三人の勇者は集まります。
千里の住む麻姑山で今年は武術大会が開かれます。
千里たちは望と望まざるに関わらず力の競い合いをします。
しかしこれは仕組まれたもので、やがて又天地をひっくり返す大事件に発展してゆきます。
バソンくんは相変わらず茫洋として 千里は相変わらず子供ですが、心の弱さから絶海くんだけは、ダークサイドに入り強くなります。
人を憎み妬み暗黒の強さを手に入れます。
千里伝は元々ドラゴンボールの要素が濃いお話でしたが、これからはスターウォーズの要素も出て来ました。
絶海くんは悲しいダースベイダーの役どころなのです。
私は絶海くんを応援していただけにとても残念でなりません。
お話は続き 最終話に雪崩れ込みます最初の溌剌とした雰囲気は薄れてだんだんシリアスドラマに傾いていきます。
泣き童子
宮部みゆき氏著 人気シリーズ 三島屋変調百物語
心に傷を持つ三島屋おちかが 人の打ち明け話から 傷を癒やしていきます。
お話はいつになく複雑で時には残酷に時には心優しく 読んでいる方も物語の中に入っていきます。
最後のお話は怖くて哀しくて やがて少し嬉しいお話でした。
お話を読んでいて、宮部みゆきさんって本当に優しい人だなあと思いました。
ただの怪談話ではなく本当の中身は人情話なのです。おかげで読後感が良いのです。
たこやき
副題 おいしいコナモノ大研究 熊谷愛菜氏著 世にも珍しいコナモン研究家であらせられる 氏の研究書 あだやおろそかに読むなかれ。
中身は面白おかしく書かれたものではなく、論文です。たこやきなんてという人がいるかもしれませんが、この書は例証やあらゆる書物のたこやきの部分を調べ上げ 極めて真面目に取り組んでいます。
小説 エッセイ 地政学 考古学 水産 木工など多伎に渡り調べています。
そのフィールドはお好み焼きやちょぼやきに至ります。
真面目な本です。
色物を期待すると少しあてが外れますが いい加減な想像を書かない姿勢はりっぱです。
ただたこやきはローカルフードで、私の覚えとは違うところがあり、まだまだ食い足りないと感じました。
でも大変な労作であることには変わりありません。
なにせ調べるにしても雲をつかむようなお話です。
今ならネットとSNSをフルに使って調査すれば可能かもしれないですが一人で作ったとすれば大変な作業だと思います。
今邑彩氏著
ミステリー短編集 素直に書かれていて読者を混乱させるだけのストーリー展開よりは 自然な流れのこの作品は すっきり読めます。これは推理小説ではないのですから。
世の中にはアクの強い小説が多すぎます。たまには素直な気持ちで読んでみましょう。おどろおどろしい題名とは真逆の読みやすいスリラーです。