「学習力トレーニング」岩波ジュニア新書より
8.3 発表をする
人が目の前にいると
人間は、人と人との間と書きます。私達は、人は人との関係の中で生かされています。これを間人(かんじん)性という人もいます。
ですから、対人関係が大切になってきます。人から嫌われるより好かれたいとの思いを誰しもが持ちます。
その思いが強すぎるためでしょうか。人が目の前にいると、どうしても緊張してあがり気味になってしまいます。
そんな中で、自分の思いを表現しなければならないのが、発表なのです。
ですから、発表を効果的にものにするには、発表内容そのものに工夫を凝らすだけではなく、発表の仕方のほうにも、かなりの力を注がなければなりません。これを身につけるには、どんなところに注意すればよいかについての知識を持つことと、折に触れて実践をしてみること、さらに、人の発表から学ぶことです。
以下、話し方、視線、表情、ジェスチャーの4つについて、それぞれのポイントを考えてみることにします。
話し方を工夫する
声を使ったコミュニケーションは、誰もがそれなりにできます。それだけに、とりたてて工夫をしなくともなんとかなるだろうと思いがちです。
ところが、あらためて人前であいさつをしたり、発表したりすると、そのことがとんでもない思い違いであることに気づかされます。
文章技法と同じで、話し方技法もあるのです。
まず、基本になるのは、声の使い方です。
声には、その音波としての物理的な特性に対応して、振幅には、大きさ、振動数には高低、波形には音色の3つ特性がありますので、自分の声の特性をまず知ることです。とはいっても、声の特性、とりわけ、高低と音色は、遺伝的なところがありますから、変えることのできる範囲は限られています。
発表で一番注意しなければならないのは、声の大きさです。
これは、かなり自分でコントロールできますので、会場の大きさや聴衆の数によって調整することになります。だいたい、普段の声の大きさの1.5倍くらいの感じです。不安なときは、聴衆の後部にいる人に聞こえるかどうかを聞いてみるとよいと思います。
次は、話し方です。話術と言われることもあるくらいに、大技、小技とりまぜて多彩な技術が、それぞれの状況に応じてあります。
ここでは、話を具体的にするために、「携帯電話と高校生」というテーマで、10分程度の教室での発表を想定して、その開始から終了までの時間の流れに沿って、有効な話術のうちから大技だけを紹介してみます。
1)発表の始まり段階での話術
発表タイトルと自分の名前を言った後、まず、発表の大枠と発表の流れをはっきりと言います。
これによって、全体のイメージがわきますし、聞き手は、それについて持っている知識を呼び起こし、発表内容を取り込む網を頭の中に用意します。2.2「記憶されている知識の関係づけをする」を参照してください。
場合によっては、結論を先に言ってしまうこともありえます。
これは、かなり思い切ったやり方ですが、それぞれの意見をぶつけ合うような場なら、有効です。発表の冒頭から緊張感を持って聞いてもらえます。
学習力トレーニング「発表の冒頭の一言を工夫する」****¥
「携帯電話と高校生」という発表での冒頭での一言は、あなたならどうしますか。*1
************
発表の冒頭でやってはいけないことは、言い訳です。
「充分な時間がなかったので」「あがっているので」「思い付きのような意見なので、恥ずかしいのですが」などなど。言い訳言葉には事欠きません。
言い訳は「自己防衛」のためですが、それを言ったからといって、どうこうなるわけではありません。自信を持って発表に望むべきです。そして、ずばり、本題に入るほうが、すっきりして好印象を持ってもらえます。
2)発表の途中段階での話術
10分間くらいなら、集中して聞いてもらえるとは思いますが、それでも、次のような工夫をすることで、聴き手の注意を持続させることができます。ことです。
一つは、随所でビジュアル表現を呈示することです。
音声にだけ目を向けていると、どうしても注意の集中が途切れます。そん時、変化をつけると、再び、注意が復活します。
一番効果的な変化が、ビジュアル表現です。ポスターやスライドなどで、大きく描いたビジュアル表現をみせると、聴覚から視覚へと処理モードの変化が起こりますから、再び、注意を向けてもらえます。
ただし、あまりたくさんの情報を一枚のビジュアルには入れないようにします。説明のポイントが、わからなくなるからです。
また、説明しながら、少しずつみせていくのが効果的です。一度にすべてをみせてしまうと、話よりも、ビジュアルのほうに注意が奪われてしまうことがあるからです。
話の内容については、体験談を入れると、発表が具体的なものになり、聴き手が話を自分に引き付けて考えてくれます。
データや証拠を示すことも、とりわけ、意見発表のときは、極めて大事です。
もう一つの工夫としては、難しい話なら、たとえや具体例を入れるといったやや高等な工夫があります。これがなぜ高等かと言うと、話の内容を相当に詳しく知らなければ、適切なたとえをみつけるのが難しいからです。
学習力トレーニング「体験談とたとえを探してみる」******
「高校生と携帯電話」で使えそうな体験談、たとえを考えみてください。*2
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3)発表の終了段階での話術
制限時間2分前あたりから終了を意識します。時間通りに終えることが絶対だからです。
まず、制限時間内に終れるかどうかの見通しをつけます。
延びそうなときのことを想定して、「まとめ」の資料を作っておきます。時間が残ったら、これを読みながら時間を調整します。時間がないようなら、それを呈示するだけにします。質疑応答中も、それを呈示したままにします。
制限時間がきたら、終わりをはっきりと宣言します。
「ではこれで発表を終ります」の一言でよいのですが、ここでも、言い訳が入ってしまうことがあります。「まとまりのない話ですみません」「わかりにくかったかも」などなど。日本人は本当に言い訳が好きなようです。「過ぎたるは猶及ばざるごとし」です。
8.3 発表をする
人が目の前にいると
人間は、人と人との間と書きます。私達は、人は人との関係の中で生かされています。これを間人(かんじん)性という人もいます。
ですから、対人関係が大切になってきます。人から嫌われるより好かれたいとの思いを誰しもが持ちます。
その思いが強すぎるためでしょうか。人が目の前にいると、どうしても緊張してあがり気味になってしまいます。
そんな中で、自分の思いを表現しなければならないのが、発表なのです。
ですから、発表を効果的にものにするには、発表内容そのものに工夫を凝らすだけではなく、発表の仕方のほうにも、かなりの力を注がなければなりません。これを身につけるには、どんなところに注意すればよいかについての知識を持つことと、折に触れて実践をしてみること、さらに、人の発表から学ぶことです。
以下、話し方、視線、表情、ジェスチャーの4つについて、それぞれのポイントを考えてみることにします。
話し方を工夫する
声を使ったコミュニケーションは、誰もがそれなりにできます。それだけに、とりたてて工夫をしなくともなんとかなるだろうと思いがちです。
ところが、あらためて人前であいさつをしたり、発表したりすると、そのことがとんでもない思い違いであることに気づかされます。
文章技法と同じで、話し方技法もあるのです。
まず、基本になるのは、声の使い方です。
声には、その音波としての物理的な特性に対応して、振幅には、大きさ、振動数には高低、波形には音色の3つ特性がありますので、自分の声の特性をまず知ることです。とはいっても、声の特性、とりわけ、高低と音色は、遺伝的なところがありますから、変えることのできる範囲は限られています。
発表で一番注意しなければならないのは、声の大きさです。
これは、かなり自分でコントロールできますので、会場の大きさや聴衆の数によって調整することになります。だいたい、普段の声の大きさの1.5倍くらいの感じです。不安なときは、聴衆の後部にいる人に聞こえるかどうかを聞いてみるとよいと思います。
次は、話し方です。話術と言われることもあるくらいに、大技、小技とりまぜて多彩な技術が、それぞれの状況に応じてあります。
ここでは、話を具体的にするために、「携帯電話と高校生」というテーマで、10分程度の教室での発表を想定して、その開始から終了までの時間の流れに沿って、有効な話術のうちから大技だけを紹介してみます。
1)発表の始まり段階での話術
発表タイトルと自分の名前を言った後、まず、発表の大枠と発表の流れをはっきりと言います。
これによって、全体のイメージがわきますし、聞き手は、それについて持っている知識を呼び起こし、発表内容を取り込む網を頭の中に用意します。2.2「記憶されている知識の関係づけをする」を参照してください。
場合によっては、結論を先に言ってしまうこともありえます。
これは、かなり思い切ったやり方ですが、それぞれの意見をぶつけ合うような場なら、有効です。発表の冒頭から緊張感を持って聞いてもらえます。
学習力トレーニング「発表の冒頭の一言を工夫する」****¥
「携帯電話と高校生」という発表での冒頭での一言は、あなたならどうしますか。*1
************
発表の冒頭でやってはいけないことは、言い訳です。
「充分な時間がなかったので」「あがっているので」「思い付きのような意見なので、恥ずかしいのですが」などなど。言い訳言葉には事欠きません。
言い訳は「自己防衛」のためですが、それを言ったからといって、どうこうなるわけではありません。自信を持って発表に望むべきです。そして、ずばり、本題に入るほうが、すっきりして好印象を持ってもらえます。
2)発表の途中段階での話術
10分間くらいなら、集中して聞いてもらえるとは思いますが、それでも、次のような工夫をすることで、聴き手の注意を持続させることができます。ことです。
一つは、随所でビジュアル表現を呈示することです。
音声にだけ目を向けていると、どうしても注意の集中が途切れます。そん時、変化をつけると、再び、注意が復活します。
一番効果的な変化が、ビジュアル表現です。ポスターやスライドなどで、大きく描いたビジュアル表現をみせると、聴覚から視覚へと処理モードの変化が起こりますから、再び、注意を向けてもらえます。
ただし、あまりたくさんの情報を一枚のビジュアルには入れないようにします。説明のポイントが、わからなくなるからです。
また、説明しながら、少しずつみせていくのが効果的です。一度にすべてをみせてしまうと、話よりも、ビジュアルのほうに注意が奪われてしまうことがあるからです。
話の内容については、体験談を入れると、発表が具体的なものになり、聴き手が話を自分に引き付けて考えてくれます。
データや証拠を示すことも、とりわけ、意見発表のときは、極めて大事です。
もう一つの工夫としては、難しい話なら、たとえや具体例を入れるといったやや高等な工夫があります。これがなぜ高等かと言うと、話の内容を相当に詳しく知らなければ、適切なたとえをみつけるのが難しいからです。
学習力トレーニング「体験談とたとえを探してみる」******
「高校生と携帯電話」で使えそうな体験談、たとえを考えみてください。*2
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3)発表の終了段階での話術
制限時間2分前あたりから終了を意識します。時間通りに終えることが絶対だからです。
まず、制限時間内に終れるかどうかの見通しをつけます。
延びそうなときのことを想定して、「まとめ」の資料を作っておきます。時間が残ったら、これを読みながら時間を調整します。時間がないようなら、それを呈示するだけにします。質疑応答中も、それを呈示したままにします。
制限時間がきたら、終わりをはっきりと宣言します。
「ではこれで発表を終ります」の一言でよいのですが、ここでも、言い訳が入ってしまうことがあります。「まとまりのない話ですみません」「わかりにくかったかも」などなど。日本人は本当に言い訳が好きなようです。「過ぎたるは猶及ばざるごとし」です。