石造美術紀行

石造美術の探訪記

滋賀県 東近江市市辺町 三所神社石燈籠及び大蓮寺宝篋印塔、三尊石仏

2007-01-16 23:04:48 | 宝塔・多宝塔

滋賀県 東近江市市辺町 三所神社石燈籠及び大蓮寺宝篋印塔、三尊石仏

06 市辺町集落の中央に三所神社があって、本殿前の玉垣の中に建武4年(1337年)銘を持つ優れた石燈籠がある。高さ203cm、円形の中台は単弁2段葺の複雑な円形の蓮台式、あとは各部平面八角型で、基礎各面に格狭間と開蓮華で飾り、基礎上端は一段の繰り出しを経て複弁反花、竿は上中下とも連珠文、火袋にはひとつおきに四天王を半肉彫りする。竿の中節以下に「右志者為悲母第三年追善、□石女造立所建武四年丁丑12月13日敬白」の銘があるというが(※1)肉眼では確認できない。笠の蕨手、請花宝珠も欠損ない優品である。花崗岩製。

 神社と隣り合うように大蓮寺がある。現在は浄土宗。山門を入って境内の、向かって右、山車か何かの保管庫のような場所の軒下に立派な花崗岩製の宝篋印塔が立っている。抑揚感のある隅弁式反花座24 の上の基礎は壇上積式で、束の表現がなく格狭間を持たない。こうした意匠はあたかも未成品か手抜きのようである。銘文は確認できない。基礎上は2段式。塔身には月輪を廻らせずに金剛界四仏の種子を薬研彫する。種子の彫りは浅く、文字も小さめで力強さに欠けている。笠は上6段、下2段で、隅飾は軒と区別して直線的に外反し、薄く2弧の輪郭を巻く。茨の位置は低く、輪郭内は素面。相輪も完備しており、伏鉢は半球形で複弁請花が上に続き、九輪は凹凸がはっきりするタイプで、その上に単弁請花、宝珠は重心が中央にあっておおむね完好な曲線を描く。各部完備で総高230㎝(※2)と大きい。全体的バランスがとれた優れた宝篋印塔だが、細かい意匠に手抜きではと思えるような部分があって、退化傾向と認められる。隅飾の特徴や反花座を持つことなどから南北朝期後半から室町初期(※2)の造立と推定される。すぐ隣に接して鎌倉末期の三尊石仏がある。高さ185cm、平べったい自然石の広い面を方形に彫りくぼめ、蓮華座に立つ如来半肉20彫像を三体を並べ、右に「元亨辛酉元年(1321年)4月月日造立了」の紀年銘を刻むほか、下方に「為生阿弥陀仏現在也/為西念房第三年也/為字六母三十三年也」の銘がある。生阿が自身の逆修と西念房という師匠か縁者と思われる僧の三回忌、そして母親の三十三回忌の供養の為に造立したことがわかる。(※3)このほか付近に宝篋印塔や宝塔の残欠が何点か置かれている。ざっと見ても、宝篋印塔の笠が6点、基礎が6点、どれも花崗岩製、ほぼ同じサイズ、元は6尺~7尺塔と推定され、基礎は上2段の2点04_2を除き基礎上を反花とし、壇上積式のもので、四面格狭間を設け、開花蓮や三茎蓮を持つ。笠はどれも上6段、下2段で、隅飾は2弧輪郭で輪郭内は素面が多く、1点は蓮華座と月輪を浮き彫りにして種子を入れている。また、宝塔の笠と基礎が1点ずつある。宝塔は笠下に3段の垂木を刻みだし、露盤と四注の降棟を表現し、基礎は四面輪郭を巻き、3面に開蓮華入格狭間を飾り、1面は輪郭内をやや深く彫りこんで二仏の坐像を半肉彫している。二尊とも肉髻が確認できるので法華経見塔品に説く多宝・釈迦かもしれない。宝塔基礎にこうした表現があるのは多くない。この宝塔の笠と基礎は1具のものかもしれない。これらの残欠は14世紀初めから後半の時期のものと思われ、何故かどれも相輪と塔身が見られない。注意すべきは、これらの基礎束石に複数の刻銘が見られることで、これらは拓本をとれば判読できるはずで、造立目的や年代形式を考えるうえで貴重な資料となるだろう。さらに同じサイズの素面の立方体の部材が1点あり、五輪塔の地輪と考えられる。これらの残欠は付近の田から掘り出されたもの(※4)という。

他にも境内には多数の小五輪塔や箱仏がある。

また、同じ集落内の薬師堂に貞和2年(1346年)銘のよく似た三尊石仏があるので、あわせて見学されることをお勧めする。

 

 

 

参考

 

※1 川勝政太郎 新装版『日本石造美術辞典』107ページ

※2 滋賀県教育委員会編『滋賀県石造建造物調査報告書』120ページ

※3 川勝政太郎 新装版『日本石造美術辞典』162ページ

※4 瀬川欣一『近江石の文化財』78ページ

 

 

 

 

 

 

その後、佐野知三郎氏が『史迹と美術』591号に、大蓮寺の宝篋印塔基礎に正和5年(1316年)並びに正慶元年(1336年)の紀年銘を含む銘文があることを報じておられることがわかったが、上記残欠の内いずれかであろう。なお、『八日市市史』は、もう1基上記宝篋印塔の近くに総高290cmの宝篋印塔があると記述するが現地に見当たらない。

(いったいどこへいったんでしょうか?)


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