孫ふたり、還暦過ぎたら、五十肩

最近、妻や愚息たちから「もう、その話前に聞いたよ。」って言われる回数が増えてきました。ブログを始めようと思った動機です。

小津調、反戦の味付け

2016年05月06日 | 趣味の世界
カミさんが、毎年この時期になると学生時代の友人達と「女子会」を開くのは、すっかり恒例になったようだ。

そして、たいてい映画を観てから食事をして、その後甘味処に行って、ぺちゃくちゃ話をしながら別腹を満たすという、変わり映えのしない一日を過ごすことも定番になったことを知っている。

今年も、全くその通りだったようで、帰宅してから仲間同志で互いの「幸せ度合い」のチェックをした成果をいろいろ話してくれたが、私の関心は、彼らが何の映画を観たのだろうかという、その一点であった。

そして、「他に面白そうなのがなかったから、『コナン』を観た・・・。」と聞いて、耳を疑った。もうすぐ還暦を迎える婆さん三人で『コナン』を観ている光景など、想像したくもなかった。

やはり、映画界は不作なんだろうが、こういうときこそ昔の名画をDVDで鑑賞して欲しい。

今日のお勧めは、小津安二郎のカラー作品、『秋刀魚の味』である。1962年公開の小津の遺作となった作品は、ちょっと面白い、そして小津調満載の品のある名画と言ってよい。


秋刀魚の味というタイトルだが、秋刀魚は出てこない。その代わりと言っては変だが、 岩下志麻、笠智衆をはじめ、佐田啓二、岡田茉莉子、中村伸郎、東野英治郎、北竜二、そして杉村春子という何とも贅沢な俳優陣が、名演技を見せてくれる。

小津映画の共通のテーマである、嫁ぐ娘と父親の話なのだが、それに絡ませるサブストーリーが強烈に面白い。

中でも。岡田茉莉子と佐田啓二の夫婦がゴルフクラブを買う買わないでもめる話は、何度観ても楽しい。是非、一度だまされたと思ってレンタルDVD店で借りてきて観て欲しい作品だ。



加東大介と笠智衆がトリスバーで話をする場面は、流れる「軍艦マーチ」に合わせて海軍式の敬礼をしたりして、これも小津らしい反戦の味付けではないかと、興味深い。



近頃の映画監督みたいに、露骨に自分の脳味噌の「左巻き」さを表現するわけではないところが、小津らしくていい。

加東が、「日本が勝っていれば、今頃は青い目のアメリカ人の娘が丸髷なんか結ってますよ・・、何で負けちゃったんでしょうかねぇ?」と言うと、加東の上官だった笠智衆が、「う~ん、ねぇ・・・。でも・・・負けて良かったじゃないか。」と言う。



それを聞いて、加東は納得したような、しないような・・、「ふ~ん、そうかもしれないなぁ・・。」と言う。この辺りが練り上げた脚本の妙だ。



他にも、東野英治郎と杉村春子の親子は名優二人だけに絶妙だし、岩下志麻の和服姿とその優雅な所作は、今はなかなか見ることができなくなった「日本の美」である。




この映画を観て、「つまらなかった」と言う方がいたら、私は土下座して謝罪しても良い。自信を持ってお勧めできる小津作品である。