この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上 (100周年書き下ろし) | |
クリエーター情報なし | |
講談社 |
なんと痛い、厳しい作品名でしょう111
主人公カワバタは、雑誌記者だが、癌を煩っていて、限りある命を生きている。妻ヒロミは、学者であり、息子ユキヒコが夭折したころから。夫婦関係はギクシャクしている。下巻でヒロミが尊敬する教授と愛人関係にあることを知る。殺伐とした心象風景を生きる主人公。
大物政治家を失脚に追い込む記事を取材しながら、刺客に狙われたり、女とのただれた関係に沈潜するカワバタ。
前半は、定型的、ステレオタイプの内容で、しらけるところがあり、薄っぺらで、読むのを止めようと思ったくらい。
「努力した人が報われない社会はおかしい。」とばかりに、イチローや、ビルゲイツを非難する。富めるものはさらに富み、貧しい者はさらに貧しい、、、。」と。
「ルポ、貧民大国アメリカ」岩波新書、などを、引用している。
堀江貴文や、村上世彰を、あげつらい、、、、、、、、とんでもない的外れとも感じられる批評を展開。
ところが、どっこい、下巻の後半過ぎから、また、180度まったく逆の展開がくりひろげられる。
あれは、布石だったんだ。
下巻の300ページからが真骨頂と見た。
「僕や君たちを損なっているものは一体何か?その正体を今こそ見極めるべきだ。過去から未来へと旅する旅人などでは決してない。過去などどこにもなく、未来などどこにもない。与えられたのは、今、今このときだけだ。過去から未来への連続と生きながらえる何物かの一部だと感じた瞬間に自分自身を見失う。夢や希望、絶望や諦め、期待や不安といったガラクタが混ざり込み、僕たちを翻弄してしまう。
あなたはあなた自身をひたすら見よ。あなた自身を常に見失わず、あなた以外のありとあらゆる存在に対して身構え、なすべきことをなせ。
あなた自身があなたという必然の唯一の根拠なのだ。いまこの瞬間に自らが欲することをなせ。
歴史の中に僕たちもうどこにもいないのだ。過去の中にも。
時間に欺かれてはならない。時間に身を委ねたり、時間を基軸として計画を練ったりしてはならない。
影も形もない希望や取り返しのつかない事柄へも後悔や懺悔の虜となりはて、偽りの神の信徒となるほかに生きる術を失ってしまうのだ。
この胸に突き刺さる時間という長く鋭い矢、偽りの神の名が刻まれた矢をいまこそこの胸から引き抜かなければならない。その矢を抜くことで、僕たちは初めてこの胸に宿る真実の誇りを取り戻すことができるのだから、、、、、、、、、、、。」
本の題名の由来が明らかになる。
そして、とっても未来への展望が開かれてくる主人公カワバタとなりエンディングとなります。