宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『4TEEN(フォーティーン)』石田衣良(イシダイラ)(1960生)、2003年、新潮文庫

2012-09-15 20:30:08 | Weblog
   (1) びっくりプレゼント
 A 中1が終わった春休み。ぼく=テツロー、ジュン(=内藤潤、一番、成績がよい)、ダイ(=小野大輔、フレンチフライの大、よく食べる、身長180cm)が、ナオトの見舞いに行く。
 男子の話題はオナニー一色。7回やったとダイ。ぼくは2回がやっと。ジュンの外人巨乳マニアは有名。ナオトへの見舞いの品は、エロ雑誌。
 ナオトは身体が普通の人の何倍もの早さで年を取って行く病気。早老症。
 B 図書館で調べると、早老症の生存可能年齢は、およそ30歳。
 C ナオトの誕生日のプレゼントは、趣味のコギャルの出血大サービス。1万5千円×3人=4万5千円を準備する。渋谷で「援助」の女の子を捜す。リカリンが援助をOKする。手付け5000円を渡し、携帯ナンバーを教えられる。
 D ナオトの家は金持ちなので、ナオトの病室は、シャワー付きの個室。病室にリカリンが来る。営業スマイル。ナオトとリカリンを残し、3人が病室を去る。
 ダイとジュンが盗聴用に携帯をおいてくる。
 E 「いろいろ援助したけど、こんなヘンなの初めてだよ。けっこう、いいとこあるじゃん。」とリカリン。「ごめん。ぜんぜん立たないんだ。」とナオト。
 「リカさんの胸に頭をのせていいですか?」とナオト。そして彼の泣き声。
 F 終わって、リカさんにお金を渡す。彼女は、いつものつまらなそうな表情だった。

 《評者の感想》:一方で、中2の思春期の危うさ。他方で、若者の純朴さ。美化することはできない。暗く残酷になりうるから。しかし、美しい善意にもなりうる。
   
   (2) 月の草
 A 中2の1学期、立原ルミナが不登校になる。
 B 中学生の窮屈さ。ひたすら主君の命に従う。
 C 立原ルミナの住むマンションに、ぼく(=北川)が学校のプリントなどをもって行く。1回目、2回目はポストに入れるが、3回目はポストのふたが開かないので玄関まで行く。しかし「やっぱり、顔を合わせられない。」「でもまた来てね!」とルミナがインターホンで言う。
 D 「北川くん、あがってきて!」とルミナ。玄関から中に入ると、テーブルにケーキのご馳走。しかしルミナは部屋に鍵をかけ出てこない。「ちょっと話してくれてもいいでしょう」とケータイでルミナ。
 「ルミナって名前、嫌いだ!」「自分も嫌いだ!」「消えてしまいたい!」とルミナ。
 「話し相手になってくれる?」とルミナ。「分かった」とぼく。
 E 2週間後、ルミナが姿を現す。体重が半分くらい。「ダイエットしてる」とのこと。「次は外に散歩に行かない?」とぼく。
 F ルミナはぼくに好意を持っているよう。
 F-2 「きのう、目標の25キロになった!」とルミナ。二人、出かける。「部屋から出るの1ヵ月ぶり」とルミナ。
 中学生なんて月みたい。光っているのは大人だけ。おこぼれをもらっているだけ。
 「ねえ、北川くん、私を変えてくれる?」「壊して変えちゃっていいよ!」とルミナ。キスする。そして草の上で、あれこれ試したけど、うまくいかなかった。
 G ルミナのリバウンド。1学期末、ルミナは学校にもどる。ルミナは50キロになる。
 G-2 「立原さんとぼくは、つきあってるんだ」とぼくが、ナオト、ジュン、ダイの3人に言う。
 H ルミナは41キロ、プラス・マイナス16キロ。でも、ぼくはルミナが好きだ。

 《評者の感想》:拒食症と過食症は、同一の原因。「自分も嫌いだ!」「消えてしまいたい!」とルミナは若い。「ルミナは41キロ、プラス・マイナス16キロ。でも、ぼくはルミナが好きだ。」とテツローがルミナを救う。こういうことが、あればいいが、一種のおとぎ話である。

   (3) 飛ぶ少年
 A 中学2年の5月。関本譲(ユズル)は問題児。校則違反のパーマ。天然パーマだと言われ、やる気のない担任は、それ以上確認しない。
 ユズルは放送部。ヒップホップが好き。「芸能人になりたい」と言う。「日本人を感動させたり笑わせたりしたい」、「日本の中心はテレビの前にある」とユズル。
 B ユズルの校内放送は“ラップ特集”。無神経で「寒い」内容。将来に不安を持つ中学生の神経をさかなで。
 C ユズルの次の企画は、放課後の“大食いバトル・ロワイヤル”。20分で何枚、トーストを食べるかの戦い。ダイは25枚、ところがユズルは4枚。「中途半端なイベントだ」とぼく(北川)がユズルを批判。
 D 5月の終わり、ユズルは“陰陽師(オンミョウジ)”のイベントを、放課後に企画。ユズルは黒いマントに、黒い革手袋。「ユズルの念力で、スプーンを曲げる」と言う。10人のうち3人のスプーンが曲がる。
 しかしスプーンくらいは、普通にやっても曲がる。ユズルへの非難。
 D-2 ユズルが成り行き上、「空だって飛べる!」と言ってしまう。すると「飛べ!飛ーべ!」の大合唱。
 ユズルが4階から飛び降りる。
 幸い緑の植え込みの中に落ち、ユズルは両足を骨折するが、命は助かる。
 E いじめというより、ユズルは本当に、「空が飛べる」と思ったかもしれない。
 E-2 ぼくはユズルのお見舞いに行く。
 「全部、面倒くさく、全部どうでもいいと思った。」「死ぬことはないだろうと思った。」とユズルが言う。
 ユズルが幼稚園の時、父親は離婚し家を出て行った。「死なれた気持ちだ」とユズル。
 空を飛ぶなんて、中学生には、とても簡単なことなのだ。

 《評者の感想》:ユズルの心の不安定。彼は自分を安定させたい。「芸能人」という目標が彼を支える。他方、「全部、面倒くさく、全部どうでもいい。」とユズル。いざとなれば、彼は、何でもやる。確かに、空を飛ぶくらい、とても簡単なことかもしれない。

   (4) 14歳の情事
 A 「皮肉な冗談」と「クールな現実観察」のジュンが、恋に落ちる。
 A-2 ところがジュンの恋人は人妻。玲美さん。不倫専門サイト(月1500円でメールが送られてくる)で知り合う。
 「まだ、手も握っていない」とジュン。「玲美さんの話を聞きに行くだけ」とのこと。みんな、自分を不安に思ってる。」「欲求不満で、誰とでも寝る人妻なんていない」とジュン。
 B 優しいダンナなのに週に2回くらい、玲美さんを殴る。他の者に話が出来ないので、彼女は、ジュンに話をする。「たくさん、悲しい話を聞いた」という。
 C ジュンは「玲美さんのことが忘れられない」と泣く。
 C-2 ジュンはわざと、ダンナがいる時間に電話&メール。ダンナにばれる。玲美さんは、なぐられ、左目が血で真っ赤。
 D ジュンが「部屋に来い!」とダンナから言われる。テツローが立会人で、一緒に行く。ダンナは一流商社の家庭暴力男。
 ダンナがジュンを何度も殴る。ジュンは手を出さない。
 あまりのひどさに、玲美さんが警報ブザーを鳴らす。
 「別れる」と玲美さん。「怖くて別れられなかった。」「7年経って、今、わかった。」と言う。
 E その後、弁護士をたて、玲美さんはダンナと離婚。「二度とダンナとは会わない」とのこと。「ジュンは可愛いボーイフレンドだが男は感じない」と玲美さん。

 《評者の感想》:早熟な中学生。現実にはありえない。もし不倫専門サイトに、女が応じて、男が彼女の部屋までいったら、普通、襲うだろう。設定が、非現実的。DVの問題、つまり玲美さんとダンナの問題は、玲美さんとジュンの問題とは、全く別である。両者を結びつけるのが非現実的!

   (5) 大華火(オオハナビ)の夜に
 A 築地国立がんセンターの入院患者が逃亡したとの尋ね人のポスターが貼ってある。赤坂一真、62歳。
 B テツロー、ジュン、ダイ、ナオトの4人が、大華火がよく見える秘密の場所へ、準備のため向かう。ある会社の敷地内の廃工場。ところが、なんと、その3階に人がいた。末期がん患者の赤坂さんだった。
 B-2 「息子たちはののしりあうだけ、治療は暴力のようなもの。だから病院に帰りたくないので、通報しないでほしい。」「残り少ない自由を、一人で過ごしたい。」「通報しないでくれれば、一人1万円で、4万円払う。」と赤坂さん。
 B-3「大華火の日までは、通報しない」とのジュンの提案で、ぼくたち4人は妥協する。赤坂さんには「通報しない」と言い、アルバイト料ということで、4万円を受け取る。
 C 次の日、ぼくたちが、買い込んだ食料やお菓子をガツガツ食べる。それを、赤坂さんが、楽しそうに見ていた。「何も食べてないから、体がフワフワする。空に浮かぶ気がする。」と赤坂さん。また「ほしいものは何もなくなってしまった。」と言う。ナオトが「もっと生きてください」と泣く。
 D 大華火祭の日、「あと数日という気がする」と赤坂さん。みんなで華火を見る。
 D-2 華火が終わって、ぼくたちが帰るとき、「君たちに会えて感謝している。」「静かに一人で終わりにできる。」「豪勢な華火も見た。」と赤坂さん。4人とも、みんな泣いた。
 D-3 ジュンが、秘かに、「明日の朝、救急車を呼ぶ」と赤坂さんに言う。
 E 翌日、救急車が行ったとき、赤坂さんは廃工場から、いなくなっていた。
 E-2 2日後、300m離れた公園で、赤坂さんの遺体が発見される。衰弱した体で赤坂さんは、会社にも、ぼくらにも迷惑がかからないように、移動して死んだ。

 《評者の感想》:末期がんの62歳の赤坂さんが、一方で、病院のガン治療法批判、他方で、財産相続にのみ関心を持つ息子たちへの批判。実力行使で、病院から抜け出す。「静かに一人で終わりにできる。」「豪勢な華火も見た。」との赤坂さんの気持ちが理解できる。しかし、そこまでの体力が末期がんの患者にあるのかどうか疑問。一種のおとぎ話かな?

   (6) ぼくたちがセックスについて話すこと
 A どのグループにも属さない森本一哉(カズヤ)。「オカマみたいだ」とダイ。
 B 美女の杉浦和泉が、カズヤに告る。「いっしょに帰らない?」と。ところが「好きな人がいるんだ」とカズヤが断る。
 C イズミの取り巻きの女の子が、カズヤについて悪質なホモがらみの噂を流す。
 C-2 ホモの噂の否定のためと、放課後、みんなの前で、イズミが、「キスしていいよ!」とカズヤを挑発する。
 C-3 カズヤは笑って、「実はぼくはホモなんだ」とカミング・アウトする。
 C-4 「カズヤはすごい勇気があるな」とダイ。
 D カズヤは、「好きなのは男ばかり。ダイが好きだ。」と、ぼくに言う。
 E カズヤは女子生徒のヒーローとなる。イズミとは、付き合わなかったが親友となった。
 E-2 ダイは、カズヤが「ダイを好きだ」と思っていることを、知らない。

 《評者の感想》:カミング・アウトがこういう形で中学生の世界で起こるとは、思えない。カズヤはいじめの格好のターゲットになるだけである。しかし、このストーリーのようであってほしいと思う。

   (7) 空色の自転車
 A 中2の冬、2月、ダイがオヤジさんを殺したとのことで、月島署で取り調べを受ける。長男(ダイ)と次男が酔った父親を家から引きずり出し、冬の深夜、バケツの水をかけ放置。父親は凍死。
 B 父親はアル中で働かない。その日、昼から酒を飲み、母親と子どもたちを殴るける。しかも糞をもらす。兄弟が父親を外に出し、水をかけたという。ダイは不起訴になるが、復学してからテツローたちを避ける。ダイは不良グループに加わる。
 C ぼくたちは、ダイを信じる。彼を不良グループから取り戻す。
 D ダイから電話がくる。父親が荒れていないとき、ダイが「買ってくれ!」と頼んだ空色の自転車が配達されてきたとのこと。父親を思い、ダイは、泣いた。

 《評者の感想》:まとも精神状態になったとき、父親が示した優しい気持ち。息子のダイには救いである。よかった。

   (8) 十五歳への旅
 中2が終わった春休み、新宿中央公園で、テントを張り3日間、遊び歩くという計画。朝、自転車で僕たち4人、出かける。1日目の午後はアダルト・ショップへ。夜はストリップ劇場。テントで寝る。
 2日目、昼寝の後、クラブへ。ダンスをしているユウナとサヤが、声をかけてくる。母親とうまくいかず、ユウナが家出。サヤがつきあう。
 ユウナは妊娠している。「相手なんかわからない」とユウナ。ダイが「父親になってもいい!」と言う。ダイは家族がほしい。「一人は味方がいるんだ!」とユウナ。「母親と話してみる」と彼女が家にもどる。
 3日目、昼、公園で4人が、一人ずつ自分の秘密を告白。その後、自転車で家に帰る。
 「いいやつら、4人がいた!」と後で、各自が思うだろう。

 《評者の感想》:友人に、こういう「いいやつら」がいたら、幸せである。善意の中学2年生の物語。うらやましい!
 著者が、“あとがき”で、少年たちの「生きる力」、「成長する力」を信じると、述べる。著者は43歳、中2の少年たちは14歳だから、著者のスタンスは了解できる。
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