漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「兇キョウ」 と「凶キョウ」「匈キョウ」「胸キョウ」 

2022年01月28日 | 漢字の音符
  解字をやり直しました。
 キョウ・わるい  儿部

解字 甲骨文字は「禽キンの甲骨文字である鳥網の上部+座った人(卩セツ)」の形。楚簡(=戦国)も「鳥網の略体+ひざまずく人」と見ることができる。[甲骨文字辞典]は、「甲骨文字では吉の意味で用いられているが、理由は不明」としている。古くから鳥網は敵を捕獲する目的でも使われており、捕獲した側は敵の要人を捕獲したので吉としたのではないだろうか。楚簡の意味は不明であるが、[説文解字]の篆文は、著者の許慎が「擾恐ジョウキョウ(おそれる)なり。儿(人)が凶の下に在る。春秋伝曰く、曹国の人、恐懼キョウク(おそれる)す」とあり、おそれる意。
下図は禽キン(とり)の変遷図であるが、

 甲骨文の禽キンは、第1字が取っ手のある鳥網で、第2字が網の上に捕まえた隹(とり)を描いている(金文以降は発音をあらわす今キンを上に付けた)。
 この字から凶が分離し、意味も①わるい。②わざわい、となったため、兇には、わるい・わるもの、の意が追加された。
意味 (1)おそれる(兇れる)。「兇懼キョウク」(おそれる) (2)おそろしい。悪者。「兇犯キョウハン」(悪者の犯罪。殺人犯)「兇険キョウケン」(心が悪く腹黒いさま)「兇悪キョウアク」(=凶悪)「兇行キョウコウ」(=凶行)
 キョウ・わるい  凵部かんにょう

解字 ここも[説文解字]から説明させていただく。許慎は篆文の字形を「悪なり。地面が掘られ、その中に陥るさま(✕)」とし、落とし穴に落ちた状態で、わるい意味とする。しかし、戦国期の第一字は篆文と似ているが、第2字は落とし穴と✕が連続しており落し穴に落ちた形ではない。私は凶は兇キョウから分離した字だと考える。したがって字源は鳥網のあみの部分であるが、意味も兇をひきついでおり、おそれる意である。しかし、許慎が解字で「悪なり」としたので悪い意味も加わり、これが主流となった。
意味 (1)わるい(凶い)。わるもの。「元凶ガンキョウ」「凶行キョウコウ」 (2)わざわい。不吉。「大凶ダイキョウ」「吉凶キッキョウ」「凶事キョウジ」 (3)ききん(飢饉)。作物の出来が悪い。「凶作キョウサク」「凶荒キョウコウ」 (4)おそれる。「凶凶キョウキョウ」(おそれるさま)

イメージ 
 「わるい・わるもの」
(兇・凶・酗)
 「形声字」(匈・胸・恟)
音の変化  キョウ:兇・凶・匈・恟・胸  ク:酗

わるい
 ク  酉部
解字 「酉(さけ)+凶(わるい)」の会意形声。酒を飲みすぎて荒々しくなること。凶キョウ・匈キョウの呉音にクがある。
意味 酒に酔って荒れる。酒乱。「酗酒クシュ」(酒乱)「酗淫クイン」(酒を飲みすぎて淫楽にふける)「沈酗チンク」(酒乱にはまる)

形声字
 キョウ・むね  勹部

解字 戦国期は「人がうつむいた形+凶(キョウ)」の会意形声。人がうつむいた形の胸部にあたる部分の発音がキョウであることを示した字で、胸の原字。第2字は「月(にく・からだ)+凶(キョウ)」の会意形声で、キョウという身体の部分を指しており胸の意。篆文は「勹+凶(キョウ)」となり、現代字の匈になった。本来の意味は胸だが、北方遊牧民の名前に当てられた。
意味 (1)むね(匈)。「匈臆キョウオク」(心のうち。胸のうち)(2)中国西北方の異民族の名。「匈奴キョウド」(秦代から漢代にかけて中国西北方に根拠地を持っていた遊牧騎馬民族)
 キョウ・むね・むな  月部にく
解字 「月(からだ)+匈(むね)」の会意形声。匈は、もともと胸の意だが、匈奴の意味に用いられたので、月(からだ)をつけて胸の意を表す。
意味 (1)むね(胸)。むな(胸)。「胸板むないた」「胸騒(むなさわ)ぎ」 (2)こころ。こころのうち。「胸中キョウチュウ」「度胸ドキョウ」(物事に動じない心)
 キョウ・おそれる  忄部
解字 「忄(心)+匈(キョウ)」の形声。キョウは兇キョウ・凶キョウに通じる。兇・凶の本来の意味は「おそれる」であり、この意味を忄(心)を付けて表した。
意味 おそれる(恟れる)。びくびくする。「恟恟キョウキョウ」(びくびくする)「恟然キョウゼン」(おそれるさま)
<紫色は常用漢字>

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