イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

読めるのに書けない⑧  手は訳者、目は読者

2007年11月29日 21時23分38秒 | 連載企画
「翻訳とは、結局のところ特殊な形態の読書である」と言ったのは、柴田元幸さんだった。まさしく、訳すことは読むことでもあり、そして読むことは訳すことでもある。息を吸ったら吐くように、この2つは表裏一体、お互いに強く結びついている。翻訳をする者にとって、読むことと書くことはとても大切な要素であり、そして僕はそのどちらも好きだ。うまくできないことが多くてため息をつくことも多いけど、ずっとこの作業を続けていきたいと思っている。ながながと書いてきたわりには結論めいたものにはたどり着けなかったけれど、最後に、自分に向けて、読むことと書くことへの心構えを書いてこのシリーズを終了したい。

読むこと

洋書、訳書、和書、それぞれをバランスよく読み、楽しみ、学ぼう。書籍だけではなく、新聞、雑誌、テレビ、人との会話、電車の中吊り広告まで、言葉のあるところには、常に意識を向けて、書き手の視点で文字を眺めよう。一冊の本、一本の記事、それを書いたのはどんな人で、どんな言葉で世界を描写したのか、なぜその言葉を選んだのか、興味を持って読むことに関わろう。英語がぜんぜん読めてない。だから英語力を強化しよう。


書くこと(訳すこと)

語の置き換えをするのではなく、原文の意味を汲み取って、日本語でそれを表現してみること。まずは等身大の自分の言葉で、うまく伝えることを目指そう。チャンスがあれば、これまでに使ったことのない表現を試してみよう。そうやって、少しずつ引き出しの中身を増やしていくのだ。言葉が出てこないときは、時間の許す限り、悩み、調べ、とりつくろって、せめてもの誠意を示そう。できるかぎり、辞書にはこう書いてあります、という開き直ったような訳をするのはさけよう。訳し終えたら、客観的な視線で訳文を見直そう。手は訳者、目は読者の気持ちで。

これからも読むことと書くことをずっと続けていこう。呼吸をするように、ご飯を食べるように、自然な気持ちで。

~連載完~


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『ネットと戦争』青山南
『すっぴん魂』室井滋
『なで肩の狐』花村萬月
『老人力』赤瀬川原平
『The Adventures of Huckleberry Finn』Mark Twain
駅前のブックアイランドで5冊

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