調理していて、どうにも困ってしまう野菜というのがある。
困るというのは、何も調理上で不都合が生じるわけではない。むしろ気持ちはうっとりとし、「ほう」などと妙なため息が出てしまう。調理中のおじさん(僕のこと)の目が、次第に少女チックになってくる。
いい歳こいたおじさんが、一人台所でうっとりとなるのだから、やはり困ってしまうのだ。
その野菜とはおくらであります。
包丁で輪切りにすると、切り口がきれいな星形をしている。
しかも、角が少し丸みを帯びた、非常にメルヘンチックな星形をしている。
やばいっす。
まじ、フツーにかわいいっす。
胸キュンっす(これは古いな)。
折しも、季節は夏。さっと湯がいたおくらを輪切りにして、かつぶしとショーユをまぶして食べると、幸せ度数はかなり高い。
外側の濃い緑と、内側の白。対比が鮮やかだ。
うぶ毛があって、最初の舌触りは野趣を感じる。噛むとかりりっとした歯ごたえがあり、噛むたびに夏草を連想させる匂いが鼻腔に昇ってくる。
そこにぬめりも加わってきて、次第に口中は断片とぬめりで混沌としてくる。
ぬめり自体に味はないから、生醤油のきりっと立った塩気と香りが生きてくる。
それはそれは美味い野菜なのだが、問題は食べる前。つまり調理段階でおじさんは困っているのです。
角の丸まった星型の輪切りを眺めていると『星の王子様』なんて想い出してしまう。
(そうだ、一番大切なものは、いつも目に見えないんだっけ)などと、細かい部分まで想い出す。
(あの王子様は、最後は死んでしまうのかな。どうなのかな)
(人の幸せって、案外身近なことにあるのかもな)
すっかりメルヘンになったおじさんは、このあとおくらのかつぶし&ショーユまぶしでビールをぐいぐいっと飲み、そこから急速にいつものおじさんに戻っていくのであった。