「洋画家たちの青春」 東京ステーションギャラリー

東京ステーションギャラリー
「光風会100回展記念 洋画家たちの青春ー白馬会から光風会へ」
3/21-5/6



東京ステーションギャラリーで開催中の「光風会100回展記念 洋画家たちの青春ー白馬会から光風会へ」を見て来ました。

外光表現を取り入れた黒田清輝らによって明治27年に作られた白馬会。後に一定の目的を果たしたとして解散。所属の一部の画家たちは別の活動の場を求めて新たな団体を興しました。

それが光風会です。結成されたのは明治45年。白馬会の解散した一年後のことです。結成メンバーは三宅克己や中澤弘光など。それにデザイナーの杉浦非水が加わります。全部7名です。以来、紆余曲折、時には様々に分化しながらも、現在まで活動を続けてきました。


久米桂一郎「林檎拾い」 1892(明治25)年 久米美術館

本展は光風会の100回展を記念した企画。先行した白馬会を踏まえながら、大正、昭和へと至る光風会の画家を紹介する。全67作家、作品は80点余。光風会から分かれた団体の画家も含みます。また興味深いのは、半数が画家10~30代の頃の作品であること。タイトルの「青春」の所以でもあります。

さてはじめは明治から大正期の活動。いきなりハイライトと申し上げても良いでしょう。そもそも光風会には白馬会の画家も賛助という形で出展を行っている。よって黒田清輝や藤島武二らのビックネームも登場します。

黒田、藤島ともに2点ずつ。黒田は光風会の1、5回展に出展。チラシ表紙を飾る「鉄砲百合」はどうでしょうか。石橋美術館の作品です。前景に大きく百合が咲き誇る。明るい色遣い。花はうっすらと水色を帯びています。


藤島武二「うつつ」 1913(大正2)年 東京国立近代美術館

藤島では「うつつ」が佳品です。寝起きでしょうか。女性がソファで頭に手をやりながら目を開ける。まだはっきりと覚めていないのかもしれません。また「山中湖畔の朝」は私も大好きな藤島の水辺を描いた一枚。かなり強い筆致です。手前に広がる山中湖。小舟も見える。奥に連なるのは山々。水辺の際で横方向に走る太いストロークが印象に残ります。

岡田三郎助も光風会の活動に理解を示した画家です。得意の和装の女性を描いた「縫い取り」。光風会3回展の出展作です。重厚な椅子に腰掛けながら縫い物をするモデル。ピンと張りつめた糸を引く小指。緊張感。一瞬の動きを捉えています。


中澤弘光「カフェの女」 1920(大正9)年 宮崎県立美術館

創立会員の一人、中澤弘光の「カフェの女」も美しい。白の際立つ画面。ワインボトルを開ける和装の給仕。右奥には煙を吹かす洋装の男性。鍔の広い帽子をかぶっている。和洋の混在する空間。この時代の雰囲気を感じさせます。

また同じく創立会員の跡見泰の「石川島」も目を引きます。東京の湾岸部、工業地帯を描いたものでしょうか。遠くにはクレーンのシルエットも。空は工場の煙なのか煤けてもいる。よく見ると画面の中央部がモザイク状にもなっています。点描の影響を受けたのかもしれません。

その点描を日本に導入した画家の一人でもあるのが斎藤豊作。東近美でも見る機会のある「夕映の流」が展示されています。光風会7回展の出展。横長の画面で大きくカーブする川。羊を追うのは女の姿でしょうか。しばらく眺めていると象徴派の絵画が思い浮かびました。

光風会の初期は水彩画の出品も多かったそうです。うち創立会員である三宅克己の水彩の「雨模様」が絶品です。夏の驟雨でしょうか。長閑な穀倉地帯の空には黒い雲がかかる。まだ雨は降っていないのかもしれない。親子連れなのか、おそらくは農作業をする二人の人影が家路を急いでいます。


杉浦非水「非水創作圖案集(文雅堂)」 1926(大正15)年 愛媛県美術館

唯一のデザイナーである杉浦非水は当時の三越の図案部の主任。4点の図版が展示されています。ちなみに彼は光風会展のポスターや図録の装丁も手がけていたそうです。


内田巌「イギリスの女A」 1931(昭和6)年 神奈川県立近代美術館

さて時代は進んで大正末から昭和へ。初期に見られた外光派的な明るい作品は影を潜め、重く暗い色調、フォーブに連なるような作品も目立ちます。また日中戦争突入後、戦時下の体制に入ると光風会の立ち位置も変化。元々、具象絵画が中心であったことから、戦争記録画を描くのに適していたとされ、結果的に多くの画家が大陸へと渡ることになったそうです。(但し本展にはいわゆる戦争画は展示されていません。)

ステーションギャラリーのある東京駅丸の内口。まさしくその駅舎を描いた作品がありました。櫻田精一の「東京駅」です。ブラマンクや里見勝蔵を思わせる荒々しい筆致。昭和7年です。まだ空襲を受ける前の姿。ということは復原後の今の様子とほぼ同じでもある。ずらりと駅前に並ぶ黒い車。タクシーでしょうか。駅舎のレンガ色も映えて見えます。

一番新しいのは田中一男の「きたのくに」。昭和57年、光風会68回出展の作品です。またラストの清原啓一の「内と外」も印象に残ります。モチーフは鶏。装飾的でもある。ちなみに画家は自宅に鶏を飼い、一日50羽を描くことをノルマにしたとか。最終的には2000羽を写生したのだそうです。

戦後の光風会は最近何かと話題の日展の活動とも重なります。率直なところ私は総じて明治から大正期の作品の方が好きですが、一つの団体展を取り上げて、なおかつ前後左右の活動を探る展示。なかなかの好企画だと思いました。

さて最後に光風会の展覧会の情報です。4月16日から国立新美術館で100回展が始まります。



「第100回記念 光風会展」@国立新美術館(4/16~4/29)

ステーションギャラリー内の休憩室(順路最後)には光風会展の招待券が置かれていました。そちらを持参するのも良さそうです。

なお光風会公式サイト内の「100回記念特設サイト」が思いの外によく出来ています。(杉浦非水デザインのポスターも閲覧出来ます。)鑑賞の参考にもなりそうです。


辻永「ハルピンの冬」 1917(大正6)年 石橋財団石橋美術館

5月6日までの開催です。なお東京展終了後は、名古屋の松坂屋美術館へと巡回(6/14~7/6)します。

「光風会100回展記念 洋画家たちの青春ー白馬会から光風会へ」 東京ステーションギャラリー
会期:3月21日(金)~5月6日(火)
休館:月曜日。(但し5/5を除く)
料金:一般900円、高校・大学生700円、小学・中学生400円。
 *20名以上の団体は100円引。
時間:10:00~18:00。毎週金曜日は20時まで開館。*入館は閉館の30分前まで
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)
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