イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

ゴルゴ38  Part X

2008年10月05日 09時49分07秒 | 連載企画
当然だが、このプロジェクトにはプロデューサーが必要だ。映画でも同じ。よいプロデューサーのあるところ、よい作品あり。僕は基本的に映画は監督のものだと思っているけど、全体を俯瞰すれば、監督だってプロデューサーから選ばれたひとりのプレイヤーにすぎない。そして監督を誰にするかから、お金の管理、雑用の手配まで、なんでもござれで活躍するのがプロデューサーなのだ。

これだけの大人数(現時点で翻訳者3名、データマン7名、チェッカー4名、さらにこれからもかなり増えそう)になると、やはりそれを管理する人間が必要になる。1人だとヘタをするとワンマンになってしまうかもしれないから、それは今回のプロジェクトの主旨とは合わない。なので、メインプロデューサーには敏腕編集者2名をノミネートしよう。さらにアシスタントとして最低2名が必要だ。今回のプロジェクトを、ある出版社を母体とするものにするならば、プロデューサーをさらに統括し、監視する立場の人間も必要。あんまり口はださないけど、締めるところは締めてくれる。そして、ときにはハッとするアイデアを出してくれる、そんな人だ(外見がショーン・コネリーに似ているとベスト)。

こうして、指揮者であり、裏方でもあるプロデューサー軍団の仕切りによって、プロジェクトは進行していく。スケジュール、人の手配、場所の手配、弁当の手配(どれだけ粋な弁当を手配して、現場の人間を喜ばすことができるか、これはメンバーの士気を高めるための重要なポイント、プロデューサーの腕の見せ所だ)、ボストンから来日した著者の世話、質問責めにされ廃人になった著者をボストンに送還するための手配、などなど、プロデューサーの仕事は果てしない。やるべきことは、いくらでもある。もちろん、最終成果物となる書籍を売るための準備にも余念がない。すべてのゴールはそこにあるのだ。

でもちょっと待って欲しい。弁当? どこで弁当食べるのか。みんな同じ場所にいて作業をしているのか。答えは、YES。つまり、プロジェクトは、映画でいうところの撮影所に相当する場所を設定し、そこで行われるのだった。

現実的には、中野あたりにある雑居ビルのフロアを借りて製作の拠点とするというところなのだろうけど、理想的に言えばジョージ・ルーカスのプロダクション、ILMのように、郊外の自然が豊かな場所にある保養所みたいな建物を根城にして作業を進めたい。作業者には個室が与えられる。パーティションで仕切られたキュービクルではない。個室だ。部屋のなかには、ソファもあるし、本棚もある。自分の趣味的なあれこれを置いておく余裕も十分にある。まさに、アメリカのオフィスのイメージだ。日本の標準的な大学教授の研究室より広いし、アットホームな雰囲気がある。基本的に、翻訳者、データマン、チェッカー、そのほか大勢は、そこで作業を行う。やはり翻訳は孤独な作業なのだ。ひとりでいるときにしか発揮できない集中力が必要なのだ。でも、ちょっと疑問があれば、すぐに隣の部屋にいって雑談ができる。チェッカーがおもむろにデータマンの部屋に行く。ドアをノックし、扉をあける。データマンも、ふと作業の手をとめ、リラックスモードになる。チェッカーはソファに腰を下してひとしきり話をすることもあるし、扉の近くの壁に背をもたれかけて、微妙にデータマンの仕事を邪魔しないように、カジュアルに話を切り上げることもある。「で、P245の第2パラグラフのパンチョ佐々木のセリフについてなんだけどさ......」と、マグカップを片手に会話を始める。そうした何気ない会話から、思わぬ発見があったり、新たな発想が生まれたりする。そして話は脱線し、お互いの家族のことや、趣味のことや、近所にある美味しいレストランのことについての情報交換が行われる。こういうのも、息抜きとしてとても大切なのだ。リフレッシュルームでは当然のように、飲み物が無料で提供されている。そこでコーヒーを淹れている間に、他のメンバーと何気なく立ち話をする。これもとても大事。細かいところで意見が合わずに、ちょっと気まずくなった相手とも、天気の話をしたりすることで、また関係を取り戻せたりする。

フォーマルなミーティングもある。翻訳者ミーティング、データマンミーティング、チェッカーミーティング(ところでマークピーターセン氏とリービ英雄氏には、さすがにほかと比べて日当たりもよく、調度品の趣味もよく、広い部屋を用意しなければならない。プロデューサー、頼む!)。そして全体ミーティング。そういうのを定期的にやる。遠隔地に住んでいるメンバーは、テレビ会議や電話会議で参加する。あんまり堅苦しいのはよくない。あくまでカジュアルに、自由に意見を交換する。ただし馴れ合いは禁物だ。ときには喧々諤々をやる。そこはプロ集団。自分の考えをきっちりと主張できる人たちだから、よい訳文を作るためなら、下手な遠慮はしないのだ。

たとえば毎週火曜日には皆でランチを食べに行くとか、木曜日には会議室でビュッフェ形式のケータリングを楽しめるとか、金曜日の夜には軽く飲み会があるとか、たまには外でバーベキューするとか、そういうイベントも随所に盛り込まれている。感謝祭の日には、誰かの家にいってターキーを食べたりする。同じ場所で作業をすることによって、自然にそういう関係性が生まれるのだ。快適な仕事環境を作り上げるためには、こうした気配り、すべてを楽しむ姿勢は欠かせないと思う。それから、土日は休み。無理して突貫作業をしたりはしない。この余裕も重要。

僕は2ヶ月ほど、ペンシルバニアでソフトウェア開発、ローカライズのプロジェクトに参加させてもらったことがあるのだけど、そこの職場がまさに上記のようなところだった。それぞれ職域がはっきりとした、専門を持ったプロフェッショナルたちが、個室で作業している。だけど、コミュニケーションは十分に保たれている。雰囲気もとてもいい。もちろん時には激論が交わされることもあるけど、理想的な職場だと思った。

そういうわけで、プロジェクトは着々と進行中なのであった。開始から約半年。そろそろ、ベータ版の完成が近づいていた......。

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   /ー-ニ.._` r-' |……    「といいつつ、このプロジェクトは相当な赤字で終わりそうだな......」

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Oさん、Kさん、そしてAさん。お気遣いどうもありがとうございました!


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2 コメント

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Unknown (ぼぼぼ)
2008-10-05 16:31:28
読むほどに、データマンとして参加したくなってきました。。。
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採用決定! (iwashi)
2008-10-05 16:38:39
もちろん採用決定です!
高度な理学的知識を活かした調査をお願いします。景色がよくて風通しのいい角部屋を用意します(^^)
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