西武秩父線の芦ヶ久保駅は、池袋方面から来ると、正丸駅を過ぎ、長い正丸トンネルをくぐったらすぐだ。終点の西武秩父駅まであと横瀬駅しかない。正丸トンネルは、大手私鉄で全国2位(4811m)の長さを誇る。
去年についで9日から2度目の氷柱の公開が始まったと新聞で読んで、15年1月19日にさっそく出かけた。
月曜日だというのに結構な人出である。駅から歩いて約20分で行けるというのが売り物である。
秩父にはこのほか、氷柱をPRしている所は「三十槌(みそつち)の氷柱」(秩父市大滝)と「尾ノ内百景氷柱」(小鹿野町)の2か所にある。いずれもここから30kmほど離れていて車が必要だ。
「三十槌」は荒川の岩清水が凍った天然のつららだが、「尾ノ内」は両神山を源流とする同渓谷の水を、町の西秩父商工会青年部がパイプで水を引き、吊り橋の裏の斜面の木々にかけて作ったもの。「あしがくぼ」はこれを参考にした。この三つを合わせて「秩父の三大氷柱」と呼び、年々来場者が増えている。駅の近くで地の利があるため、「あしがくぼ」が一番多く、19年冬は前年より2万人増の12万人を超えた。
「あしがくぼ」の場合、裏山の雄岳と雌岳のある二子山(882・7m)の兵(ひょう)ノ沢から細いパイプで水を引き、スプリンクラーで散水して創る。
高さ30m、幅120mにわたる氷柱群で、(写真)毎週土曜日には、午後8時までライトアップする。
手前の正丸駅では見かけなかったのに、トンネルを出ると、線路脇に雪が残っているので驚いた。
「トンネルを出たら雪国だった」という趣である。
「こちらの標高が高いので正丸とは3度の温度差がある」と地元の人が教えてくれた。朝の最低気温が氷点下6度前後になるので自然凍結するとか。現場は日中、陽が照っていてもひんやりするほどだ。
受付があり、「環境整備協力金」として中学生以上は200円とられる。
その代わり登山道を登った広場で氷柱を見下ろしながら温かい甘酒か紅茶が飲める。甘酒は地元の蔵元の酒粕を使い、紅茶は横瀬町特産のものだ。
「日陰で寒い所なので、昔は近くにスケートができたり、氷を切り出す所もあった」というが、氷柱があったわけではない。秩父の先輩の尾ノ内の氷柱造りを習った発想である。
県も駅前から山を開き、延長360m、幅約2.5mの遊歩道を整備するのに協力した。足が滑らないようにチップが敷き詰められている。
駅近くには、イチゴ摘みなどを楽しめる観光農園が散在する「あしがくぼ果樹公園村」や丸山鉱泉旅館、武甲温泉もあるので、希望者にはバスで無料送迎する。
西武鉄道の芦ヶ久保第3隧道(トンネル)が間近にあり、電車からも氷柱が見えるので、西武鉄道では下りの特急「レッドアロー号」の一部を停車させたり、ライトアップを車窓から見学できるように徐行したりする。
本数は少ないものの、現場に向かう登山道には、「電車が来たら手を振ろう」という呼びかけが貼ってあった。
「秩父三大氷柱」3か所を回るバスツアーを運行したり、温泉を無料で利用できるスタンプラリーもある。
初公開の14年は、秩父の大雪で閉鎖されるまで32日間で約1万7000人を集めた。今年は3月1日までの52日間で5万人の集客を狙う。(東京新聞)
遊歩道の木に、「浅間神社付近で熊の目撃情報あり」という掲示があり、駅では熊よけの鈴が400円で売っていた。
県に観光地がないなら「氷の芸術」を自分で創ってやろうという発想で、その意気やよし。だが、暖冬だと氷柱ができず、20年は「営業中止」に追い込まれた。