屋久島といえば,なんといっても白谷雲水峡である。平成3年と,25年と今年で3度目になる。白谷雲水峡の魅力は,うっそうとした森の下を流れる白谷川が身近にあるところだろうか。水の流れる音を耳にしながら山を登って行くと,不思議と心が落ち着く。25年に「今度来るときは,弥生杉を見に行こう」と心に決めていた。弥生杉だけを見るのであれば1時間半もあれば十分なので,その前に二代大杉,三本足杉,三本槍杉,奉行杉のある地点まで行くことにした。
30分ほど歩いただろうか,二代大杉の地点で12時を少し過ぎていたので,偉大な杉を見上げながらおにぎりを食べる。屋久島に行く前日,妻に「明日,屋久島で山に行くからおにぎりを作ってよ」というと「あんた,仕事じゃないのね」と訳の分からない返答で,おにぎりの話は消えてしまった。人は何とかして,労力を惜しもうとするものである。
白谷雲水峡に来る人の多くが苔むす森を目指していて,その多くが二代大杉の前を通るルートではなく,横川歩道を歩くルートで行く。その方が時間がかからない。そのために,さつき吊り橋を通り過ぎた辺りから人の姿はまったくなく,動くものといえば,苔を食べている鹿だけである。光を通さぬ山の中に一人だけというのは,実際,少々心細いものである。
ところが,おにぎりを食べ終わったと,男性2人と女性1人のグループが,二代大杉に到着した。グループの1人と簡単な会話を交わした後,三本槍杉に向かった。地図には三本足杉まで500メートルと記してあった。平地の500メートルなら,難なくあるける距離であるが,,山道の上り下りは,なかなか骨が折れる。20分ぐらい歩いただろうか,どうも道らしい道がない。登山道を示す赤いリボンも見当たらない。
道に迷ったかも知れない思い,来た道を引き返すと,先ほどのグループの1人が「三本足杉ありましたねー」と声をかけてきた。なんと,下ばかり見て歩いていたので,看板と三本足杉を見落としていたのである。
数日前に見たテレビで,登山の達人が「登山をするときは,5歩歩いたら前をむくことが大切です」と話していたが,そのとおりである。下ばかり見て歩くと,周りが見えなくなる。テレビを見たときは「まさか下ばかり見て歩く登山者はいないだろう」と思ったが,そのまさかが自分になってしまった。
思ったより時間がかかったので,三本槍杉,奉行杉を諦めて,紀元杉を見て帰ることにルートを変更した。弥生杉の前に来て初めて分かったのですが,弥生杉を正面から見ることはできません。「正面から見ると,杉の機嫌を損ねてしまうからです。」というのはジョークです。 たまたま居合わせたガイドさんによると,「以前は正面から見られるようにしていたのですが,木をナイフで傷をつけた人がいるんです。それから(コースを変えたので),正面から見られなくなりました」とのこと。1人の心ない登山者が多くの方に迷惑をかける。残念なことです。
弥生杉の見物コースは約1時間で,道もとてもきれいに整備されています。「ここまで整備していいいのだろうか」と思うぐらいです。「弥生杉は,ハイキング気分でもOK!」なんて書くと怒れるでしょうね。山の天気は変わりやすいだ。そんな軽装で来られては……とか。
名のある 屋久杉はどれもこれも雄大です。縄文杉は,さらに雄大なんだろうか?体力のある内に見に行きたいと思う。