都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ニコラ・ビュフ:ポリフィーロの夢」 原美術館
原美術館
「ニコラ・ビュフ:ポリフィーロの夢」
4/19~6/29
原美術館で開催中の「ニコラ・ビュフ:ポリフィーロの夢」のプレスプレビューに参加してきました。
1978年にパリで生まれ、現在は日本に在住。「ヨーロッパの伝統的な美意識と日本やアメリカ由来のサブカルチャー」(リリースより)を取り込んだ制作で知られるニコラ・ビュフ。
つい先頃、東京芸大の大学院の博士号を取得したばかりだそうです。まさに新進気鋭のアーティスト。国内の美術館としては初めてとなる個展がはじまりました。
さてはじめにも触れた「伝統」と「サブカル」との関係。今回はどう表現しているのか。まずはヨーロッパの伝統です。ここでタイトルの「ポリフィーロ」が重要になってきます。
というのも「ポリフィーロ」とは、15世紀末のヨーロッパ古典文学の「Hypnerotomachia Poliphil」を引用している。直訳すると「ポリフィーロの夢の中の恋の戦い」です。つまり主人公ポリフィーロが夢の中で恋人ポーリアを求めて旅をするという物語がベースになっているのです。
ではその物語をビュフはどのように美術館という空間で展開していくのか。さらにもう一つの「サブカル」がキーワードです。
言ってしまえばアドベンチャーゲーム。ビュフは「夢」や「恋」に「戦」という言葉に日本のテレビゲームの要素を見出した。ゼルダにマリオやファイナルファンタジー。厳密に言うとロールプレイングゲームも入るわけですが、それはともかくもビュフは美術館でアドベンチャーゲームを展開させている。古典文学とゲームの世界。それを融合させようという試みです。
もちろん主人公ポリフィーロを演じるのは鑑賞者、つまりは我々一人一人。悪に立ち向かい恋人を助ける。うまくクリア出来るでしょうか。それではいざ、美術館という冒険のフィールドへ向かってみましょう。
とは言え、まだ始まったばかりの「ゲーム」の内容を全て紹介するのは気が引けるもの。というわけでまずは以下、簡単にさわりの部分だけ触れてみます。
「オオカミの口」 発泡スチロール、FRP、シート、塗料他 2014年
それでは美術館のエントランスから。「オオカミの口」です。巨大なモンスターの頭部。まさしく冒険の旅への入口に相応しい。ぽっかりと開いた口が鑑賞者を飲み込みます。ちなみに実際の物語においてもポリフィーロはオオカミに出会うとか。モチーフそのものはイタリアの公園にあるという「地獄の門」を参照。一方でアメリカのキャラクターなどの引用もあるそうです。
そして一歩足を踏み入れると鏡の世界が待っている。異次元への扉。「鏡の国のアリス」でしょうか。それにしてもオオカミしかり、テーマパークさながらの舞台装置です。(実際に遊園地のイメージも参考にしています。)旧邸宅で重厚な美術館という空間が良い意味でキッチュになった。ともかくこの景色だけでも一見の価値はあります。
「紙芝居ビデオ」
もう少しだけフィールドを覗いてみます。まずはモニターの「紙芝居のビデオ」。序章です。ここで冒険の概要が示されます。例えばドラクエの冒頭で王様の話を聞きながらストーリーの大まかな内容を把握する。そうした感覚に近いかもしれません。ともかくはアニメの紙芝居を見ながらポリフィーロの役割を確認しましょう。
「ユニコーンの皮」 タペストリー、陶器 2010年
では最初のダンジョンだけをピックアップ。「ユニコーンの皮」です。床面に広がるのは一角獣のタペストリー。頭部は陶器製。リモージュ焼です。またタペストリーについては国立新美術館での展示の記憶も新しいクリュニーの「貴婦人と一角獣」を参照しているとのこと。織物の街で知られるオービュッソンの国際タペストリー研究所から依頼を受けて制作された作品です。完成するまでに一年もかかったそうです。
「ニコラ・ビュフ展」会場風景
死と再生を表すという一角獣。それはゲームにおいても重要な要素である。以降、某戦隊シリーズにも由来する「ヒーローの甲冑」に身を包んで、いざ「戦闘」へ。さらに「回復」した後、目出たく「凱旋」。最後の最後で「夢オチ」(1階ギャラリーの出窓の外にも注目です。)まであるという冒険が続きますが、そこまで細かに触れると壮大なネタバレになってしまいます。あとは実際に美術館で体験してみて下さい。
なお冒険の手引きとして2、3点お知らせを。まずは順路です。エントランス横の「ギャラリー1」の後に階段をあがって2階へ進む。そして手前から奥、一通り見た後はまた1階へと戻ります。つまり一度、2階へあがって、再度1階へという流れ。最後に一階奥の「ギャラリー2」に到達する展開になっています。
さらにいわゆる監視員の方が「案内人」としてガイド役をつとめているのもポイント。妖精の格好をしているそうです。
「ニコラ・ビュフ展」会場風景
そしてビュフによる作品の解説シートも重要です。(受付で配布しています。)作品のコンセプトがテキスト化されている。これが充実しています。攻略本としたら言い過ぎでしょうか。一通り「ゲーム」を終えてから読み、再度また廻ると、また鑑賞も深まるのかもしれません。
私にとってニコラ・ビュフ、実のところ2009年仏大使館(旧庁舎)での「ノーマンズランド」展で作品を見て以来、どこか気になっていたアーティストの一人でした。日本ではその後、銀座のエルメスのウィンドウディスプレイ(2010年)を担当。また海外では2012年にシャトレ座でオペラ「オルランド」のアートディレクションを担当したそうです。
会場内で作品について解説するニコラ・ビュフ
ビュフが語るにコンセプトは「まじめに遊ぶ」こと。作家の世界観を美術館の空間へインタラクティブな仕掛けで広げる試み。3Dプリンターを使った意欲的な作品もある。それでいて例えばタブロー(よく目を凝らすと随所に思わぬキャラクターもいます。)は見応えがあります。楽しめました。
会場内、写真の撮影が出来ます。(一部制限事項あり。動画不可。)ここは原美術館へカメラ片手にポルフィーロになりきって乗り込んでは如何でしょうか。
【ニコラ・ビュフ関連展覧会】
「ポリフィーロの手帳」@アンスティチュ・フランセ東京(飯田橋)4/24(木)~6/1(日)
http://www.institutfrancais.jp/tokyo/
「ポーリアの悪夢:ニコラ ビュフ」@山本現代(白金)5/31(土)~6/28(土)
http://www.yamamotogendai.org/
6月29日まで開催されています。
「ニコラ・ビュフ:ポリフィーロの夢」 原美術館(@haramuseum)
会期:4月19日(土)~6月29日(日)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる5月5日は開館)、5月7日。
時間:11:00~17:00。*水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
*原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
*20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「ニコラ・ビュフ:ポリフィーロの夢」
4/19~6/29
原美術館で開催中の「ニコラ・ビュフ:ポリフィーロの夢」のプレスプレビューに参加してきました。
1978年にパリで生まれ、現在は日本に在住。「ヨーロッパの伝統的な美意識と日本やアメリカ由来のサブカルチャー」(リリースより)を取り込んだ制作で知られるニコラ・ビュフ。
つい先頃、東京芸大の大学院の博士号を取得したばかりだそうです。まさに新進気鋭のアーティスト。国内の美術館としては初めてとなる個展がはじまりました。
さてはじめにも触れた「伝統」と「サブカル」との関係。今回はどう表現しているのか。まずはヨーロッパの伝統です。ここでタイトルの「ポリフィーロ」が重要になってきます。
というのも「ポリフィーロ」とは、15世紀末のヨーロッパ古典文学の「Hypnerotomachia Poliphil」を引用している。直訳すると「ポリフィーロの夢の中の恋の戦い」です。つまり主人公ポリフィーロが夢の中で恋人ポーリアを求めて旅をするという物語がベースになっているのです。
ではその物語をビュフはどのように美術館という空間で展開していくのか。さらにもう一つの「サブカル」がキーワードです。
言ってしまえばアドベンチャーゲーム。ビュフは「夢」や「恋」に「戦」という言葉に日本のテレビゲームの要素を見出した。ゼルダにマリオやファイナルファンタジー。厳密に言うとロールプレイングゲームも入るわけですが、それはともかくもビュフは美術館でアドベンチャーゲームを展開させている。古典文学とゲームの世界。それを融合させようという試みです。
もちろん主人公ポリフィーロを演じるのは鑑賞者、つまりは我々一人一人。悪に立ち向かい恋人を助ける。うまくクリア出来るでしょうか。それではいざ、美術館という冒険のフィールドへ向かってみましょう。
とは言え、まだ始まったばかりの「ゲーム」の内容を全て紹介するのは気が引けるもの。というわけでまずは以下、簡単にさわりの部分だけ触れてみます。
「オオカミの口」 発泡スチロール、FRP、シート、塗料他 2014年
それでは美術館のエントランスから。「オオカミの口」です。巨大なモンスターの頭部。まさしく冒険の旅への入口に相応しい。ぽっかりと開いた口が鑑賞者を飲み込みます。ちなみに実際の物語においてもポリフィーロはオオカミに出会うとか。モチーフそのものはイタリアの公園にあるという「地獄の門」を参照。一方でアメリカのキャラクターなどの引用もあるそうです。
そして一歩足を踏み入れると鏡の世界が待っている。異次元への扉。「鏡の国のアリス」でしょうか。それにしてもオオカミしかり、テーマパークさながらの舞台装置です。(実際に遊園地のイメージも参考にしています。)旧邸宅で重厚な美術館という空間が良い意味でキッチュになった。ともかくこの景色だけでも一見の価値はあります。
「紙芝居ビデオ」
もう少しだけフィールドを覗いてみます。まずはモニターの「紙芝居のビデオ」。序章です。ここで冒険の概要が示されます。例えばドラクエの冒頭で王様の話を聞きながらストーリーの大まかな内容を把握する。そうした感覚に近いかもしれません。ともかくはアニメの紙芝居を見ながらポリフィーロの役割を確認しましょう。
「ユニコーンの皮」 タペストリー、陶器 2010年
では最初のダンジョンだけをピックアップ。「ユニコーンの皮」です。床面に広がるのは一角獣のタペストリー。頭部は陶器製。リモージュ焼です。またタペストリーについては国立新美術館での展示の記憶も新しいクリュニーの「貴婦人と一角獣」を参照しているとのこと。織物の街で知られるオービュッソンの国際タペストリー研究所から依頼を受けて制作された作品です。完成するまでに一年もかかったそうです。
「ニコラ・ビュフ展」会場風景
死と再生を表すという一角獣。それはゲームにおいても重要な要素である。以降、某戦隊シリーズにも由来する「ヒーローの甲冑」に身を包んで、いざ「戦闘」へ。さらに「回復」した後、目出たく「凱旋」。最後の最後で「夢オチ」(1階ギャラリーの出窓の外にも注目です。)まであるという冒険が続きますが、そこまで細かに触れると壮大なネタバレになってしまいます。あとは実際に美術館で体験してみて下さい。
なお冒険の手引きとして2、3点お知らせを。まずは順路です。エントランス横の「ギャラリー1」の後に階段をあがって2階へ進む。そして手前から奥、一通り見た後はまた1階へと戻ります。つまり一度、2階へあがって、再度1階へという流れ。最後に一階奥の「ギャラリー2」に到達する展開になっています。
さらにいわゆる監視員の方が「案内人」としてガイド役をつとめているのもポイント。妖精の格好をしているそうです。
「ニコラ・ビュフ展」会場風景
そしてビュフによる作品の解説シートも重要です。(受付で配布しています。)作品のコンセプトがテキスト化されている。これが充実しています。攻略本としたら言い過ぎでしょうか。一通り「ゲーム」を終えてから読み、再度また廻ると、また鑑賞も深まるのかもしれません。
私にとってニコラ・ビュフ、実のところ2009年仏大使館(旧庁舎)での「ノーマンズランド」展で作品を見て以来、どこか気になっていたアーティストの一人でした。日本ではその後、銀座のエルメスのウィンドウディスプレイ(2010年)を担当。また海外では2012年にシャトレ座でオペラ「オルランド」のアートディレクションを担当したそうです。
会場内で作品について解説するニコラ・ビュフ
ビュフが語るにコンセプトは「まじめに遊ぶ」こと。作家の世界観を美術館の空間へインタラクティブな仕掛けで広げる試み。3Dプリンターを使った意欲的な作品もある。それでいて例えばタブロー(よく目を凝らすと随所に思わぬキャラクターもいます。)は見応えがあります。楽しめました。
会場内、写真の撮影が出来ます。(一部制限事項あり。動画不可。)ここは原美術館へカメラ片手にポルフィーロになりきって乗り込んでは如何でしょうか。
【ニコラ・ビュフ関連展覧会】
「ポリフィーロの手帳」@アンスティチュ・フランセ東京(飯田橋)4/24(木)~6/1(日)
http://www.institutfrancais.jp/tokyo/
「ポーリアの悪夢:ニコラ ビュフ」@山本現代(白金)5/31(土)~6/28(土)
http://www.yamamotogendai.org/
6月29日まで開催されています。
「ニコラ・ビュフ:ポリフィーロの夢」 原美術館(@haramuseum)
会期:4月19日(土)~6月29日(日)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる5月5日は開館)、5月7日。
時間:11:00~17:00。*水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
*原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
*20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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