弁護人: 「あなたのその顔の傷は、車の中でレイプされた時にできた傷なんですか?」
被害者: 「そうです」
弁護人: 「レイプが始まってから何分後くらいに、どのような状況でできた傷だと記憶していますか?」
被害者: 「記憶にありません」
弁護人: 「顔に傷ができたのに、車のシートにはどこにも血液が付着していませんが、この点は変だと思いませんか?」
被害者: 「わかりません」
弁護人: 「あなたはなぜ途中で逃げ出さなかったのですか?」
被害者: 「全身の力が抜けて抵抗する気力もありませんでした」
弁護人: 「でも、あなたは走って交番に駆んだんでしょう。それだけ元気が残っているのは不自然じゃありませんか?」
被害者: 「その時は無我夢中で・・・」
弁護人: 「その時に不注意で転んだ記憶はないですか?」
被害者: 「覚えていません」
弁護人: 「転ばなかった記憶もないということですね。それで、警察官の前で事実を大げさに表現した記憶はありませんか?」
被害者: 「ありません」
弁護人: 「事実をありのままに報告したのですか?」
被害者: 「はい」
弁護人: 「それでは、その時に警察官に顔の傷について自分から報告していないのはなぜですか?」
被害者: 「気が動転して・・・ わからなかったので・・・」
弁護人: 「わからない程度の痛みだったわけですね。それで、あなたは警察官に顔の傷を指摘されて、何と答えましたか?」
被害者: 「車の中で乱暴されている時にできた傷だと言いました」
弁護人: 「あなたは先ほど、その点は記憶にないと言ったでしょう。なぜ矛盾したことを言うのですか?」
被害者: 「・・・・・」
弁護人: 「供述の変遷はあなたに不利になることをわかっているのですか?」
被害者: 「・・・・・」
弁護人: 「あなたは交番に駆け込む時に不注意で転んだにもかかわらず、嘘をついているのではありませんか?」
被害者: 「・・・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
裁判実務では、被害者の体の傷がいつ生じたのか、事実認定において厳しい対立が生じる。そして、黒を白と言いくるめる敏腕弁護士は、あの手この手でこの傷の発生時期を突っ込んで質問する。もしも傷がレイプの最中に生じたのであれば、最高刑は無期懲役となるのに対し(刑法181条2項)、傷がレイプの後に生じたならば、最高刑は懲役20年に下がるからである(刑法177条)。弁護人の至上命題は、何としても重い犯罪の成立を阻止することである。刑法の条文、起訴状による公訴事実、証拠物や証言による事実認定という思考方法を採る限り、この基本のところは動かない。そして、性犯罪被害者の保護の要請も、この構造を壊さない限りでのみ図ることが許されてきた。
裁判員制度の導入によって、法曹界が最も恐れているのは、この刑事裁判の構造自体が壊されることである。性犯罪においては、被害者のプライバシーや名誉に配慮するという理由で裁判員の参加を問題視する意見が目立つものの、法曹界の本音のところには、被告人の弁護がしにくくなるという現実がある。上のような被害者への厳しい証人尋問は、体の傷を証拠物と捉え、起訴状記載の公訴事実の有無を確定するための当然の質問であるという大前提のもとにおいて、これまでは広く認められてきた。しかしながら、その前提が共有されていない裁判員が法廷に入ってくると、弁護人はこのような質問が非常にしにくくなり、今までのようにはいかなくなる。刑事裁判の構造を破壊しないために、これまでどれだけの被害者の心が裁判で破壊されてきたのか。この点を直視しなければ、性犯罪被害と裁判員制度の問題の核心は語れない。
被害者: 「そうです」
弁護人: 「レイプが始まってから何分後くらいに、どのような状況でできた傷だと記憶していますか?」
被害者: 「記憶にありません」
弁護人: 「顔に傷ができたのに、車のシートにはどこにも血液が付着していませんが、この点は変だと思いませんか?」
被害者: 「わかりません」
弁護人: 「あなたはなぜ途中で逃げ出さなかったのですか?」
被害者: 「全身の力が抜けて抵抗する気力もありませんでした」
弁護人: 「でも、あなたは走って交番に駆んだんでしょう。それだけ元気が残っているのは不自然じゃありませんか?」
被害者: 「その時は無我夢中で・・・」
弁護人: 「その時に不注意で転んだ記憶はないですか?」
被害者: 「覚えていません」
弁護人: 「転ばなかった記憶もないということですね。それで、警察官の前で事実を大げさに表現した記憶はありませんか?」
被害者: 「ありません」
弁護人: 「事実をありのままに報告したのですか?」
被害者: 「はい」
弁護人: 「それでは、その時に警察官に顔の傷について自分から報告していないのはなぜですか?」
被害者: 「気が動転して・・・ わからなかったので・・・」
弁護人: 「わからない程度の痛みだったわけですね。それで、あなたは警察官に顔の傷を指摘されて、何と答えましたか?」
被害者: 「車の中で乱暴されている時にできた傷だと言いました」
弁護人: 「あなたは先ほど、その点は記憶にないと言ったでしょう。なぜ矛盾したことを言うのですか?」
被害者: 「・・・・・」
弁護人: 「供述の変遷はあなたに不利になることをわかっているのですか?」
被害者: 「・・・・・」
弁護人: 「あなたは交番に駆け込む時に不注意で転んだにもかかわらず、嘘をついているのではありませんか?」
被害者: 「・・・・・」
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裁判実務では、被害者の体の傷がいつ生じたのか、事実認定において厳しい対立が生じる。そして、黒を白と言いくるめる敏腕弁護士は、あの手この手でこの傷の発生時期を突っ込んで質問する。もしも傷がレイプの最中に生じたのであれば、最高刑は無期懲役となるのに対し(刑法181条2項)、傷がレイプの後に生じたならば、最高刑は懲役20年に下がるからである(刑法177条)。弁護人の至上命題は、何としても重い犯罪の成立を阻止することである。刑法の条文、起訴状による公訴事実、証拠物や証言による事実認定という思考方法を採る限り、この基本のところは動かない。そして、性犯罪被害者の保護の要請も、この構造を壊さない限りでのみ図ることが許されてきた。
裁判員制度の導入によって、法曹界が最も恐れているのは、この刑事裁判の構造自体が壊されることである。性犯罪においては、被害者のプライバシーや名誉に配慮するという理由で裁判員の参加を問題視する意見が目立つものの、法曹界の本音のところには、被告人の弁護がしにくくなるという現実がある。上のような被害者への厳しい証人尋問は、体の傷を証拠物と捉え、起訴状記載の公訴事実の有無を確定するための当然の質問であるという大前提のもとにおいて、これまでは広く認められてきた。しかしながら、その前提が共有されていない裁判員が法廷に入ってくると、弁護人はこのような質問が非常にしにくくなり、今までのようにはいかなくなる。刑事裁判の構造を破壊しないために、これまでどれだけの被害者の心が裁判で破壊されてきたのか。この点を直視しなければ、性犯罪被害と裁判員制度の問題の核心は語れない。