都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
東京都現代美術館 「ルオー展」 4/16

「出光コレクションによる ルオー展」
4/16~6/26
こんにちは。
昨日から木場の現代美術館で「ルオー展」が始まっています。早速初日に見てきました。
この展覧会は、世界最大級を誇るという出光美術館のルオー・コレクションの中から選ばれた、約二百点ほどの作品で構成されています。凹凸感のある独特の油彩から版画連作の「ミセレーレ」、それに活動初期の水彩画まで、ルオーの画業の大半が網羅されたという充実の展覧会です。見応えがありました。
ルオーの油彩画の味わいは大変に濃厚です。何層にも剥ぎ落とされては塗り固められた絵具は、単なる色彩としての意味を通り越して、作品全体の構造や配置までをも作り上げます。まるでカンヴァスに絵具をグイグイと擦り込ませたかのような力強いタッチは、人物や事物の存在感を高めて、それぞれに堅牢な構成感を与えます。その強烈な個性は、一度見たら二度と忘れることがなさそうです。パンフレットには、ルオーの油彩を「ステンドグラスを思わせる深い精神性」と紹介していましたが、私には、深い精神性云々はともかく、透明感のあるステンドグラスと言うよりも、例えば色鮮やかな石板画を見ているような印象を受けました。無骨な味わいがあります。
まとめて展示されることが珍しいという油絵連作の「受難」は、その画面構成からして異様な雰囲気です。まるでカメラのフレームを通して覗き込んだような「枠」のある視点は、その枠を通して垣間見える「受難物語」をクローズアップするかのようにして訴えかけます。また、「受難」シリーズにも顕著に見られますが、画面の上方に、鈍く輝いているような丸い月が多く描かれていることに気がつきます。ルオーにとって月とは何の意味があったのでしょう。あまりにも執拗に登場してくるので気になりました。
ルオーによって描かれた人物は、どれもやや類型的な印象を受けます。(決して悪い意味ではありませんが。)足や手などの関節が強調されたような造形と、大きな目にくっきりとした鼻筋の顔。そこからは強い意思を感じさせますが、それと同時に、まるで「木組み人形」のようなゴツゴツとした素朴な味わいをも思わせます。それは、ルオーの独特の色彩とも相まって、見る者に強いインパクトを与えそうです。
「小さな女曲馬師」(1925年頃)に強く惹かれました。ザラッとした独特のカンヴァスの味わいは、この作品の背景に使われている緑色を、驚くほど美しく見せてくれます。一見、この緑色は、闇が混じったような底抜けに深い暗さを思わせるのに、少し視点を変えるだけで、輝きだすようにキラキラと明るく映えてきます。手前の白馬や、赤みのかかった床とのコントラストも素晴らしく、ルオーの色彩の奥深さをこれでもかと感じさせるような作品です。
ルオーは何かに取り憑かれたように描いていたのでしょうか。作品からは何か病んでいるような険しい表情も感じられました。もしかしたら万人受けはしないのかもしれません。ただ、私にとっては絶対に忘れられない芸術家の一人となったようです。版画作品については会期の途中で展示の入れ替えも予定されています。そちらもまた見てみたいと思いました。
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