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安部悦生『文化と営利』「第7章」(その2):「経済学的新制度学派」(Cf. 旧制度学派)!「取引コスト経済学」の流れ!「構造的均衡」の流れ!「比較経済制度論」!

2020-08-20 16:34:20 | Weblog
※安部悦生『文化と営利 ―― 比較経営文化論』有斐閣、2019「第Ⅰ部 経営文化の理論的解明」「第7章 合理性モデルと新制度学派」(91-100頁)(その2)

(1)-2 新制度学派モデル(その2):経済学的新制度学派!(91-92頁)
D 「経済学的新制度学派」は、社会学的な新制度学派とは「無縁なところで」発展してきた。
D-2 「旧制度学派」はソースタイン・ヴェブレン(1857-1929)、ジョン・コモンズ(1862-1945)等、20世紀前半に活躍した制度学者だ。
《感想1》制度学派は、経済「法則」が条件として持つ歴史や社会、制度の重要性を強調した。経済世界は、不変でなく、絶えず変化し続ける歴史からの影響によって条件付けられているとした。ヴェブレン『有閑階級の理論』は階級の上下を財力の誇示や見栄の張り合いで示した「有閑階級」の歴史を描いた。ジョン・コモンズはアメリカ労働史研究で業績を残し、ウィスコンシン州でアメリカ最初の失業保険の法制化に貢献した。

D-3 「経済学的新制度学派」は20世紀後半に活躍し、主な提唱者は次の通り。(オ)ロナルド・コース、オリヴァー・ウィリアムスンなどの「取引コスト経済学」の流れ。
《感想2》「取引コスト経済学」とは、あるタスクを行うにあたって、市場での取引コストが高い場合、それを節約するため市場にかわる資源配分システムつまり、企業が必要になるという考え方だ。「取引コストとは例えば、適切な取引相手を見つける、契約を締結する、きちんと履行されているかを監視するなどのコストだ。
《感想2-2》ロナルド・コース(1910-2013)は「企業の性質」に関する研究 (1937) で、《企業の存在が唯一正当化されるのは、取引コストを最小化する手段として便利だからだ》と述べた。また彼は「コースの定理」 (1960) を世界に訴えた。《経済取引や生産の外部性を「内部化」するには政府が税金や補助金を使うしかない》というピグーの理論に対して、コースは《もし機会費用を十分に考慮したら、そんな仕組みは要らない》と論じた。民間の勝者も敗者も、外部性を協議によって自分たちで「内部化」できるとする。
《感想2-2-2》なお「機会費用」とは《ひとつのある行動を選択したことで失われ、その選択肢以外を選んだ場合に得られたであろう利益》のことだ。例えば一時間何もせず過ごした場合と、仕事をして収入を得た場合に、仕事をして得られた収入が機会費用だ。一時間ただ何もせず過ごした場合は、機会費用を失ったことになる。
《感想2-3》オリヴァー・ウィリアムスン(1932-2020)はロナルド・コースの「取引コスト経済学」を継承・発展させた。彼によれば、複雑な環境下の市場取引には取引コスト(取引費用)が発生し、多大な取引コストを回避するため企業は取引先を自社資本に内部化し組織取引という形態へ移行する。逆に内部化コストが取引コストを上回るときには、市場取引という形態が採られる。

D-4 (カ)フィッシャー・ブラック、ケネス・アローなどの「構造的均衡」の流れ。
《感想3》フィッシャー・ブラック(1938-1995)は「ブラック=ショールズ公式」(オプションの理論価格を評価する公式)の発見者であり、また資本資産評価モデル(CAPM、Capital Asset Pricing Model)(市場が均衡状態にあるときの資産の価格を決定するモデル)にもとづく「一般均衡理論」の構築を目指した。
《感想3-2》ケネス・アロー(1921-2017)は一般均衡理論で、1983年にノーベル経済学賞を受賞。
《感想3-2-2》また「アローの不可能性定理」は(一定の前提の下では)「公正さ」を選挙で実現することの不可能性を示した。かくてそれは「社会的決定の合理性と民主制の両立は困難である」、「民主主義は不可能である」ことを証明したと理解(誤解?)された。この理解が正しいかどうかとは別に、この定理は「一般意思」「社会的善」「公共善」「人民の意思」といった主張に疑いを投げかけた。アロー自身は「《大半の制度は常にうまくいかない》と言っている訳ではない。私が証明したのは《全てがうまく行かないことが時にはある》ということだ」と述べる。

D-5 (キ)ダグラス・ノース、青木昌彦、アブナー・グライフなどの「比較経済制度論」。
《感想4》ダグラス・ノース(1920-2013)はロナルド・コース、オリバー・ウィリアムソンと並ぶ新制度派の経済学者。ダグラス・ノース『制度原論』(2005)では「経済変化の本質は何か?制度はどう進化するのか?何が成長と衰退を分けるのか?」を論じる。『なぜ国家は衰退するのか』(ダロン・アセモグル、ジェイムズ A ロビンソン)、『劣化国家』(二-アル・ファーガソン)など、現代世界を読み解くベストセラーの原点。制度論の大家による人類と経済の成長論。
《感想4-2》青木昌彦(1938-2015):専門は比較制度分析。制度論、組織論、経済発展論など多岐にわたる領域で世界的な業績をあげた。なお『青木昌彦の経済学入門:制度論の地平を拡げる』(2014)では、「ひとつの社会を支える『制度』とは何なのか?」「人間社会がゲームだとするならば、その均衡はいかに可能なのか?」を論じる。
《感想4-3》アブナー・グライフ(1955-)アメリカの経済学者で、ダグラス・ノースや青木昌彦らとともに比較歴史制度分析を行っている。『比較歴史制度分析、Institutions and the Path to the Modern Economy』(2009)は11世紀の地中海遠隔地貿易に従事したユダヤ人貿易商が達成していた取引の成功を,ゲーム理論の数理モデルによって明らかにした。

D-6 経済学的新制度学派は、一つの学派というより、いくつかのモデルの「コレクション」と言った方が適切との指摘がある。

(1)-3 以下の論述の概略(92-93頁)
E 「合理性モデル=効率性モデル=適応モデル」の代表として「チャンドラー・モデル」を説明する。その後、それを批判した「社会学的新制度論」に属す「フリーグスタインのモデル」を検討する。
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