※鴨長明(1155頃-1216)『発心集』(1214頃)。 ※現代語訳は角川ソフィア文庫を参照。
「発心集 第五」「四 亡妻の現身(ゲンシン)、夫の家に帰り来たる事」
(1)
ある男の妻が子供を産んだ後、重い病気になった。臨終の時、髪が暑苦しく乱れていたので、男はそばにあった反古(ホゴ)を破り取って元結(モトユイ)にし、妻の髪を結んでやった。息を引き取った後、男は、妻を荼毘(ダビ)に付した。
(2)
男は亡妻を忘れられず、「再び会いたい」と毎日、泣いて暮らした。するとある夜更けに亡妻が、寝所にやってきた。「あなたの思いの深さから現身(ウツシミ)でやって来たのです」と亡妻が言った。彼女は幽霊でない。現実の彼女だった。二人は交情した。
(3)
朝まだ暗いうちに、亡妻は帰っていった。すっかり夜が明けて、男は、自分は夢を見たのではないかと思った。ところが亡妻が帰った後を見ると、そこに、臨終の時、妻の髪を結ってやった反古の切れ端の元結が落ちていた。切れ残りの反古と継ぎ合わせてみると、わずかの狂いもない。その元結は、荼毘に付した時に、燃えてしまったはずのものだった。
《感想1》生者(男)の現実において、①亡妻が死に、②男が妻の臨終前、妻の髪を元結で結んだ。
《感想2》亡妻が現身で現れた時、死者の現実と生者の現実が交錯した。この交錯は、生者の現実において普通、ありえないことだ。
《感想3》亡妻が帰った時、死者の現実と生者の現実の交錯は終了し、両現実は別々のものとなった。
《感想4》ところが生者(男)の現実の内に、死者(亡妻)の現実に属する(生者の現実では燃えて消滅した)元結が残っていた。生者の現実の内に、死者の現実(元結)が入り込んだまま残っていた。死者の現実と生者の現実の交錯が証明された。
《感想4-2》男は、生者の現実の内で、夢を見たのではない。男は生者の現実の内に、死者の現実が入り込み交錯する経験をしたのだ。
《感想4-3》元結は《生者の現実においても、死者の現実においても、存在可能な》物質からできている。
「発心集 第五」「四 亡妻の現身(ゲンシン)、夫の家に帰り来たる事」
(1)
ある男の妻が子供を産んだ後、重い病気になった。臨終の時、髪が暑苦しく乱れていたので、男はそばにあった反古(ホゴ)を破り取って元結(モトユイ)にし、妻の髪を結んでやった。息を引き取った後、男は、妻を荼毘(ダビ)に付した。
(2)
男は亡妻を忘れられず、「再び会いたい」と毎日、泣いて暮らした。するとある夜更けに亡妻が、寝所にやってきた。「あなたの思いの深さから現身(ウツシミ)でやって来たのです」と亡妻が言った。彼女は幽霊でない。現実の彼女だった。二人は交情した。
(3)
朝まだ暗いうちに、亡妻は帰っていった。すっかり夜が明けて、男は、自分は夢を見たのではないかと思った。ところが亡妻が帰った後を見ると、そこに、臨終の時、妻の髪を結ってやった反古の切れ端の元結が落ちていた。切れ残りの反古と継ぎ合わせてみると、わずかの狂いもない。その元結は、荼毘に付した時に、燃えてしまったはずのものだった。
《感想1》生者(男)の現実において、①亡妻が死に、②男が妻の臨終前、妻の髪を元結で結んだ。
《感想2》亡妻が現身で現れた時、死者の現実と生者の現実が交錯した。この交錯は、生者の現実において普通、ありえないことだ。
《感想3》亡妻が帰った時、死者の現実と生者の現実の交錯は終了し、両現実は別々のものとなった。
《感想4》ところが生者(男)の現実の内に、死者(亡妻)の現実に属する(生者の現実では燃えて消滅した)元結が残っていた。生者の現実の内に、死者の現実(元結)が入り込んだまま残っていた。死者の現実と生者の現実の交錯が証明された。
《感想4-2》男は、生者の現実の内で、夢を見たのではない。男は生者の現実の内に、死者の現実が入り込み交錯する経験をしたのだ。
《感想4-3》元結は《生者の現実においても、死者の現実においても、存在可能な》物質からできている。