探偵の名前はオーウェン・バーンズ。作者はフランスの推理小説作家で、いわゆる本格探偵小説だ。
推理を誤らない探偵の探偵ぶりがいい。
ストーリーは裏表紙に頼る。
「長女の婚約を巡り愛憎渦巻く屋敷に集まった面々は、みな〈混沌の王〉と呼ばれる存在に怯えていた。
一族を呪い、聖夜のたびに一人ずつ命を奪っていく白面の怪人……それはいにしえの伝承ではなく、三年
前にも当主の息子が完全な密室の中で殺されたのだという。そして〈混沌の王〉を呼び出し鎮めるための
交霊会の夜、新たな事件が発生し」
と、こうなる。
さらに、雪の夜の残っていない足あとや登場人物の不可解な行動。
物語の舞台になる建物の二つの塔をつなぐ空中回廊。鈴の音とともに現れる混沌の王。
吹雪の先の湖に浮かぶ小舟。そして、探偵オーウェンの友人が語り手となって事件の渦中に入っていくという設定。
おまけに、その語り手アキレスが登場人物の女性に寄せる想い。
ああ、どこまでもクラシカルな、溢れるようなディクスン・カーの世界。
ホロヴィッツが、『カササギ殺人事件』で二重構成を取りながら、アガサ・クリスティの世界を招来したように、
また他の小説でホームズを復活させたように、アルテはディクスン・カーを呼び戻す。面白いよな、本格探偵小説。
あっ、そういえば、少し前に読んだ、阿津川辰海の『星詠師の記憶』はめちゃくちゃ面白かった。
阿津川の問いと答えの論理的な積みあげも、いいよな。
で、この小説『混沌の王』の探偵が語る言葉、
「謎を解くには、ありえないことを排除していくだけでいい。そうして残った仮説は、どんなに馬鹿げて見えようが
真実にほかならないってね」という言葉は、いい。
それは、小説冒頭の「人生は偶然から成っている」と呼応して、物語世界を創りあげる。だから、読者は偶然出会うのだ、物語世界に。
ありえなさを排除しながらも、混沌が跋扈するこの時、この場所に。
それは、とても愉しい、あり得なさを排除しながら、その結果、顕わになるありえた世界の真相。
にたにたしながら読める小説だった。