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「ダブル・インパクト 明治ニッポンの美」 東京藝術大学大学美術館

東京藝術大学大学美術館
「ダブル・インパクト 明治ニッポンの美」
4/4-5/17



東京藝術大学大学美術館で開催中の「ダブル・インパクト 明治ニッポンの美」を見てきました。

いきなりですが、この展覧会に関心を持つ切っ掛けになったのは、上の画像のチラシ。中でも上段、一人の男がさも鬼気迫る様子で反り返っている作品の図版を見たことでした。

まさしく衝撃的、これぞインパクトのある絵だと言えるのではないでしょうか。ただ実のところ画家の名も知らず、漠然と頭にイメージが焼き付いたに過ぎません。しかも図版は部分のみ。一体どのような作品なのか。期待しながら芸大美術館へと出かけました。

画家の名は小林永濯。元は狩野派に学び、河鍋暁斎とも交流がありました。明治以降は新聞の挿絵や絵本などを手がけます。「洋画、写真や浮世絵などを通じて写実的な描法を独学」(公式サイト)で得た画家だそうです。


小林永濯「菅原道真天拝山祈祷図」 1860~90年頃 ボストン美術館 

作品は「菅原道真天拝山祈祷図」、道真が天神に化した姿を捉えた一枚です。つま先でピンと立ち、手をやや浮かしては上体を大きく反る。口は開き、髪の毛は逆立ちになっています。剣や帽子は風で舞い上がり、頭上には稲妻も光っています。ともかく荒々しく、また劇的です。馴染みの薄い画家かもしれませんが、何でも欧米では評価が高く、この作品もビゲローが収集したそうです。

前置きが長くなりました。「ダブル・インパクト」とは、ずばり幕末明治期、日本と西洋の芸術の「双方向的な影響関係」(公式サイトより)を検討するもの。「ウエスタンインパクト(西洋からの衝撃)」を芸大美術館、「ジャパニーズインパクト(日本からの衝撃)」をボストン美術館のコレクションに見出し、相互の作品をあわせ見る展覧会となっています。

プロローグ 黒船が来た!
第1章 不思議の國JAPAN
第2章 文明、開花せよ
第3章 西洋美術の手習いたち
第4章 日本美術の創造
第5章 近代國家として

ファースト・インパクト、初めは黒船です。「ペルリ浦賀上陸図」など、黒船を描いた錦絵が並びます。面白いのは河鍋暁斎の「蒙古賊船退治之図」です。何故に幕末に蒙古船なのかと思ってしまいますが、言わば尊王攘夷から、かつての蒙古襲来、その撃退の歴史が見直されたのとこと。ようは黒船を蒙古船に重ね合わせたかもしれません。

欧米人の眼に映った日本美術は如何なるものなのか。特に是真が目を引くのではないでしょうか。「野菜涅槃図蒔絵盆」は横たわる大根を涅槃に見立て、周囲を様々な野菜が取り囲む姿を表しています。茄子がさも悲しそうに転がる様子も可愛げです。ほか「雪中鷹図」も良い。また是真が明治宮殿の天井画のために描いた下絵、「千種之間天井綴織下図」も見応えがありました。一枚約1メートル四方の大作です。ともかく植物の描写が細かい。ルドゥーテを思い出します。彩色も鮮やかでした。


河鍋暁斎「地獄太夫」 明治時代 ボストン美術館

河鍋暁斎も数点出ていました。ボストン美術館が近年に購入した「地獄太夫」は力作です。暁斎がコンドルらと交流したことは既に良く知られています。


高石重義「竜自在」 江戸時代後期 ボストン美術館

世界最大級の自在置物が出ていました。高石重義の「竜自在」、長さは約2メートルです。自在とあるように口は開き、全ての関節も動きます。大きなかぎ爪の脚も鋭い。会場では作品とともにX線写真も紹介されていました。


高橋由一「花魁(美人)」 1872(明治5)年 東京藝術大学

明治期、近代化して変わりゆく日本の姿を描いたのは揚州周延や小林清親です。いずれもボストン美術館のコレクション。またワーグマン、フォンタネージ、ラグーザと五姓田義松、高橋由一、浅井忠らの絵画をあわせ見るセクションも、決して突っ込んだ内容ではありませんが、興味深いものはあります。こちらは芸大のコレクションでした。


狩野芳崖「悲母観音」 1888(明治21)年 東京藝術大学

近代日本画好きにも嬉しい展示です。狩野芳崖、橋本雅邦、菱田春草、下村観山、横山大観らといった大家の絵画がずらり。「悲母観音」が2点出ていました。1点はもちろん狩野芳崖の手によるもの。芸大の所蔵で重要文化財にも指定された有名な作品です。

ではもう1点は誰の作品なのでしょうか。答えは岡倉秋水です。秋水は芳崖の弟子の一人、師の作を模写しました。サイズは小さく、芳崖作に比べると縦も7割ほどです。全体的に色味が強く、芳崖作とは異なった趣があります。近年ボストン美術館に収蔵されました。日本初公開だそうです。

また同じく初公開なのが橋本雅邦の「雪景山水図」です。雪山の奥深き光景、情緒豊かでもありますが、線は思いの外に細かく、写実的とも言えます。西洋の風景画にも倣って描いています。

ところで芳崖といえば「谿間雄飛図」も素晴らしいもの。猛々しい鷹の様態と曲線を用いての深淵な空間、さらには緊張感のある配置に構図。ボストン美術館のコレクションですが、一見の価値は大いにあります。

ラストでは日清・日露戦争以降の日本美術を大まかに俯瞰しています。堂々たる姿を見せるのは竹内久一の「神武天皇立像」。高さは何と3メートルもありますが、その凛々しい出立ちは明治天皇の姿を参照したとのこと。確かに明治天皇を写した「大元帥陛下御真影」と似ています。この頃は国威発揚の流れもあり、日本神話の歴史画が人気を集めたそうです。


井上安治「東京名所従吾妻橋水雷火遠望之図」 1888(明治21)年 ボストン美術館

出品は絵画に工芸をあわせ約150点。ボストンのコレクションが6割以上を占めています。その意味では目新しい作品も少なくありません。

[ダブル・インパクト展 巡回予定]
名古屋ボストン美術館:2015年6月6日(土)~8月30日(日)

キャプションではボストン美術館のコレクションが「B」、芸大美術館のコレクションが「藝」と記されています。これが分かりやすい。また源さんとベティさんなるキャラクターを用いた解説も親しみやすいものでした。



ちなみに源さんとベティさんのInstagram用の足元撮影スポットがありました。ちなみにInstagramとは画像共有ソフト。スマホで利用されている方も多いアプリです。展覧会では珍しい試みではないでしょうか。



5月17日まで開催されています。

「ボストン美術館×東京藝術大学 ダブル・インパクト 明治ニッポンの美」 東京藝術大学大学美術館
会期:4月4日(土)~5月17日(日)
休館:月曜日。但し4/6、5/4は開館。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1500(1200)円、高校・大学生1000(700)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
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