「日本絵画の魅惑」(前期展示) 出光美術館

出光美術館
「日本の美・発見9 日本絵画の魅惑」
4/5~6/8 *前期:4/5~5/6、後期:5/9~6/8



出光美術館で開催中の「日本の美・発見9 日本絵画の魅惑」の前期展示を見て来ました。

館蔵の日本美術品をいくつかの切り口で紹介する「日本の美・発見」シリーズ。今回で9回目。タイトルにもあるようにテーマは絵画です。鎌倉期の絵巻物に始まり室町の水墨、また桃山から江戸へ。浮世絵に琳派、文人画など、全83件の作品(その他に工芸が30点強。)が展示されています。

会期は二期制です。途中一度の展示替えで、工芸品、及び一部の画帖などを除き、ほぼ全て入れ替わります。

と言うわけで早速、前期からいくつか印象に深かった作品を。まず絵巻から「橘直幹申文絵巻」です。平安期の貴族、橘直幹が人事に関して天皇に申文を送る云を題材にした作品、巻頭の橘邸付近の様子が出ていましたが、ともかく興味深いのは邸宅の前の街の光景。というのも見世棚が並び、売り子たちが商品を扱っている。並ぶのは干物にわらじなど。また何でも調理した食べ物を売ってもいるとか。弁当屋でしょうか。往時の生活の息吹も伝わってきます。

なお会場ではそれを「街角の萬屋は現代のコンビニ」と表現。今回の展示ではこうした親しみやすい「鑑賞のツボ」を記したキャプションが随所に記されています。その辺も見どころと言えそうです。

仏画は前期で3点です。うち「六道・十王図」が目を引きます。輪廻の世界の六道、そして冥界で亡者の罪を裁断する十王たち。彩色は鮮やか。迫力の地獄絵です。中でも一人の縛られた男の口からだらりと垂れて広がる赤い池。血なのかそれとも引き延ばされた舌なのか。鬼がそれを釘で打ちつけている。身の毛もよだちます。

室町の水墨では能阿弥の「四季花鳥図屏風」に惹かれました。牧谿風の湿潤な大気の描写。光を包み込んだような蓮も美しい。ちなみに本作は能阿弥の本業とは無関係に描かれたもの。落款から友人の出世を祝して筆をとったことが分かっているそうです。

現存する最も古い屏風絵の一つとされる作品が出ていました。室町期の「日月四季花鳥図屏風」です。一説では明の皇帝への贈り物とも言われる作品。右隻には太陽、左隻には三日月、いずれも真鍮。さすがに剥落も目立ちますが、それでも紅葉に秋草、また春の桜の描写は美しい。屏風の縁が精巧な螺鈿で装飾されていました。ここも見逃せません。

江戸初期、まだ開発期の江戸市中を描いたのが「江戸名所図屏風」です。右は寛永寺から日本橋、左は江戸城天守から芝浦を経て江戸湾への光景。そして何と言っても注目したいのは江戸の人々の生き生きとした姿です。

例えば日本橋の賑わい。京橋から銀座をへて新橋へと至る往来も多くの人で溢れている。銀座には建築中の建物も見えます。また堀には小舟が行き来して、資材なり人なりを運んでいる。町の人々の生活への細かな視線。対して江戸城天守はとても小さく描かれています。まるで置物の如く存在感がありません。

浮世絵は師宣に懐月堂安度、それに春章や歌麿などが10点ほど出ていました。うち師宣の「遊里風俗図」が味わい深い。浮世絵の祖とも称される師宣。本作でたくさん描かれる男女の姿。それが後の浮世絵の人物表現の原型ともなった。そうしたことも言われています。

文人画では渡辺華山の「猫図」が圧倒的です。一匹の猫が屈みながらバッタを伺う。それだけの描写にも関わらず、どこか殺気とも呼べる緊張感が漂っている。眼光は鋭い。次の瞬間にはバッタへ飛びかかろうとするのか。また輪郭線を用いずに色の滲みだけで表した描写自体も素晴らしいと言えるもの。思わず栖鳳の班描を思い出しました。


酒井抱一「風神雷神図屏風」江戸時代 出光美術館 *前期展示

琳派は前後期で4点。前期はうち2点、伝宗達の「月に秋草図屏風」と抱一の「風神雷神図屏風」です。まずは伝宗達作、金色の光に包まれた草花。薄は角度をかえて見ることで浮かんでくる。そしてお馴染みの風神雷神です。率直なところ、見比べて優劣云々という作品ではないと思いますが、ともかくはこの春、琳派の4点が都内に出揃う機会でもある。(参考リンク:春の琳派関連展示情報 2014年)抱一の飄々たる風神雷神様。また改めて見入りました。

等伯の「松に鴉・柳に白鷺図屏風」、久々に対面したような気がします。何年か前に等伯の真作として確認された本作、ともかく広がる空間。墨線が驚くほどにまで表情豊かです。掠れに滲みを駆使している。ところで本作は等伯没後、雪舟作と偽の落款を入れられてしまったとか。その辺の経緯についての解説も充実していました。

よく使われる言葉ではありますが、これぞ「名品展」と呼んで良いのではないでしょうか。堪能出来ました。

改めて前後期の会期についての情報です。はじめにも触れたように工芸を除いてはほぼ全点の入れ替えです。二つに一つの展覧会と言って差し支えありません。

「日本絵画の魅惑」出品リスト(PDF)
前期:4月5日(土)~5月6日(火・休)
後期:5月9日(金)~6月8日(日)


なお今回は展示替えに際して嬉しい割引サービスも。前期中に入場すると、受付で「後期鑑賞割引券」をいただけます。この割引券を提示すると後期の観覧料金は一般・学生ともに500円になります。ようは前期に行けば後期は半額です。お得です。

また出光美術館が美術館割引券アプリ「ミューぽん」に初めて登場。アプリを提示すると200円引きになります。

「日本美術史/山下裕二(監修)/美術出版社」

もちろん後期も追いかけます。前期展示は5月6日まで開催されています。(展覧会は6月8日まで開催。)

「日本の美・発見9 日本絵画の魅惑」 出光美術館
会期:4月5日(土)~6月8日(日)
 *前期:4月5日(土)~5月6日(火・休)、後期:5月9日(金)~6月8日(日)
休館:月曜日。但し5/5は開館。5/7、8は展示替えのため休館。
時間:10:00~17:00 毎週金曜日は19時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *前期を観覧すると「後期鑑賞割引券」により後期半額。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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