いぬがバーテンダーのバーに「ぼく」がふらりと入ったのは、「すぎゆく夏のうしろ姿が見えた」季節。
三軒目に選んだ店だった。
頼んだお酒はジンリッキー。お通しはバーテンダーが選んだ詩だった。
そうやって、詩をめぐる会話が交わされる。
「ぼく」のちょっとした思いつきや最近の悩み、生活の中の鬱屈や何げない感想などがちょろりっと語られる。
それが浅かったり深かったり、ふふと笑ってしまえたり、うんうんとうなずけたり。
で、さまざまに読める詩を読む愉しさがそっとカウンターに置かれるように、本の文字に重なっておかれる。
この詩はこう読むのですなんて迫ってはこない。
こうかもしれないし、ああかもしれないし、どうでも読めるし、わかるなんていらないので、と差しだされる。
今の気持ちに合う一篇の詩が。すると、その詩に誘われてしまうのだ。
で、なんだか詩っていいよなと思えてくる。
訪れる夜は全部で15夜。31篇の詩がお通しで出される。
エリオットやエズラ・パウンド、ランボーにボードレール、ガートルード・スタインもいればアメリカ・インディアンの口承詩もある。
大岡信に吉岡実、北村太郎、萩原朔太郎や室生犀星、富岡多惠子、川田絢音、石牟礼道子に高橋順子などなど、
あっ、草野心平と宮沢賢治もあるしで、このバー、なかなかの品揃えだ。