パオと高床

あこがれの移動と定住

岡井隆、小池光、永田和宏『斎藤茂吉 その迷宮に遊ぶ』(砂子屋書房)

2007-10-16 23:07:59 | 国内・エッセイ・評論
1996年から97年にかけて京都大学で行われた、ジャムセッション・イン・京都という三人の座談会(?)である。ただ、ジャズの演奏形態の名前がついているだけに、かなりくだけた、自由な雰囲気がある。お互いが、論の完成を目指すのではなく、斎藤茂吉の面白さや妙な点を提示し合いながら、場を楽しんでいるようでもある。もちろん、見方の違いなどでは妥協のなさがあり、納得しているかのような口調の割に言っている内容は別の観点だったり、あからさまに、違うと言うことを述べたりして、緊張感があったりはする。岡井隆が、結構、わざとのように空気や流れを崩すような発言をしているような気もした。
それにしても、斎藤茂吉は写生の歌人と勝手に思いこんでいたが、その写生自体の定義、論点のあいまいさからが斎藤茂吉その人で、彼自身が枠からはみ出しているということが、引用されている多くの歌や三人の語りから伝わってきた。漱石や鴎外もそうだが、近代を一身に受けとめたかのような各ジャンルの人物は、やはり巨大である。
斎藤茂吉の歌と随筆、そして人物に興味を喚起された一冊だった。わかりにくさをめぐる読者との関係や、わかりにくさを怖れることでのジャンルの疲弊への問題や、短歌のレトリックへのこだわりの執拗さなど、読んでいて楽しかった。


コメント
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