プリミティヴクール

シーカヤック海洋冒険家で、アイランドストリーム代表である、平田 毅(ひらた つよし)のブログ。海、自然、旅の話満載。

石垣新空港について

2008-04-06 00:00:31 | 八重山カヤックトリップ

(八重山カヤックトリップの話の続きです)

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 ↑ サンゴ石をシンプルに並べただけの、白保集落の素朴な港。

 石垣島に着いてまず白保地区に泊まりました。ここでしばらくカヤック&シュノーケル三昧の日々を送ろうかと思っていたけれど、毎日毎日予想以上に寒く、北よりの風も強く、ほぼ雨か曇りで遊べませんでした。

 石垣島でのカヤッキングはまず川平湾をグルーっと回ってウォーミングアップし、その後、島北東部に位置する半島の東海岸エリアを漕ぎました。いずれの日も雨風が強かったけれど、新しい環境で新鮮味がありました。

 そのことはまた別の記事で書くとしまして、この記事ではここ白保エリアについて触れてみたいと思います。ぼくの泊まったのは「環礁アトル」という名の、10数年前に東京からこの白保の地が気に入って移りすんだ女将さんが一人で切り盛りする民宿でしたが、滞在中、彼女と色んな話をしました。「この白保にマブイー(魂)を落としちゃったのよ」と言ってらっしゃいましたが、それゆえ、石垣新空港の話をするときには、自分の身を削られるように、本当に辛そうでした。

 石垣新空港とはここ白保地区に建設を計画されている空港です。現在ある空港は第二次世界大戦中に軍用空港として作られたものを元にしていて、滑走路が1500mと短く、大阪、東京からの直行便が離着陸できないと言われています。また扱える貨物数も少ないらしいです。これでは観光面、産業面ともに石垣島の発展に障害をきたすということで、1979年に新空港設立の計画が立ち上がりました。当初の予定は、白保の沖合いを埋め立て、2500mの滑走路を作り、中型以上のジェット機を離着陸できるようにしようというものでした。

 しかし、この白保周辺の南北10キロのほどの海域はサンゴ礁の宝庫で、有名な世界最大のアオサンゴの一大群落があったり、巨大な塊状のハマサンゴの群落が展開されています。それも何キロも沖合いにあるのではなく、目の前の砂浜からすぐ目と鼻の先の距離に素晴らしいサンゴ礁が散りばめられた、世界的にも極めて希少性の高い場所です。またサンゴだけでなく、魚、貝、エビ、カニ、海草、水鳥、ウミガメ類などかけがえのない生き物たちの宝庫として、自然環境的に見て、あるいは観光資源的、水産資源的な見地から、埋め立てなどとんでもない話なのでした。

 当然、集落住民や自然保護団体、研究者たちが立ち上がり、反対運動が繰り広げられました。やがてマスコミや世論なども巻き込み、海上案は撤回されたけれど、紆余曲折を経て、白保より少し北の「カラ岳」という小高い小山の付近に作る陸上案が立ち上げられ、2005年12月に国土交通省の認可が下りたのでした。開港は2012年の予定です。

 その、カラ岳に建設したならば白保のサンゴ礁には影響がない、現代の最新土木工学を駆使したならばサンゴに害を及ぼす赤土の流出もないだろうと、推進側は御用学者などを使って説明しているけれど、実際は陸上案であっても同じ事で、結局白保のサンゴ礁は死ぬだろうと言われています。

 ひどい話です。美しい自然と素朴な人情が色濃く残っているのが石垣島の魅力なのに、それを殺しちゃって開発を推し進めても、逆に人を引き寄せる魅力が消え去り、誰も来なくなっちゃうのが目に見えています。計画発案は1979年で、当時は世の中全体に環境倫理も観光の多様性の価値観も全く根付いていず、ただただ旧式の経済成長観一色の時代でした。そこから世界も日本も大きく変わっています。特にこれからは国家ブランディング、地域ブランディングの時代で、どの地方もローカルの魅力を探すことに必死になっているというのに、何もせずともそこに存在してくれている、ワールドワイドな価値のある白保ブランドをぶっ壊して、一体どうしようというのでしょうか。ましてや石垣島は「観光」を機軸に経済が回っている島です。

 争点となっている、空港の離着陸に関する問題も、結局理屈をこねるための具にすぎないのです。実際は、新空港の必要性に切実さはまるでありません。そして何より、工事に携わる土建屋と政治家以外に経済的メリットがないわけです。諫早湾や長良川の例を見ても明らかなように、覆水盆に帰らずということわざ通り、複雑なメカニズムをたたえる自然を壊すのは一瞬ですが、人間の手では永遠に元通りのものを作ることはできません。しかし、(もう実はそういう時代になりつつありますが)いつか白保のサンゴ礁が絶対必要であるという時代が来るかもしれません。そうなったとき後悔してもどうすることもできません。そして、後世の子孫に、「あの時代の連中は気が狂っていた」と馬鹿にされることでしょう。

 ではなぜ、どう見てもアホな筋書きを推し進めようとするのでしょう? 答えは簡単。土木工事ほどオイシイ利権を生むものはないからです。たとえば地域ブランドを現出するには創意工夫、知恵、不断の努力などが必要とされてきますが、土木公共事業は税金を引っ張ってくるだけで、知性も教養もまるで必要とされません。

 旧態依然とした「政・官・財の鉄のトライアングル」。仕事を発注する国土交通省があり、土建屋を推薦する政治家がいて、工事を請け負う土建屋がいる。事業に絡んだ企業はその見返りとして官僚に天下り先を用意し、政治家に対しては政治献金を渡し、選挙の際には票を差し出す。そんな典型的な構造に根ざしたストーリーなのです。国民、市民、島民のことなど全く眼中になく、また石垣島の発展のためなのでもなく、すべては目先の利権のためなのです。見え透いています。

 自然の神様の、タタリとか起こんないんだろうか?

G

↑緑色に見えるのは沖縄地方でアーサと呼ばれる海草(ヒトエグサ)。味噌汁やお吸い物に入れるとおいしい。で、一見なんの変哲もない単調な海岸にしか見えないが、すぐ海の中に入ると、有数のサンゴ礁が展開されているのである。

R

Z

干潮になると一面アーサ畑になる。

I   

白保を黙って見守るウタキ。


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