都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「カッサンドル・ポスター展」 埼玉県立近代美術館
埼玉県立近代美術館
「カッサンドル・ポスター展 グラフィズムの革命」
2/11~3/26

埼玉県立近代美術館で開催中の「カッサンドル・ポスター展 グラフィズムの革命」を見てきました。
ウクライナに生まれ、フランスで活動したグラフィックデザイナーのアドルフ・ムーロン・カッサンドル(1901〜1968)。日本では必ずしも有名とは言えないかもしれませんが、知らず知らずのうちにデザインに接している方は少なくないかもしれません。
「深夜特急(6)南ヨーロッパ・ロンドン/新潮文庫」
沢木耕太郎の「深夜特急」です。新潮文庫版の表紙のデザインがカッサンドルでした。

カッサンドル「エトワール・デュ・ノール」 1927年 バツアートギャラリーコレクション
中でも目を引くのが6巻の「南ヨーロッパ・ロンドン」編です。表紙がカッサンドルの「エトワール・デュ・ノール」。1927年の制作です。モチーフは長距離の寝台列車でした。北極星へ向けて銀色の鉄路が伸びています。列車自体が描かれていないのにも関わらず、類い稀な疾走感を感じはしないでしょうか。イメージとして力強い。この頃のフランスは「機械と大量消費の時代」(解説より)を迎えていました。当時のムーブメントなり高揚感を体現した作品と言えるかもしれません。
カッサンドルはウクライナの裕福な家に生まれました。少年時代にパリへ移住。元は絵画を学びますが、バウハウスにも関心を抱き、次第にポスターの仕事を受けるようになりました。

カッサンドル「ピヴォロ」 1925年 バツアートギャラリーコレクション
最初期の1920年代からして一躍脚光を浴びます。例えば「ピヴォロ」です。ワイングラスを前にカササギが立っています。嘴を開けているのは今にも飲み込まんとするためでしょうか。ワイン会社のシンボルのデザインです。ピヴォロを示すタイポグラフィーも面白い。赤のワインと黒のカササギ、そして青の文字のコントラストも特徴的です。構成は幾何学的です。直線や曲線を強調しています。

カッサンドル「オ・ビュシュロン」 1923年 バツアートギャラリーコレクション
カッサンドルを世に知らしめたのが「オ・ビュシュロン」でした。ワイド画面です。幅は4メートルにも及びます。一人の男が斧を大きく振り上げては身を反り、木を根元から打ち倒そうとしています。既に木は折れて斜めになっていました。V字型の構図です。躍動感もあります。
色も鮮烈です。黄色の光が満ちています。影がオレンジというのも面白い。何でも家具店の広告だったそうです。これぞ「革命」なのでしょうか。パリの産業美術国際博覧会でグランプリも受賞しました。一部に「まやかしのキュビズム」との批判もあったそうですが、さぞかし驚きを持って迎えられたに違いありません。
乗り物好きにはたまりません。とりわけ目を引くのが鉄道や船舶をモチーフとしたポスターでした。

カッサンドル「ノルマンディー」 1935年 バツアートギャラリーコレクション
堂々たるは「ノルマンディー」です。フランス政府が威信をかけて建造した豪華客船です。付き出す船体を水面付近から見上げています。極めて大きな抑角です。船首のみを大きくクローズアップしています。その姿は美しい。まるでポートレートを見るかのようでした。

カッサンドル「ノール・エクスプレス」 1927年 バツアートギャラリーコレクション
「ノール・エキスプレス」も秀逸です。急行列車が遥か彼方を目指して疾走しています。空は底抜けの青です。機関車は白い煙を靡かせています。また車輪のメカニックな部分を強調。重量感も感じられます。そして何よりも構図です。全てが消失点へと引き込まれています。スピード感を巧みに表現していました。
さて一世を風靡したカッサンドルですが、そのスタイルは何も一定だったわけではありません。むしろ次第に制作のあり方を大きく変容させていきます。
切っ掛けは絵画です。元々、画家として身を立てようとしていた彼は、1930年頃から再び絵画の制作に没頭。バルテュスとの出会いも一つの契機でした。さらにニューヨークでキリコやダリと交流を持ちます。シュールレアリスムの影響も受けました。
するとポスターもより具象的で絵画的な傾向が現れます。例えば「パリ」です。凱旋門から伸びるシャンゼリゼを捉えていますが、何やらキリコ画を連想させるような地平が広がっています。ほかにもダリのイメージを思わせる作品も登場。物語性が増したとも言えるかもしれません。
また後年は文字だけのポスターも発表します。さらにファッション誌のデザインなど、広告以外の仕事を多く請け負いました。結果的に1940年頃には広告のデザインをやめてしまいます。
衝撃的な最期が待っていました。自殺です。1968年にパリで自らを拳銃で撃ちぬきます。67歳でした。全てがかつての名声を得たほどに届かなかったのかもしれません。解説には、制作への迷い、葛藤があったとありました。実際のところの心中は如何なるものだったのでしょうか。
出品作はファッションブランド「BA-TSU」の創業者である故・松本瑠樹氏が築いたコレクション。約100点です。リトグラフのポスターだけでなく、一部に原画も含まれます。ほか晩年の舞台美術やLPのデザインについても参照がありました。
国内では20年ぶりの回顧展です。とりわけ1920年代のポスターはクールな魅力に満ち溢れています。カッサンドルの世界観を十分に楽しむことが出来ました。

3月26日まで開催されています。おすすめします。
「カッサンドル・ポスター展 グラフィズムの革命」 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:2月11日 (土・祝) ~ 3月26日 (日)
休館:月曜日。但し3月20日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大高生800(640)円、中学生以下は無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
「カッサンドル・ポスター展 グラフィズムの革命」
2/11~3/26

埼玉県立近代美術館で開催中の「カッサンドル・ポスター展 グラフィズムの革命」を見てきました。
ウクライナに生まれ、フランスで活動したグラフィックデザイナーのアドルフ・ムーロン・カッサンドル(1901〜1968)。日本では必ずしも有名とは言えないかもしれませんが、知らず知らずのうちにデザインに接している方は少なくないかもしれません。

沢木耕太郎の「深夜特急」です。新潮文庫版の表紙のデザインがカッサンドルでした。

カッサンドル「エトワール・デュ・ノール」 1927年 バツアートギャラリーコレクション
中でも目を引くのが6巻の「南ヨーロッパ・ロンドン」編です。表紙がカッサンドルの「エトワール・デュ・ノール」。1927年の制作です。モチーフは長距離の寝台列車でした。北極星へ向けて銀色の鉄路が伸びています。列車自体が描かれていないのにも関わらず、類い稀な疾走感を感じはしないでしょうか。イメージとして力強い。この頃のフランスは「機械と大量消費の時代」(解説より)を迎えていました。当時のムーブメントなり高揚感を体現した作品と言えるかもしれません。
カッサンドルはウクライナの裕福な家に生まれました。少年時代にパリへ移住。元は絵画を学びますが、バウハウスにも関心を抱き、次第にポスターの仕事を受けるようになりました。

カッサンドル「ピヴォロ」 1925年 バツアートギャラリーコレクション
最初期の1920年代からして一躍脚光を浴びます。例えば「ピヴォロ」です。ワイングラスを前にカササギが立っています。嘴を開けているのは今にも飲み込まんとするためでしょうか。ワイン会社のシンボルのデザインです。ピヴォロを示すタイポグラフィーも面白い。赤のワインと黒のカササギ、そして青の文字のコントラストも特徴的です。構成は幾何学的です。直線や曲線を強調しています。

カッサンドル「オ・ビュシュロン」 1923年 バツアートギャラリーコレクション
カッサンドルを世に知らしめたのが「オ・ビュシュロン」でした。ワイド画面です。幅は4メートルにも及びます。一人の男が斧を大きく振り上げては身を反り、木を根元から打ち倒そうとしています。既に木は折れて斜めになっていました。V字型の構図です。躍動感もあります。
色も鮮烈です。黄色の光が満ちています。影がオレンジというのも面白い。何でも家具店の広告だったそうです。これぞ「革命」なのでしょうか。パリの産業美術国際博覧会でグランプリも受賞しました。一部に「まやかしのキュビズム」との批判もあったそうですが、さぞかし驚きを持って迎えられたに違いありません。
乗り物好きにはたまりません。とりわけ目を引くのが鉄道や船舶をモチーフとしたポスターでした。

カッサンドル「ノルマンディー」 1935年 バツアートギャラリーコレクション
堂々たるは「ノルマンディー」です。フランス政府が威信をかけて建造した豪華客船です。付き出す船体を水面付近から見上げています。極めて大きな抑角です。船首のみを大きくクローズアップしています。その姿は美しい。まるでポートレートを見るかのようでした。

カッサンドル「ノール・エクスプレス」 1927年 バツアートギャラリーコレクション
「ノール・エキスプレス」も秀逸です。急行列車が遥か彼方を目指して疾走しています。空は底抜けの青です。機関車は白い煙を靡かせています。また車輪のメカニックな部分を強調。重量感も感じられます。そして何よりも構図です。全てが消失点へと引き込まれています。スピード感を巧みに表現していました。
さて一世を風靡したカッサンドルですが、そのスタイルは何も一定だったわけではありません。むしろ次第に制作のあり方を大きく変容させていきます。
切っ掛けは絵画です。元々、画家として身を立てようとしていた彼は、1930年頃から再び絵画の制作に没頭。バルテュスとの出会いも一つの契機でした。さらにニューヨークでキリコやダリと交流を持ちます。シュールレアリスムの影響も受けました。
するとポスターもより具象的で絵画的な傾向が現れます。例えば「パリ」です。凱旋門から伸びるシャンゼリゼを捉えていますが、何やらキリコ画を連想させるような地平が広がっています。ほかにもダリのイメージを思わせる作品も登場。物語性が増したとも言えるかもしれません。
また後年は文字だけのポスターも発表します。さらにファッション誌のデザインなど、広告以外の仕事を多く請け負いました。結果的に1940年頃には広告のデザインをやめてしまいます。
衝撃的な最期が待っていました。自殺です。1968年にパリで自らを拳銃で撃ちぬきます。67歳でした。全てがかつての名声を得たほどに届かなかったのかもしれません。解説には、制作への迷い、葛藤があったとありました。実際のところの心中は如何なるものだったのでしょうか。
今日で2月も終わり、得も言われぬ焦燥感に襲われています。カッサンドル・ポスター展は3月26日まで。3月もあっという間に過ぎてしまうので、お時間あるときにぜひ!https://t.co/vXVLLao7Zw pic.twitter.com/aHB8PWnLbP
— 埼玉県立近代美術館 (@momas_kouhou) 2017年2月28日
出品作はファッションブランド「BA-TSU」の創業者である故・松本瑠樹氏が築いたコレクション。約100点です。リトグラフのポスターだけでなく、一部に原画も含まれます。ほか晩年の舞台美術やLPのデザインについても参照がありました。
国内では20年ぶりの回顧展です。とりわけ1920年代のポスターはクールな魅力に満ち溢れています。カッサンドルの世界観を十分に楽しむことが出来ました。

3月26日まで開催されています。おすすめします。
「カッサンドル・ポスター展 グラフィズムの革命」 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:2月11日 (土・祝) ~ 3月26日 (日)
休館:月曜日。但し3月20日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大高生800(640)円、中学生以下は無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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