パオと高床

あこがれの移動と定住

エドワード・ゴーリー『華々しき鼻血』柴田元幸訳(河出書房新社)

2010-04-21 13:28:38 | 詩・戯曲その他
どうしても、柴田元幸の訳だというと読んでみたくなる。ただ、この本、読むと同時に見る本であって、左のページに一行一文の英語。その下にいろはカルタのように縦書きの英文の訳があって、右ページはモノクロームの線画となっている。
英文はアルファベット順でアルファベット・ブック。ところが、この本のアルファベットは名詞ではなく副詞をつないでいくというところが稀有。例えば冒頭「She wandered among the trees Aimlessly.」では、AimlesslyのAがアルファベットの始まりとなる。で、訳は「あてどなく/こだちを/さまよう。」と、バチッと決まっているのだ。線画は三本の細い木立のなかに女性が一人立っているもの。この立ち姿が、言葉にならない。まさに「あてどなく」なのだ。ちなみにBの副詞はBalefullyで「まがまがしく」。全編、選ばれた副詞は、このようにどちらかというと負のイメージ。柴田元幸の解説によると、「それにしても、何とまあ偏った副詞の選び方か。(中略)と、確固たる目的を持たぬ人間が、悪意にみちた世界のなかで、切ない想いをしばしば胸に抱えて、不確定に生きている……というゴーリー的世界がはっきりと浮かび上がってくる」となる。しかし、この詩句にしても、線画にしても、過剰な情感や怒りや恨みや悲壮感やウエットな感じはない。むしろ淡々としていながら、無気味で、また諧謔がある。超然のステップも見えてくるかのようだ。その背後に孤独を見るか。この辺は読者によるのかもしれない。ただ、仮に孤独を見ても、この孤独どこか殺伐としていないのだ。柴田元幸は「読後感は妙にさわやかだ(と思う)。」と書いているが、何かかすかな体温のようなものがあるような気もするし、無気味さや謎っぽい感じがむしろほっとした感じを与えてくれるような気がする。そして、くすっと笑ってしまうかもしれない。そう、「~(と思う)」と、いう感じがいいのかもしれない。

英文に不慣れだが、柴田元幸の訳は相変わらずフィットしている(と思う)。
本の原題「THE GLORIOUS NOSEBLEED」を「華々しき鼻血」と訳すのだから。

作者ゴーリーは2000年にすでに死んでいる。ボクは初めて知ったのだが、この人は熱狂的なファンがたくさんいるだろうと思った。

表紙の鼻血を出してのけぞっている人物は、読者であるボクかもしれない。
コメント
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