「綺譚 桜の森の満開の下」 セルリアンタワー能楽堂
10/17(金)マチネ 脇正面1列
10/18(土)ソワレ 正面席4列
【原作】坂口安吾
【構成・演出・振付・音楽】藤間 勘十郎
【出演】中川晃教 / 市川ぼたん / いいむろなおき
恥ずかしながら、人生で初めて能楽堂に足を踏み入れました。
能楽堂というのは「独立して、地上に」建設されているものと思っておりましたので、セルリアンタワー入口で大変迷いました。
まさかホテルの中の地下階にあるなんて…
地下2階に降り、長い廊下に続く能楽堂の入り口の印象は「料亭?」というものでしたが、
実際に能楽堂の奥には「数寄屋 金田中(かねたなか)」という高級料亭が隣接しておりました。
このお店から能舞台を観ることもあるそうで。ああ知らない世界…
さて。
原作の坂口安吾作「桜の森の満開の下」は、著作権が切れており青空文庫で全文を読むことができます。(→ ここ)
ただ結構な勢いでグロテスクな表現が続くので、私にとっては苦手分野。なんとか飛ばし飛ばし読んで臨みました…
ここで登場する「男」をあっきー、「女」を市川ぼたんさん、黒子や鬼をいいむろさんが演じますが、
途中まではあっきーが朗読する文に合わせて、いいむろさんとぼたんさんが動きます。
経師に乗せた台本を読むあっきーの声色は、深く、歌舞伎や能などの古典芸能のような読み方。男と女を器用に演じ分けます。
そして、特にいいむろさんの動きがすごいです。走ったり食べたりする動作、女に気に入られようと奔走する表情。目が離せない。
「女」のぼたんさんの艶めかしさ、着物を操る仕草、綺麗というよりも凄みがある。
あっきーは緑の模様が入った着物と袴が…まあ似合う似合う。少し茶色が入った髪も結んでいるのも似合う似合う。
恰幅もあり姿勢もぴんとしていて、いつものキュートなあっきーではなく「侍(さむらい)」を感じました。
女の「首遊び」は能面をかぶった首オブジェで表現。原作のグロい文章は「謡」が担当するのでグロさが薄まりますが、
結構怖かったです。最初に見たときなんかちょっと泣いてしまったし…
でここからが凄かった。
男は鬼と化した女の首を締める場面は、舞台正面の「階(きざはし)」で演じられます。
ここは正面席からでないと仔細には見えないのですが、男が我に返って絶望の声をあげるその表情と、もう声とは言えない機械のような声、
きっとこのためにあっきーがここにいるのだと。
あっきーの顔も涙でぐしゃぐしゃだけど、見ている私の顔も涙でぐしゃぐしゃ。
「すごいもん見た」としか言いようがありません。
観終わってもう一度原作の文章に目を通すと、全く違った印象を受けました。
舞台では桜の花びらそのものが舞うことはなかったけれど、この作品の主役は桜であり、女であり、それでも一番の主題は男の孤独であり。
一幕二幕合わせて60分あまりでしたが、あれほど濃密で張りつめた表現ではこれが限界かも(観ているほうが)。
知らない世界に連れてきてくれて、ありがとう。
もう一度見られるなら、季節のよいときに野外の能楽堂で観てみたいかな。願わくば。