石造美術紀行

石造美術の探訪記

滋賀県 東近江市鈴町 吉善寺宝塔

2008-05-12 01:12:41 | 宝塔・多宝塔

滋賀県 東近江市鈴町 吉善寺宝塔

集落東側にある吉禅寺の境内南隅、塀沿いの高い壇上に石造宝塔が置かれている。基礎の下に平らな切石を敷いているが、基礎とさして幅が変わらず、当初からのものかどうかは不明。07花崗岩製で総高約171cm、基礎は割合背が高く、幅約52cmに対して高さは約36cmを測る。各側面とも輪郭・格狭間入りで正面のみ格狭間内に大きく右に頭を向けた孔雀をレリーフする。孔雀文は近江式装飾文様の一種で、たいへん珍しく、全国で30足らずの例があるに過ぎないが、そのうち近江の例が約7割を超えるとされる。嘉元2年(1304年)銘の比都佐神社宝篋印塔に比べると彫りが扁平で表現もやや稚拙である。正面以外の格狭間内は素面。輪郭は左右が広く上下が狭い。塔身は軸部、框座、匂欄部付首部を一石で彫成する。軸部には上下に薄い突帯を鉢巻き状に回らせ、四方に扉型を陽刻する。やや胴張気味だがほとんど円筒状で、亀腹部分は狭く、框座の張り出しを少なくして幅広の匂欄部につなげ、続く純粋な首部はかなり低い。匂欄付首部は素面。正面扉型左右に2行にわたり「文保2年(1318年)戊午三月日/大願主一結衆」の刻銘がある。笠裏に一重の垂木型を刻みだし、軒口は分厚く隅に向かって力強い軒反を見せる。四注は若干照りむくりを示し、隅降棟を断面凸状の突帯で表現する。05左右の隅降棟が笠頂部の露盤下で連結する。笠全体の幅に対して軒口を厚くし過ぎたためか屋根の勾配面にあまり余裕がなく、傾斜も急になっている。相輪は九輪部5段目の上で折れたものを接いでいるが完存しており、下請花は複弁、上請花が小花付きの単弁で伏鉢、宝珠ともに曲線に少し硬さがある。九輪の凹凸は沈線に近い。細部は丁寧な造作が見て取れるが、退化傾向が現れており、塔身が寸胴で、軒口が厚過ぎ伸びやかさが足りない印象で、背の高い基礎も合わさって全体に安定感に欠ける。しかし風化が少ない表面の保存状態は良好で、各部完存している点は貴重。特に孔雀文の基準年代と一結衆による造立が知られる刻銘がこの石造宝塔の価値を一層高めている。

参考:蒲生町史編纂委員会『蒲生町史』第3巻 382~383ページ

近江の宝塔のうちではどちらかというと不細工な部類ですが、見るほどに独特の持ち味のあるフォルムです。市指定文化財。旧蒲生町鈴、以前は集落中央、狭い路地に囲まれた場所に吉善寺があり、ブロック塀風の塀に囲まれた狭い境内墓地の南隅の一段高い壇上に宝塔がありました。数年ぶりに訪ねたところ、宝塔はおろかお寺ごときれいさっぱりなくなって景観は一変、旧寺地を示す石柱を残して真新しい公民館になっていました。一瞬愕然としましたが、ごく最近お寺は集落東側に移転し、宝塔も無事移転されたようで安心しました。


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