石造美術紀行

石造美術の探訪記

滋賀県 長浜市上野町 素盞鳴神社宝篋印塔及び五輪塔

2007-05-08 08:05:16 | 五輪塔

滋賀県 長浜市上野町 素盞鳴神社宝篋印塔及び五輪塔

小堀遠州ゆかりの孤蓬庵へ向かう道すがら、集落の西のはずれに素盞鳴神社がある。長い参道を抜け左手に社殿、右手に池と井戸があり、井戸の裏手、東側の竹薮の前の小さい空地に五輪塔と宝篋印塔が東西に並んで立っている。12_1 宝篋印塔は切石を井桁に組んだ上に2枚の板状の切石を据えた二重の基壇上に立ち、おそらく基壇に埋納空間があると推定される。基礎は側面四方ともに輪郭を深めに彫り沈めた中に格狭間を配する。格狭間内は素面。上は反花式で、花弁の傾斜は緩く抑揚感がなく、べちゃっとした感じで、左右隅弁の間に3枚弁を配し各弁間に小弁の先端をのぞかせている。塔身受座も低く、風化により角がとれて反花座と一体化したかのように見える。塔身は金剛界四仏の種子を月輪内に薬研彫する。笠は上6段、下2段で、軒と区別した3弧輪郭の隅飾は直立に近く大きい。輪郭内は素面。相輪は2輪目と9輪目の上の2箇所で折れているが補修されている。伏鉢はやや円筒形に近いもので、請花は下複弁、上単弁、宝珠と上請花のくびれはやや大きい。高さ約195㎝。銘は確認できないが鎌倉後期後半から末期のものと見て大過ないだろう。一方の五輪塔は2枚の板状切石を並べた基壇上に立ち、向かって右側の切石の接合面と地輪との間に火葬骨を投入できる隙間がある。各輪素面で銘も確認できない。地輪は低すぎず高すぎず、水輪は重心をやや上において裾のすぼまりが目立つ。火輪の軒は厚く隅で力強い反りを見せる。火輪頂部は狭く屋だるみの曲線がやや大きい。風輪は少し平らで空輪との接合面はよくくびれ、空輪の重心は高めで先端の小さい尖りまでよく残っている。花崗岩製。火輪軒の一端が大きく欠け地輪上に置いてある。散逸しないように心がけて欲しい。高さ約155cm。火輪は鎌倉スタイルをよくとどめるものの空風輪や水輪の形状はやや新しい要素を含み、宝篋印塔よりは一世代新しいものとみる。14世紀半ばから後半にかけてのものと推定したい。博学諸彦のご叱正を請う。苔むした宝篋印塔と五輪塔が並んで静かに佇み、周囲の緑に溶け込んで、藪椿を背景にして何ともいえない独特の空間を演出している。石造美術のすばらしさをしみじみと感じることができた探訪であった。

参考

川勝政太郎 『歴史と文化 近江』 201~202ページ

同 「近江宝篋印塔の進展(三)」『史迹と美術』360号