中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

社員99人以下の会社の人材育成に役立つ情報を発信しています。

「埋没費用」にこだわってはいけない

2015年07月15日 | コンサルティング

「何度も打合せを行なったり、その結果に基づいて何度も図面を書き替えたりして、ようやくその企画が採用されそうな段階になって、急きょお客さんが遠方に転勤することになってしまったり、また、急に状況が変わってしまった・・・などの理由でこれまで進めてきた話がご破算になってしまうことがあります」

そういう時は何とも空しい気持ちになって、思わず「私のこれまでの努力はどうなるんだ・・・。私の時間を返してくれ~!」と叫びたくなります。

先日ある住宅会社に勤める方から聞いた話ですが、家を新築する予定との話が来たので、施主を尋ねて先方の家に対するこだわりなど希望の数々を聞いて、ようやく契約をいただける段階になったら、急に話がなくなってしまった。他者に契約をとられるのももちろん悔しいけれど、致し方ない理由ではあっても、話がなくなってしまうと本当に辛いですね、とのことでした。

この話を聞いて思い出したのが、「埋没費用」という考え方です。埋没費用とは、事業や行為に投資したお金や労力のうち、事業や行為の撤退・縮小・中止によっても戻ってこないお金や労力のことを言います。

例えば、新たな新技術の開発のために1億円を投資したけれども、途中で競合会社に先を越されたことがわかった時に、このまま続けても成果は得られないと判断して、思い切って開発の中止を決定した場合、既に投資した1億円は埋没費用と言えます。

先の住宅会社の例で言えば、施主のところに繰り返し通い、設計図を書いた労力が埋没費用になります。

こうしたケースで「既にこれだけ投資したのだから、もう後には引けない」と考えて、無理にでも継続することがよくありますが、では中止した場合に埋没費用は全てが無駄になってしまうということなのでしょうか

上記の例で言えば、施主の状況が変れば再度依頼が来る可能性もありますし、この施主から別の顧客を紹介してもらえることもあるかもしれません。

それに何より、そこに至るまでの作成した設計図のノウハウは手元に残るわけで、決して全てが無駄になってしまうということではありません。

つい「元をとらねば」と考えがちですが、投資したものをまた次の機会に生かせる可能性はあるわけですから、埋没費用のことをいつまでも考えていても致し方がない。むしろその時間の方がよっぽどもったいないとも言えるのではないでしょうか。

これはもちろん住宅会社に限った話ではありません。我々人材育成にかかわるコンサルタントの世界でも似たような事例はたくさんあります。プライベートにおいても何年間も時間とお金をかけて行ってきた趣味なのに、ちょっとした事情によって続けることが叶わなくなったということもありました。でも、私はそれでも得たものはたくさんあったので、全てが無駄だったとは思わないようにしています。

もし埋没費用が発生しそうになった、あるいは発生した場合にも、それを単に無駄なものと考えるのではなく、そこで得られたものを次の機会にまた生かすことができるかどうか、その人の考え方次第と言えるのでしょう。

(人材育成社)