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「The 備前―土と炎から生まれる造形美―」 東京国立近代美術館工芸館

東京国立近代美術館工芸館
「The 備前―土と炎から生まれる造形美―」
2019/2/22〜5/6



東京国立近代美術館工芸館で開催中の「The 備前―土と炎から生まれる造形美―」を見てきました。

日本六古窯の1つにも数えられる備前焼は、釉薬を施さず、「土と炎の造形から生まれるシンプル」(解説より)なやきものとして、多くの人々に愛されてきました。

そもそも、中世以降、壺や甕などの生活雑器を生産した備前焼でしたが、桃山時代に入ると、茶の湯のうつわを作るようになりました。

展示のはじまりは、古備前と呼ばれる、桃山から江戸時代にかけての花入や水指でした。やや歪みを伴う「矢筈口耳付水指」は、まさにプリミティブとでも呼べるような、素朴な魅力をたたえていました。また「徳利 銘 トシワスレ」も佳品ではないでしょうか。マーブル模様を描くような、表面の独特な質感にも目を奪われました。


「The 備前―土と炎から生まれる造形美―」展示風景

さて今回の備前展ですが、何も古い時代のやきものだけを紹介しているわけではありません。むしろ古い備前のうつわにインスピレーションを受け、新たに作陶に取り組んだ、近現代の陶芸家にも焦点を当てていました。


「The 備前―土と炎から生まれる造形美―」展示風景

とりわけ面白いのが、今日、備前や周辺に拠点を置いて活動する陶芸家で、古典を踏まえながらも、独自の素材や造形を追求しては、実に多彩な作品を生み出していました。


森陶岳「砂壺」 1970年 東京国立近代美術館

森陶岳の「砂壺」は、あえて低温で焼成することにより、土器のような荒々しさを生み出した作品で、独特のざらりとした感触を見ることが出来ました。備前窯元六姓の流れを汲む家に生まれた森は、備前の様式とは異なった土の質感を追求し、多くの作品を発表してきました。


金重有邦「伊部茶盌」 2014年 グレンバラ美術館

金重有邦は、一貫して茶碗や茶入などの茶陶を中心に制作していて、「伊部茶盌」では、朱色に発色した茶碗の中を、薄くストライプを描くような線が一周していました。2010年からは10年間は、山土を素材に制作を続けていたそうです。


金重晃介 展示風景

より造形として斬新な作品を作るのが金重晃介で、「聖衣」などは、もはやシュールなオブジェと呼べるような姿を見せていて、まさに現代の備前ならではの作品と言えるかもしれません。


伊勢崎淳「角花生」 2008年 岡山県立美術館

「現代備前の要」(解説より)として活動する伊勢崎淳は、様々なジャンルの美術にも関心を寄せていて、「角花生」などは、さも人の体を思わせるような形をしていました。正面には大きなハート型の模様もあり、上下を肩と脚に見立てれば、一種の「トルソ」とも受け取れるかもしれません。


矢部俊一「暁月」(左) 2015年 「月山」(右) 2012年

モダンな造形を得意とする矢部俊一は、備前焼の担い手として「孤高の存在感」(解説より)を示していて、「月山」や「暁月」などでは、エッジの利いた独特な形を見せていました。シャープでかつ、力強い量感もまた魅力的ではないでしょうか。

ほぼ独学で制作を続けるという島村光も異彩を放っていました。ほかの作家とはやや異なり、動物や干支、それに身近な事物などの具象的なモチーフを特徴としていて、どこか物語性を感じさせる作品も目立っていました。かつての江戸時代に隆盛した「備前焼細工物」を、現代の視点で捉え直しているそうです。


島村光「ネズミノカップル」 1983年

「ネズミノカップル」は、2匹のねずみが輪を描いた「ネズミノカップル」もかわいらしい作品で、細い尾っぽをもう一方のネズミが前脚でつかんでいました。


島村光「煙」 2012年

四角い塊を積み上げた「煙」は、まさに煙の立ち昇る姿を象ったもので、抽象的とも受け取れるような造形を見せていました。煙が出るようにも作られていて、実際の香炉として使うことも出来るそうです。煙から煙を立ち上げるとする、発想からして面白いかもしれません。


島村光「泡瓶 十三支・おくれてきたねこ」 2012〜2018年

干支の動物に猫を加えた「泡瓶 十三支・おくれてきたねこ」も魅惑的でした。小型の急須で、動物を象りながらも、時に大胆なデフォルメを施しているのも特徴でした。


「The 備前―土と炎から生まれる造形美―」展示風景

後半の現代の備前焼は撮影も可能でした。もちろん古い時代のやきものにも魅力がありましたが、今を生きる陶芸家による、創意工夫に溢れた、新時代の備前にも強く惹かれるものを感じました。


やきものや工芸ファンのみならず、現代美術ファンにも楽しめる展覧会かもしれません。



5月6日まで開催されています。

「The 備前―土と炎から生まれる造形美―」 東京国立近代美術館工芸館@MOMAT60th
会期:2019年2月22日(金)〜5月6日(月・休)
休館:月曜日。但し3月25日、4月1日、4月29日、5月6日は開館。
時間:10:00~17:00 
 *入館は閉館30分前まで
料金:一般900(600)円、大学生500(350)円、高校生300(200)円。中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *入館当日に限り、本館の「MOMATコレクション」と「イメージコレクター・杉浦非水展」も観覧可。
場所:千代田区北の丸公園1-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩8分。東京メトロ半蔵門線・東西線・都営新宿線九段下駅2番出口より徒歩12分。
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