パオと高床

あこがれの移動と定住

是永駿編訳『中国現代詩三十人集』(凱風社)

2009-06-03 12:37:54 | 詩・戯曲その他
副題に「モダニズム詩のルネッサンス」とある。中国のモダニズムの一部を見ることができる一冊。と、同時に、二つの天安門事件に関わる中国の民主化運動の中での、詩人の表現が迫ってくる。国家や共同体と向き合う中で、詩の使命が表現と結びついて強い緊張感を伴って現れている。もちろん、翻訳である以上、これは訳者是永駿の持つ緊張感にも拠っているのだろう。

明日は6月4日。今年は第二次天安門事件二十年である、改革開放路線の中で飛躍的な経済発展を遂げた国。資本主義的経済と社会主義的政策というウルトラ級の混在を果たしている国。そして、なお民主化の問題を指摘されている国でもある中国。経済格差、民族問題などの社会問題を抱えながら、グローバル化の中で強い影響力を持つ中国。この国は、アジア的な民主主義への道を見せてくれるのだろうか。

ちょうど今、テレビで韓国ドラマの『第五共和国』というのを見ている。全斗煥が権力を握る段階を描いたドラマだ。「光州事件」の場面が終わり、ついに大統領になっていくというところまで話は進んでいる。「光州事件」に象徴される民主化の動きを、その反対勢力が軍事力を持って抑え込んでいく状況が、強く描き出されている。民主主義を獲得していく、それこそ血と涙の流れる営為が、現代史の中には積もっている。
そういえば、以前読んだ韓国の詩人アン・ドヒョンの詩はよかった。


世界よ、きみに告ぐ
わたしは信-じ-な-い!
たとえ戦いを挑んだ一千の者たちをお前の足下に踏みしだいていようと
わたしが一千一人目になろう
                      (北島「回答」)

ほら、聞こえるかい
あの死者たちの骨から伸び出た枝葉が
花の盃をチリンカリンとうちあわせ鳴らしている

それが春だ
                      (芒克「春」)

傘をさすとは何
待つとは何
ふりむいて見はるかす雨のしずくは何
濡れそぼる心とは何
                (老木「あの大雨の追憶」)


手のひらの石を握りしめて黄金に変え
懐の花を抱いて武器に変え
わたしは立ちひとりの巨大な敵となる
わたしはひとりの人間ではない
風の音にさえずる夜鶯の挽歌を学んで一生を終えた者ではない
見よ、わが胸より湧き立ち次々と飛び立つ海ツバメの群れを
                  (黙黙「わたしの命令」)


個でありながら、個に分断されることを拒絶する複数の「私」への意志と呼びかけがある。


血には血を。火には火を。      (顧城、楊煉「弔辞」)
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