犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

養老静江著 『ひとりでは生きられない』

2010-05-14 00:05:02 | 読書感想文
p.177~

 33歳の若さで病に倒れた主人の言葉がいまも蘇ります。私のもとを永遠に去ったのは昭和17年11月のことですから、あれからかれこれ50年の歳月が流れたことになります。「君はわがままな人間だから、なかなか死ぬことはできないよ」という『予言』はまさに的中しました。私は94歳になりましたが、まさに『業』なのでしょう。

 先日も、ある新聞社が「こころの宝物は?」と取材に参りましたので、「宝物は、死んじゃった夫への思いなのよ」とお答えしてお若い記者の方をびっくりさせてしまいました。なんといっても、半世紀も前に遠くにいってしまった人への思いですから、いまの方たちが、まさかそんなことと疑問を抱かれても無理はありません。

 私はいまでも、毎朝、目が覚めると心のなかで「パパ、おはよう」と元気よく挨拶します。90を過ぎたおばあちゃんがってお笑いになるかもしれませんが、本当に、もう50年来の習慣なんです。もっとも、主人は33歳のままですから、こんなおばあちゃんになってしまった私の朝のあいさつをどう思っていることやら。


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 この本の題名を見て、「人はお互いに助け合って生きるべきである」という凡庸な教訓を予想していましたので、見事に騙されたという感じです。さすが養老孟司氏の母親だと思いました。上記は平成5年に書かれた文章で、養老静江氏は2年後に96歳で亡くなっています。生とは何か、死とは何か、わからないことばかりです。