カバンの中から 鳴き声がする
甲高いそして濁った子供の声にも聞こえる。
俺は恐る恐る近寄って そっとカバンを覗き込んだ。
携帯電話が半開きになり 画面の光がユラユラ揺れて 一種異様な美しさがあった。
手にとってみると 画面に何か映り 蠢(うごめい)ている。
?はて
こんな動画を保存していただろうか
何か知らないアプリが 動き出したのだろうか
画面のなかでは 異様な動物が 二本足で歩きまわっている。
青黒い皮膚 人間の形に似ているが ガリガリに痩せて ひょろひょろした手足のような四肢
やたらギョロギョロして光るくぼんだ眼 丸く膨らんで毛のない赤子のような頭部
低く小さい鼻 斜めに伸びた尖った耳 裂けた口と薄い唇
体躯は骨と皮ばかりなのに 水が溜まったように異様にぶくぶく膨らんだ腹部
誰かがデザインしたとしても ここまで悪意に満ちたものを考えだすのは 一つの才能だろう。
画面の奥から 左 右 そして手前とすばしっこく走り 跳ね這いまわり 立ち止まって
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ」と 泣き続けている
見ようによっては コミカルでもあり グロテスクでもある