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「若冲と蕪村」 サントリー美術館

サントリー美術館
「生誕三百年 同い年の天才絵師 若冲と蕪村」
3/18-5/10



サントリー美術館で開催中の「生誕三百年 同い年の天才絵師 若冲と蕪村」を見てきました。

1716(正徳6)年生まれの伊藤若冲と与謝蕪村。場所は京都と大阪です。江戸の花鳥画、ないし水墨画や俳画で一時代を築いた両巨頭、同い年であったとは意外と知られていなかったかもしれません。

その若冲と蕪村の作品をあわせ見る展覧会です。出展数は220点超。ただし多くの作品が会期中に入れ替わります。


伊藤若冲「猿猴摘桃図」伯珣照浩賛 18世紀 個人蔵 *展示期間:3/18~4/13

展示は基本的には時系列、二人の作品を年代順に追っています。それにしても若冲、どれほど早い段階で自己の画風を確立していたのでしょうか。例えば初期の「景和」の落款の記された一枚、「雪中雄鶏図」です。雪の積もる竹林と雄鶏のモチーフ、鶏は下に屈んでエサを探しています。ねっとりと粘り気のある雪に、細部までをも緻密に描いた鶏。彩色も鮮やかです。既に若冲の花鳥画の特徴が全面に現れています。

蕪村で目を引いたのは墨画の小品、「天橋立図」でした。上部には長文の賛、そして下方には砂州上の天橋立が見えます。何でも蕪村が宮津に滞在した際、離れるにあたって、親しくしていた現地の友人に宛てた作品と言われているとか。墨の滲みを活かした天橋立の描写も軽妙ではないでしょうか。

若冲が時に密で勝負すれば、蕪村はあえて粗、ないし力を抜いた表現で勝負します。いわゆる写生を重視しつつ、奇想天外なデフォルメを加えた若冲と、各地を放浪しながら、後に俳画の世界を切り開いた蕪村。それぞれに異なった魅力が確かに存在していました。


伊藤若冲「白象群獣図」 18世紀 個人蔵 *展示期間:4/22~5/10

ともに40~50代が制作において最も充実していたと考えられているそうです。そしてこの頃の若冲は墨画も楽しい。「柳に雄鶏図」では素早い筆にて柳が風に揺れる様子を表しています。一方で蕪村の「飲中八仙図屏風」はどうでしょうか。中国の故事から酒を好んだ8名の文人を描いた屏風絵、いずれも皆、意気揚々、杯を交わしては楽しそうに酒を飲んでいます。

既に酔っぱらっているのかもしれません。目がトロンとしている男もいます。文人画的な細かな筆遣いも優れていますが、それよりも人物の生き生きとした表現に目を奪われました。


与謝蕪村「鳶・鴉図」(左幅) 18世紀 北村美術館 *展示期間:3/18~4/13

中国絵画との影響関係も重要です。例えば伝呂健の「杏花鴛鴦図」の花鳥表現には、若冲のマニエリスティックな様相を見出すことが出来ます。また蕪村では清の沈銓の叭々鳥との比較が面白い。南蘋派の画家に好まれたという同画題、それを蕪村も「枯木叭々鳥図」で表しました。

ただし趣きはかなり違います。ある意味ではそのまま倣わない。これぞ写実ではなく写意を写したと言うことなのでしょうか。蕪村が南蘋派にも学んでいた一つの例としても知られているそうです。

蕪村の「晩秋遊鹿図屏風」も印象に残りました。やはりここでも指摘されるのは南蘋派の鹿との類似点ですが、筆はもっと柔らかく、全体としての味わいも抒情的です。そして鹿は可愛らしい。まるで時代は異なりますが、明治の画家、木島桜谷の描いた動物画を連想させるものがありました。


伊藤若冲「象と鯨図屏風」(左隻) 寛政9(1797)年 MIHO MUSEUM *通期展示

チラシにも掲げられた若冲の鯨、ちょうど階段下の吹き抜けのスペースに展示されていました。ほかならぬ「象と鯨図屏風」です。右に牙を振り上げ、長い鼻を巻く白象、そして左には潮を大きく吹き上げては、ぶくぶくと潜水する黒い鯨が描かれています。

2008年に発見されて話題となった作品、確か新出はMIHOの「若冲ワンダーランド」でした。以来、仙台の「若冲が来てくれました」でもお目見え。私もその都度追いかけてきましたが、やはり何度見ても迫力があります。人気があるのにも頷けました。


与謝蕪村「山水図屏風」(右隻) 天明2(1782)年 MIHO MUSEUM *通期展示

なお「象と鯨図屏風」の隣に並んでいた蕪村の「山水図屏風」が大変に魅惑的でした。6曲1双、銀地の山水屏風です。白銀、というよりもやや青みがかった銀を背にするのは、険しい岩山と対比的な水辺の穏やかな景色。銀の効果でしょうか。画面は極めて静謐、静まり返った無人の光景にも見えますが、目を凝らすと馬に乗る者などの姿も見ることが出来ます。

それにしても何とも美しく、また力強く、それでいて構図にも練られた作品なのでしょうか。蕪村の最晩年の前年の作品なのだそうです。画力に衰えはありません。

最後に若冲と蕪村の関係です。何も予備知識を持っていなかった私は、確かに全く違う画業とは言え、何かしら両者に繋がりがあるのだろうと思い込んでいました。

実のところ直接的な接点はゼロ。二人の交流を示す作品や資料は現時点において一切出てきていないそうです。


与謝蕪村「学問は」自画賛 18世紀 個人蔵 *展示期間:4/15~5/10

しかし晩年は二人とも京都の非常に近い地点に居を構えました。四条烏丸です。若冲は現在の烏丸駅の北東、そして蕪村は南西に住んでいました。歩いても10分とかかりません。まさにご近所です。さらに共通する友人、絵師や文人、僧侶の集まりも重なり合ってもいます。にも関わらず二人には接点がありません。

単に偶然なのか、機会がなかっただけなのか、それとも意図してのことなのか。二人の謎めいた関係に思いを馳せるのも面白いかもしれません。


与謝蕪村「夜色楼台図」(部分) 18世紀 個人蔵 *展示期間:4/29~5/10

さて毎度、何かと展示替えの多いサントリー美術館、今回の「若冲と蕪村」においても例外ではありません。会期はほぼ一週間毎に替わる6期制です。4月8日からは3期目に突入します。

「若冲と蕪村」展示替リスト(PDF)

ただし6期全てで作品が入れ替わるわけではありません。リストによれば第1週もしくは第2週と、第4、第6週の計3回に出かけると、ほぼ全ての作品を見られるようです。


伊藤若冲「白象群獣図」 18世紀 個人蔵 *展示期間:4/22~5/10

実は私自身、普段、展示替えを追いかけることは殆どありませんが、今回は何せ大好きな若冲と蕪村です。特にMIHOの蕪村展を見逃した私にとって、蕪村の作品は少しでも多く見たい。なるべくコンプリートしたいと思いました。

しかしながら観覧料は一回1300円。少なくとも3度通うと3900円です。お金の価値観はそれぞれではありますが、率直なところそれなりのお値段ではあります。


メンバーズ・クラブのご案内

というわけで思い切ってサントリー美術館のメンバーズ・クラブに入会しました。年会費5000円で入館フリーパス、同伴者1名が無料です。またショップとカフェでの割引や美術館ニュースを送付するサービスなどがあります。

そして考えてみれば、今年のサントリー美術館は若冲と蕪村以降、乾山、曜変天目、久隅守景と魅惑的なラインアップが続きます。

[2015年サントリー美術館 展覧会スケジュール](これからの展覧会
「着想のマエストロ 乾山見参!」 5月27日(水)~7月20日(月・祝)
「藤田美術館の至宝 国宝 曜変天目茶碗と日本の美」 8月5日(水)~9月27日(日)
「久隅守景(仮称)」 10月10日(土)~11月29日(日)

若冲と蕪村に3度出かけ、ほかの3展を全て見れば一人でも十分に元が取れます。今年はメンバーズカードを手に足繁く六本木まで通うつもりです。



会期1週目の日曜の昼間に出かけましたが、想像以上に混雑していました。特に初めの展示室はケースの前の列が遅々として進まないほどです。土日なら夕方以降、また週末の夜間開館(20時まで)などが狙い目となりそうです。

「芸術新潮2015年4月号/オールアバウト若冲/新潮社」

5月10日まで開催されています。まずはおすすめします。

「生誕三百年 同い年の天才絵師 若冲と蕪村」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:3月18日(水)~5月10日(日)
休館:火曜日。但し5月5日(火・祝)は20時まで開館。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
 *5月3日(日・祝)、4日(月・祝)は20時まで開館。
 *4月25日(土)は「六本木アートナイト」のため24時まで開館。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 *アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
 *4月25日(土)は「六本木アートナイト割引」のため一般および大学・高校生は一律500円
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
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